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フォグナ歴紀元前五年〜シルム時代136年冬の月、陰界

霧の世界編が終わったといいながらまだ霧の世界です。ただし、今度は視点が違います。あくまで黒魔族編です。

八:フォグナ歴紀元前五年、霧の世界





ゲシヒテとラボイデの二人が気がつくと、そこは夜の草原であった。

二人は何もないその草原の真ん中に寝そべっていた。

身を起こして見ると、すこし遠くに、みなれない色に光る建物群が見えた。それは二人が見たことのない、二人の世界にはない景色だった。


「あの都市でよいのか?」ゲシヒテは訊いた。

「ああ、恐らくあれだろう。しかし、俄には信じ難いな。ここは本当に、『世』に言う霧の世界なのか?我々は、世界を渡ったというのか?」

「あの光景を見る限り、おそらくはそうなのだろう。あの建物も光も、我々の世界では見ないものだ。さあ、とりあえずはあの都市へ行こう。」

そう言うと二人は棒のようなものを懐から出し、それで空に円を描いた。すると空間が割れその円の中だけ、奥に別の景色が見えた。

二人がその中に入ると、草原からは姿を消した。」


何もない草原で、風だけがざわついていた。


その頃二人はヴィエンのスラム街の人気の無い夜の通りを歩いていた。


「しかし、本当にこの都市に『羽』があるのか?」ラボイデが訊いた。

「いや、それはもっと南の方にある。ということだ。」

「じゃあ、どうしてここに?」

「わからんが、王は必ずこの世界の人間を使って『羽』を手に入れさせろ。と言っていた。どうも、王にとっては、『羽』を手に入れることだけでは、ここでの『目的』は達成されないらしい…。

それで、だ。この都市にはどうも『羽』の伝説を正確に知っている、この世界では数少ない人間がいるらしいんだ。なにかそう言う伝説とかに詳しいような人がな。

別に『使う』人間は誰でも良いが、そう言う奴の方が話は早いだろうからな。

さあ、その『古書学研究所』とやらに行こうか。おっと、人には余り見られない方がいいらしい。この格好はこの世界では異様らしいからな。」

真夜中とあって街にはあまり人がいなかったので、それほど気にせず市街地を進んでいった。


目的地に辿りつくと、さすがに研究所の明かりはまばらだった。

中に入ると、ロビーは明かりはついていたがひっそりしていた。

奥から若い研究員が顔を出した。

「どちらさまですか?あいにくもう所長はお帰りになりましたが。」


「少し話があるんだ。『羽』の伝説に関することなんだが。所長じゃなくて、君でいいから、少し聞いてくれ。」

図らずも、この瞬間に彼の不幸な末路が決定した。

研究員は一瞬不審な顔をしていたが、逆にそこに好奇心がわいたのか、彼は二人を通した。



応接室のようなところに通されると、早速ラボイデが話を切り出した。

「君は、『羽』の伝説を正確に、深く理解しているかな。なぜ、あれが戦乱を生んだのか…そして、あれの本当の使い方…。」

すると研究員は得意な顔で、彼の質問に応えた。


彼が『知っている』ことを確認すると、ゲシヒテが本題を切り出した。


「さて、ここからが本題だ。もし、その『羽』が実在するとしたら。どう思うかね。」


突飛もない質問に彼は驚いた。しかし、彼には既に心当りがあった。

「や、やはりあの話は本当なんですか?」

「ん?なにか心当たりがあるのか?」

研究員は誰もいないのに、小声になって、

「実は今日、仲間の研究員が、ここから南の町で『羽』を持っている男がいるって話を聞いたんです。まだ研究員の2、3人しか知らない話なんですが。」

「それは本当かね!?」

「いえ、まだ噂に過ぎませんが…。」

ゲシヒテはいよいよ、本題に入る。

「実は、君に頼みがあるんだ。その『羽』が実在するのかを調べた後、もし本当に存在するなら、どうにかして手に入れて欲しいのだが…

もちろん、お礼は充分するつもりだ。わたしがやってもいいのだが、なにぶんこの辺りには不案内でね、地元の人に頼んだ方が、事は楽に行くと思うんだが…。」

研究員は少し考えた後、

「わかりました。何らかの方法で手に入れることが出来たなら、あなたにお伝えし、相談に乗りましょう。」と告げた。


その後、二人は彼に滞在する宿を告げると、研究所を後にした。





それから三日後、その宿に例の研究員が仲間二人を引き連れて現れた。ラボイデとゲシヒテには、三人が妙におびえているように見えた。


話を訊くと、事態は思わぬ方へ進んでいた。それは、ゲシヒテとラボイデにとってさえも…。



「その日、私たちは研究所でのちょっとした会話から、噂が事実か確かめに行こうということになり、例の『羽』を持つ男の家まで行ってみることにしたのです。」研究員は自らが犯した『罪』を悔やみながら、話を続けた。


