2 【悪魔たちの宴・1】
著作者:なっつ
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「駄目っすね」
義兄が遠ざかるのを見計らっていたかのように、あたしの背後にガーゴイルたちが数匹現れた。
城主の秘密がばれないようにあたしを監視していた彼らも、今となってはただの話友達。正体を知られた今となっては監視する必要もないと思うのだが、彼らは常にあたしの周りをうろついている。
やることがなければ石像に戻らないといけないので、無理にでも仕事を持とうとしているかのようだ。
「全く進展がないっす」
「むしろ吹っ切れ過ぎ」
空中にあぐらをかいたり腕組みしたりと様々な格好のまま、彼らは義兄の消えた廊下の先を見る。
「進展って?」
とりあえず空中にいるなら邪魔にはならない。あたしは止めていた掃除の手を再び動かす。
はい、慣れました。お兄様。
頭上に化け物がいても、背後に化け物がいても、こんなに心穏やかに掃除できる日が来るなんて思ってもみませんでした。
自分の順応力が怖すぎる。
そうでなくても人の少ない城だ。その数少ない人も城内を股にかけて暴れまわっているわけではないから、ほとんど汚れることがない。
義兄は1日の大半を執務室で書類を相手にしているし、執事もその傍らにいることが多い。
魔王の仕事は玄関ホールのみ。
ガーゴイルに至っては空中にいる。
どう考えても毎日熱心に掃除などしなくてもいい。
それはあたしにだって重々わかっていることだ。義兄も「そんなに毎日掃除しなくても」と言ってくれる。
年頃の娘としては雑巾を掴む時間があったら、その時間で買い物をしたいし、かわいい髪型とやらの研究もしたいし、爪だって磨きたい。
……が、うちには舅と言うか心は姑と言うか、とにかくそういう奴がいるのだ。
いや決して舅ではない。そんな関係はない。
しかし!
窓の桟に人さし指をツツツーっと滑らせて、付いたホコリをフッ、と吹き飛ばすあの態度!!
「最近の若い子は四角い部屋でも丸く掃くのね」みたいなあの態度!!
あれは姑以外の何者でもない!!!!
あああ、どうどう、落ち着けあたし。
と、まぁ。あのご主人様以外にはやたらと厳しい執事に何か言われるくらいなら、床くらい毎日磨くわ! と言うわけで。
黙々と手を動かし続けるあたしに、ガーゴイルたちはわざとらしく溜息をついた。
「るぅチャンと坊の関係っすよ」
――ガシャン!
その台詞に、あたしは絞りかけた雑巾ごとバケツをひっくり返した。
何ィィィィィイイイ!?
しかしガーゴイルたちは水浸しの床を見て「あ~あ」、と声を上げるばかり。
「相変わらず不器用っすね」
「そう言えばまたお皿割ったんだって?」
「グラウス様が呆れてたっすよ」
執事の嫌味が伝染ったのだろうか。
空中に漂いながら好き勝手に喋り続ける化け物の足を掴んで引き摺り下ろして、その体を雑巾代わりにして床を拭いてやりたい!
誰のせいでこうなったと思っているのよ! 暇なら少しは手伝いなさいよ!! そ、そりゃあお皿割ったのは悪いと思うけど……いや、それは今問題にすべきことじゃない。第一、その話題を持ち出さなければ、こうやって床が水浸しになることもなかったのよ!?
と、心の中で叫ぶ。
叫ぶけれど、さすがに面と向かってそれを言えるほど肝は座ってはいない。雑巾代わりするなんてもってのほか。
義兄も執事も不在の今、人間を食べるかもしれない悪魔相手に言えませんそんなこと。
「坊は未だにるぅチャンのことを義妹にしか見てないっす!」
「俺らは種族の差、身分の差に苦悩する坊が見たいっす!!」
彼らは下から睨んでいるあたしには目もくれず、拳を握り締めてそんなことを叫んでいる。
勝手に妄想して盛り上がっていませんか?
最近妙に周りをうろついているとは思っていたけれど、そういう意図があったってこと? そういう……。
と。
好き勝手に叫んでいたガーゴイルはいきなり振り返った。目が爛々と輝いている。
「だってるぅチャンは坊のこと好きでしょ? お兄ちゃんじゃなく!」
「なっ!?」
いきなり何を言い出すのだこいつらはぁぁああ!
そう言えばこの間も、あたしが襲われるんじゃないかとか言っていたっけ。
他人の色恋なんてそんなに楽しいものだろうか。このどう見ても恋には縁がなさそうな人外にとってみても。
でもお生憎様。あのお兄ちゃんがあたしに欲情する日なんか、世界が崩壊しても来ません。
そうはっきり断言できてしまうところが悲しい。
好みのタイプとか全然聞かないし、なによりあの人はそういうのに縁遠い感じがする。その辺は深窓のご令息なのかもしれない。変にスレてないと言うか。
そうよ。お兄ちゃんは違うんだから!
「……出たよ、あたしの王子様はそんな世俗にまみれてないのよ現象」
ガーゴイルの1匹がぼそりと呟いた。
なんだその現象は。と言うか、今あたしの思考読まなかった?
「ちょっと、」
「ああいうボケたのが相手だと苦労するよなぁ」
「今あたしの考えてること、」
「一生気がつきそうにないよな」
駄目だ。こいつら他人の話聞かない人種(?)だ。
よくこんなのと10年も意思疎通してきたものだ。すごいわ、過去のあたし……って、そうじゃない。
今は過去に目を向けるべき時じゃないわ。今やることは、掃除。