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A-1450年、ヴァイスナハト/ラングナハト7

だいぶ日にちが開きましたか。実は携帯を無くしてしまったのですよ。見つかってよかったですが二日間手が付けられなかったので。申し訳ない限りで。

二三:A-1450年、ヴァイスナハト〜歴概念なし、ラングナハト7




 目を覚ますとそこは白い部屋だった。

 いや、白いのは壁面だけではなく、自分の横たわるベッドも枕も…よく見るといつの間にか着せられている服や、目の前の棚、その上にある花瓶までもが白かった。

 彼はここがなんであるか何となく理解した。

 ここは……病院だ。

 先程の夢は彼の中に鮮明に記憶されていた。いや、記憶させられていたと言う事も出来ようか。

 窓の外は一面の青空。晴れ渡る世界が広がっていた。


 ここは自分の住む世界に近い…ただ、自分の住む世界の現在、と言うより、数十年後はこんな感じなんじゃないか、窓の景色やら病院らしき部屋なんかを見て、漠然とそう感じていた。


 少しの間ぼうっとしていると、突然、やっぱり白い扉ががちゃりと開いた。


「やあ、気がつきましたか。」

 その白衣につつまれた男も如何にもわかりやすかった。 それは彼の世界で言う所の医者に相違なかった。

「おれは…気を失っていたのですか?」

「…はい。この病院から一里ほど離れた所に、女性の方と倒れていたのを発見されたのです。」

 女性…ジュナのことだろうとヒロは考えた。

「…たまたま見つけた通行人は薬物か何かによる心中…まあ最近はよくある事ですからね。…そうだと思って急いでウチに連絡してきたのですよ。

 …しかし、別に薬物反応もないし、特に悪い所もない。

 仕方なくとりあえず、普通に入院していただいたのです。」

「一緒にいた女性は?」

 別の世界からきたことなど言う訳にもいかず、とりあえずヒロが尋ねたのはそのことだった。

「彼女の方が症状は軽く、あなたより二刻程早くお目覚めになられました。…しかし、記憶がないようなので、今も一応入院していただいています。いく所もないということなので……。

 そういえば、あなたのことを『しばらくしたら目覚める』なんて言っていましてね。本当にその通りになりましたな。驚いたことです。」

 ヒロはもちろん、ジュナが本当に記憶を失っているわけではなく、彼女の記憶はこの世界の人に容易に語らない方が無難だと思って、敢えて記憶がないふりをしていることを理解していた。

 已むなく、彼も同様にすることにした。

「おや、あなたもやはり記憶を無くされているのですか。」

「はい。残念ながら…。そうだ、出来れば彼女と話なぞしたいのですが…。そこで何か思い出すこともあるかもしれませんし…。」

 医者はその提案に賛成したようで、

「そうですね。彼女の病室はこのフロアの1210号室で、ここと同じような個室です。面会謝絶措置のようなものはとってないので、診察や消灯後以外ならばどうぞお好きに…。」

と言って、病室を出て行った。




 ヒロが医者が去って行った後すぐに、ジュナの病室へ向かった。

 そこは彼の住む世界にすらまだない、20世紀末ごろにならありそうな病院で、大学病院か、都市の基幹病院程の大きさであった。

 50年代からやってきた彼にとっては病院の暗いイメージを覆すような『未来的』な病院であった。

 ただ病室番号を聞いただけではなかなか目的地に辿り着くのは苦労し、二十分近く彷徨っていたかと彼は感じていた。

(そういえば、この世界には時間感覚はあるのだろうか…。)

 そんなことを考えていた矢先、彼はついにジュナの病室に辿り着いた。

 ノックをすると、

「どうぞ。」と言う声がしたので中に入った。


「遅かったじゃない。やっと目覚めたの?」

 今迄あまり言葉を交わしてなかった二人だが、ジュナはまるで友達に話すかのような語り口で訊いて来た。

「はい、『呪』には慣れていないもので…。」

「気持ち悪いからそんな叮嚀な話し方やめて。」

 ヒロはむっとしたものの、確かにそろそろその口調も気持ち悪くなっていたのでやめた。

「わかった。」

「あなたが寝ている間に、ここの事、多少調べといたよ。全く。ここは何か白い服着た人か病人か怪我人しかいないんだから!

