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周期制定前〜0周期、奈落

今回から奈落編です。『奈落』は今回の世界の通り名。由来は本編を読めばお解りいただけるかと思います。


十:周期制定前〜0周期、奈落





そのころ、奈落はまだ未開の地がほとんどで、二つの国しか存在しなかった。

一つは赤羽国あげはこく、そしてもう一つは青羽国あおばこく

かつては、二つの国の交流は全くなく、お互い未知の存在だった。なぜなら、二つの国の間には、深い深い谷があったからだ。

その谷の底を知るものはなく、以前は、渡る方法もなかった。

状況が変わったのはいまから100年くらい前、青羽国が、赤羽国に向けて橋を建設した時であった。橋は幾人かの死者(と思われる。谷底に墜ちたものは生死不明)をだしながら、20年後に完成した。





さてその橋が完成する少し前のこと、赤羽国は、丁度、君主交代の最中であった。

前の君主、慶蘭が259歳にして永久の眠りについたのだ。

この世界の人種は極めて長命なようで、平均寿命は300年程度と言われていたので、慶蘭はいささか若い内に亡くなった方だと言う。

七日七晩の話し合いの結果、次代君主に選ばれたのは末っ子の慶徳であった。彼は慶蘭の子息の中で唯一年齢がまだ二桁で、かなり若い君主といえる。



しかし、実権を誰か他人が握るというのではなく、れっきとした彼による政が期待されての抜擢で、それほど彼には人望も才能もあったと言うことなのだろう。




その日、定めに従って、祠のなかで、即位式典が執り行われることとなっていた。


慶徳は祠用の衣装に着替え終わると、祠に向けての出発を待っていた。



「出発はまだか。」かれはとなりにいる荘孫に訊いた。

「部下たちが手配しておりますが、もう幾分かかる模様でございます。しばしのご辛抱を。」

「ふむ、そうか。ところで荘孫よ。」

「なんでしょう」

「お主は、今回の即位、正しかったと思うか?」

突然の質問に荘孫は驚いた。

「そんな、私はそのようなことに口を出せる立場ではございませぬ。」

「気にするな。あくまで此所だけの話だ。と言うのもな、私はやはり、まだ自分がこの地位に就くには未熟なのではないかと、常々思ってしまうのだ…。

それに、兄上たちをさしおいて、このような即位…何かよからぬことが起きる気がしてならないのだ…。」



一般的に、この国の世継ぎはより世代が上で、兄弟ならば長男から、と言うのが通例であったから、それを破ってしまった彼は、それが周りの推薦のためとはいえ、不安を隠せなかった。



荘孫は少し考えて。

「自分はそのようなことに口を出せる立場ではございませんが……


私は慶徳様は間違いなく、それにふさわしいかただと考えます、それは私に限らず、大多数の人々が考えていることと思います。

確かに、慶徳様をよくお思いでない方もおられるようですが、

嫉妬という邪な感情を持つ人間の全てに好かれるということは不可能なことですから致し方ないでしょう。

慶徳様がこれから、かつて私に話して下さったような豊かな国の構想実現にむけて正しい判断をなされば、彼らも批判などできようもありません。

どうぞ、自らの才能に自信をお持ち下さい。」


慶徳もまた、荘孫を側近に選んだことが正解だったと、この時強く思った。



しばらくすると、迎えの馬車がやって来たので、荘孫をはじめ、数人の部下と共に、祠へ向かった。


祠へ着くと、彼らは広い小石の庭園を通り、建物の前まで行った。しきたりで、そこからは慶徳一人で、一段ずつ階段を昇り、小高い台座の上に座した。

すると前から祠を守る守者とよばれる者が三人あらわれた。最後尾の一人は、何か黒い布にかぶさった、卵型のものを持っていた。


先頭の守者がまず慶徳の目の前にたち、祈りを告げると横に例の卵型のものを持って来て、その覆いを取った。


中には、赤々と燃える『羽』が入っていた。君主はこの光を目にし、浴びることがしきたりになっていた。


後の世に継がれる聖人君子誕生の瞬間だった。


その後、全ての儀式が終わり、彼は最後に部下達に向かい演説をした。


「この度こうして、私が君主になった訳であるが、私がのぞんでいるのは只一つ、この国が平和でありつづけてくれることである。そのためには、民が不幸にならない、不幸を感じないような政をこころがける必要があるのだと思っている。

