お願いします、あれを見て下さい
膝から崩れ落ちる彼女を、翁は黙って見ていた。
10歳ほどの少女。髪は肩ほどの長さ。肩掛け鞄を持っている。冊子がいくつか入っており、やや重そうだ。来ている服には枯れ葉がくっついている。
彼女は玄関で少し休んだ後、立ち上がり彼が案内した居間へ向かった。彼女はソファーへ座り混むとほっと息をついた。
「コーヒーは飲めるかい?」
「…いえ」
「わかった」
ぴー
お湯が沸いたヤカンの音が聞こえた。翁は背筋をしゃんと伸ばして立ち上がり台所へと向かう。
「少し待っていなさい」
***
部屋の中は綺麗に整頓されている。食器棚には食器がぎっしりと詰め込まれ、テーブルの上には飲みかけのコーヒーがあった。窓のそばには…彼の趣味なのだろうか、背の高い観葉植物がある。
ふと、窓の外を見た
外を歩いている人がいる
目が合う
奴はにたりと笑った
少女は驚きのあまり声を出すことができなかった。
***
少女は目を見開き口をぱくぱくさせている。茶を入れた翁はどうしたんだと声をかけた。
「…あ、あれ…」
少女は恐る恐る窓を指さすが何も見えなかった。
「い、いたの。奴が、いたの」
『奴』が何をさすのか彼には分からない。
「ここは、大丈夫だから」
彼は茶を差し出した。
『落ち着きなさい』と言外に告げていた。