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極東からの男 10

 トレーラ 簡易ベッド


 1


 トレーラの内部は、寒い。

 運転している間は暖かいのだが、今は停止しているからだ。

 ナムルは簡易ベッドに、眠っている。

 簡易ベッド自体に、身体を温めるモノを色々置き、毛布をたくさん被せて布団をかけていた。

 少し離れた床の上に、アカネは眠っている。

 固く冷たい床の上に、毛布を一枚身体に巻いていた。

 気持ちよい寝息をたてている。


 その寝息を、太郎は聞きながらクスリの調合をしていた。

 スマホの照らす小さな灯りは、瓶を映している。

 瓶が七つあり、それぞれに薬品の名前がある。

 難しい名前がラベルに貼られているが、クスリには色が付いていた。

 白、黒、青、赤、緑、黄色、そして透明である。

 色は種類をわかり易くするために、太郎が混ぜたものである。

 粉状のクスリは、全部で六種類ある。

 これは透明以外が粉状になっていた。

 透明のクスリだけは、粘りのある液体タイプだ。

 太郎はある一冊の手帳を見ていた。

 手帳には……


 極東から伝わりし体質変化の調合方法


 とあった。

 かなり使用をしたのか、瓶のクスリはほとんどが半分以外もしくは半分まで空になっていた。

 ある色の瓶以外は……

 太郎は今、四種類のクスリの調合をしていた。

 青、赤、黄色、透明……

 

 青を標準の量と考える。

 

 赤は少ない。

 黄色は気持ち多め

 透明はかなり多い


 そんな比率だ。

 調合には特殊な紙を用いる。

 白みのある紙で、食べることができる。

 しかし透明なクスリは、調合には用いない。

 粘りのある液体であるからだ。

 透明なクスリは、他とは性質が異なる。

 例えば透明の瓶は、他の瓶より大きい。

 他の瓶は全て同じ大きさだが、これだけはその何倍もあった。

 液体であることも、やはり特異性だ。

 

 調合に妥協した太郎は、クスリを調合した紙を丸める。

 丸めた紙を飲み込み、最後に透明なクスリで流す。

 

 ごく!


 クスリが喉を通過して、胃袋に収まる。

 太郎はクスリの瓶を終うと、ナムルを見た。  

 暗めだが、光を照らしているため、ナムルの様子が窺える。

 

 「まだ変化はないよ」


 アカネの声だ。

 太郎が振り向くと、アカネが目を醒ましていた。

 

 「おじいちゃん、寝よう。変異しだしたら、私が起こすから」


 アカネが言った。

 太郎はアカネの近くに来ると、頭をなぜる。


 「大丈夫だ」


 短く言った。

 優しい笑顔で……

 

 「おクスリ、飲んだの?」

 「ああ、これからに備えてな」


 太郎がナムルのベッドに行くため、アカネの頭から手を放した。

 

 「もう少し撫でてよ」


 アカネが言った。

 子猫のようなアカネの笑顔を、太郎に惜しげなく見せる。

 太郎はウンウンと頷き、寂しげにそこから放れた。

 アカネは太郎を、視線で追う。

 太郎はナムルのベッドに向かう。

 コンテナ内は広い……とは言え、すこし歩き手を伸ばせは届く距離だ

 アカネは敢えて、起き上がり手は伸ばさなかった。

 表情はいつもの姿だ。

 太郎は簡易ベッドに行くと、ナムルを近くで見た。  

 太郎の表情が、少し険しい。

 ナムルの頬に、鱗状の皮膚が浮かび上がっていた。

 変異が始まり出したのだ。


 「アカネ……」


 太郎がアカネを呼ぶ。

 アカネは察知したかのように、くるまっていた毛布を床に置くとナムルの眠るベッドに行く。

 アカネがナムルの頬を見た時、少し驚きそして覚悟を決める。

 

 「この子の変異は……」

 「やはりダメだ……殺すぞ!」


 アカネは少しためらったが、コンテナを開けた太郎がベッドごとナムルを連れ出した。

 ナムルは目を醒ましてはない。

 そう、今のところは……

 アカネは躊躇いながらも、太郎に続いて外に出た。



 トレーラ 居住コンテナ


 2


 ラスクはまだ寝ていない。

 コンテナ内で、薄い黒箱を開いていた。

 箱は画面があり、キーボードがある。

 パソコンである。

 陽帝国データバンクに、ラスクは接続していた。

 情報を見聞き出来る魔法の箱は、昔の高度文明の置き土産だ。

 これは世界で利用されていたパソコンで、陽帝国も永い間に大切に保管していた。

 とは言え、スマホよりは使いづらい。

 容量はおおきいのだが、何せ遅いのだ。

 それは製造先が関与している。

 ラスク達の使うスマホは極東製であり、尚且つ新製品に近いのだ。

 百年間、引きこもった島国なのだが、どうして新製品があるのか?

 この疑問は、今のところは封印しておく。

 

 「なあ、ラスク、寝ないのか? よい子はおネンネでしゅよー」


 ライムが冷やかした。

 

 「はいはい、そうですね……うーん、動きが遅いなあ」

 

 ラスクは少し苛立ちを隠せない。

 遅く重いパソコンを使う理由はどうしてか?

