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極東からの男 9


 タスタルの町 繁華街裏


 1

 「ここであります」


 マインがある廃墟同然の、建物を紹介した。

 暗い建物にスマホから出るライトがあたり、かなり老朽化していることがわかった。

 その扉を、スラトが叩く。

 少しして扉が開き、一人の素っ気ない女が顔を出した。

 素っ気ない女は、先ほどのリャンナである。


 「はい、なんですか?」


 リャンナが警戒感を丸出しに、スラトを見ている。

 暗い部屋の中、全く様子がわからない。

 スラトのスマホと、リャンナの持つランプだけでは明るさは不足だ。

 リャンナの表情は至って普通である。

 少なくとも、スラトにはそう見えた。

 リャンナが横を向くと、そこにはマインが睨みつけている。

 

 「あっ、マイン!」


 リャンナが無意識に、言った。

 

 「……久しぶり、お母さん」


 マインが嫌々、口に出した。

 えっ?

 スラトがそんな顔をしている。


 「スラトさん、リャンナさんは、いえお母さんは自分と血の繋がりはありません。中に入れば、意味がわかります」


 マインがスラトを見ながら、ポツポツと言う。

 スラトは少し頷き、中にお邪魔することにした。

 スラトは右手を、黒いコートのポケットに突っ込んだ。

 黒いコートの右側は、何か重いモノを忍ばせているためか、地面に引っ張っられるように片がっていた。

 マインは何も言わなかったが、恐らく獲物に手を付けたことを察した。


 中にお邪魔すると、どこからか寝言を聞いた。

 その場所にスマホのライトを当てると、部屋がある。


 「見ますか?」


 リャンナが言った。

 

 「お願いします」


 スラトが早口で答える。

 建物内は暗かった。

 電球と言う代物は、ない。

 電球自体高価な品物であるために、一般人にあるわけはなかった。

 リャンナがスラトのスマホを見る。

 

 「ライトを小さく、暗くしてください」

 「暗くですか」

 「子供達が起きます」


 リャンナが言った。

 小さく暗くしたソレを照らす。

 扉がある。

 リャンナが扉を開けた。

 ゆっくりと、静かにだ。

 スラトが中に入る。

 マインも硬い表情のまま入っていく。

 

 「これは……いや、やはりですねえ」


 部屋の中は結構広かった。

 意外なくらい広い部屋に、いくつもの簡易ベットがあり、たくさんの子供が寝息をたてている。

 スラトの右手はまだコートに入れたまま、子供がたくさん寝ていようが、警戒を外していない。

 この建物に一つ引っかかるからだ。


 「今は冬にむかう季節、寒くなります。この建物は温かい空気が入って来ます」


 スラトがそう言うと、部屋を静かに出る。

 他の二人も、スラトに続いた。



 2


 リャンナは食堂で、スラトとマインをもてなす。

 やはりここも、なかなか広い。

 その隅っこに、二人が座っている。

 リャンナは温かいモノをと、お茶の用意をしていた。

 

 「マイン、君はここの生まれなんですね」

 

 スラトが聞いた。

 部屋はランプがいくつかあり、かなり明るい。

 スラトもスマホを消していた。

 電力ポイントが、勿体無いからだ。

 スラトとマインは並んで座っている。

 ランプに照らされたマインの横顔を、スラトは見ていた。

 マインの硬い表情は、相変わらずだ。

 

 「はい、そうであります。町の貧しいモノや、繁華街で身体を売る女、そんな訳ありな子供達がここに集まって来るであります」

 「ちなみに、キミもかい? 無理しない程度に、教えてね」


 スラトが言った。

 マインはスラトの左手を見ている。

 少し気になるモノを、先程見つけた。

 見つけたモノを、耳にしながらマインはこう言った。


 「では一つお願いがあります。左手にある55の数字の意味を教えていただけませんか?」

 「この数字かい? わかりました、まず私が教えましょう。コレは私がこの世界に生きられる時間なんですよ。この数字が消えたら私は死ぬんです」


 スラトが数字を見ながら言った。

 その時のスラトの顔には、どこかやるせなく見える。

 マインは理解出来ない。

 いや数字が消えたら、死ぬは理解出来た。

 しかし何故そんな数字が左手にあり、数字が消えたら死ぬのかの理解が出来なかった。

 

 「もう一つ、サービスしますよ。私ね、これ以上は歳を取りません。本来はもっと若い姿なんですけど……ちょっとヘマしましてね。老いの刑にされました」


 スラトがマインを見る。

 スラトの瞳に、どこか冷たさがあった。

 まるで炎も凍りつくような、凄まじいほど痛い視線だ。

 自分は触れてはいけない何かを触れた……マインは感じた

 そのためか、マインは自分の過去を躊躇いもなく、話始めた。

 これで許して下さい……そんな感じでだった


 「自分の母と父は、どんな顔かは知りません。母は繁華街で娼婦だったようであります。父はそんな母に、かなりお金を注ぎ込んだ客だったようであります」


 マインの話をここまで聞いて、スラトが頭を捻った。

 とは言え実際ではなく、心でだ。

 

 「物心付かない間に、リャンナの廃家に連れて来られ、少し前まで育てられました。リャンナは魔女と、言ったことを覚えていますか?」

 「はい、覚えてますよ」

 「リャンナの生活の糧は、引き取った子供を売りつける事であります。売りつけられた子供は、今はどうなっているかわかりませんであります」


 マインが少し苦い顔をした。

 スラトが頭を捻った。

 この時は、行動に出ていた。


 「マイン、キミはカルチの屋敷に売られたのかい?」


 スラトが、聞いた。

 

