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A-1451 ヴァイスナハト

「左右」の概念については、現実とは違いますのであしからず。


 さて、会いに行くといったものの…。

 当てが全く見つからない二人。

 相手が相手なので気軽に人に聞く訳にもいかない…。

 さて、どうしたものか。

 そうこうしながら、無下に三日が過ぎた。

 しかし、彼らの悩みは、意外な形で解決する。



 それは、ステーションホテル四日目の夕方。相変わらずElwinaの一般公開はなく。

 二人は夕食を摂り終え、ラウンジでくつろいでいた。

 二人共、ここにきて特に焦っているわけもなく、『果報は寝て待て』的な感覚で、普通にホテル暮らしをしていた。

 ラウンジには数個のテレビがある。各部屋にもあるので、さしてこれを観ることもないが、その日はこの世界で人気のスポーツ中継をやっていたので、何となく二人共々観ていた。

 「私、あれまだルールよくわかんないんだけど」

 テレビ画面では、スティックを持った選手達がボールを操っていた。

 空中で。

 基本ルールはホッケーに近いんだろうとヒロは感じていた。

 両サイドの空中に輪があるので、それがゴールなんだろうと推し量ることができた。

 ただ、なぜかほとんど試合は空中で展開されている。重力がかなり小さいところで行われているらしい。

 ちなみに、選手は箒には乗っていない。



 ケッペンパウエルと言う選手がスティックで華麗にボールを操っている映像がテレビに貼り付いていたその時、突如にしてケッペンパウエルの全身像が歪んだかと思った刹那。

 画面は一瞬にしてホワイトアウトした。

 そう言えばこの世界のテレビはホワイトアウトなんだ、なんてヒロはどうでも良いことを考えた。

 ラウンジにいた人はざわつきはじめた。


 五秒程度、テレビ画面は白いままだったが、その後謎の男の姿が現れた。

 彼は黒のローブのようなものを羽織って立っていた。

 見るからに怪しいいでだちだ。


 テレビ画面の中のその男はその格好とは似つかわしくない柔らかな口調で話始めた。

 「始めに公共の電波を無断で拝借したことをわびます。私は鴉丸連盟の最高責任者、ゲシヒテと申します。

 皆様ご存じの事とは思いますが、只今此の世界は非常に危険な病に脅かされて居ります。

 それは所謂ウイルスや、細菌が躯を蝕むような其れとは全く性質を異にする、人々の心に巣喰う病です。

 今、此の世界に於いて、向上心を持って生きている人は居りますか?何かを目標に、何かやってやろうと言う方は居りますか?


 残念な事に、世界は無気力へ収束する一方。この言の葉が響く様な健康な心をお持ちの方がどの程度居るのかすら不安な現代世界に私たちは生きて居ます。

  此の病の原因は、お節介にも世界を永久に照らし続ける『太陽』…Elwinaのせいで御座います。無限大なエネルギーが、私たちの心を蝕んで居るのです。

 私達はそんなElwinaの稼働停止を強く求めて居ります。その為には、少々過激な手段も辞さない構えで居ります。

 先刻、Elwinaへの侵入を試みたのも、他でもない、私たちで御座います。

 さて、皆様の中に私達の活動に協力したいと言う方は居りませんか?協力したい方がもしいらっしゃいましたら、アクセスコードは『ヒロシマ』で御座います!

