極東からの男 2
引きこもりし、極東と呼ばれる国
1
陽明 昇は、いつものように会社勤めだ。
冴えない青年で、これと言った特徴もない。
普通である。
冴えない青年が、汚いデスクでオンデマンドのパソコンを叩いていた。
オンデマンド……実態のない実態である。
立体映像のパソコンの画面に、キーボードがあり空中に浮かび上がった文字を見ていた。
お茶を飲むために、プラスチックのコップを取ると苦いお茶を口は運ぶ。
いつもと持ち方が違ったため、指が絡まりる感じでデスクにコップが落ちた。
お茶が零れる。
立体映像を映し出している、オンデマンド画面を通り過ぎてデスクに落ちた。
「あーあー」
眉をしかめて、近くにあったティッシュをとり拭く。
立体映像を生体反応を切ってだ。
生体反応を切らずに作業すると、キーボードを間違って押すからだ。
デスクの左端には、スマホがあった。
そのスマホは充電器に接続されて、画面が白くなっていた。
白くなった画面から、強い光を放ち立体映像を映していた。
昇がデスクを拭き終わり、生体反応を再び繋ぎ仕事に取り掛かり始めようとした。
キンコンカンコーン……
アナログなチャイムが、仕事時間の終了を教えている。
社内の人間、一人二人と昇の同僚が、上司が、家路に急いでいた。
2
日は暮れた。
昇は休憩所の缶コーヒーを、不味そうに飲んでいた。
いや不味いのは、この社会なんだ。
言い聞かすように、昇はコーヒーを飲む。
ふとスマホを手にした。
画面を立ち上げると、フォトグラムを見ていた。
そこには家族の写真がある。
家族は三人だ。
歳はとっているが、がっしりした体格でどこか風格ただよう父親がまず一人、優しく笑う少年が一人、そして幼い昇だ。
母親はいない。
始めは、気にしなかった。
しかし昇が少年に成長すると、気にしなかったことをきにするようになる。
父親には聞けなかった。
厳格な父親だ。
恐ろしい。
そのために兄に理由を聞いた。
「母さんは、どこかに行ってしまったんだよ。俺達を置いて!」
優しい兄が、厳しい口調で言った。
なんだか触れてはいけないものに触れた……そんな感じに昇は子供ながら察知する。
「ごめんなさい」
昇が謝ると、兄がいつものように笑ってくる。
その笑顔の意味を、昇は理解した。
この日以来、母さんのことは封印をすることになる。
「父さん……兄さん……」
昇はふと肉親を呟いた。
そして頭を振り、フォトグラムを消した。
「俺は存在してるんだ」
そう呟くと、仕事の続きを始めた。
3
次の日
昇はアクビをしながら、立体映像と向き合っていた。
この一日が終われば、明日は休みだから。
それが活力になっていた。
周りを見ると、みんなが仕事に励んでいる。
みんな若々しい姿だ。
みんなの左手の甲には、数字がありある社員は71とあり、ある者は64とあった。
「陽明くん!」
昇が作業を中断する。
上司のようだ。
こっちに来い……
そんな感じに映った。
昇は席を立ち、上司のデスクに向かう。
因みにこの上司の左手の甲には、54と数字があり、因みにをもう一つ付けるならば、この上司も初々しい姿であった。
つまり見方が若いのだ。
内容はどうでもいいことだった。
どうでもいいことを、「指導」と叱りつけている。
周囲は淡々としていたがどこか、相変わらずだなと苦笑しているように感じてしまう。
昇と叱りつけている上司は、ソリが合わない。しいて言えば、生理的に寄せ付けないのだ。
ことあることに、晒し者にする。
昇はいつものことで、ハイハイと聞き流していた……が、上司がとんでもないことを大声で言い放つ!
「君以外のご家族は、国の研究機関で活躍しているのに、君ときたら……まあ、失踪事件に巻き込まれないだけ、運はましだけど!」
上司の捨て台詞に、昇は一気に頭に血が上った。
上司のデスクに乗り上げながら、胸ぐらを掴んだ。血走った眼は、理性の欠片を感じない。
「テメーに、俺の家族の何がわかる!」
鬼のような形相で、殴りつけようとした。
しかし周囲の人間に、昇は制され上司に放されてしまう。
みんなが上司の暴言を、一部始終耳にしていた。
耳にしていたがために、とっさの行動で最悪の自体は抑えることができた。
しかしそれは、みんなも昇の家族が、不可解な失踪を知っていることを意味していた。
4
午後
揉め事の一部始終を、事情聴取された昇は家にいた。
処分は処分があるまで、自宅謹慎となった。
今回の揉め事は、上司にかなり責任があることで免職はないようだった。
学校ではあるまいし……昇はどこか笑ってしまう
昇はベットの上で、大の字になっている。
スーツは脱ぎ捨て、楽な服装をしていた。
一人だった。
陽明家は閑静な住宅街にある。
そこに一人、昇は住んでいた。
父親、兄が失踪して、財産は全て昇の私有物であった。
死んだ訳ではないので、私有物ではあるが預かっているのと感覚は同じ、とはいえ理由もなく消えた連中に、遠慮は要らないと言い聞かせている。
「どこいったんだ?」
天井に言い放つ。
昇の言葉を吸収している。
「何をしてるんだろ」
一人笑う。
可笑しく、そして、虚しい。
……こんなこと、してられないな
昇はスクッと身体をおこすと、近くにあったスマホを手にして画面をつけた。
立体映像か平面画像かを選択するメニューが表れ、昇は平面画像を選んだ。
寝そべって見るには、平面がいいからだ。
テレビのアイコンを押す。
付いたのは、ニュースだった。
「明日は我が国の、新たな門出にあたる『想像の日』であります。我が国が、国家破綻して明日で百年となります」
つまらないニュースに、昇は顔をしかめた。
「間違えた……」
昇はそう言い、アニメーション番組のボタンを押した。
二次元の女の子が、際どい戦闘服で戦っているのを見つけ夢中になる。
しばらく、これで時間が潰せそうだった。