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フォグナ歴紀元前五年、霧の世界〜五次元空間・再

とりあえず霧の世界は終わりです。

六:フォグナ歴紀元前五年、霧の大陸3




ルシウスとユリコの二人は『まほう』使いが目撃されたと言われるスラム街へ向かった「スラム街というのは?」

「なんかよくわからんが、この都市の最下層市民が集まるところらしいな。発展も一番遅れているんだそうだ。」

それは都市の北端部であった。なるほど、確かに市街地中心部とくらべると建物も街灯もみすぼらしく、昼間でも幾分うす暗いムードが漂っていた。


しかし、それでも五階程度の建物や、街灯があるあたり、この都市の文明レベルの高さをもの語っていた。


「この裏通りの奥の方だって言ってたな、その二人組とやらが出たのは。」


そこは何か物置のようなものが建ち並ぶ、その界隈の中でもとくに薄暗いところだった。

「実際に目撃した人は誰なのでしょう…。」

二人はとりあえず近くの人に話を聞いてみることをした。

「おっと。ここらは危険な奴も多いらしいからな。気をつけろよ。」ここはルシウスが先導して話を聞き込むことにした。


「よお、ちょっと話があるんだが、いいかい?」

ルシウスは近くを歩いていた、茶色の服の男に話しかけた。



「ああ、例の『色のない』服を着ていた奴等のことかい。そんならこの通りを10軒ほど行った所の左側の家に住む奴に訊いてみな。シェンって奴だ。」

男はさっき二人が歩いて来た広めの通りの更に先の方をさして言った。

「あいつが最初にそれを見た奴だって話だ。」


二人は例をして、シェンの家へ向かった。



「あらぁ、もうどっちかっつーと夜明けに近い夜更けの頃だったな…おれは夕べは仲間内で飲んでたんだがよ、その帰り道だよ。あの暗がりを通った時にな、なんか変わった色の光が見えたんだよ。

何だと思って奥の方を覗いて見るとな、なんかランプみたいなもんを持った二人組がいてよ、変な服を着てたんだよ、ランプの光で照らされてんのに『色』が見えねぇんだよ。変なこともあるもんだ。で、おれはもの影から見てたんだ。そしたら、その光が消えたように見えたかと思うと、二人は立ち去って行ったんだ。」

「その光はどんな色だったんだ? 」

「そうだなぁ、何か赤っぽい感じだったが、あまり見たことない、たとえようのない色だったなぁ。」

やはり、その二人が『羽』を持っているのは間違いないようだった。消えた、と言うのは何かに入れたかしまったりしたのがそう見えたのだろうか…。


「その二人はなにか話したりしていませんでしたか?」今度はユリコが訊いた。


「おお、何か物騒な感じだったな…『なかなか手渡さないから、少々手荒なことをした』とか何とか言ってよ。それと早く帰った方がいい、、とも言ってたなぁ。」


「…あの二人がいた場所は、何か物置小屋みたいのがありましたよね?」

「ああ、見ての通りの物置だ。ま、こんな所だ。大したモンは入ってないが、おれらの中にだって細々と商売してる奴もいるからな。そいつらの売りモンや商売道具みたいのが入ってる。ま、他所から見りゃただのがらくただがな。」

「では、夜はあの中は無人なんですよね?」

「まあな、真っ暗だし、夜に来たがるやつはいねぇよな。っていうか日が昇ってる時間だって、あん中に人がいるのはまれだな。」

「…鍵は、鍵はかかっていますか?」

ユリコが焦り気味なのにルシウスは気付いた。

「…その中を調べることはできませんか。」


ユリコは何やら急いでいたが、事態は思うようにすすまなかった。彼女は、物置の中を、自分で、それも一人で調べたいと言うのだ。

しかし、スラムの人々にとっては貴重なものが入ったその中に、そうやすやす一人で入ることを許してくれる訳もなかった。


結局ルシウスの助けもあり、入口でシェンが見張ることと、ルシウスが彼女が何もせず戻ってくるまで人質代わりになることを条件に、シェンと貧商人は了承した。




そして、もう夕方も近くなるころ彼らは例の物置小屋の前に行った。


全部で四つの物置があったが、いずれも鍵や扉は壊されては、いなかった。

しかし、むしろその事が彼女を不安にさせた。


(彼らは世界を渡れない…でも世界の中なら自由に渡れる…)



彼女はシェンに頼んで扉を開けさせた、なぜかただ開けさせただけで、特に調べもせず

「次、お願いします。」と次を開けさせた。

それを繰り返し、ついに、四つ目の扉のみが残った…。

(ここが最後…やはり思い過ごしだったのかしら…)

