極東からの男 4
4
「あっ、お客さん、それに目をつけるなんて、素晴らしい!」
大袈裟にスラトは、客である軍人を褒める。
はしゃぐように、喋るスラトは少しウザいが、それでもスラトの勢いに軍人は押されていた。
ゼニーは淡々と客に薬を渡して、会計をしていた。
太郎が診断して、薬のリストをアカネに渡し、アカネがゼニーに渡す。
二台のトレーラーを行き来するアカネは、おのずとよく動くような役割になる。
「ゼニー、次はこれ!」
アカネの声に、ゼニーは「ハイハイ」と薬を用意していた。
バザーとは言うもの、メインは「医」である。
時間は少しかかるために、暇を持て余すモノの中には、バザーをのぞく輩もいる。
その輩を、スラトがつかみにいく。
「お待ちの患者さんに、付き添いなお客さん、よってらっしゃい見てらっしゃい! この綺麗な絵画! 西の国にある、絶世の美女を感情豊かに巨匠が書いたモノであり、しかも! 傑作と満足出来た作品でこれ以上の価値はない素晴らしい絵画なんです!」
スラトの営業トークに、ゼニーは「始まった始まった」と呆れを心にしまう。
見かけは無言で、無表情を貫いていた。
「はい! お買い上げありがとうございます!」
スラトが大きな声をあげた。
またまた詐欺紛いを……
薬の処方箋を持って来ていたアカネが、苦笑している。
それを見たゼニーも、渋い顔だ。
そのやりとりを見ていた、一組の母子がいた。
子は男の子で、青白い顔をしている。
母親はそんな息子の右手を引っ張り、「医」に入っていく。
「はい、診察を希望ですか?」
アカネが言う。
優しく微笑む彼女に、母親はコクンと頷いた。
血の気がない、息子を見る。
アカネが少し怪訝な表情を浮かべていた。
5
バザーとあるが、「医」が本来の目的である。
難しい許可証も全ては、「医」こと医療をするためだった。
スラトのバザーは、趣味である。
スラト自体は他に仕事があるのだ。
「帰ったよ!」
ラスクの声が、バザーの外から聞こえた。
マネキンとライムを連れている。
バザーを開くトレーラーから、スラトが顔を出した。
「ラスク、お帰りなさい」
スラトの甲高い声が、バザーをひらく広場に響いた。
「声が、でかい」
ライムがしかめっ面で言った。
「ライムちゃんも、バザーの手伝いをするのですか?」
スラトが構わずまくし立てる。
「違う!」
真っ向から否定した。
全く、自分の趣味のために、一台のトレーラーを使うなんて……軽蔑をしている
「まあまあ、そろそろいいかい?」
ラスクが言った。
「私はいいですが、太郎は続けますねぇ」
スラトが笑いながら、言った。
ライムも、そうだな……そんな感じだ
「なるほどね! わかった夕方に話合うか」
「まあ、そうなるわ」
ラスクとライムが言う。
マネキンは相変わらず、無表情だった。
6
太郎は客を診ている。
医者であるから本来は患者だが、太郎には呼び方などどうでもよかった。
「まあ、風邪だな。クスリを出すから飲んどけ」
一番多い決まり文句だ。
ここ、タスタルもほとんどが、これで通っていた。時期的に寒くなる季節だ。
暑い時期は腹痛やバテ、寒くなれば風邪はある意味お決まりだった。
それは軍人の多いタスタルでも同じだった。
今の客を見終わり、次の客を呼ぶ。
「次、入れ!」
太郎が呼ぶと……そこには、青白い顔の男の子と、その母が入って来た。
民間人のようだが……
そこにアカネが、付き添っている。
太郎の顔が険しくなった。
理由はアカネが、付き添っていたからだ。
アカネがいると言うことは、酷い状態の客であることがほとんどなのだ。
「おじいちゃん、この子の病気は……」
「アカネ、儂が診るから、他の相手をしておくれ」
太郎が優しく微笑む。
しかし目は笑ってない。
アカネがその意味を悟り、静かに一礼して診察室を出て行った。
「服を脱いで、上半身だけでいいよ」
優しく、太郎が言った。
男の子は恐々と、服を脱いだ。
白い肌が、太郎の目に入る。
そして痩せた身体だった。
どう診ても、健康体ではない。
「コレは……」
太郎の呟きを耳にすると、母親は静かに言う。
「ナムルは、呪いに架かってます」
大粒の涙を、母親がこぼした。
「呪い?」
「呪獣の毒なんです」
母親が大きな声で泣き出した。
つづく