 私達は共に活動してくれる同志を心から歓迎致します!」



 そこまで言うと、男…ゲシヒテの姿は歪んで行き、やがて、先ほどのようなホワイトアウトになったかと思うと、すぐさま、ケッペンパウエルのゴールシーンが映された。


 他の人々は、ジュナも含め、今の放送をよくある(かどうかはわからないが)電波ジャックと考えただろう。

 しかし、ヒロは当然、今のそれが自分に、恐らく自分のみに向けて発せられたものだと気付いた。


 この世界はヒロがいる世界とは異なるもの。当然、東京も日本もこの世界にはない。

 …当然、『ヒロシマ』も。

 何故かはわからない。しかし、恐らく彼らはヒロが彼の住む世界からここに来た事を知り、更には…

 ヒロとの交流を求めて居る…。


 なぜ彼らがヒロのことを知って居るのかは判らないが、似た目標を掲げてる彼等だ。やはり、この『誘い』には乗ってみるべきなんだろう。

 ヒロは思案の末、こう結論づけた。


 ヒロは以上の考えをジュナに伝えた。

 「…ふーん、ヒロシマってヒロの住む所の都市の名前なんだ」

 「ああ、規模はまあ世界全体で見ればそこそこだけど、訳あって有名な都市なんだ。」


 終戦はヒロがまだ小さい頃の事だったから彼は先の戦争のことをほとんど知らない。

 又、彼の一家も言わば『不幸中の幸い』な部類に含まれるようで、身内が亡くなった、或いは大怪我をした、なんて話を彼が聞いたことはない。

 だから彼の中の戦争のイメージの多くは学校の授業から得ている。

 だからこそ、と言うべきが、大戦→ヒロシマと言うイメージは彼の頭のなかに尚強く、刻み込まれていた。『歴史的事実』として。

 ゲシヒテがそこまで知り得たかどうかは判らないが………。


 「それで?アクセスコードってことはネットからアクセスしろってことよね?

 公共のコンピュータ使って大丈夫なものなの?」

 そこはヒロも不安だった。彼らはこの世界のネットワークの仕組みをよく知らない。

 公共のコンピュータの履歴は誰かが監視したり、チェックしたりするものなんだろうか…。

 かと言って、誰かに聞くのも『おまえそんな怪しいもん見るのか』と思われそうだと考えると気が引けた。



 結局、彼は新品を購入することにした。

 ここにきて病院で譲り受けた金が、また役に立つこととなったのだ。

 翌日彼らは宇宙ステーションから宇宙飛行機で三十分の所にある『宇宙都市』へ出かけることにした。


 飛行機の中でジュナが、

 「てゆーかさ、この…世界って言うの?なんかどうなってるのかよくわかんないんだけど。」

 …と、ここにきてざっくりとした質問をヒロにぶつけた。

 でも、『世界』と言う概念はジュナも飲み込めて居る様だった。


 と、言う訳で飛行機の中の三十分を使ってヒロが説明を始めた。

 「まあ、おれも本で見ただけなんだけど、この前までの約二か月をオレ達が過ごした、あの窓の外に見える青い星は、Erde―エルデ―と呼ばれてて、当然ながら、この世界の人間はみな元々あの星で生まれ育って居たんだけれど、時々話題に昇る文明の発達のせいで、そして、人口増加やら何やらの要因で、宇宙にも住む様になった訳だ。

 でさっきまでいた宇宙ステーションは観光向けホテルと中央空港があって、Erdeと宇宙を中継しているんだ。

 それで他に五つの施設がこのErdeからそう離れていない宇宙空間に浮かんでて、まぁすごく巨大な宇宙船が五つ浮かんでいると思っていいと思う。

 その内四つは全部居住地用。それぞれが『都市』と見なされていて、商業地、工業地、住居、公共施設等、普通の都市機能一式と空港が中に詰まっている。これらはErdeと同様の季節、重力等の環境が常に保たれて居る。

 今一つは前々から話題に昇っているElwina…『光』それ自体と管理システム等々が詰まっている。

 そして、これらとステーションそれぞれに…Elwinaは現状のような例外もあるが…普段は飛行機が日々運航されて居る。

 …まあ、今の人類の宇宙への進出具合はこんな感じだ。宇宙開発部のKASAは次はすぐ隣りの衛星への進出を目指して居るようだが、あまりモチベーションは高くないようだな。」


