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極東からの男 1

 プロローグ


 1


 〈今から約百年前、地球上に高度文明があった。

 たくさんの人々は、その文明に身を委ねて幸せに暮らしていた。

 

 しかしその文明が、一瞬にして滅んでしまった。

 人類のほとんどは死滅した>



 ラスクは魔法の板、スマホの画面を閉じた。

 閉じると同時に、『滅びた高度文明の解説書』と書かれた文字があった。

 メール機能で、タイピングされたモノだ。

 それをインターネットで検索をかけたのだ。


 「つまんないよ」


 ラスクがスマホを投げた。

 その先には、寝袋がある。

 その寝袋の近くに、一人の女性が無表情でラスクを見ていた。


 「マネキン、次の町までどれくらい」


 ラスクが欠伸をしながら、女性に聞いた。

 無表情の女性、名前をマネキンと呼ぶ。

 名前の由来はよくわからない。

 謎の多い女だ。

 一つ言えるのは、容姿端麗で見てくれが素晴らしいことだった。


 マネキンは無表情で、首を少し傾げた。

 ラスクはため息をついた。


 「わからない……か」


 マネキンはラスクのスマホを取ると、ラスクに返した。

 ラスクがスマホを受け取ると、それを見ている。

 そして……


 「魔法の板……スマホは高度文明を語る中で重要な道具……本来は遠い人間とのコミニケーションのためだった。後にいろいろな、魔法を詰め込んでその魔法の多さがステータスシンボルでもあった……か、確かにそうだね」


 ラスクがしみじみと、スマホを見る。

 画面を再び立ち上げて、パネルをいじくり始めようとした。

 しかしのこりの魔力貯蔵庫マジックポイントが少ないのを確認すると、紐を取り出した。

 スマホの上部を開き、紐の先を取り付けた。

 紐の先には、金具がありその金具をスマホにねじ込むともう一つの二股に分かれた金具を、コンセントと呼ばれるポイント充電器にはめた。

 右上にある小さな光の隙間から、赤い光が出ていた。

 赤い光はまるで、赤い宝石ルビーのようだ。

 

 「高度文明は凄いね」


 ラスクはいつも思う。

 マネキンは静かに、ラスクを見ていた。



 2


 日の高い時間、走りやすい平地をカーは走っていた。

 ここの土地は雨が多く、木々が茂っている。

 砂漠のような広大な大地を走るのとは違い、草木の生い茂った中から禿げ上がっている土の道選びながらを走っている。

 ジグザグとまでは行かないが、一本道ではない。

 幅広い道だが、すれ違うカーは今のところはなかった。

 

 カーは別名クルマと言う。

 カーの種類や大きさにより、カーはいろいろな呼び名がある。

 大きなカーは、トレーラーと言っているのだが

……


 そんな道を走るカーの集団がある。 

 全て大きなトレーラーで、四台あった。

 トレーラーは大きなコンテナを引っ張っている。

 その内の一台に、先程のラスクとマネキンがいた。

 

 コンテナの中は光玉が数個あり、あちらこちらを明るく照らしている。

 カー、スマホ、光玉……全ては高度文明の遺産であった。

 

 「太郎とアカネは?」


 ラスクが聞いた。

 マネキンは無表情で、ラスクを見ていた。

 ラスクは聞いた相手を間違えたな……そう言って苦笑いしている。


 トレーラーの操縦席近くに、ドアがあった。

 ラスクが乗っているトレーラーには、幾つかの細工がある。

 その細工の一つに、操縦席と中の空間がドアの開閉で繋がっていることだ。

 普通トレーラーはコンテナの付いた車輪部分と、操縦席は離れているのだが、このトレーラーに関しては、繋がっていた。

 その繋がっていた部分のドアが開き、一人の女が姿を見せた。

 女は肉付きの良い身体だ。

 年齢も脂の乗り切る寸前くらいで、妖艶な色気と露出度の多い服装をしていた。


 「ライム、お疲れ! 自動モードにしたのかい?」


 ラスクが色気女に声をかけた。


 「ああ、道のりは順調さ! 自動操作オートモードに切替たんだよ」


 色気女……ライムが言った。

 ライムは四台あるトレーラーの全てを操縦している操縦師である。

 とは言え、ライムは一人である。

 一人が四台のトレーラーを操縦するには、スマホの能力を使っているのだ。

 

