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魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 1:魔王様には蒼いリボンをつけて
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8 【紅い血と、紅い炎と・1】

著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!


 挿絵(By みてみん)




此処(ここ)に来てはいけないと言われているでしょう?」


 ふいに後ろから声をかけられた。


「……グラウス、様……?」


 振り返ると、執務中なのか書類綴(バインダー)を抱えたままの執事(グラウス)がそこに立っている。

 銀髪がわずかな光を弾く。ここのように真っ暗な場所では、そんな光でも目に留まりそうだ。

 階下で(うごめ)いている化け物たちに見つかりやしないだろうか。あの中の1匹にでも見つかれば後はない。

 それと同時に奇妙にも思う。

 この人はこんなところでなにをしているのだろう。こんな、悪魔が普通にうろついている場所で。

 人間なんて捕まったら最後、頭から食べられてしまうのに、この人は声をひそめるどころか隠れようとすらしていない。

 上背があるから目立つのよ、隠れなさいよ。……とは面と向かって言える雰囲気ではないけれど。しかしこれでは灯台が突っ立っているようなものだ。まさか自分の身長が標準より上だと言うことに気づいていないとは言わせない。


「知らなければ幸せだったものを」


 (いさ)めるような目を向け、執事(グラウス)は口を開いた。


「真実を知ろうとすることがいつも正しいとは限りませんよ。誰かを守るための嘘もある。あなたの行為が誰かを傷つけることもあると言うことを覚えておきなさい」


 淡々と(さと)す喋り方はいつもと同じ。

 誰かに声を聞きつけられたら、と、ひそめる様子も全くない。




 ……何よそれ。

 此処(ここ)に来ちゃ駄目だって言われているのに来たのは悪いと思うわ。でもどんな悪魔がいるんだか知っていたほうが自衛できていいじゃない。

 そりゃあ奴らに食べられちゃう危険もあったかもしれないけど、あたしはまだ見つかっていないし、(やつ)らが飛び掛かって来るより先に逃げ出せるように出入り口も確保しているし。


 そんな言い訳が次から次へと頭の中に並ぶのは「自分ひとりじゃない、執事がいる」という安心感もあったのかもしれない。

 執事だって無防備なくせに何故(なぜ)あたしばっかり言われなきゃいけないの? と、思ったのかもしれない。


 

 無言で睨みつけるあたしの目に反抗の色を見たのだろう。執事は言葉を止めた。

 かすかに開いたままの唇はまだなにか言いたげに動いたけれど、それだけだった。


「……人間の小娘とのままごと遊びも、これでおしまいですね」


 彼は少しだけ遠くに視線を向けた。




 人間の小娘?

 何? その自分たちは違うみたいな言い方。


 口を開きかけたあたしより先に、執事(グラウス)に肩を掴まれた。

 (なだ)めるため、と言うよりも動きを封じるためのような冷たさ。力を込めるでもなく置かれているだけなのに、肩から足まで一瞬のうちに凍りついてしまったようだ。


 この男の手はこんなにも冷たかっただろうか。

 氷を乗せられている、と言われても今なら納得してしまうかもしれない。

 少し前に廊下で肩を叩かれた時は、そんなこと感じなかったのに。




 執事(グラウス)の体で半分ほど遮られた視界の端にあの(あか)い目の人が見える。ホールにいる化け物たちと動くこともできない勇者一行を黙って見下ろしている。

 その硝子(ガラス)細工のような横顔に、(わず)かに憂いた色が見えたような気がした時、ふ、と執事(グラウス)が小さく息を()いた。

 思わず見上げると、彼も同じようにその人を見つめている。

 何時(いつ)でも化け物たちから逃げられるように様子を(うかが)っているのかとも思ったが、違う。


 何処(どこ)か苦しげで。

 何処(どこ)か切なげで。


 それでいて、何処(どこ)かで見た。

 この厳しい執事がこんな目をする時。……何処(どこ)だっけ。




 黒い布をまとった人が、再び身を(ひるがえ)す。

 顔に当たっていた光が、頬へ、髪へと移動していく。その黒の中で一瞬、別の色が揺れた。


「あ……!」


 あれは。

 あの、青い色は。


 思わず発した声に、去りかけたその人があたしたちを見る。

 布の下で紅い瞳が、大きく見開かれる。



 ああ、そうだ。義兄(あに)を見る時の目だ。

 背を向けて去っていく義兄(あに)を、執事はいつもこんな目で見ていた。



 紅い瞳がゆるりと揺れる。

 燃えるような紅玉(ルビー)紫水晶(アメジスト)に、そして懐かしい蒼玉(サファイア)に変化していく(さま)はまるで黄昏時(たそがれどき)の空のようで。



「……どうして、」


 あの冷たかった声はどうしようもなく義兄(あに)の声色に似て……。






 ――その時。

 

「油断したな魔王。勇者は剣士だけを言うのではないわ!!」


 ホールのほうから鋭い声がした。

 見ればガーゴイルの手を振り払ったのであろう弓使いが、上半身だけ起こして弓を構えている。弦が弾かれた直後のように小刻みに震えている。ちゃんと立ち上がることもできないくらい消耗しているのだろうに、弓使いは満足げに口元を緩ませ、それからぐらりと倒れ込む。

 放たれた矢尻の先は弧を描くようにしながらも、真っ直ぐにこちらを向いていた。


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◆◇◆

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『魔王様には蒼いリボンをつけて』設定資料集
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