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5次元空間〜フォグナ歴紀元前五年、霧の世界(「エル=バスタ」の遠い昔)

三:時間不定、5次元空間、ノアの箱舟内





舟がいくぶんか進むとやがて空は紫色に変わり、海の切れ目にさしかかった。海はそこで無くなっていたにもかかわらず、舟は空間の上を漂い始めた。5次元空間に突入した。


舟が5次元空間に投入されてもなお無事なのは、ヒルバリーの魔力によるものだった。

舟の中の二人、殊にノアは、その突入に気付きさえもしなかった。

ヒルバリーは、先ほどのノアの質問にゆっくりと応えはじめた。以下は彼の言葉である。「さて、まず君の質問に答えると、僕、というか僕ら白魔族はその『羽』を使おうとしているのではなく、少なくとも人に渡らないようにして、最終的には消そうとしているんだよ。


君は知らないかもしれないけれど、この『羽』は実は一つしかないわけではないんだ。全く同じ『羽』が世界たちの中に幾つか散らばっているんだよ。そして、僕らの最終目的であるそれらの『破壊』はそのいくつかを全て集めた上で行わなければ不可能なんだよ。」

「なぜ?」

「うーん、それはね、ちょっと説明が難しいんだけど、その『羽』がある時この5次元空間に放出されたからと言われているんだ。いま僕らや舟や生き物たちは僕の魔法によって守られているから大丈夫なんだけど、そういうものを受けていない3次元の物体が5次元空間に入ってしまうと、世界軸の多層性とかいうもののせいで、複製されてしまうんだ。それはただ紙に写すようなコピーとは違って、普通の感覚で言えば、まさに『同じもの』なんだよ。ま、なんで複製されるかっていう詳しい話は、僕の世界の先端物理学を知らなければわからないからひとまず置いといて、その複製された物質を消すためには、いくつかのそれを全て集めて、一つに圧縮してからでないといけないんだ。それらは元々一つのハズのものだったんだからね。

もしその中の一部のみを破壊したときどうなるのかはわからないけど、元々あるべき5次元空間のバランスを崩すことになるから、全『世界』の存在が危険になることは、間違いないだろうね。

幸い、5次元空間内にあった『羽』これは『核』と呼ばれるんだけど、それは回収したから、今も『羽』が増え続けるということはない。だがその『羽』が投入、複製された瞬間にさっきの世界のように5次元空間との通路を持っていたいくつかの世界には、『羽』が入り込んでしまったんだ。

だから僕ら白魔族は、各世界に行き『羽』を集めるプロジェクトを進行中なんだよ。使われる前にね。」

「…やはり、それを使うのはまずいことなのか?」

「うん、特にいくつかに散らばった今の状態ではね。さっきもいった通りこの『羽』は一つであって一つではないような存在だから、もしどれかが活性化…つまり世界を創る力を発動し始めると、ほかの『羽』も同様に世界を創り替え始めるようなんだ。だとすると、同時に幾つもの世界が崩壊したり、変異してしまったりするんだ。

まぁ世界はいずれ無くなるものだけれど、そこに住む人々は、いますぐその死を迎えることは望んでいないだろう。少なくとも、僕らは望んでいない。」

「君の世界にも、その『羽』が来てしまったのかい?」

「うん。遠い昔にね。でももっともっと遠い昔から、次元さえ渡れる魔力を持っていた僕らはそれを使う危険を知っていたから、使おうとしたことはなかった。

かつては、僕が今つかっている魔法をかけて再放出するという話もあったんだけど、僕らの魔法は永遠じゃないから、いつか再び複製が行われ、また『羽』がやってくることはわかっていたから…。

異世界に押しつけると言う悪人も中にはいたけど…その世界の人々に悪いし…白魔族ってお人好しが多いから、そういうことは出来ないんだ。

結果、僕らは最も正しいかもしれないけど、最も大変で、危険なやり方を選んだ。それが『羽』の回収ってわけだ。」

「なるほど。それで『羽』はあとどれ位あるんだ?」

「実ははっきりとはわかって無いんだけど、5次元との通路をもつ世界ってそんなに多くはないし、なによりも『核』は回収出来たから、意外と達成は遠くないらしいよ。あ、全部集めたかどうかは、さっき言った圧縮を試しにやってみれば安全に調べられるんだって。」