しかしその日、三人は研究が長引いてしまい、町に着く頃には、もう夜になっていた。

三人は明かりのない、なれない町を歩きながら、彼らの中の一人が聞いた噂の男の家へ向かった。


しかし、街の南側に至ると、彼らの目的地を特定することも、噂が真実であることを是認するのも、そう難しいことではなかった。


南側の通りに面したある、家のドアの窓から、珍しい赤々とした光が漏れていた。


三人はそれをみつけると、光に引きつけられるように、その家の前へ駆け寄った。



赤々とした光を三人は見つめていると、次第に光は強さを増したように思え、三人の視界は真っ赤になった。


次の瞬間、三人はドアを開けようとしていた。鍵がかかってて開かないとわかると、今度はそこら辺のものを使って、ドアを壊した。


玄関の中に入ると、中では真っ暗な中にその『羽』だけがあの光を発していた。


三人は示しあわせたようにその『羽』の入った容器を手に取り、持ち去って行った…。


「その後、このヴィエンに帰ってくるまでの記憶はほとんどないのです。気がつくと、空が白み始める中、私たちはヴィエンの南門に立っていました。

なぜ、あのような事をしてしまったのでしょう。

確かに『羽』の噂を知った時は、こんな研究をしていますから、一目見てみたい、位には思いましたが、まさか、盗むだなんて…

私たちは、その事実を確かめた後、改めて彼に『羽』を譲ってくれるよう交渉するつもりで…。」


これにはゲシヒテとラボイデも驚きの色を隠せなかった。しかし、自らに与えられた仕事を済ますべく、話を続けた。


「その、『羽』いまどこに?」

「はい、私たちはそれ以降その『羽』、というかその光が恐ろしくなったため、明るい内に覆いで隠して、あるぼろ物置の中に隠したのです。

それからというもの、犯行が明るみにでるのが怖くて、まともに外を歩けない始末です。」

「では、私たちにそれを譲っていただけるかな?」とゲシヒテが訊くと、

「はい、あんな恐ろしいものは、出来るだけ遠くにやってしまいたい。

お願いです、異国の方。あれを持っていってしまって下さい。」

「では、今日の夜、その倉庫へ連れていっていただこう。

我々はそれを受け取ったらすぐ出発する。この地でこの格好はあまり良くないらしいからな。

出来るだけ人に見られることなく、早く立ち去ろうと思うのだ。」

「了解しました。我々はそれまで自室で待機します。」

と言うと三人はそそくさと帰って行った。



「どういうことなのだろう。」ゲシヒテはさっぱり意味がわからなかった。

「わからん。しかし、話に聞く狂気の行動、そしてあの異常な怯え方…いずれも『羽』が関連しているのだろう。」

「この箱を持たせたのも、やはり意味があると言うわけか。」

ゲシヒテは隣りに置いてある、不思議な文字の書かれた『色のない』箱を見ながら言った…。」




その日の夜中、人気がまばらになったのを見計らって、5人は彼らが言う倉庫へ向かった。


辺りは先ほどの市街地より幾分みすぼらしい風景で、街灯はあるものの、かなりうす暗く感じられた。


彼らはそのスラム街の通りから更に奥まった所の、倉庫が四つほどたちならぶ所に入った。


「ここです、あれ、この前は鍵が開いていたのに…。」

「心配ない。」

ラボイデはどうせもうすぐ立ち去るのだからと、気兼ねなく懐から棒を出し、空に円をかいた。


すると円の中には倉庫のなかと思しき暗い室内の景色が現れた。


「なんです!?それは」

三人はさすがに驚いていたが、

「気にするな。さあ中へ」

とゲシヒテが先導して五人は中に入った。


その後三人はゲシヒテとラボイデを倉庫の一番奥へひきつれていき、その棚の端に置いてある楕円型の黒い包みをさして

「……これです。」と示した。三人はどこか、落ち着きがないように見受けられた。


「ほう。」

ラボイデはそれを手にとると、中身を確認する為、覆いをとってしまった…。


中にはランプのような入れ物の中に、赤々と輝き燃える『羽』が入っていた。

「間違いない。確かにこれは『不死鳥の羽』…では、いただこうかな。」


……

三人から返事がない。


「ん、どうした?」とラボイデが聞き返したその時。


「それは私のだ!!貴様らには渡さない!!」と一人の研究員が叫んだかと思うと、他の二人がゲシヒテとラボイデに飛び掛かって来た。

「なんだ?どうしたと言うのだ?」

「貴様らには渡さない!!『羽』は渡さない!!」

三人は二人に覆いかぶさるようにして倒れこむと、何度も殴りかかってきた。三人は完全に正気を失っていた。


最早、何を言っても通じないと、感じた二人は、おもむろに棒を取り出し順に3人に向かって振った。黒魔法のスペルを呟きながら………。研究員はたちまちその動きを止め、その場に倒れた。

