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A-1451 ヴァイスナハト

非常に久しぶりです。

ちょっと続きに苦慮しておりましたが、ここから再開します

 それから、しばらくは、いわゆる宇宙旅行のための準備に費やされた。

  彼らは旅行代理店という店で手続きをし、必要なものをそろえたり、宇宙にいくための訓練をしたりした。

 そのうちに、二人共そこでの生活に慣れていったようだった。


 そして、病院でヒロが目覚めてから、二か月ほどが経過したある日、二人は宇宙空港より、出発した。

 ヒロは宇宙にいくなんて、どんな巨大な乗り物に乗るのだろうと気になっていたが、まあ、何のことはなく、ヒロの『世界』の旅客機よりも少し小さいくらいの感じだった。

 …まあ、彼は飛行機に乗ったこともないから、それでもそこそこ珍しく感じていたが…。

 一方、ジュナの『世界』では、空を飛ぶなんて考えられないことだから、落ち着かない様子だった。

 「…こんな重そうな、大きなモノが、本当に飛ぶの?あの光の所まで?」

 「ああ、でもまあ、鳥っぽい格好、してるだろ。」

 「そうだけど…」

 彼女に揚力の説明などしても到底わかるはずないので、ジュナを信じさせようにも、ムダだった。

 ジュナがあたりをきょろきょろしている内に、宇宙航空機は、離陸した。

 「う、わ、やっぱなんか上に上がってる感じ、あるね」

 「まあ、でも、こんなでかいものが動いている割には、イメージほどの揺れとかないけどな。」

 それもその筈。その機はこの世界で最も新しいものの一つで、乗り心地も安全性も最高のものだった。

 「どれくらいの間乗るの?これ」

 「とりあえず今日は宇宙ステーションとやらに一泊するから、そこまではだいたい四時間…って、おまえ時間感覚わくようになったのか?」

 「うん。二か月いると、だいぶね〜」


 こちらは『夜』が存在しない。いや、時間区分上の『夜』は存在するが。しかし、そらから『光』が沈んで、夕闇に世界が包まれることはない。

 一方で、暗くならないにもかかわらず、『夜』と呼ばれる時間帯が存在するのはおもしろい。

 やはり、文明の発展には共通な時間システムが重要なのか…これは、ヒロの言葉。

 景色はどんどん小さくなる。

 二人が高所恐怖症でないと言うこともあるだろうが、(というか、ジュナは『高所』に来たことがほとんどない)米粒のようなビルや家達は、彼らからすれば『超高い所』にいる感覚を逆になくすものであった。

 たんに板に点々がならんでいるだけのような…。



 景色が変わり始めたのは離陸から一時間と少したったころだった。キャビン=アテンダントが放送する。

 「皆様こんにちは。今日はアルフォートスペイスエアラインにご搭乗いただき、誠にありがとうございます。当機はまもなく大気圏を通過し、宇宙空間へ突入します。機内の空調調整と重力調整のため、これから数分の間、揺れや騒音が予想されます…」

 「要するに揺れるけどすいません、でも安全に問題はありません、と…。」

 「親切だね。やっぱり。安全なのに教えてくれるなんてやさしー。」

 『商売』の概念がなかったジュナにとって、いわゆるサービス業のひとたちはとてつもなく親切に見えた。そこに金勘定が絡んでいると言うことも彼女はまだ今一つわかっていない。

 日常の買い物くらいはわりとすぐにできるようになったが、経済的なことやらなんやらは、まったくわかっていないだろう。

 だから、彼女にとっては、周囲の人の多くが『親切』であった。



 確かにそれからしばらくの間飛行機は揺れた。その間にあたりは暗くなっていき、窓の下のほうに青い巨大な球体が見え始める。

 「これが私たちのいたところ?」

 「ああ、地球っておれのまわりでは言ってたけど、そういやここではなんて言うんだろ。」


 あたりは暗くなり、ヒロやジュナの知る『暗闇』に近い感じになる。

 暗闇は逆に二人を少し安心させる。

 この世界に来てから遭遇することのなかった暗闇…。

 かえってヒロとジュナに親近感のようなものを与えた。


 ふと、ヒロは窓から進行方向を見た。

 「あれか?あれが宇宙ステーションとやらなのか?」

 距離感は掴めないが、ヒロの『目の前』には円筒形を幾つも組み合わせて作った建造物があった。

 それは全体として見れば、『北』の字の形に近かった。

 段々とそれは近くなり、ついに飛行機は『北』の字の右側と左側の間の隙間に入った。

 「みなさん間も無く着陸でございますが、席をお立ちになるのは今しばらくお待ちください…。」

 乗務員からのアナウンスがあってすぐ、機は止まって、なにやら出口を開ける準備をしているようだった。


 宇宙ステーション…ヒロはさぞSF未来的に見えることと想像していた。

 確かにそれは円筒形で『北』の形をしていたが、ヒロの目から見て、想像より素っ気ないものであった。

 はじめて宇宙に来たという実感も、この暗闇と青い球体を見ながらにしても尚、今一つ感じられなかった。


 機を降りると、さっきの搭乗ロビーと似たようなところを通り、二人はホテルへと向かう。途中の通路には窓がなく、ただ案内表示に従い進むだけだった。


 ヒロにとって初めて来た宇宙は、ただの通路だった。


 続く

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