しかし、残念ながらユリコの予感は的中した。

その扉を開けるとなかはどす黒い霧のようなものが立ち込めていた。そして、それは少しずつ、だが確実に外へ逃げて行った…

そして、ユリコ以外のこの『地』の人々はみな、次々倒れて行った。


ユリコは一瞬、優先順位に悩んだが、すぐ、一人物置の中に入って行った。

中を進めば進むほど黒い霧は濃くなっていき、彼女ですらそれにあてられそうになっていた。

しかし、どうにか奥の方に進むと、そこにはなにか大きな三つの塊があり、黒い霧はそこから出ているように見えた。暗がりでよく見えなかったが、ユリコにはすぐわかった。


それは、奇妙に黒ずんだ死体だった。

シェンから借りた蝋燭を当てると、例の緑色の制服を着ているのがわかった。やはり、あの研究員だ


ユリコがやるべきことはわかっていた。彼女はすぐさま懐から細い棒を取り出すと、何かを呟きながら三人に向かって順に棒を振った。

すると霧は瞬く間に黒から灰色へ変わっていった。


すると彼女はすぐさま入口に戻り、シェンやルシウス達にも同じようなことをした。すると彼らはすぐに目を覚ました。


「あれっ、おれ何していたんだ……わっ!なんだこの灰色の霧は!」

目を覚ますなりルシウスが声を上げた。

「理由は後で話しますから!この界隈の人に、しばらく外に出ないように呼び掛けてください、そして、私たちも一度シェンさんの家に非難しましょう!」


彼らは意味が解らなかったが、その霧がなにか異変であることはわかったので、これにしたがった。手分けして人々を家の中にとどまらせた後、シェンの家に入った。





シェンの家のなかでユリコはルシウスに真相を話した。理解されるかは不安だったが…。

「あの『色のない』霧の正体が、魔法、特に『色のない』魔法を使うことによって生じる『陰』と呼ばれるもので、本来この『地』にはない筈のものなのです。

しかし、他のある『地』に於いてはそれが常に存在し、そこの人々はそれを体にため込むことで『色のない』魔法を使うことが出来ます。

そして今回、何らかの理由で、そういった人達が、体に『陰』をため込んでこの『地』に現れ、ここでそれを使ったのです。ある三人の男を殺すために。

魔法を使うと、『陰』はその魔法がかかった媒体から放出されます。

しかし、ここは『陰』が元々存在しない筈の所、存在してはいけない所なのです。元来、『陰』が存在しないところの生き物にとって、それは死に至る猛毒…それが、魔法をかけられたあの三人の死体から放出されてしまったのです。」

「じゃあ、これからどうなるんだ。」ルシウス一人は、何とか話を理解していた。

「物質の気体と違って、『陰』はそれがなかったところに発生してしまうと、同じ濃度を保って無限に『地』全体に広がって行きます。彼らは三人を殺める時に、この『地』の生き物が死ぬに足る濃度の『陰』を放出したため、放っておくと『地』に生きる全てのものは死滅しかねない所でした、なにかで遮れば多少『陰』の拡散スピードは遅れるものの、それでもいずれは……。

…しかし、私が白魔法で中和したので、それは回避しました。」

ユリコは、本当はこのことは話したくはなかった。自分が白魔力を持つことを知られることが不安だったが、かといってそれを隠して現状をうまく説明するうまい嘘もおもいつかなかった。

「あんたも魔法使いなのか!」ルシウスは怯えと驚きを含んだ声で話した。

「はい、ただ、私の使う魔法は、あの三人にかけられたものとは異なるものです。私の魔法は『白魔法』と呼ばれ、『陰』の対にあたる存在、『陽』をため込んで放出するものです、使うと、やはり媒体から『陽』が無限放出されます。

本来、『陽』は真っ白い霧のようになって存在するのですが、先程は『陰』とまざったため、灰色の霧が放出されたのです。これは『なぎ』と呼ばれるものです。

『凪』は中性なので、たとえ『陰』『陽』が存在しないはずの『地』でも、目立った害はありません。これも媒体から無限放出されますが、『陰』『陽』と比べ拡散がゆっくりなのが特徴です。これが世界全体を包むまでには数十年はかかると思います。」