 こっちまで病人になりそう…。」

「仕方が無いさ。ここは病院って言って、そう言う人達を治すための所だからな。白い服を着た人が、それらを治す専門の人。」

「あなたの住んでいた所にも、こういう所、あったの?」

 …まあ、と短く答えてそれ以上は何も言わなかった。彼女にはここが別の世界と言う認識がないから、どう話せばいいかわからなかったのだ。

「…まあいいか。ここはね、おかしな所なのよ。なんてったって、ここは、永久に、この明るさのまんまなんだって。何か空にある何かが、常に地を明るく照らし続けてるらしくて。

 …でも、遠い遠い昔はそうではなくて、明るいのと暗いのが交互にきてたんだって。昔って言っても、今いる人はまだ影も形も無い程遠い昔のことらしいわ。

 あと、ここは私のいた所よりずっと便利らしくて、『機械』とか『コンピュータ』とか言うのがいろんなことをやってくれるらしいわ。」 なんだか似たような世界を小説かテレビかで見たことあるきがする…ヒロはそう感じていた。昼が永遠であることを抜かせば。

「…でもね、こんな不思議な事も言っていた。そんな便利なのに、人々には何か物足りない感じ、空っぽな感じがする人が多くて、自分を殺めてしまう人がたくさんいるんだって。おかしな話だよね。

 それで、私たちはどうすればいいの?」

「…ここに『光の源』があるんだ。それを取りに行く。」

「え?」

「ここが永遠に昼なのは、…つまり明るいまんまなのは、その『光の源』がここにあるからなんだ。それを回収して、ここに夜…つまり暗闇を、ティナやあんたのいる所に光を取り戻すんだ。」

「ちょっと待って、どうしてあなたそんなこと知ってるの?」

「昔おれがいたところでそう言うことを聞いた。…あと、夢で見た。なんだかよくわからないが、『呪』によって誰かがそう言う夢を見させた、…あるいは誰かがおれの夢のなかに入ってきたらしい。」

「『呪』ってそんなことも出来るの?」

「あの『呪印』を造った奴だろう。あいつはなんだかわからないがおれたちにこことあちら、そーゆーのを『世界』って呼ぶんだが、この世界とあの世界の秩序を戻したいらしい。目的はわからんが…今の所はあんたたちの味方って訳だ。あんたたちの旅、光を探す旅を終わらせてくれるんだからな。」

「…でも、あんなの造るんだから、力のある奴…怖いわ。」

「まあ、そうなんだろうが、とりあえずは仕方ないだろ。それを見つけないと、おれたち戻れないらしいしな。」

「…でも、光の源って何なのかしら。まさか、あの青空に浮かぶものを取りに行けって言うんじゃ…。」

「『羽』だ。」

「『羽』?」

 …ヒロには、それが光と闇の加減を変えるかどうかは知らないが、やはり得るべくは『羽』であることを確信していた。それは自分のこれまでの運命的ないきさつ、そして、何よりあの由里子の言葉の為であった。

「…この世界には、永遠に赤く輝き続ける『鳳凰の羽』があるんだ。それがなぜ永久に昼にしたり夜にしたりするのかはよくわからないが、探すべきものは、その『羽』で間違いない。」

「それを、私たちの世界に持って行けば、私たちの世界にその昼とやらが訪れる…?」

「恐らく。さて、こんな所さっさと退院して、『羽』について調べないとな。」





 長老の判断の下、暫くはここに滞在することとなったラクシュウェルの一行。

 探索も二人の帰還次第ということで、食料採集以外にあまりすることはなかった。

 その採集にしても、今回は森がすぐ近くなので、それほど苦労なく、従って、彼らはあまりすることがなかった。


 暇…それは、彼らにとって最もいやなものの一つであった。 日々すべきことをする間は深くに眠っている不安が、少しだけ表に浮き上がってきてしまうからだ。


 そのような時は、誰も口にはしないだろうが、皆、なにか暗いものを心に感じていた。

 殊に今回は、一族の一人がいなくなったとあって、とりわけ彼らの不安は大きかった。


 ティナもその例外ではなく、いや、人一倍そんな不安を感じていた。


 彼女は長老と話した後、床に就いたのだが、なかなか寝付けないようだった。



 明けることのなかった闇…。

 それが強大な何者かによって終わるかもしれない…。

 それは確かに幸なこと。

 しかし、強大なものの正体は不明…彼の目的も…。

 もし、私たちに害を及ぼすのならば…。

 だいたい、この闇…この明けることのなかった筈の闇がそう簡単に明けてよいものか…。

 そう、簡単に明けてしまって、よいものなのだろうか…。

 今ある状態は確かに不安…でもその当たり前の状態が『終わり』、当たり前ではなかったはずの状態へ移ることへの不安…。

 そんなものを、彼女は感じていたのだった。


 おばあちゃん……私は不安で不安で仕方がありません…。

 このままでよいのでしょうか…?




