お願いします、助けてください
pixivで投稿した作品をこちらに転載しております。
「ここにガキが入っただろう?そいつをよこせ」
翁は男に血濡れた包丁を突きつけられた。
翁は大きく息を吸って、
「 窓から逃げろ 」
叫んだ。
*****
「なっ」
男は包丁を翁に突き刺す。
翁は男の腕を掴んだ。
「テメエ邪魔なんだよっ…」
腕は剥がされてもまた吸い付く。
「はっ…離せジジイ」
少女は足がすくんで動けない。
「…は…早く…行け」
翁の絞り出すような声を聞き、
「…!」
少女は庭へと続く大きな窓を開けた。
靴下で庭から道路へと駆ける。
(助けなくちゃ、おじいさんを、助けなくちゃ…!)
「だ、だれか…」
最初はか細い声だった
(もっと、もっと大きな声を)
「だれか…!」
(まだ足りない)
「 だれか助けて !!!!!」
朗々と住宅街に声が響き渡る。
くるくると赤いランプが光る車が見えた。
「君、大丈夫かい?」
中から警察官が出てきた。
「私より、早く…あの家の、おじいさんを…!」
*****
「しつこい、ジジィだな…!」
男は翁に腕を掴まれ上手く動けない。
「逃がす訳には…いかんからな」
腹に刺された包丁をそのままに、彼は相手の腕をひねった。
「痛っ」
翁は足を払いのける。
男の姿勢を崩したところで
「警察だ!」
警察が来た。
「……何やってるんですか霧崎元警部…!」
「犯人の確保だよ」
翁は苦しげに笑った。
*****
殺害現場を目撃してしまった少女は無事に保護され、犯人も逮捕された。
「ゆかり…!」
「母さん、父さん…怖かった…怖かったよぉ…」
あれからおよそ一月がたった。
*****
「このたびは何とお礼を申し上げればいいか…」
少女とその両親は頭を下げた。面会が許されたのだ。
ここは病院だ。かの翁こと霧崎純一郎はベッドに横たわっている。経過は順調だ。もうすぐ退院だという。
「どういたしまして、とでも言えばいいですかな」
霧崎は微笑んだ。
「お礼と言っては難ですが…」
彼は果物の包みを差し出した。
「…ありがとうございます。それよりもですね」
「は、はい」
「ゆかりさん、でしたかな」
「はいっ」
少女は返事をした。
翁は少女の頭にぽんと手を乗せた。
「今回はよく頑張ったね。」
「…」
「これはお嬢さんがちゃんと助けを求めてくれたお礼だ」
翁は少女に――果物籠にあった――葡萄を差し出した。
「警部、葡萄苦手でしたから「黙りなさい」はい…」
少女はくすりと笑い、
「でも」
と翁が言うと、びくりと震えた。
「今度からは遠回りでも人通りの多いところを通りなさい。」
「…はい…」
少女はしゅんとうつむいて答えた。両親は困ったように微笑んだ。
おつきあいいただきありがとうございました。