転生したら魔王にお持ち帰りされたとか(性別不定)
テーマはサブタイトル通りです
「サクヤ・シュリアーツよ。私に顔を見せてくれないか?」
真っ暗な空間に、凛とした声が響く。
僕はそれに従うように顔を上げると、スポットライトが突如声の主を照らし出す。
「私はこの世界で魔王をさせて貰っている、クロウ・バーリアスだ。よろしく頼む」
声の主は大仰に作られた椅子にちょこんと乗っかった幼女だった。
腰まで伸びた黒髪に、ここからでも分かるほどに透き通った黒目。あどけない顔立ちだが、それをドクロで作られた王冠とゴスロリ服の上に羽織った薄く透けたマントによって不自然な威厳が醸し出されていた。
それにしてもゴスロリ服にマントって、ここの人のファッションセンスはどうなっているのだろう?
それを見ていると同時に僕は、僕が何でここにきたのかと言う事を思い出していた。
☆☆☆
結論から話すと僕は転生した。異世界転生と言うやつだ。
ただし僕の名前しか覚えていないけど。
見た目は十代半ばのうら若き少女だった。
真っ白なポニーテールに猫の耳。華奢な体はすらりと伸びていて、でもしっかりとした筋肉もついている。
お尻にはやはりと言うべきか尻尾があって特に意識することなく上下左右に動く。
そして、極めつけは。
「(どうしよう。今まで生きてきていつもあったアレがない!)」
アレは勿論アレである。外に出ている内臓の事だ。外に出てるなら内臓とは言わないだろって思うけど、内臓なのだ。
それがないのである。しかもオマケとして僕の胸にはたわわに実った2つの果実。
「(もうどうしろって言うんだよ!)」
涙目である。転生したと思ったら訳の分からない場所に置き去りにされ、更には今まで僕が僕として生きてきた体ではなく、女の子の体になっていたのだから。
とは言えここにずっと居ても何も始まらないどころかやがて飢えるか喉が渇いて死んでしまう。
なら体力があって、動ける内に動いた方が得策だろう。
っとその前にスキルとかステータスを確認しないと。
確かよく見る漫画やラノベだとこう言ってたよな。
「ステータス、オープン!」
…………。
「ステータス、オープン!」
……………………。
あれ? 違うのかな。
「ウィンドウ、オープン!」
………………………………。
諦めよう!
外に出ると立ち眩みするほどに世界は光輝いていた。
僕が転生した先は、どうやら廃墟だったようで周りには人っこ一人居ない。
どうやらこれは本格的にどこか人が居るところを探さないとマズイな。
よし、能力とか調べながら探すとしよう。
手始めに思いきり走ってみる。
クラウチングスタートでよーいドン!
ちなみにクラウチングスタートとは両手を前に付き、前屈みになってから走る事だ。以上、説明終わり。
走ってみると、やはりと言うべきかスピードはグンと上がっていた。1歩1歩の勢いがよく、ドンドン加速していく。周りの景色は流れるようにしていつの間にか開けた土地に来ていた。
「(ここは……なんだろう?)」
導かれるように足を進める。
そうして着いた場所は、いかにも大物が住んでいますと言うようなお屋敷だった。
門を叩いてみると門の両サイドにある石像が僕の方を向く。なんですか? ガーゴイルってやつですかこのやろー。
と思ったらギギィィィ……と鈍い音を立てながら門がゆっくり開く。
RPGの最終決戦のようで緊張する。
でもこれは入ってもいいと言う事だろうか?
促されるように門を潜り、広い庭を道なりに真っ直ぐ進む。
「待ちたまえ。そこの少女」
どこからともなく声がする。
「今そこにメイドを向かわせるから、1歩も動くんじゃないぞ?」
忠告通り動かないで待っていると、金色に輝くサイドテールを揺らしながら歩いてくるメイド服の姿の女の子が見える。
メイドはどこの世界に行ってもメイド服のようで、僕に安心感を与えてくれる。
「お待たせいたしました。サクヤ様ですね。私、ランが案内させていただきます。以後お見知り置きを」
体の前で右手を下、左手を上にしてお辞儀をするランさん。
その仕草は洗練されていて一種の美しさが僕の心を揺さぶる。
「こちらへどうぞ」
僕はランさんの案内に従って歩みを進めるのだった。
☆☆☆
そして現在に至る。
「どうした? 私の美しさに見惚れたか?」
美しいと言うよりも違和感しか抱かないんだけどな……。
ただそれを指摘すると、魔王と名乗る幼女の事だ。何をされるか分かったものじゃない。
「いえ、違和感満載のその姿に戸惑いを覚えていました」
周りが一気に静まる。
アレ?
もしかして僕やっちゃった? 死亡フラグを高層ビル並みに立派に建てちゃった?
「……クククッ、クハハハハッ! まさか私のこの格好を見惚れたり怯える事をせず、寧ろ違和感があると指摘するとは。面白い!」
黒く澄んだ瞳が僕を射抜く。僕は蛇に睨まれた蛙のように動けないでいると、魔王の幼女は楽しげに続ける。
「どうだ、もし良かったら私の執事をしないか?」
「お言葉ですが魔王様。この者が魔王様に放たれた刺客だと言う可能性も」
ランさんが慌てて魔王の幼女を制止するも、その行動は意味を成さなかった。
「ラン。お前はいつも私の事を第一に思ってくれている。だがな、たまには私の事を考えずにゆっくりと羽を伸ばすがいい」
「ですが魔王様」
「これは魔王としての命令だ。よいか?」
「……はい、仰せのままに」
このやり取りだけで二人の性格が読める。
魔王の幼女は従者であるランさんをよく思っている。
対してランさんも、主である魔王の幼女の事を支えている。まるで理想の関係だ。ランさんに休みがない事を除いて。
それを不憫に思った魔王の幼女は丁度ここにさ迷いこんだ僕に白羽の矢をたてたと言うわけだろう。
「そう言う事だ。さっきから何やら幼女幼女とうるさいが目を瞑って私直々にお願いする。サクヤよ。そなたを私の従者にならないか?」
ここまでされたら断る事なんて誰も出来やしないだろう。
僕もその例に漏れずにいる。
「はい、僕の方こそよろしくお願いします!」
フワリとジャンプして僕の目の前に来ると、キスをする。と言っても唇ではないけど。
「うむ、契約成立だな。これからよろしく頼むぞ、サクヤ」
魔王の幼女が……いや、ご主人様が姿には似つかわしくない妖艶な笑みを浮かべる。
この契約が後に僕の人生において多大な影響を及ぼす事を、この時の僕はまだ知らないのであった。
こんなにクロウさんとルビを振らなくても良かったかなと思ってる。