 「高度文明の初期の頃は、操縦席にハンドルと呼ばれる操り棒を回して、足に走ると止まるのペダルがあった……」

 「アハハハ、皇太子、高度文明の本の一節だな」

 

 ライムが笑った。

 豪快な笑い声が、コンテナに響く。

 そんな様子を、マネキンは静かに見ていた。


 「ライム! 皇太子は止めてよ! 僕は跡継ぎの資格がないんだよ。あっても嫌だけどさ」


 ラスクが迷惑そうに言った。


 「アハハハ……さっきの説明を続けらるか?」

 「もちろんさ! 高度文明が最盛期を迎える頃、カーに一つの革命的技術が付いた。魔法板スマホの魔法によるカーの操縦が可能になった。魔法板スマホを操縦席にセットするだけで、カーは動き尚且つ数台のカーをも操縦した……凄いよね!」


 ラスクの瞳が輝く。

 美しい瞳は、宝石そのもので、好奇心という研磨剤がさらに宝石に磨きをかけていた。


 ライムはその姿に、安らぎと、使命感を感じてしまう。

 本来は近寄り難い存在の少年が、近くにいて私と話して笑顔を魅せている。

 この少年はいずれ時代を変える……そんは気がしてならないのだ。

 ライムはマネキンを見る。

 人形のような女に、少し嫉妬心がある。

 

 嫉妬心は二つだ。

 一つは、マネキンが咲き誇る花のように可憐であること。

 つまりモテるのだ。

 ライムも、よくモテる。

 男と言う生き物に、必ず相手にされていた。

 格好良い、不男、関係なく男に見られることはステータスだ。

 そのために、際どい服を好み、化粧を好む。

 私に魅了されるために。

 しかし、マネキンは違っていた。

 化粧っ気のない顔に、白いドレスで身を隠している。

 髪も綺麗に整えている様子もなく、周りに興味を示さない……それなのに!

 男と言う男が……いや、同性までもがほっとかない魅力を持っていた。

 実はその魅力に、ライムも取り憑かれているのだが……あまり気づいてはいない

 気づいていないから、少しの嫉妬心で済んでいるのだ。

 二つ目は、ラスクの近くから離れないことだ。

 マネキンの仕事は、ラスクの用心棒である。

 そのために、必ずラスクのいる所に、マネキンがいるのだ。

 目だちたがりのライムにとって、一番目立ちたい相手がじつはラスクであった。

 好きという感情はないつもりだ。

 しかしどこか気を引きたい。

 相手は少年だ。

 変な感情もない。

 しかしラスクには、私を見て欲しい……

 それなのに、マネキンはいつもいっしょ!

 少し面白くないのだ。


 「アタシも、マネキンみたいに腕っ節がつよかったらなあ」


 ライムは貯蔵庫から、透明な液体を飲みながら言った。

 液体はガラス製の瓶に入っている。


 「ライム、君は君さ! 今日は操作しないの」


 ラスクが言った。

 透明な液体、実は酒である。

 米から造った酒だ。

 酒を口にすると、そこから十時間は操作不可能になる。

 魔法板スマホが、アルコールを感知して、作業を強制的に無効にするのだ。

 