 「いえ! 違うであります。自分はカルチ様に、拾われました。売られる前に、カルチ様からお声をかけていただきました」


 マインがはっきりと、否定した。

 このやりとりの最中に、リャンナが戻って来た。

 リャンナは、お茶を持っている。

 スラトとマインのだ。

 カップは一つは客人用で、一つは使い古されている。

 客人用はスラトに、使い古されたのはマインに置いた。


 「本来なら、お菓子を置きたいのですが」

 「構わないで下さい」


 スラトが答えた。

 リャンナが二人に向き合うように座る。

 少し老いた顔ではあるが、水簿らしさがない。

 その時のスラトが感じた印象だ。

 廃虚に騙されたが、中はかなり優遇されているな……スラトは不自然さを感じた

 

 「あの子は、助かりますか?」


 切り出したのリャンナだ。


 「今は私のクルーの、専属医の所です。すみませんが、私にはそれはわかりません」

 「あの子は、呪獣の毒にやられました」

 「どこでですか?」


 スラトが聞いた。

 ある意味、この話の急所だ。

 

 「……すみません、それは見逃して下さい。言えないんです」


 リャンナが頭を下げた。

 少し肩が震えている。

 スラトは何も言わなかった。

 スラトは左手で、お茶を持った。

 カップが熱い。

 温められていた。

 リャンナの視線は、スラトの行動に釘付けだ。

 右手はコートの中に入れっぱなし……なのだか、少し小指に力を込めた。

 スラトがお茶飲まずに、カップを置いた。

 リャンナの視線が、可笑しい。


 「青酸ですね。お茶の香りと合わせたようですが、この独特な匂いは消せませんよ」


 スラトが笑いながら、リャンナに言い放つ。

 マインも驚いて、リャンナを見る。

 リャンナの目に、大粒の涙が零れ落ちた。

 そして頭を下げた。


 「ごめんなさい! 私は……」

 「理由を聞かせて下さい」


 スラトが静かに、そして鋭い刃のように言葉を放つ。

 マインはそんなスラトに、たじろいでいた。


 この人は、何なんだ?


 そんな目を、していた。

 そして凄まじい恐怖心を抱く。

 リャンナは少し考えていたが、身の危険を察知するとゆっくりと喋り始めた。

 言葉を選んでいるのは、誰の目からもわかるくらいにだ。  


 「あの子は、ある方に引き取らました。四日前のことです」

 「引き取らた? 売ったんでしょう」

 「……はい、売りました。しかしそのお金は、至福を肥やすお金ではありません。ここの子供達を育てるための資金が必要だったんです」


 リャンナが言った。

 スラトは無表情で聞いている。


 「……で?」

 「子供達はある方に、見受けをして貰います」

 「ある方?」

 「カルチ様です」


 リャンナが観念したように、言った。

 マインが驚いている。

 スラトの気迫に押されながらも、マインは驚きを隠せないでいた。

 

 「マイン、君のお茶は飲めるよ。座って飲んでいなさい」

 

 スラトが言った。

 マインが驚いて、リャンナを見た。 

  

 「リャンナ、一つ聞いて良いかい? これは私の想像ですけどね、他の子供は売られた。カルチの所にです。しかしマインだけはカルチに売られた様子はありません。カルチの手で、立派に教育されています」

 「はい、それが……」

 「リャンナ、アナタは娼婦でした。良い客がいたようですね……つまり、カルチですね!」


 スラトがズバリと、言い切った。

 コレには、リャンナは驚き、マインは違う意味で驚く。


 まさか!


 「そうだよ、マイン! リャンナはキミのお母さんだ! そしてこの町の長は、お父さんなんですよ!」


 スラトが答えた。


 「カルチが何故、マインをリャンナに引き合わせたかはわかりません。ひょっとしたら、真面目にやっているというのを見せたかったか? こんな時間ですから、普通に勤務させて社会勉強をさせたかはわかりませんがね」


 スラトが言った。

 

 「しかし、私は殺されかけました。正直、おもしろくはないですよ」


 スラトの右手に力が入る。

 力の入った右手を、コートから外し、あるモノを見せつけた。

 それは一振りの棒である。

 棒は木で出来ていて、何かを収めていた。

 

 「コレはね、極東の島国に昔からある獲物でね、匕首あいくちという刀みたいなものでね。こんモノでも、殺傷力は凄いんですよ」


 スラトが静かに言い放つ。

 しかし冷たさよりも、熱さを感じる言い放ち方で、感情が外れかけていた。

 リャンナは一歩も動けない、マインもだ。

 スラトの凄みに、金縛りにあっている。



 リーン

 リーン


 スラトのスマホが鳴き出した。

 スラトか殺気を消さないまま、スマホをみる。

 相手はラスクからだ。

 スラトがスマホに出る。


 「はい、ラスク!」

 「スラト、少しあったようだね。いいかい、キレるなよ。一度戻って来い。マインも一緒にだ。カルチが人質にしていいらしい、理由はわからない。だけど帰ってきてくれ。報告だ」

 「ラスク、私、殺されかけました」

 「スラト、珍しくないだろ? 何故かキミよくは殺されかけるね」

 「……はいはい」


 スラトがスマホを切ると、殺気を引っ込める。

 リャンナとマインが、金縛りから解放された。

 リャンナは恐れおののき、マインは息が激しい。

 

 「この続きは、またの機会にリャンナさん! マイン、アナタは私達の人質になりました」

 「え?」

 「ラスク……皇帝陛下の三番目の皇太子がお会いしてくれますよ」


 スラトがいつもの、甲高い声で笑顔を振りまいた。

 何事もなかったかのように……


 

 

 


 

 

 

 


 

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