もう、息はなかった。




彼らは三つの肉体に一応の祈りをささげ、倉庫を後にした。2次元を通って…。




「やれやれ、少々手荒なことをしてしまった…正当防衛とはいえ、こんなことになるなんて…これも『羽』の秘めた力のせいなのか…。」

「おい、オレらだってそれにあてられては危険だ。さっさとここにしまおう。」

ゲシヒテは先の不思議な文字の書かれた箱を出し、羽をしまった。

「これで、この箱を開けない限りは安全な筈だ。さあ、早くここを去ろう。予定の時間は?」


「今日未明だな。」

二人はまた都市の北側の草原へ向かい歩いて行った。

一人のみすぼらしい男が盗み聞きしていた事には気付かず…。





二人は草原に着くなり、祈りを捧げ、箱にも何かをつぶやいた後、そこに寝そべって眠った。気が遠くなると共に、意識が離れて行くような、不思議な感覚に陥った。


次に目が覚めると、黒い霧の向こうに、見慣れた漆黒の城がぼんやりと浮かんでいた。



九:シルム時代136年冬の月、陰界





二人は起き上がるとすぐさま城へ向かった。



城に入ると、真っ先に王のいる最上階へ向かった。


階段を昇った先に、二人の男が入口にいた。ラボイデが用件を伝えると、彼らは王室の中に通された。



「戻ったか…待っておったぞ。」王は二人に背を向けながら言った。


「いまはあれから何年後の冬の月ですか?」

「二年だ、二年後の136年だ。あの翌年は、残念ながら同調シンクロに支障があってな。何か別の存在の波長が妨害したのだ。それで『羽』は手に入れたか?」


「はい、ここに。」ゲシヒテは王に箱を手渡した。


王は箱の文字を確認すると、中を確かめることもなく、それを家来のものにしまわせた。

「して、だ。おぬしら二人の失態の情報は、しかとこちらにも来ておる。黒魔法を『フォグ』のない所で使うのがどういうことなのかは知っておるな?」


ラボイデは恐る恐る応えた。

「はい、確かに。しかし、あの場合仕方なく…『羽』にあてられたらしき彼らを止める術は、他にありませんでした。」


「なるほど、しかし、『罪』は『罪』だ。なにしろ一つの世界を滅ぼすのことになるのだからな……。」


「二人にはしばらく牢獄に入ってもらうことになる。詳しい処遇は後日言い渡すことになろう。


「…はい。」

声をそろえて二人は承知した。



牢にいれられるとすぐに、壁越しにゲシヒテはラボイデに話しかけた。

「我々は、どうなるのだろうな。」


ラボイデは、わからんと言った後、

「普通なら一世界の崩壊は死に値する大罪だが…今回はそういうことにはならない筈だ。王はいきさつを知っておられるようだし、何しろあれは本当にやむを得なかったと言わざるをえないからな。」と続けた。


「しかし、『羽』があのように人の心を狂わせてしまうとは知らなかった。あんな恐ろしいものだったとは…。」

「ひょっとすると、あれが争いを生んだ別の理由はあれなのかも知れないな…。」

ラボイデは言葉を選びながら、

「王は、どうなんだろう…最近随分『羽』に熱心なようだが…。」

するとゲシヒテは

「めったなことをくちにするものではない。あれは、王なりの考えがあってのことだ。恐らくな……。」とたしなめた。





そのころ王はその寝室にいた。

「ふう、ついに『羽』を手に入れることが出来た。これも、『あの方』のお陰だ。予定が完全にうまくいっておれば、世界を一つ空白にすることにも成功した筈だが…。」王は、『霧の世界』がユリコによってその崩壊を束の間免れたことを知らないようだった。

「さて、『罪』は誰かがうけとらねばならぬ。…気の毒だが、あの二人と言うことにしようか…。頑張ってくれたのだし、いささか惜しいが…。」


王は枕元に『箱』を置いた上で、床に就いた。




続く

次回も陰界を…。と言いたい所ですが、その前に挟むお話があります。ありがとうございました。

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