 「ああ、だから、命の水を飲んでるのよ」


 ライムは笑った。

 ラスクはヤレヤレ……そんな感じでマネキンを見た。

 マネキンは相変わらず、無表情だった。




 3


 マネキンはラスクの用心棒である。

 ラスクは陽帝国の皇帝、陽雷の血を家柄だ。

 本来なら、皇帝の血を継いでいるのだから、ロイヤルガードであるが、ラスクが三男で継ぐ可能性があまりに低いことから、その呼び方は辞めてとラスクから言われた。

 ラスクからしたら、用心棒もいらなかった。

 しかしマネキンが付いていくこを知ると、嫌ではあるが用心棒にした。

 まさかマネキンが、僕といっしょに居てくれるなんて! それだけで嬉しかったからだ。


 マネキンは……強かった

 詳細は不明で、どこで生まれ育ったかはわからない。

 そんなマネキンだが、腕っ節は凄い。

 鍛え上げられた大男が、束でかかっても負けない。実際に何回かラスクも見ていた、本当に強いのだ。

 ラスクはその時に、「殺すな!」の命令を出しているが、この命令を出さなかったら、何人殺してきたかわからない。

 これは言い方を変えれば、ラスクもそれだけの危険がつきまとっている存在なのだ。

 ラスクは人を引きつける魅力もあるのだが、それと同じくらいに、天性のトラブルメーカーでもあった。

 トラブルに巻き込まれ、自ら突っ込み……その時いつもマネキンが、相手をしてきた。

 もうすぐで、二年になる。

 マネキンが、その二年をどう思っているかは……無表情からは読めなかった



 5


 日は暮れていた。

 日の入りが早い。

 寒くなってきているのが、身体から感じる。

 太郎は外を見ていた。

 トレーラーの四台が全て止まっている。

 低い草木のある場所に乗り上げる格好だ。

 道には停車出来るスペースがあまりない。

 カーが走ることは稀であるが、マナーは守らないといけない。

 それが草木を押し倒して、カーを止めてもだ。


 太郎は、なかなか高齢である。

 しかし見た目では、それをあまり感じない。

 ごっついのだ。

 そして大男である。

 

 「やあ、太郎! 今日はここで夜を明かすよ。走りっぱなしでもいいけど、トレーラーも休ませないと」


 ラスクの声だ。

 いつしか太郎の後ろにいた。

 太郎が振り返る。

 少し面白くない。

 後ろを取ったこと、そしてそれを察知出来なかったことをだ。

 

 「ラスク、後ろをとるな!」


 野太い声が、ラスクを襲う。

 元々鋭い目つきが、やいばのように斬れを見せる。

 マネキンが少し警戒する。

 しかしラスクは、そんなマネキンを抑える。


 「お人形、仕事ご苦労様だな」


 野太い声を、マネキンにかけた。

 少し柔らかい口調だ。

 目つきも普通だ。

 やいばを鞘に納めたようだった。

 

 「マネキンはいつも、僕といっしょだからね。多分苦労も多いさ」

 「ラスク、認めればいいとは言えんぞ!」


 太郎が言った。

 太郎はクルー達の専属医である。

 ぶっきらぼうな老人だが、知識、経験、ともに文句の突ける場所はなかった。


 太郎の名は、高度文明が栄えた時に使っていた文字と言葉から来ている。

 高度文明の専門用語に、「極東」と言う言葉があった。

 この極東に住む高度文明の人間達が、文明に大きな影響力をもたらしている関係が強いらしいのだ。

 その極東の人間の名前で、太郎とつく名前はあまり多くはないのだが、何故かシンボルマークのようになっていたと、歴史家は言っている。

 補足だが、陽帝国の名は「東」と関係があるらしいが……


 トレーラーの一番、一番後ろを走るカーに太郎は戻り始めた。

 このトレーラーに先程まで、太郎は乗っていた。

 コンテナを開けると、そこには簡単なキッチンとダイニングがある。

 キッチンではヒーターと言う加熱器具で、肉を焼いている少女がいた。

 

 「アカネ、中の診療室に行く」


 太郎は少女に言った。

 このコンテナの奥には、診療室がある。

 普段はそこに在中しているために、居場所に戻るだけてはある。

 

 「うん、おじいちゃん! 頑張ってね」


 少女は笑ってくれた。

 

 少女の名はアカネと言った。

 歳は十二か十三くらいだ。

 大人しい性格で、地味な感じの黒髪少女だ。

 どこか健気な一輪の花……

 健気で力強くさく花……

 そんな印象を、みんなに与える。

 

 アカネは太郎を、「おじいちゃん」と呼んでいる。しかし呼んでいるだけだ。

 血の繋がりは、全くない。

 アカネと太郎はどこか同じ匂いがする。

 そのために、二人が血の繋がりがないことに、驚く者もかなり多いだろう。

 

 「アカネ、ご飯まだ?」


 ライムが言った。

 赤い顔で、笑顔を見せる。

 酒が入っているためだ。

 

 「もう少しです。あまり急かさないで下さい」

 「アカネ、君のご飯が美味しいからだよ」


 アカネの言葉を、ラスクが言いくるめるよう言った。

 ラスクは言いくるめてるつもりはないが、アカネにはそうは思えていない。

 しかしラスクを許してしまう。

 

 マネキンがその二人を、静かに見ていた。

 その横に、ライムがいる。

 ライムはマネキンに酒を見せた。

 マネキンが酒の入った瓶を見ると、半分酒がまだあった。


 「飲めるか?」


 ライムが言った。

 少しからかい口調だ。

 マネキンは無表情で、小さく首を横に振る。

 

 「アタシの酒が飲めないのかい?」


 ライムが言った。

 口調はあまり強くはない。

 しかしどこか雰囲気が、可笑しくなりそうである。

 