 エネルギーが余っているから仕方なく、という状況らしい。

 そうこうしている内に飛行機は第3居住地 『Eineulugolas』に着いた。


 二人は偽者の空の下、Eineulugolasの電気街にいた。

 上を見上げると、はるか高い青空が見える。

 それは如何にも本物のように錯覚するかの高さ、透明感…いや、むしろ高く、そして、あまりに鮮やかすぎて、逆に偽者にも思える青空だった。

 もちろんそれは偽者。Eineulugolasの天井内側に、特殊な膜が貼られているためである。

 二人はそんな奇妙な青空の下、電気街を進んだ。

 電気街はどこも人込みでごったがえしていた。

 二人を除き誰一人として髪の毛は黒ではなかった。

 電気街にやたらとさかんに売られている物でヒロが気になったのは、三つつのボトルをもち、幾つかのスイッチやらボタンが付いた、弁当箱より多少大きめの機械だった。

 大抵は、隣りにA薬 、B薬、C薬と書かれた瓶も一緒に売られていた。

 ヒロは気になったが、それらを売る店員はみな『まとも』には見えなかったので、それらの店は素通りしていった。

 「ねぇこんなに店がたくさんあるなんて聞いてないよ。

 一体どこに行けばいいの?」

 「大丈夫。ちゃんと携帯用汎用コンピュータのショップを調べておいたから。」

 こっちだ。と彼はジュナの手を引き、更に人込みの奥へと進む。 その間にも様々な店の前を通過していった。

 内、『スーサイド専門店すいすい亭』だけは、何の店かすぐに判った。

 何にしても、この電気街が病んでいることは、ヒロの目からも明確で、なるだけ早く抜けた方がいい、と彼は感じていた。


 『すいすい亭』から7軒奥の3階建てビルの一階に、彼らの目的地『携帯汎用コンピュータ―Are Uh―』があった。

 二人はすこし早足になりながらその中に入った。



 三十分後、二人は店員に勧められて買った携帯汎用コンピュータ――El=Basta―を持って店を出た。その足で、近くのカフェ…は何か怪しい雰囲気があったので、少し離れた所にあったカフェ『Kopf』でEl=Bastaのセットアップにとりかかった。

 と、言ってもセットアップは簡単で、ヒロが画面をタッチすると、世界指紋データの指紋と照合の末、El=Bastaはヒロのものとなった。

 全人間の指紋が登録されていることもそうだが、二か月と少ししかまだこの世界にいないヒロの指紋が登録されていることに驚いた。


 ヒロは早速、ネットを立ち上げる。やり方は苦労するかに思われたが、『N.E.T』と書かれたキーを押すだけだったので容易に操作出来た。

 立ち上げると、まず検索エンジンのページが表示される。

 彼はキーを確認しながら、ゆっくり、『からすまどうめい』と打ち込む。すると自動で『鴉丸同盟』に変換された。

 そして、検索のキーを押すと、鴉丸同盟のホームページに飛んだ。

 そのトップページは、全体が黒で、中心には、この同盟のシンボルマークと思しき、カラスを象った円形の模様が現れた。

 ちょっと彼は、どの項目へ進むか悩んだが、『アクセスコード』と言う項目があったので、それにタッチした。

 すると8桁の数字を入力する画面が現れた。

 「あれ?ここに『ヒロシマ』って入れるとかじゃないの?」

 よこにいたジュナが口を出す。

 ヒロは少し考えた。ヒロシマ…8桁…。

 「しかし、ヒロシマが手掛かりになっていることは間違いないんだけど…。」

 コードは全て数字。8桁の数字で廣島…?


 そこでピンと来るあたり、彼はなかなか鋭いのだろうか。

 「なるほど、8桁…ね。」

 彼は手早く19450806と入力した。

 「それ、なんの数字?」

 ジュナがとなりからのぞきこんで尋ねる。

 「まあ、平和を感じる数字かな。」

 ジュナには全くわからなかった。が、説明するのも面倒なヒロは、それ以上何も言わなかった。


 入力された画面はすこし静止した後、波打つように揺れ始めた。 波間から徐々に文字が浮かび上がって来る。


 ―ようこそ、鴉色のチャットルームへ―



 ―オレらは同志として歓迎された―


 続く

ここで、敢えて次回はゲシヒテの話に行きます。


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