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0周期、奈落

奈落編の続きです。諸事情で一話あたりの長さが短めになっていますが最近なかなか忙しいためでご容赦を。

十一:0周期、奈落





二人の長と部下たち一向は赤羽宮の東側にある庭園に集まった。

双方は二人だけで話がしたいと言ったので、ほとんどの部下は宮に戻り、側近も少し離れた所で待機することとなった。

今はこちらで言うなら春と呼ぶべき季節。柔らかな風が吹き、庭園の木々には桜の花が咲いていた。


「しかし、正直驚いてしまいました。まさか君主…そちらでは女后という国の長となる存在が女性だったとは…。」

「わたくしの国では、代々女性がこの地位に就くことになっておりますわ。なぜかはわからないけれど、もう遠い遠い昔からそうしているようです。」

「それと、何か車のようなものに乗って来られると思ったのですが、そちらにはそういうものはないのですか?」

「…いいえ、わたくしも普段は部下たちに頼ってしまい、自分の足で歩くことなど少ないのですが…

今日この記念すべき日には、あの橋をどうしても、自分の足で渡りたいと、そう思いましたの。」


そこまで話すと、二人はしばし言葉を止め、目の前に広がる庭園の景色を楽しんだ。


「…すばらしい庭園ですわ。桜の花が美しい…。」

「気に入っていただけてよかった。この庭園は部下の者たちの念の入った手入れのおかげで、この国内では比類なき程の美しさだと思っております。それに、あなたは丁度良い時に来られた。やはり、桜の花に勝るものはないでしょうからね。」




「実は、このように赤羽国の君主の方とお会いするのは、長年青羽国の女后の夢でございました、しかし、いざ今日赤羽国に参るためにあの橋を渡る時は、正直不安でしたの。

連絡のつてがなかったとは言え、いきなり橋を建設して、いきなりの訪問でしたから…悪い心情を持たれるのではないかと…。こんな話は失礼かしら。」

慶徳は首を振り、

「いえ、なにも情報がなかったのですから、不安になるのは当然でしょう。それは我々も同じこと。」

青妹后が続けた

「けれど、赤羽国が平和で友好的なようでよかったわ。とてもわたくしの国と雰囲気が似ているように思いますわ。

違いと言ったら、わたくしの国の美しい時期は、紫陽花の咲く雨の季節だということくらいかしら…。」

「近いうちに、今度は私があなたの国へ赴きたいですな。」と慶徳が言うと、

「それならば是非雨の季節に。」にこりとして青妹后が言った。


その後二人は、お互いの国について話し合った。気候や農業、手工業の様子、民の生活や商いについて……。

やはり両国は完全に隔てられていたので、そこには全く違う文化があるようだった。

青妹后は表情豊かなようで、このような話に於いても、自国との違いが見つかる度に、驚いたり、感心したりしていた。



さて、話が一段落した時、ふと青妹后は少し遠くの景色に目をやった。ここは少し小高い所なので、国の東側の街を見下ろすことが出来る。


「あれ、なんですの?」

青妹后は東側の街のさらに向こう、小さい山の中腹にある、一風変わった建物を指差した。


それは、代々君主が即位式典を行う祠であった。

「ああ、あれはこの国を守って下さるものを祠っております。我々君主は、即位する時に、必ずそれにお祈りをし、それが発する輝きを見るのです。

そうすることで、それから力を、この世界を平和に保つ力を得ることが出来る。と、そう信じられています。」

「『それ』はどういうものなの?守り神のようなものですの?」

「確かに似た部分がありますが、しかし、この国では全ての神ですら、あの『赤羽』の力の下存在していると言われております。今も言いましたが、それは『羽』、それも尽きること無く燃え続け、赤々とした光を発する『羽』なのです。我々はそれを『赤羽』、あげはと呼んでおり、この国の由来ともなっております。」