 「あんまり、マネキンちゃんをイジメるなよ!」


 甲高い声が、ダイニングに響く。

 ライムは片目を瞑り、嫌な顔だ。

 ……仕方ない、そんな感じで振り返る

 そこには中肉中背の中年男が、ケラケラと笑っていた。

 身体はそんなに大きくはない。

 しかし身長は高めでなにより、甲高い声は普通にしゃべっていても耳に痛い。

  

 「スラト、耳が痛いんだよ! お前の声は!」


 ライムの眉がつり上がる。

 それを見た中年男、スラトは少し笑いながら……


 「はい、色っぽく美人には、似合わないお顔です。貴方には、笑顔でみんなに元気を分けて戴くと言う使命があります、さあ笑って戴けませんか?」


 と、言った。

 お世辞である。

 おそらく、お世辞だ。

 ライムも呆れている。

 

 スラトはクルー達の営業担当であり、商売は彼に任せれている。

 商売には買付や売りもあるのは当たり前だが、その土地の有力者から、依頼の交渉なども手掛けていた。

 クルー達の窓口的な存在である。

 そのため舌も二枚はありそうで、今回も使いこなしているのだと思う。


 「ゼニー、来ました」


 低い声の男がする。

 みんなが男を見る。

 背の低い男ではあるが、横幅がありガチっとした男だ。

 名前はゼニーと言った。

 品物の保管や、カネの管理などをしている男で、どこか神経質な所がある。

 商売ではスラトのアシストは出来る起用さもあるが、ゼニー自体は管理保管が好きな仕事であった。

 特にお金には煩く、無駄遣いはビタ銅貨一枚も許さない! 

 そんな男だ。

 ゼニー自身も、節約は大好き。

 貯めるが、大好き。

 ただセコさはない。

 理屈に合わない使い方は、嫌いな性格なのだ。


 「さて、みんさ揃った! 後は、アカネ次第だね」


 ラスクがアカネに、プレッシャーをかける。

 アカネが、「やめてよ」と泣きそうになった。

 


 6


 ラスクを長に、彼等は四台のトレーラーであちらこちらを駆け回るランドキャラバンである。

 

 フリーラン


 コレがキャラバンの名前であった。

 クルー達は七人だ。

 今、みんなで、夕食の最中である。

 何気ない会話に、何気ない笑い、いつもの光景であった。

 マネキンはそんな中でも、無表情だった。

 食べ物を口に運んではいるのだが、多くは食べてないようだ。

 

 「マネキン、明日はタスタルの町につく。そこで僕とスラトが領主に会うから、護衛を頼むよ」


 ラスクが言った。

 マネキンはラスクを見て、コクンと頷いた。

 

 「マネキン! ワタシも願いね」


 スラトが甲高い声を張り上げる。


 「うっさい!」


 ライムが酒を飲みながら、顔をしかめた。

 みんなが笑っている。

 笑顔であった。

 マネキンを除いては……

 相変わらずの無表情だ。

 

 ダイニングにはたくさんのご馳走があった。

 ほぼアカネが作った。

 太郎は少し手伝ったために、「ほぼ」である。

 

 「アカネちゃんは、料理が上手!」


 スラトの甲高い声だ。

 酒が入って、出来上がっている男は、ますますハイテンションだ。


 「本当に、お金使わず、このボリューム! いいお嫁さんになれるよ。ゼニーは嘘つかない」


 ゼニーもテンションが高い。

 酒の影響だ。

 アカネはいいお嫁さんと言われて、悲しんだ。

 顔には出てないが、心で悲しむ。

 お嫁さんにはなりたいが、ゼニーに冷やかされたことが気に入らない。

 ゼニーが嫌いな訳ではないが……どこか悲しい。


 「酔っ払いには逆らわない」


 太郎があきれながら、アカネを宥める。

 そんな太郎も出来上がっていた。

 しかしアカネの気遣いは、忘れていない。


 「うん、ありがとう」


 アカネに笑顔が戻る。

 相変わらず宴は続いていた。

 ラスクはそれを嬉しく思う。

 気の合う仲間達との、楽しい食事、城の生活ではなかった。幼い子供ながら、それを覚えている。

 

 いつまでも、続いてほしいなあ


 そんな気持ちを、心に閉まっている。

 そんなラスクを相変わらず、無表情なマネキンが見ていた。



                  つづく



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 




 

 



 






 



 


 

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