「君の世界は相当学問が進んでいるようだね。」

ノアの世界ではこれらのことは霧学に該当する分野だが、世界が違えば、その呼称違うだろうから、彼はあえて『学問』と言った。

「元々僕らが次元を渡る魔力を持っていたがために、その方面の研究はとても進んだんだろうね。まあ知らなければよかったって思うようなことも、在るけれど…。」

「知らなければよかったこと?」

「うん…」

ヒルバリーはその先を話そうかひどく悩んでいた。なぜならその話は、ノアを怒らせる可能性が高いからだ。しかし、彼がヒルバリーの世界に着けば、いずれ知ってしまうだろうことでもあった。ならば、やはりここで話してしまうべきなのか…。

しかし、彼は決心して、話し始めた。

「そう、実はこのことも君には話しておかなければならないと思うんだ…。おそらく、君はこのことを知ると、ひどく怒るとおもうのだけれど…。



実は、君の世界が崩壊したことには、僕らの先祖が深く拘っているんだよ。」

「なに?」

「君は『霧』は自然発生するものだったと伝えられているのだろうね。それは、確かに間違いではなかったんだけど、あれはね、本当の最初からあの世界にあったものではなく、僕らの先祖が与えたものなんだ。」

「なに?では、霧機械と呼ばれたモノの動力源は…。」

「そう、僕らの白魔力だ…。」






四:フォグナ歴紀元前5年、霧の世界(崩壊した世界の遠い遠い昔)、ハルプ国



ルシウスはその日も、日課である朝の散歩をしに、家を出た。

その日は穏やかな初夏の朝で、彼の気分も上々だったという。

彼はいつもどおり、歩きながらご近所の人や、朝の見回りのために馬車で通る役人なんかに、挨拶をしながら、坂を下って街のはずれの方へ歩いて行った。街の外周を囲う堀のような小川を渡ると、そこには農場がひろがる。農民の人達は手作業で草の手入れをしていた。さらに進むと農村も終わり、人はめったに立ち入らない森のところまできた。彼の散歩コースはここでお終いだ。


引き返そうとしたその時、ルシウスは森の奥でなにかが光っているのを見つけた。

それは初夏の明るい日差しの中でもはっきりとわかるほど明るく、そして不思議な色の光だった。

彼はそれに引きつけられて、森の中へ入って行った。

5分程森をさまようと、足下にその光源を発見した。

それは、なにか羽のような形をしたものだった。燃えているかのようにみえたが、不思議と触っても熱くはなかった。「これは?」

彼はその美しさに目を奪われ、その羽を持ち帰った。学問にそれ程長けていなかった彼は、それをただ綺麗に光る羽としか認識しておらず、とりあえず玄関に飾って見た。

何日かの間そうしていたが、一向にその炎は尽きる気配がなく、一様に赤々と燃えているようだった。さすがの彼も少し不審に思い始めていた。

そんなある日、友人のジュニが尋ねて来た。

「やあジュニ、久しぶりだな。今日はとことん飲もうか。」

「ああ…ってルシウス、その棚の所に飾ってあるのはなんだ?」

「ああ、これはこの前街の南の森で拾ったんだ、あんまり綺麗なんで飾ってあるんだが、どうも不思議なことに、一向に炎が弱まらないんだ。まあ綺麗だからいいけどな。」「ルシウス、そりゃ、まさか『太陽の鳥の羽』じゃないか?」

ジュニも別に博学ではなかったが、個人的興味から伝説やら神話には詳しかった。

「昔、書物で読んだんだがこの世のどこかには『太陽の鳥の羽』ってのがあって、それはいつも炎をまとい、尽きることなく燃え続けると言われているんだ。」

「へぇ、そんな大層なものなのかいこれは。」

「すごいのはここからだ。その『羽』にはな、俺たちの住むこの地を創り替える力があるんだと。」

彼らには世界という概念はなかったようだ。

「へぇ、そりゃすごい。じゃ俺たちの好きな土地をつくっちゃおうか?」

「いや、駄目だ。よく考えてみろ。新しい土地に『造り替える』んだ。いまある旧い土地はその時無くなっちまうんだぞ。俺たちだってあぶねえよ。」

「…ああ、そうか、じゃ止めておこう。で、これどうすればいいんだろうな…。」

「ま、とりあえずなにもしないで、こんな風に飾っておけばいいんじゃないか?売ってしまってもいいけど、伝説に長けた商人てこの辺なかなかいねぇだろ。こんな怪しいもの買ってくれるか微妙だぞ。」



