7.強奪と町
ここは学校。
今日の実験はカエルの解剖だ。
解剖した後、主な臓器の名前、働きを理解すればクリア。
帰ることが出来るというわけだ。
私はちゃっちゃと解剖を済ませ、先生の試問を受ける予約をする。
しばらくすると私の名前が呼ばれた。
「次、土倉花さん」
「はい」
「この臓器は?」
赤い三角形っぽい臓器。
「肝臓です。解毒、栄養の合成分解貯蔵など代謝、胆汁の生成、クッパー細胞による免疫といった機能があります」
「よろしい、ではこの臓器は?」
丸いドックンドックン動いてる臓器。
「心臓です。全身に血液を送るポンプ機能があります」
「他に?」
「……分かりません」
「内分泌機能もあるのです。まあいいでしょう。92点です。
合格です。気を付けてお帰りください」
1時間ほどで、学校の実習を終わらせ、帰ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
自宅に帰った。
さっそくMDOを始めよう。
私はトイレを済ませた後、ヘッドギアを被り、ベッドに寝転がる。
ゲームの世界へと、飛びこむ。
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毎日ログインボーナス:+500DP
所持:1,300DP→1,800DP
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視界が暗転し、うす暗い洞窟内へ現れる。
私のダンジョンだ。
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入手 ダイヤモンド原石x1、鉄のインゴットx1、緑鉄のインゴットx1
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採掘所Aでインゴットを回収していると、白黒の2匹のスライム、おもちとおはぎが迎えてくれた。
「ぶにょにょ(うぃーっす!)」
「ぶにょーん(ソフィアお姉さま!
今日の予定はどうするの?)」
「街道を西に進んで、町を探そうか」
ちなみにプレイヤーは方角や座標が分かるため、道に迷ったりしない。
よほどの方向音痴とかでない限り。
「よーし、おもち、おはぎ、準備してー」
「ぶにょにょ(準備なんていらねぇ!)」
「ぶにょーん(私達、装備もアイテム使用も出来ないからねぇ)」
そういや、スライム系はそんなデメリットもあったっけ。
「ならすぐに出発しますか」
「ぶにょーん(行きましょう)」
「ぶにょにょ(おうさー!)」
私達は洞窟を出て、街道へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
街道沿いを歩いていると、馬に乗った、鎧に身を包んだ5人組の兵隊さんを見かけた。
おっと、こちらに気付いたらしい。
「止まれ! 貴様、何者だ!」
「ただの町人ですよー」
馬から降りた兵隊さん達が近づいてくる。
スライム達は草の陰に潜伏している。
このあたりの草は背が高いので、そうそう見つからない。
「最近、この付近に賊が居るそうだ。
念のため、冒険者カードを提示したまえ」
「私、冒険者じゃないよ?」
「ほぅ、ならばその上等な鎧はどういった理由で所持している?」
しつこく絡んでくる兵隊さん。
うざいなぁ。
私はパチンと指を鳴らす。
「?」
じゅううううう!
「うぎゃぁぁあああ?!」
肉の焦げた臭いと、兵隊さんの悲鳴。
「何ごt……ああぁぁぁあああっ?!」
「いったいどうし、くそっ!
野生のスライムの奇襲だと?!」
「ええっ?! スライム?!」
先ほどの合図は、スライム達への攻撃合図だ。
酸液によって、あっという間に3人を死体に変えてしまう。
「兵隊さん! 大丈夫ですか?!」
「何を白々しい! 貴様さてはダンジョンマスターだな?!」
「……チッ」
カシュン! カシュン!