「本当に?本当にこの国に永久に輝く羽があるのですか?」

青妹は驚きを隠せない様子だった。


「はい、ございますが、元々『羽』のことをご存じだったのですか?」

青妹后はどこかためらいがちに

「はい…、実はわたくしの国にも祠があります。しかしそこには何も祠られていません。わたくしはそれを『くうの祠』と呼んでおります。

なぜそんな祠があるかと言いますと、『将来手に入るであろう、輝く羽』を祠る為、とされているのです。

そして、それが実現したとき、二つの国は一つになり、永久の繁栄を可能にする…。とのことです。」


「それは本当ですか?」

青妹后を信用しないわけではなかったが、にわかには信じがたいことだった…。

「信じられないことかも知れませんが…。もしよかったら我が国にいらしてくれれば、その祠を案内致しますわ。」


「それは非常に興味深い話だ…。まことならばあの『羽』の扱いを考える必要があるな…。そうだ、ご存じならば話は早い。青妹様、あなたにあの『羽』をお見せしよう。」

そういうと慶徳は、部下を呼んで祠まで行く準備をするように伝えた。





赤羽宮から祠までは、車を使って一刻とき程度であっただろうか。祠の周りは、不思議な気が包んでおり、清々しいが、妙に高揚した気分になるという。

ここもやはり春の花々が咲き乱れており、庭園とはまた違う、野趣あふれる美しさがあった。

慶徳と青妹は車を降りると、祠の門の方へ進んだ。

門の所には、祠の番人がいた。

「ご苦労様。少し中を見せてもらってもいいかな。」

「もちろんでございます。そちらは…いま話題になっておられる青妹様にございますか。」

微笑んで軽くおじぎする青妹を、番人は美しいと思ったが、それをいうことが失礼にならないかわからなかったので、礼を返すだけだった。

「さ、どうぞ中へ。中の祠司が色々やってくれることでしょう。」


「あの方何か、素っ気ない感じでしたわね。」

「はは、緊張しているのですよ。それに、先ほども申しましたが、この国では、女性が君主になることはないので、ついその接し方に困ってしまうのですよ。

特にあなたのような美しい方では、ね。」

少し照れながら慶徳がこういうと、青妹も顔を赤くしてしまった。



やがて、即位式典のとき階段のところまでやってくると、祠司が二人を迎えた。


「話は聞いておりました。『赤羽』をご覧になるそうですな。」

「ご迷惑では無かったかしら?」

「いえいえ、これから交わりを深めて行く国の君主とあらば、我が国を守る存在である『赤羽』、一度はご覧いただくべきなのだと思います。さあ、こちらで御座います。」

二人は例の壇上に上がり正座した。祠司はおくから黒い布に包まれた卵型のものを持って来て、二人の目の前で包みを取った。


「わあ…」青妹はその赤々と燃える『羽』の輝きに、しばらくの間見入った。

「この『羽』は、遥か昔からこの国ありまして、その炎はいまだ尽きたことがございません。」


「ところで祠司よ。青妹后によると、青羽国の祠には、『羽』にまつわる興味深い言い伝えがあるのだそうだ。」

「それはまことですか?」祠司は驚いた。そもそも交流のなかった青羽国に『羽』のことが伝わっていたことに。


青妹は先ほど慶徳に話した『空の祠』にまつわる話をした。


「ふーむ…。」

「それが本当ならば、この『羽』の扱いを考える必要があるのではないかと思うのだが…。」

「確かに…しかし、この『羽』は永年この国を守ってきた存在。そう簡単に外へ出すわけにも…。」

赤羽国には『羽』を外に出したから、不幸やら厄災やらがふりかかるとか、その類の話があるわけではなかった。

しかし、それは『羽』が赤羽国のこの祠にあるのが当たり前で、これが別の所へ行くことなどあり得ないことであったからだ。

「とりあえずは…やはり私とこのことに通ずる祠司も含め、一度青羽国に赴き、その『空の祠』について調べる必要があると思うのだが。」

「そうですね。確かに私、祠司と致しましても大変興味深いことに御座います。」

「では、後日、そちらにお伺いすることになるだろう。」

「はい、お待ち致しておりますわ。」



祠を出る頃にはもう日も傾きかけていたので、青妹はそのまま青羽国へ戻ることにした。


「では、翌日からこの橋は民に開放するということでよろしいですね。」

「はい、人々もあちらとの交流を深める機会を心待ちにしていることでしょう。」

「そうですわね。今後ともよい関係を築いてゆきましょう。では、今度はあなたが青羽国へいらっしゃるのを、心待ちにしておりますわ。」

そう言って礼をすると、青妹とその部下は橋を歩き始めた。


慶徳は、青妹の姿が見えなくなるまで、ずっとそこで見送っていた。



その後宮廷で慶徳は、荘孫に青羽国のことや、『羽』のことを話した。やはり、荘孫は、『羽』のことに強い関心を示した。


「それは、まことですか?」

「もちろん、最大限悪意を持って考えるなら、青羽国の、『羽』を奪うための策略ということもあり得ないことは無いのかもしれないが

……しかし、だとしても青羽国の人々がなぜ、谷の向こうにある『羽』のこと知り得るのだろう。いままでこの二国は何の交流も無かったと言うのに。それに…。」

と、言った所で、慶徳は言葉を止めた。

「…それで?なんですか?」

「い、いや、あの青妹后が嘘をついていたり、なにか悪い策略を考えているようには、どうしても思えないのだよ…。」慶徳は決まり悪そうに語尾を弱めながら言った。

「慶徳様…なにかあの方に…特別な感情をお持ちで?」と言うと、

「そ、そんなことはない!ただ、あの方も私同様に二つの国の平和を第一に考えているように思えたのだよ…今日一日話をしてな……

……いずれにしても、やはり私はあちらに赴き、その『空の祠』のことを知る必要があると思うのだ。

その時は祠司を連れて行くつもりだ。祠司はあの祠を守る役目を負う存在、外出はあまりせぬ方がいいとは言うが、何しろ今回のことは特別だ。

やはり彼がいた方が、話が円滑に進むであろうからな。」




慶徳はその日から、青羽国へ行く日を心待ちにしていた。もちろん、『赤羽』に関することにも興味があったが、それよりも……




続く

ありがとうございました。時間が出来次第、次を更新致します。奈落編はもうしばらく続きそうです。

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