 

 「仕方ないなあ……だけど、メールでやり取りするのは、パソコンでないと出来ないだろ。スマホは極東の文字でないと入らないんだから」


 ラスクが呟く。

 独り言にしては、大きい。

 

 「何を見てるんですか?」


 ゼニーが言った。

 少しパソコンに興味津々、そんな感じだ。


 「カルチを調べているんだよ。少し引っかかるんだ」


 ラスクがポツリと言う。

 ゼニーが頭を捻る。

 

 「ゼニー、実は少しカルチが引っかかるんだ」

 「引っかかる?」

 「カルチだよ。始めは町長である前に、軍人家系であることを情報として持っていた。だから堅苦しい人物かと思った。しかし実際は違った。どちらかと言えば、軍人の硬さがないんだから、不自然だろ?」


 ラスクが言った。

 パソコンの画面が、明るくなる。

 画面には昔の風景の壁紙があり、いくつかのフォルダーがある。

 ラスクはそのフォルダーから、一つを開いた。

 そこには陽帝国、「データバンク 人物ファイル」とある。

 そのファイルから、タスタルの町長を検索する。

 すると、カルチの情報が出てきた。


 『カルチ アイキン


 タルタス出身


 階級  大尉


 経歴 

 帝国第七陸上軍後方支援第四部隊入隊  部隊規模中


 帝国第七陸上軍後方支援第四部隊長就任 階級一尉

 

 帝国第七陸上軍後方支援総長就任    階級中尉


 タスタル極東非常警備護衛部隊長就任  階級大尉

                         』


 データはラスクとライム、ゼニーが見ているがゼニーが頭を捻る。

 その時……マネキンはスマホを見て驚いていた

 メールをしている相手が、わかったからだ。

 しかし表情と姿がいつもと同じであるために、みんなが気づいていない。  

 まさか……

 そんな感じで、スマホを見つめていた。

 そして……いじくり出す

 相手は……


 「ラスク、可笑しいです」


 ゼニーが言った。


 「ゼニー、どこが?」


 ラスクが聞いた。

 するとゼニーが指を指して……


 「昇格の仕方ですよ。一尉からいきなり中尉になっていますよね。帝国の昇格の仕方は、尉では一尉から始まり、三尉、六尉、七尉、九尉、そして少尉になります。それから中尉、大尉なんです。明らかにここが跳んでますよ」


 と、言った。

 ラスクは、へえーと唸った。

 軍の肩書きに全く興味がなかったラスクには、その可笑しさはわからなかった。


 「ゼニー、軍に居たのか?」


 ライムが言った。

 服装は相変わらず挑発的だ。

 ゼニーは目を逸らす。


 「軍には居たことありませんが、軍人とは何人かの付き合いがありました。正直、軍人は嫌いでした。カネを出せないと言うと、帝国を守れないとか、ほざいてましたから」


 少しため息混じりに、言った。

 ラスクは笑っている。

 ご苦労様……そんな感じだ

 

 「ねえ、ラスク、これだけなの? カルチの経歴はさ」


 ライムが言った。

 ラスクは思い出したかのように、画面を下にスクロールする。

 どうでもよい内容ばかりたが、一番の備考欄にパスワード入力があった。

 ラスクは目が鋭くなった。

 パスワードがあること、これは極秘事項があることを指しているのだ。

 

 「パスワード……これは、姉さんに教えてもらわないとね。明日の午前にでもスマホで聞いてみよう。さてと……ん?」


 ラスクがマネキンを見た。

 彼が見たマネキンは、今までのマネキンとは少し違っていた。

 無表情な彼女が、どこか取り乱している。

 

 「どうしたの、マネキン!」


 ラスクの声に、ハッと我に返るマネキン。

 少し間を置き、いつものように無表情で首を横に振り、再びスマホをいじり始めた。

 

 「どうした、アンタが取り乱すなんて」


 ライムが、笑いながら冷やかす。

 マネキンは無視をする。

 その態度にライムが、怒り声を上げようとした。

 その時だ。

 コンテナの扉が勢いよく開き、スラトが入って来た。

 そしてマインも入って来たのだが、マインは凄まじい形相で叫び始めた。


 「外で、老人と怪物達が、戦っています」


 マインは肩で息を切らしていた。

 しかし……

 

 「皆様、スラト帰りました!」


 いつもの甲高い声の後に……

 

 「お疲れスラト」

 「スラト、生きてたの」

 「スラト、残業書を後で作成頼みます」

 「……」


 みんなが、いつものように迎えていた。

 これにはマインも驚いている。

 するとスラトがマインの肩をたたいた。


 「心配ないですよ。私達は本当に大変な場合しか取り乱したりしません。さて時間ですからよく休んで、明日いろいろ聞かせて下さいね」


 笑いながら言った。

 マインは呆然としている。

 理解が、出来ないのだ。

 

 「マネキン、その作業に区切りついたら、太郎とアカネの様子をみに行ってくれないか?」


 ラスクがマネキンに聞いた。

 マネキンはコクンと頷きながら、スマホを見ていた。 

 コンテナ内の空気は、いつもと同じだった。

 人質マインを除いては。

 

 スラトがラスクの前に来た。

 そして耳元で、囁く。

 

 「……ふうん」


 ラスクはマインを見た。

 視線を合わさずにだ。

 ラスクはクスクスと、笑っていた。

 



 

 


 

 

 

 


 

 



 

 

 

 


 



 

 

 


 

 

 

  

 

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