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A-1451 アイゼンベルク軍部1

 環の着地点。

 世界で最も厳格に『Elwina』を神格化する場所…。

 ここでは全てに於いて『Elwina』を信じることが正しく、それを守ることが、このヴァイス=ナハトの民の使命であり、環の着地点の民の使命であった。

 

 この地で『Elwina』が神格化されている理由、それは。

 エルガルドに『Elwina』の期限があると云われているからだ。

 いまから、ここの暦での1452年前…。

 ヴァイス=ナハトの繁栄(人によっては腐敗と受け取る)は始まったのだ。

 

 さて、今日はこの環の着地点に於いて、歴史上に刻まれるであろう大事件が起こった…。

 環の着地点の中心地、エルガルドの官邸が、シュバルツ・ナハトを名乗る一団に占拠されたのだった。

 犯人のトップグループは目下のところ立てこもっている。

 エルガルドの隣国であり第2の勢力を誇るアイゼンベルクにも、そのニュースはいち早く飛び込んできた。

 今、時間軸はあの歴史的犯行声明がながされた直後。

 アイゼンベルク軍部ではすぐさまミーティングが開催される。

 視点を軍中枢の会議室に移してみる。

 

 「…非常に残念だが、演説によると、シュバルツ・ナハトによる一件は、対岸の火事って訳にもいかないだろう。直ちに戦闘へむけて準備する必要がありそうだ」

 世界の地図が移ったスクリーンの前で、多くの勲章を携えた男が云う。

 彼はアイゼンベルク軍部元帥、ビスマルク。当然のことながら、この国家的危機に於いて、軍をトップからまとめる立場である。

 「しかし、あのシュバルツ・ナハトと云うのは、一体何なんだ」

 彼は一番近くのリサーチ部隊に尋ねた。

 「はい。今のところまで調べて得た情報によると、彼らは元々鴉丸同盟の一員であったようです。もちろんあとで雇われた傭兵なども多数存在するようですがね。中心人物の一人はライナスと云う男で、かねてより、非武装主義の同盟に於いて不満を持ち、独立を画策して同盟内で密かに動いていたようです」

 答えたのはリサーチ部のトップ、バック部隊唯一の大将である女、エリゴザイル。

 さらに別の男が質問をする。

 「もう一人の方は?」

 彼はフロントの大将の一人、W。

 「目下不明ですが、彼はどうやら鴉丸同盟の人間ではないと云うことが囁かれています」

 「へえ?幹部なのに?」

 「はい。噂の域を出ないソースではありますが…。何にしてもかなり謎の存在で、いままでの時系列での、プレイヤーとしての情報が、今のところ全く掴めてないんです」

 「ふうん。まあい い、で、戦力は?」

 元帥が再びエリゴザイルに尋ねる。

 「はい。先に云っておきますが、かなり『覚悟』をもって立ち向かう必要があることを先に申し上げます」

 彼女はそう云うと、目の前のパネルを操作した。しばらくして、各人のパネルに人名が羅列された表が現れた。

 「手始めに、これは彼らについている、或いは雇われているその筋で有名な人間のリストです」

 ここではそのリストは割愛するが、軍部一同はそのそうそうたる顔ぶれに息をのむ。

 「ちなみに、このリストは必ずしも正しくない可能性があり、またここにない有名人が新たに加わっている可能性も否定出来ないので了承を。これを見る限り、各専門のスペシャリストがバランスよく配備されていますが、やはり遠距離系のスペシャリストが目立ちますね」 「流石に歩兵で争うだなんてことはしないか…奴らが衛星を抑えているのなら厄介だ」

 

 エリゴザイルの向かいに座るユリエスが云った。

 「…防衛を前提に考えるなら、防空用迎撃機器類は必須ですね。でないと、あっと云う間に空襲にやられてしまいます」

 「…特に、政府系の建物だな…空から一瞬で破壊されてはシャレにならない」

 この世界では、言うまでもなく、武力は極めて発達していた。超高度から誤差が殆どないようにピンポイントで爆撃するのは、いとも容易い世界だ。

 「エルガルドは勿論、この辺りの国はどこも中央政権の力が強いですからね…中央がやられてしまえば、国は一気に瓦解するでしょうね」

 ユリエスが続けて云う。

 「地上戦力に関しては?」

 元帥がさらにエリゴザイルに問う。

 「やはりそれなりの人間が雇われていますね。恐らくこちらも時期を見て、攻めてくるのでしょう」

 「時期…か」

 「恐らくは、中央政権を破壊してから、地方へ陸上部隊を送るのではないかと…油断は出来ませんがね」

 エリゴザイルは手に資料を持ちながら云う。

 