 

 それはまだティナが幼かった時のこと。

 まだ、彼女のおばあちゃんが生きていたある日。

 ティナはおばあちゃんの部屋に入るなり、屈託のない笑顔で話しかけた。

「あ、おばあちゃん。やっと目を覚ましたのね。」

 そのころ彼女のおばあちゃん、エレナは寝ている時が多かった。体調も思わしくなかったらしい。

 しかし、病でも『呪』のせいでもなかった。

 それは、彼女のある力に起因するものだった。

「ああ、おはようティナ…。」

 エレナは、やはりどうも元気がないように見えた。

「どうしたの?」

「いいえ、最近よく未来を見るからね、どうも眠っても眠っても、眠れた気がしないんだよ。」

「未来?私たちの?どんな?」


 ティナは興味津々だった。まだ幼いティナはエレナがそれを語るにひどくためらっていたことには気付かなかった。

「…そうね。あまり遠い未来ではないわ。私はもういなくなった後の未来ではあるけれど、

 あなたが大人になりたての頃の夢よ。」


「私がおとな?」

「そう、綺麗なおねえさんになったときのこと。」

「私、きれい?ほんと?やったあ!」

そう言うとティナはぴょんぴょん飛び跳ね出した。

「まあ、お聴きなさいティナ。これは忘れてしまっても構わない事。いえ、本当に忘れることはないでしょうが、普段は別に心にとどめる必要のない事なのだけれど…。」

「え、なになに?」

 まだ、喜び顔が抜けないままティナが訊いた。

「あなたも成長するにつれ、私たちと同じような重く冷たい何かを心の奥底に持ち始めると思うの。それは、この世界の闇に起因するもの……少なくとも私たちはそうだと思っているわ。

 …けれど、そう遠くない未来、これが私が『夢見』たものなのだけれど…その未来でこの永遠にも思える心の闇が晴れる日が来るの…。とある青年の働きによってね。

 …でもその時、あなたはきっと別の不安を抱くことになるわ…。それは今迄当たり前だったものが『そうではなくなる』ことへの不安、当たり前の日常が壊れるような…そんなことから来る不安ね。…たぶん、今のあなたにはわからないでしょうけどもうすこし聞いてね。」

 その言葉を、おそらく当時ティナは理解していなかったのだけど、それは彼女の奥深く、普段は見えない深くにしまわれていたのだった。

「…でもその変化、その日常の崩壊もまた、起こるべくして起こった必然なの。だから、その変化を…あなたたちは受け入れなければいけないのよ。」


 更に彼女は自分の孫にこう告げた。

「あなたたちはきっと選択を迫られる…。その時に欲を出してはいけないわ。

 確かに光はこの暗闇の世界に於いて強大な希望なのだけれど…。闇と光のバランスを崩してはいけないの。

光は光だけでは存在しえないのよ。事実、あなたたちはこの選択で言い争いになるでしょうが。よくを出してはいけないの。『それ』に火を灯した後は、『それ』はここからなくなるべきなのよ…。」

 エレナはこの点について詳細を語ることを許さなかった。

 元来、エレナが自分の見た未来について語る事は稀だった。そうすることで、未来が歪むことを恐れていたからであった。

 …しかし、ここに於いて、彼女はむしろ未来を歪めるために、つまり彼女の見た夢を現実にしない為にこのことを語っていた。

 現時点で言葉の意味がわからない幼いティナに話しているのにも意味があった。

 つまり、この言葉を理解し得る大人がこれを聞くことによって、新たな議論やら言い争いやらが起こるのを恐れたからだ。

 彼女は未来を確実に、しかし最小限にいい方向に歪める為にギリギリの所を見極めて語っていたのだった。


 幼いティナは、そのことに気付く由もないけれど…。


 ここに際して、ティナはその言葉を思い出した。

 選択…なんの選択だと言うの?


 外は相も変わらずの冷たい暗闇だった。


 続く

ヴァイスナハトは白い夜ってことでまあ白夜をイメージして付けた名です。次はヴァイスナハトのみの話になりますかね〜

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