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A-1451 ヴァイスナハト ファンダメンタルストーリー

 その後に、教授は一段テンションと声のトーンを落として言った。

 「…そう。今や宇宙連合では鴉丸同盟に関心が集まり、支持者も増えつつある。だが…」

 「…だが?なんです?」

 ヒロには全く見当がつかないようだった。

 「こんな話は講演の前には不適切かも知れないが…君は今や同盟の幹部。やはり知っておいた方がいいだろうな。

 君は何故君がこの同盟の幹部に抜擢されたか知っているか?」

 教授の意味深な質問に、正解ではないんだろなと思いながら、ヒロは答える。

 「ゲジヒテさんからは、僕らがこの同盟によく貢献してくれたことと、こういうのは、若い人がやった方がいい、と言うことを聞きましたが…」

 教授はやはり、と言う顔で口を開いた。

 「…まあ。それは確かにそうなんだが…いや、それはそれで理由の一部ではあるんだ。しかし、実はもっと大きな理由があるんだよ。今回幹部を比較的加盟してから日が浅く、若い君たちを選んだのにはね」

 と、其処まで話し終えたところで、ジュナが部屋に入ってきた。

 「ヒロ。会場の方もセッティング終わったって。これであとは本番を待つだけ。

 あ、先生こんにちわ。打ち合わせは終わりましたか?」

 教授はジュナに向き直り云う。

 「ああ、今終わったところだ。そうだ丁度いい、ちょっとヒロ君に話そうとしていたことがあったんだが、君にも関係があるだろう話だから、ちょっとこっちに来て聞いてくれないか?

 …なに、ちょっとした年寄りの四方山話だよ」

 ジュナはどうせ暇になったところらしく、断る理由もなかったので、空いているヒロの隣に座った。


 「さて、話はなぜ君達が幹部になったかと云うところだが、君たちはこの同盟についてどんな印象を持つ?」

 質問が漠然としていたので二人は答えに困ったが、やがてヒロが答える。

 「そう、ですね…穏和と言うか、平和的と言う感じがしますよね。これだけ大きな目的を掲げていながら、あくまで民主的に目的の達成を目指しているのですから」

 「そう。私もそこがこの同盟の素晴らしい所だと思っているんだよ。あくまで過激な手段に出ず、今回の催しのように、こちらの想いを伝えることで共感を得るような、ね」

 まだ二人には話が見えてこない。

 「…良い話だと思うんですが、それが何か?」

 ジュナが首を傾げながら問う。

 「いや、それ自体は、さっきも話したとおり非常に良いことだと思うよ。だからこそ、私もこのような講演をしようとしているんだ」

 ただね、と言って教授は一つ呼吸を置く。

 「…ただ、これだけ大きな組織担ってくるとね。その基本原理を維持して、同盟をまとめるのが難しくなってくるんだよ」

 「というと?」

 「つまり、…これは既に今実際的に起きている話なんだが、『異端』が現れる危惧が日に日に大きくなっていくというわけだ」

 『異端』という言葉を聞いてヒロはようやく話がみえてきたようだった。

 「…つまり、過激派が現れる恐れがある。って言うことですね?」

 「正確には『恐れがある』のではなく、既にちらほら現れて来ている。まだ派閥と言うほどのものではないがね。

 正直あれがまとまり始めるのは時間の問題だよ」

 「過激派…具体的にはどういうものが?」

 「まず一番危険なのは、Elwinaの強制崩壊を画策している者。具体化には至ってないものの、そう言うことを口に出す輩は数人心当たりがある。

 また、政治的イニシアティブを非民主的な方法で得ようと主張する者。

 こちらは結構いると聞く。潜在的な者も含めるとね。軍人あがりのような血の気の多い連中に多い。

 いずれは『羽』を停止して、夜を取り戻そうと言う本来の目的を見失い始めているヤツも現れるかもな。人は権力には弱いもんだよ」


 ジュナは言うまでもなく驚いた顔をしていたが、ヒロは、まああり得なくはない話だと、教授の話に耳を傾けていた。

 「それで?そのことと私たちが抜擢されることと何の関係があるんですか?」

 「問題は、異端児はまだ潜在的で表面的にはよくわからない可能性が多分にあると言うことなんだよ。

 ただ、傾向として、同盟に加盟している年月が長い人ほど、思想を自分流に吸収し変質させている可能性が高いんだ。

 そして、加盟年月が長い人は、それだけ影響力もある。

 だから、この先そう言った者を幹部にするのは、危険になってくる、と言うわけだ」

 「なるほど。だから逆日が浅い僕らを選んだわけか」

 「そう言うことだ。そしてヒロ君、ジュナ君、この先はそう言った連中に注意を払う必要性がでてくると言う訳なんだよ」

 そこには色んな危険がつきまとうわけだ。

 同盟内での衝突もありえるし、過激派によって外交問題や、テロ、戦争などが起きることもありえる。

 最悪にはElwinaの強制停止…一方間違えれば……もちろん宇宙全体が危険ってわけだ。

 「そう、世界を改善しようとしている私たちによって、害悪が発生してしまう。そう言った危惧があるわけだ」

  「何とか過激派をなくせないのかな…」

 ジュナは溜息をついてつぶやいた。

 「それは不可能だろう。人の数だけ考え方は存在する。同盟が大きくなれば、異端が現れるのは、むしろ必然てことだな」

 「…そう。忌々しいことに、組織が目的の達成に近づけば近づくほど、彼らの危険は大きくなるわけだ。

 君たちは、そして我々はこの考え方を世界に発信すると同時に、そういった異端と上手くやっていかなければいけないんだ」


 話はヒロにとってあまりにも実感のわきすぎるものだった。

 それにしてもこれほどに人の考えに影響を及ぼす『羽』…。

 気がついたら、世界は『羽』を軸に動いているのだった。


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