結局彼の言葉どおり、とりあえずは今のままにして置くことにした。


その夜、ジュニが帰ったのは真夜中のことで、ルシウスは泊まっていけと勧めたが、明日は仕事だからと帰っていった。ルシウスは彼を見送ると、寝支度をしてベッドに入った。




それから数日がたち、『羽』は相変わらず燃え続けていた。

彼はその日もいつもどおり仕事を終えた後、少し酒を飲み、床についた。



彼が寝付いてから半時程経った時、突然ドアを壊す音がした。


彼はすぐに

「強盗だ」と察した。

下手すりゃ殺されるんじゃないかと、彼は、ベッドの中で震えていた。この家にそれほど高価なものなんてないから、いっそ持ってきたいものは持って行ってくれという気持ちだった。

しかし、盗人は、一向に家のなかに入ってくる気配はなく、玄関の方でしばらくもの音がしたかと思うと。やがてまた夜の静けさが戻った。

それでもルシウスは怖かったので、夜明けを待って様子を見に行った。


すると、確かにドアはぶち壊されていたが、特に大事なものを盗られたわけではなかった。


盗られたのは唯一、あの『羽』だけだった。



ルシウス宅の強盗騒ぎは一時、街一帯で話題に登ったが、その後さらなる被害もなく、ルシウス自身、被害は壊されたドアと謎の羽だけだったので、それ以上大事になることもなかった。



さて、あの事件から五日ほど経った日の昼ごろだっただろうか、ルシウスはその日は休みだったので、家でのんびりしていた。すると、思わぬ来客があった。


「ごめん下さーい。」聞き覚えのない若い女の声だった。

「ちょっと尋ねたいことがあるんですけど…ここら辺で、こう、光る羽のようなものを見掛けませんでしたか?」

ルシウスはそれがあの『羽』のことだとすぐわかった。

「ああ、あの綺麗な『羽』かい。一週間ちょっと前に俺が拾ってしばらくそこに飾ってたんだけど、五日前に盗難にあってね。あいにくなんだが、もうここにはないんだよ。」

女はとっても焦った口調で返した。

「と、盗難!?誰にですか!?」

「さあね、まあ大して必要なものじゃなかったからね…。」

「まずいですよ…まずいですよ!」

「何だい、あれが必要なのかい。」

「はい。早く回収してしまわないと、万が一使われでもしたら、取り返しのつかないことに…。」

「使うっていうと?」ルシウスは訊いた。

「ご存じないんですか?あの『羽』には…」

「ああ、この地を造り替える力があるとか…」

「その通りです。正確には世界というものを、ですけど。それを知ってるんなら、どうしてもっと大切にしなかったんですか〜」

「いや、そんなことしたら、いま住む地が無くなっちまうんだろ?そんなこと望む奴誰もいないだろ。」


女はまだ不機嫌だったが、少し納得がいったようだった。

「そうか、この男正しい『使い方』を知らないのか…それじゃ仕方ないわね…」

「何か言ったか?」

「い、いえ、起きてしまったことは仕方ないですが、どうにかして、『羽』を取り戻さないと…。」


「探すのか?なら、手伝ってやってもいいぞ。」

ルシウスは口調にはださなかったものの、彼女にとって大切なものを結果的にどこの誰かも知らない者渡してしまったことに、多少の引け目は感じていた。

「本当ですか?それはうれしいです。私『この土地』のものではないので…。」

彼女のなかで『土地』は世界を示唆したが、ルシウスにとってはそこに区別はなかった。

「んじゃまずはこの街の自警団にでも話聞きに行くか…と、ところで自己紹介まだだったな。おれはルシウスってんだ。まあ配達屋の事務をやってる。そっちは?」

「ユリコと言います。ずっとあらゆる『土地』旅をしています。この辺では聞き慣れない名だと思いますが、よろしくお願いします。」


その白いローブを羽織った女は軽く会釈をした。

霧の世界は思ったより長くなりそうなので途中で止めました、できるだけはやく後半書きますのでお読みいただけると幸いです。

ありがとうございました。

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