彼女はいずれ知られることと思いながらも、伏せておいた。

『凪』も魔力であり、エネルギーを持つことを。




その後中和が完了するのを待って、黒魔族の行方を探したものの、見つけることは出来なかった…。『羽』も行方知れずのまま…。

ユリコは、魔族はもうこの世界にはいないと思った。彼らにはここに長居する気はないように思えたからだ。長居をするならば、自分たちがいる間、殺しがばれてはまずいから、死体はもっとうまく隠すだろうし、そもそも世界を滅ぼすようなことはこのタイミングではしないだろう。



最悪の事態を避けられただけでもよしとするしかないか、とユリコは諦めた。


その後数日はあたりを探したりしたが、やはり魔族は見つからなかった。

その間も町の景色は少しずつ灰色になっていった。


一体なぜこんな離れた所いる研究員が、『羽』のありかを知り得たのか、更にはなぜここに魔族が現れたのか…数々の謎を残したまま、二人はヴィエンを後にした。


彼らが町に帰ってきたその日、またジュニが尋ねて来た。


「おう、なんだい、どこか行っていたのかい?その美人さんと一緒に」

「まあ、ちょっと探しものをな。」

「ああ、盗まれた『羽』かい?」

「そうだ、結局見つからなかったがな…。」

「そうかい、そりゃ残念だ…残念と言えば、実は昔例の『羽』の本を譲りうけた、おれの知り合いが、数日前に急死しちまってな。

まあ、ちょっとものを売った程度の知り合いだけど、やっぱり恩もあるし、

何だかな…」

「へぇ、そりゃまた気の毒に…。」

「ああ、先日もちらっとおまえの『羽』の話をしたら、えらく興味を持っていてな…」


ルシウスは話を遮って、

「ん?そいつ何やってる奴なんだ?」


「ん?ああ、なんかヴィエンで古書の研究をしてるやつよ。だから価値の低い書をもらったことがあってな…。」


彼の友人が謎の一つを解いてくれた。




七:時間不定、五次元空間内






ヒルバリーはノアにユリコのことを話し、その後こう続けた。

「と、まあ研究員がジュニから『羽』のことを訊いて、盗みに入ったことはわかったんだけれど、黒魔族がなぜそこに存在したかは未だ謎のままなんだ。彼らは世界を渡れないからね。世界の中は渡れるのだけれど。」

「世界の中?」ノアが聞き返した。

「彼らは普通の3次元空間の中に、自由に『2次元空間』を造り出すことができるんだ。『2次元』は『3次元』よりベクトルが一つ少ないから、ベクトル一つ分、

つまりある地点とある地点の距離をないことに、すなわち0にできるわけ。だから、離れた場所にすぐ行けたり、壁やなんかを抜けたり出来るんだ。これも黒魔法なんだけど、物質が媒体ではないから、『陰』は放出しない、特別な魔法なんだ。

おっと話がそれたな。

こうして、霧の世界は文字通り『凪』という魔力の霧でつつまれた。まあ、『僕らの白魔力』ってのは、少し適切ではなかったかな。でも、その『凪』をうんだのは、やっぱり僕らの力のせいなんだよ……。そして、それから…五年後になるのかな、キミの世界で初めて、その霧のエネルギーの存在に気付いた霧学者が現れた。くしくも彼もまたヴィエンの者だったようだね。人々はその霧を『フォグナ』と呼んだ。

フォグナ歴の幕開けだね。その後『凪』が世界を包んで行くのと同時に霧機械化が進み……キミに至ったわけだ。

ユリコは一つの世界を救ったんだろうか、滅びに向かわせたんだろうか。どっちなんだろうね…。」


ノアは霧の世界の全てを訊いて、驚きはしたものの、白魔族を恨む気持ちは起きなかった。

「ユリコさんはその時できる最善のことをしたのだと思うよ。

彼女の行動が無ければ、我々はこの世界を『霧の世界』にすることすらできなかったんだ。それに、世界が滅んだのはあくまで霧族の奢りだと思っている。もうすこし『凪』をうまく使う方法があったのだろう…。」

「『凪』はその拡散スピードがとても遅いから、僕らの世界の『陽』よりも、扱いは難しいからね…仕方の無いことではあったんだけど。」

「しかし、霧族だけならともかく、繁栄の恩恵のない他の生き物までまきぞえにしてしまった…」

その後ノアは黙ってしまった。


繁栄とは何なのか。

世界は誰のものなのか。

『滅び』は避けられないのか…。


深く思案を巡らせるノアと全てを正直に話したヒルバリー、そして『エル=バスタ』の意思を継ぐ生き物たちを乗せた舟は、5次元空間を抜け、『陽』の雲の中にとびこんだ…。



続く

ありがとうございました。次はもちろん黒魔族について書かねばなりませんね。次もよろしくお願いします

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