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A-1451 ターニングポイント。終わりの始まり

 映像は唐突に切り替わる。

 おそらくは、犯行グループがそうするように仕向けた映像。

 そこにはなにやら荘厳な建物が映し出されていた。

 どこかの神殿のような、数百年の歴史があるかのような建造物。

 言うまでもなく、それは、長い歴史を持つエルガルド自治区の中枢、エルガルド大統領官邸。

 そして、云うまでもなく、ただ建物だけが映し出されたわけではない。

 建物はただの背景。

 ただし極めて重要な意味を持つ。

 その映像の主題、そうとることもできる、背景。

 建物をバックに、二人の男が映し出されている。

 誰?おそらく、世界の多くの人はその人たちの顔に見覚えがなかっただろう。

 少なくともこれまでの時系列に於いて、彼らはあくまで歴史の一端であり、歴史の中心に立つ人たちではなかったから。

 しかし、ヒロとジュナ、そして一部の鴉丸同盟に属する人たちならば、あるいはその顔に覚えがあり、その映像を前に今、絶句していたりしているのかもしれない。

 そう、映し出されている一人はライナス。

 先日、ヒロ、ジュナ、そして、あの教授を一時的に拉致した張本人。

 それは、ある意味鴉丸同盟の一部の人たちにとっては予想されていたこと。予定調和の衝撃。

 とはいえ、やはり、早すぎた。事態は想像以上に、想定異常に転機を迎えている。そのことを思い知らされた。

 その、激動の歴史の一ページとなる映像が、今、全世界中に流されているというわけだ。

 そして、その一ページの主役として世界の中心に表れたのが、元、或いは現在も鴉丸同盟の一員である、ライナスというわけである。

 さて、もう一人の男は云うまでもない。が、面識を持つのは、殆どジュナ、ヒロ、教授の三人のみ。あの時名を名乗ることのなかった運転手であった。

 映像は、この二人に上下関係ではなく、対等のパートナー関係があることを示しているようだった。

 映像の中の主役は語る。

 「たった今、われわれ『シュヴァルツ=ナハト』一同は、エルガルド自治区大統領官邸を制圧した。云うまでもなく、これから当自治区は、我々の管理下に置かせていただく。理由簡単。単純明快。我々は、我々の主義、理想に則って、『Elwina』の停止を目指してきた。『Elwina』を動かし続けることにおける弊害は、現在多くの科学的根拠に基づいて証明されている。だから、我々はそれを背景に、その弊害を取り除こうと、努力してきた。しかし、そんな状況にもかかわらず、不合理、不条理、非科学的な理由から、『Elwina』の停止を強く拒む集団がいる。私たちは努力した。どうにか、平和的手段で解決を試みた。手段は尽くした。あらゆる所まで。しかし、彼らは一向に私たちの主張を聞き入れず、ついに武力行使を敢行してきた。今回、このような手段をとったことは、我々にとって誠に不本意で、残念であるが、我々の合理性を守り、また目的を達成するために、致し方なかったとご理解いただきたい」

 ライナスは、ここまでを一気に告げた。シュヴァルツ=ナハトという名は、おそらく世界的には新出単語。新たに現れた集団だった。

 そこからは、代わってもう一人の男、運転手が口を開く。

 「さて、これから我々が予定している道を告げておくことで、この『環の着地点』を中心とした、『Elwina』停止に不合理に反対する人たちへ、正しい判断のための猶予を与えたいと思う。我々は、まず、このエルガルド自治区全体を早急に制圧する予定だ。期間は、概ね3週間程度を見ている。その後、この環の着地点全体に、我々の主張を受け入れてもらうべく、実力を行使していきたいと考える。抵抗勢力には容赦しない。少々無理やりなやり方で心苦しいが、我々は正しい主張をしていて、彼らが大人気ない理由でそれを受け入れない、そういうことを、重々理解していただきたい。環の着地点の制圧が終了後、その他の反対勢力の制圧に入る。我々は、『Elwina』協定に加盟している各地域、宇宙居住区全てを制圧した後、協定事項に則って、『Elwina』停止を敢行する心積もりだ。先ほども申し上げたとおりだが、反対勢力を制圧するには、ある程度のタイム・ラグが生じる。云うまでもなく、彼らが協力を申し出てくれさえすれば、我々も不必要な犠牲を出す必要がないのだから、反対勢力各位には、素早い対応を期待する」

 運転手がそう告げると、映像は途切れ、ニュースのスタジオの状況に戻った。

 この映像は、映像を受信可能な媒体のほぼ全てに、番組の一部として、或いは電波ジャックによって放映された。

 世界中の人がそれを目にし、世界中の人が何かを思った。

 そして、世界中で何かが起こった。


 それは多くの人にとってはいわゆる空前絶後の大事件。

 しかし一部の人にとっては、そして、ほかの世界人々にとっては、完全なる予定調和。

 歴史の直線状に、或いは歴史の帯の上で、あってしかるべき大事件。

 ライナスと、なぞの運転手の言葉が、その、幕開けだったというわけだ。

 

 さて、世界は三つに分かれることになる。つまり、鴉丸同盟に同調し、平和に『Elwina』停止を目指す人々。『環の着地点』を中心とする、『Elwina』存続を求める人々。そして、『シュヴァルツ=ナハト』を中心とする、強硬手段で『Elwina』を停止させようとする者。

 しかし、これは建前。

 なぜなら、

 そのいずれもが武力に手を出し始めるのは、この事件の、ほんのわずか後に過ぎなかったから。

 つまり、世界は、三つ巴の、ありきたりの、予定通りの、戦争へ突入するということだった。


次は視点を分けて順番に書きます。どれから書いてもいいのですが、環の着地点から書こうと思います。

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