そして私の代には、この国史上初めてのことがおこるだろう。今青羽国が建設している橋は、このまま進むと、後数年でこちらに届くであろう。

それによってこの国は青羽国との交わりを持つことになる。外の国との交わり、、外交とでも呼ぶべきだろうか、、、この国を平和に保つためには、青羽国との関係を良好に保つこともまた、必要なことであろう。

いずれにしても、この国の民が幸福でいられるような国を目指すつもりであるから、部下たちも私の手助けを、ぜひお願いしたい次第である。さあ、


『赤羽』の下に、国よ永遠なれ!」



式典が全て終わると、帰り際、車内で荘孫と再び会話を始めた。「ふう。これで祝いごとは終わりだ。明日から君主としての日常が始まるのだな。とはいえ、先代がうまくお治めになったこともあり、現時点では、大きな変換は必要ないと思うのだ。やはり、政策上、私に試練をもたらすのは、近い未来完成する、青羽国とこの国を結ぶ橋であろうな。」

「青羽国…一体どのような人間がいるのでしょう、そして、赤羽国に対してどのように接して来るのでしょうな。」

「最悪」…それは慶徳にとって本当に最悪なことだが、

「…最悪、突如向こうが攻め込んで来る、ということもあろうな。やはり、念のためその日に向け、軍備を整えて置くべきなのか…人を殺めるための集団を鍛えるのは気が進まぬが、向こうがもしそのような態度であれば、民を守るために、戦うことも致し方ないのだろう…。

しかし、出来るだけ軍はつかいたくないものだ。もちろんこちらは友好的な関係を築くつもりでいる。」

「きっと、慶徳様の想いは、相手国にも伝わることでしょう…。」




その後、慶徳が予想したとおり、橋が完成するまでの四年間は、大きな変も起こらず、平和な状態がつづいた。

彼の政も、成り行きにまかせるように、大きな変換をすることなく行われた。ただし、彼があの日車の中で話していたとおり、国防軍は着実に鍛錬を進めていた。


そして、その日、その後の歴を数える上で基準となるその日に、青羽国の橋は完成した。



翌日、文を持つ青年が向こうからやってきたが、文は解読出来なかったので、言伝で聞いた。七日後に、青羽国の君主が赤羽国を訪れるとのこと、そして会合を開いた後、橋を一般開放するとのことであった。


慶徳はこれに了承する旨を告げると、青年はまた橋の向こうへ消えていった。



約束の日、赤羽国は青羽国の君主をもてなす準備を終えた上で、慶徳はじめたくさんの部下は、赤羽国側の橋の前で、君主を迎えるため整列した。


向こうから君主思しき人と多くの付き人が見えると、こちら側では驚きの声が上がった。

「あれか、あの一番雅な衣装の方か?あれがあちらの君主なのか?」

「まさか、だってあの人はどうみても…。」

そもそも君主が車に乗ること無くその足で渡っているのも驚きだったが、それよりも皆を驚かせたのは、


あちらの君主と思しき人は、どうみても女だったからだ。

それは遠めに見ても、若く美しい女性であった。




数分後、その美女と取り囲む部下と思しき一団が、赤羽国にその足を下ろした。

周囲がざわつくなか、まず慶徳は確認した。

「青羽国の君主に間違いございませんね?」

女は控え目に首を縦に振った。周りが一層ざわついた。しかし、慶徳は冷静に、そして丁寧に挨拶した。

「赤羽国へようこそ。二つの国に交わりができたこの喜ぶべき歴史的瞬間をまのあたりにでき幸せに思います。私の名は慶徳。現国家君主でございます。部下たちに落ち着きがありませぬが、この国では女性が君主になるということはあまりないためもの珍しさを隠せないようです。何卒、失礼をお赦し下さい。」


すると今度は、その美女が挨拶を始めた。

「はじめまして。今日はわたくしたちにとって夢が叶った輝かしい日になりました。お会いできて光栄ですわ。わたくしは青羽国の女后、そちらの国の君主にあたる身かと思われます、青妹おうせにございます。」

その声は、その容姿にふさわしい、若々しく美しいものであったと言う。


二人は互いの部下を連れて、赤羽宮へ赴いた。




この歴史的瞬間に、二人が双国の長だったことは、慶徳、青妹二人に、そして、赤羽国、青羽国の両国に、予め定められた運命だったのだろうか。そして、この交わりが両国にもたらす事態もまた、必然であったのだろうか…。





続く

ありがとうございました。今回はちょっと短めでしたかね。続きの構想はかたまっているので出来るだけはやく更新します。おたのしみに。

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