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魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 2:お留守番にご用心
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2 【悪魔たちの宴・1】



著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!


 挿絵(By みてみん)




「駄目っすね」


 義兄(あに)が遠ざかるのを見計らっていたかのように、あたし(ルチナリス)の背後にガーゴイルたちが数匹現れた。

 城主の秘密がばれないようにあたしを監視していた彼らも、今となってはただの話友達。正体を知られた今となっては監視する必要もないと思うのだが、彼らは常にあたしの周りをうろついている。

 やることがなければ石像に戻らないといけないので、無理にでも仕事を持とうとしているかのようだ。



「全く進展がないっす」

「むしろ吹っ切れ過ぎ」


 空中にあぐらをかいたり腕組みしたりと様々な格好のまま、彼らは義兄(あに)の消えた廊下の先を見る。


「進展って?」


 とりあえず空中にいるなら邪魔にはならない。あたしは止めていた掃除の手を再び動かす。


 はい、慣れました。お兄様。

 頭上に化け物がいても、背後に化け物がいても、こんなに心穏やかに掃除できる日が来るなんて思ってもみませんでした。

 自分の順応力が怖すぎる。



 そうでなくても人の少ない城だ。その数少ない人も城内を股にかけて暴れまわっているわけではないから、ほとんど汚れることがない。

 義兄(あに)は1日の大半を執務室で書類を相手にしているし、執事もその傍らにいることが多い。

 魔王の仕事は玄関ホールのみ。

 ガーゴイルに至っては空中にいる。

 どう考えても毎日熱心に掃除などしなくてもいい。


 それはあたしにだって重々わかっていることだ。義兄(あに)も「そんなに毎日掃除しなくても」と言ってくれる。

 年頃の娘としては雑巾を掴む時間があったら、その時間で買い物をしたいし、かわいい髪型とやらの研究もしたいし、爪だって磨きたい。


 ……が、うちには(しゅうと)と言うか心は(しゅうとめ)と言うか、とにかくそういう(やつ)がいるのだ。

 いや決して()ではない。そんな関係はない。

 しかし!

 窓の(さん)に人さし指をツツツーっと滑らせて、付いたホコリをフッ、と吹き飛ばすあの態度!!

 「最近の若い子は四角い部屋でも丸く掃くのね」みたいなあの態度!!

 あれは姑以外の何者でもない!!!!


 あああ、どうどう、落ち着けあたし。

 と、まぁ。あのご主人様以外にはやたらと厳しい執事に何か言われるくらいなら、床くらい毎日磨くわ! と言うわけで。

 黙々と手を動かし続けるあたしに、ガーゴイルたちはわざとらしく溜息をついた。


「るぅチャンと(ぼん)の関係っすよ」


 ――ガシャン!


 その台詞(セリフ)に、あたしは絞りかけた雑巾ごとバケツをひっくり返した。


 何ィィィィィイイイ!?


 しかしガーゴイルたちは水浸しの床を見て「あ~あ」、と声を上げるばかり。


「相変わらず不器用っすね」

「そう言えばまたお皿割ったんだって?」

「グラウス様が呆れてたっすよ」


 執事の嫌味が伝染(うつ)ったのだろうか。

 空中に漂いながら好き勝手に喋り続ける化け物の足を(つか)んで引き()り下ろして、その体を雑巾代わりにして床を拭いてやりたい!


 誰のせいでこうなったと思っているのよ! 暇なら少しは手伝いなさいよ!! そ、そりゃあお皿割ったのは悪いと思うけど……いや、それは今問題にすべきことじゃない。第一、その話題を持ち出さなければ、こうやって床が水浸しになることもなかったのよ!?

 と、心の中で叫ぶ。

 叫ぶけれど、さすがに面と向かってそれを言えるほど肝は座ってはいない。雑巾代わりするなんてもってのほか。

 義兄(あに)も執事も不在の今、人間を食べるかもしれない悪魔相手に言えませんそんなこと。




(ぼん)は未だにるぅチャンのことを義妹(いもうと)にしか見てないっす!」

「俺らは種族の差、身分の差に苦悩する(ぼん)が見たいっす!!」


 彼らは下から睨んでいるあたしには目もくれず、(こぶし)を握り締めてそんなことを叫んでいる。



 勝手に妄想して盛り上がっていませんか?

 最近妙に周りをうろついているとは思っていたけれど、そういう意図があったってこと? そういう……。


 と。

 好き勝手に叫んでいたガーゴイルはいきなり振り返った。目が爛々と輝いている。


「だってるぅチャンは(ぼん)のこと好きでしょ? お兄ちゃんじゃなく!」

「なっ!?」


 いきなり何を言い出すのだこいつらはぁぁああ!



 そう言えばこの間も、あたしが襲われるんじゃないかとか言っていたっけ。

 他人の色恋なんてそんなに楽しいものだろうか。このどう見ても恋には縁がなさそうな人外にとってみても。

 でもお生憎(あいにく)様。あのお兄ちゃんがあたしに欲情する日なんか、世界が崩壊しても来ません。

 そうはっきり断言できてしまうところが悲しい。

 好みのタイプとか全然聞かないし、なによりあの人はそういうのに縁遠い感じがする。その辺は深窓のご令息なのかもしれない。変にスレてないと言うか。

 そうよ。お兄ちゃんは違うんだから!



「……出たよ、あたしの王子様はそんな世俗にまみれてないのよ現象」


 ガーゴイルの1匹がぼそりと呟いた。

 なんだその現象は。と言うか、今あたしの思考読まなかった?


「ちょっと、」

「ああいうボケたのが相手だと苦労するよなぁ」

「今あたしの考えてること、」

「一生気がつきそうにないよな」


 駄目だ。こいつら他人の話聞かない人種(?)だ。

 よくこんなのと10年も意思疎通してきたものだ。すごいわ、過去のあたし……って、そうじゃない。

 今は過去に目を向けるべき時じゃないわ。今やることは、掃除。


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