残り2人の兵隊さんのボディに、矢をプレゼントした。
あの程度の装甲なら、このクロスボウと矢の性能ならば鎧ごと体を貫通出来る。
「ぐっ……くそっ……」
兵隊さんたちの死体が消え、ドロップアイテムが現れる。
おっ、お金も落とした。
NPCが使っているお金はGだね。
所持金の10分の1がドロップするはずだ。
……って、この前の冒険者2人は一文無しだったのだろうか。
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以下のアイテムを入手しました。
「薬草x8(レア度E)」
「良質の鉄鎧x1(レア度D)」
「良質の靴x1(レア度E)」
「ヒトの肉x4(レア度E)」
「ヒトの骨x2(レア度E)」
「7,000G」
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今の兵隊さんを見て分かる通り、ダンジョンマスターは基本的に人類の敵だ。
ただし、ダンジョンマスターに好意的な種族も居る。
例えば黒いエルフ族、通称ダークエルフや、角と尻尾を生やした魔人族など。
ダンジョンマスターが人類と仲良くしたい場合、自身がダンジョンマスターだとばれないプレイを心がけなければならない。
ま、今みたくこちらから積極的に攻撃をしかけたり、魔獣を引き連れたりしなければバレないことが多い。
ただし、私に殺されたNPCは、復活してもそのことを覚えている。
つまり、彼らに見つかったらダンジョンマスターだとバレて面倒なことになるのだ。
ではなぜ、彼らを殺したか?
見ていただきたい、ここに居る5匹の馬を。
随分と大人しい、良い子達じゃあないですか。
町で馬が欲しいと思っていたところだったから、丁度良い。
いつまでも歩きで世界を探索するわけにはいかないからね。
「さて、これ以上装備云々で絡まれないように、初期装備に着替えておきますか」
ボタン1つで麻の服に着替える。
そして馬に乗る。
スライム達も私の後ろにポヨンと乗る。
本物の乗馬なんてしたことないけれど、そこら辺はゲーム。
鞍も無しに、普通に乗ることが出来る。
「残りの4頭の馬はオークションにかけておこうか」
世話するの面倒だし。
メニュー画面から、オークションを選択。
オークションは、一人5品まで出品することが出来る。
24時間、あるいは出展者が指定した金額に達したら落札される。
「盗んだ馬1頭、開始価格5,000DP、オークション打ち切り価格100,000DPっと。
これを4頭分出品、よし」
馬4頭が消えた。
ちなみに落札者が居なかった場合は、元の状態で戻される。
「ついでにイベント武器も流しておこうか。
狂虎天龍槍・対霊有効付き、開始価格5,000DP、打ち切り価格100,000DPっと」
イベント武器自体は珍しいものではないが、対霊有効は有用なので、欲しい人は欲しいはず。
ま、さっさとオークションで落札されてDPに換えられることを祈っていよう。
馬を走らせ、街道に沿って進む。
スピードは時速40kmくらいだろうか。
「ぶにょにょ(うひゃー! この振動がたまらねぇー!)」
「ぶにょーん(ちょっと! その汚い触手を仕舞いなさいよ!)」
後ろの2体が騒いでいると、ようやく町が見えてきた。
さすがにスライムは連れていけないので、2体は外で待機だ。
「止まれ。何者だ」
門に居たのは人間の男。
人間の町かぁ。
魔人族の町なら仲良く出来たかもしれないのに残念。
せいぜい利用して絞り取った後、滅ぼされるだろう。
私や、私以外のダンジョンマスターによって。
「しがない旅人です。愛馬を連れて、旅をしています」
「荷物を見せろ」
もちろんクロスボウや矢、その他アイテムはアイテムボックス内に収納してある。
人の骨なんて見せたら何言われるか分かったもんじゃないからね。
「……ふむ、問題なし。
通行料は3000Gだ」
「通行料って、町の人も取られるんですか?」
「出る時は取らないが入ってくる時は取る。
しかし、町人や冒険者ギルド所属なら100Gで済む。
あんたも冒険者ギルドに登録しておけばいい」
「はーい」
高い通行料を払い、人間の町に入る。
さっそく冒険者ギルドに登録しに行かなきゃ。
他所のダンジョンの情報が入手出来るかもしれないからね。
◇ ◇ ◇ ◇
本日の結果。
所持:1,800DP
4,000G
「ダイヤモンド原石x1(レア度C)」
「鉄のインゴットx1(レア度D)」
「緑鉄のインゴットx1(レア度C)」
「薬草x8(レア度E)」
「良質の鉄鎧x1(レア度D)」
「良質の靴x1(レア度E)」
「ヒトの肉x4(レア度E)」
「ヒトの骨x2(レア度E)」