 

 その後も防衛戦略について精密に話し合われた後、散会した。

 エリゴザイルは、疲れた頭を休めるべく、32階の談話室にいた。


 窓からはアイゼンベルク帝都の市街地が見える。

 粉のような人々があちら、こちらへとあるいて行く。

 「…ふう」

 エリゴザイルは、片隅のソファに座っていた。

 と、そこに、別の男が、談話室に現れた。

 キイル中将。エリゴザイルの部下に当たる男だった。

 「…お疲れ様です」

 キイルはエリゴザイルに話しかける。

 「やっと資料集めも一段落ですね。先輩、ここ数日、殆ど寝てないでしょう?」

 「…まーね」

 エリゴザイルは応じる。

 「こんな時の為の部隊だから、まあ当然っちゃ当然だけど」


 エリゴザイルは、何やら意味深な笑みを浮かべている。

 「それでも、先輩が数日前から動いていたから、軍部も迅速に行動できそうですね」

 「…そうね。『事件が起こってから』動いたんじゃ、間に合わないからねえ」

 「しかし、アイゼンベルクの中枢も人が悪い…『エルガルドがやられることなど、何日も前に掴んでいた』と云うのに、誰もエルガルドにそれを伝えないで」

 キイルは窓の外に目をやった。その方向は恐らく、今崩れかけているエルガルド…。

 「まあ、それが世の中よね。エルガルドは潰れ、アイゼンベルクが環の着地点を守り、今度はアイゼンベルクが新たなエルガルディアの中枢になるって訳ね」

 「…エルガルディアの呼び名も変えなければいけませんね」

 「…そうね」

 

 「…でも、多分世界の中心がここになることはないわね」

 「…何故です?」

 キイルは訊く。ある程度答えの見当を付けながら。

  「…上には内緒だけど、エルガルド占拠のニュース、どこから手に入れたか知ってる?」

 エリゴザイルの問いにキイルは頸を傾げる。

 「勿論、シュヴァルツ=ナハトの構成員からよ。名前は、確かフィエルだったかな」

 「…やっぱりそうなんですか…」

 キイルは溜め息をつき、続ける。

 「彼らは『エルガルド占拠のニュースを聞いても、我々が動かないことを見越して』、我々にニュースを流したと」

 その目的は…?

 「目的は、恐らく私たちの国を傀儡として環の着地点を制圧しようってことね。今はまだその他の動きはないけど…」

 「…でも、それじゃあ、話は『Elwina』停止に流れるんじゃ…」

 「あら、今時、真に『Elwina』を継続する事が正しいと思っている人なんているのかしら」

 あれだけ科学的根拠がそろっているのに、とエリゴザイルはつけ加えた。

 「…エルガルドだって多分そうだったと思うけど、彼らが失うことを恐れているものは、『Elwina』なんかではなくて、エルガルディアを崩すことによって失われる権威よね」

 「権威…」

 「そう。エルガルディアの本拠地と云う名の下に、エルガルドは、環の着地点の頂点に立っていたのよ」

 エリゴザイルの言葉に、キイルは納得したように頷く。

 「なる程…他の環の着地点の人々は、エルガルドと、他の環の着地点の国々からの報復を恐れ、それぞれが形上は、エルガルディアを信じていたってわけか…」

 「そう。そして今ついに、その均衡が崩れたってわけ。ウチは少なくとも他の国々より早く行動しているのだろうけど、それでも『シュヴァルツ=ナハト』のシナリオに乗っかっているに過ぎないのだと思うわ」

 「…大将は、それでいいと?」

 キイルは恐る恐る訊ねる。

 「…そうね。エルガルディアなんて結局はガラス細工なんだから、無理にエルガルドの後釜を狙うのは良くないと思う。だから、当分は、このシナリオに乗っているふりをするのがいいと思うわ」

 「…シナリオ…この先どうなっていくんでしょう?」

 「…さあ。みんながみんな各々のシナリオを描いて行動してるけど、先のことは、まるで赤い丘のようにわからないわ」

 ただ、決着は近い。そう彼女は認識していた。

 1500年あまり続いた『Elwina』の世界は、史上二度目の『革命期』にさしかかっていた。


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