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時代概念なし、終わりかけの世界「エル=バスタ」

第二話というところです、まだ話はとびとびに見えるでしょうが、怒らずにお読み下さい

二:末界

「エル=バスタ」歴概念なし





その世界ではかつて

『霧族』という種が繁栄を極めていた。いまではもうどれほど昔のことかわからないが、その種の先祖が、当時の学問の応用によって、『霧』を動力源にすることに成功した。

その方法は改良に改良を重ねられ、やがて、あらゆる作業がその霧を源とした霧機械によってできるようになっていった。彼らが『霧族』たるゆえんはここにあった。霧機械によって暮らしを圧倒的に豊かにしていった彼等だが、やがて学者達は霧の過剰使用の危険を提唱するようになる。

この世界で言うところの

「霧」と言うものが、海の液体と同じ物質、所謂水にあたるものが何らかの変化によって大気空間にたちこめるものだと既に知られていた。

そして、大事なことは、霧機械が動力源として消費しているのは、この液体と言うよりは、それを空気中に漂わせる

「何らかの力」の方だということだった。液体の方は、そのまま川やら海やらに排出されていた。当時、霧は自然に発生するものだと言われていたが、霧族はあまりにも霧を使いすぎた為、その発生ペースは追いつかず、この先霧はどんどん減っていくというのだ。

更に、排出された液体が多過ぎるため、海の液体総量がこの先どんどん増えていく、つまり海面が上昇していくというのだ。実際、そのころには、標高の低い土地や小さな島などが海水浸食で消滅の危機に瀕していると言うニュースが、連日伝えられていた。

学者たちは霧を節約する霧機械の開発と、液体を霧に変えるメカニズムを特定し、霧を人工的に造り出す方法を研究するようになった。


しかし、時は既に遅かった。その後あらゆる霧機械が動作不全になっていき、幾多の大洪水が少しずつ、確実に世界を飲み込んでいった。





そして、現在、世界にはたった一つの島に一人の霧族と、ほんのわずかな生物がのこるのみとなった。


島の名前は

「エル=バスタ」。元々そこは世界最高峰の山で、その為に、現在唯一の陸となったわけだ…。




青年は今日も島の中心部の木々から果実をとり、食事とした。最早食べられる木の実は限られていたが、青年は自分が生きる分には事足りる。と踏んでいた。


名すら失ったその青年は、自らの、そしてこの世界の運命を理解していた。


自分の死は霧族という種の絶滅であり、またその後近い内にこの島も海に飲み込まれ、この世界も終わるだろうことを。

この世界に於いて海中の生物はいないと、少なくとも思われていた。実際、青年も暇な時は必然的に海を眺めることになるわけだが、彼も海上、海中に生物を見たことはなかった。霧族にとって海とは、生も死もない無生物の世界であった。


彼の一日は基本的に単調なものだった。朝夕には木の実をとり、暇な時は動物と遊んだり、彼の両親が遺したわずかな書を読んだりしていた。

彼の両親がこの世を去ったのはつい最近のことだったので、彼は言葉を操ることは、人並には出来た。ただ、それを必要とすることはもうないだろうと思っていた。

彼が名前を失ったのも、それを呼ぶ人がもう、いないからだ…。



木の実を昼食代わりにした後、彼はいつものように浜辺で両親の本の一冊を読んでいた。それはいくつかの神話のようなものについて書かれた学問書で、彼にはもう必要のない知識だったが、暇つぶしにはなっていた。


霧族とは最後の最後まで学ぶことを止めない生き物なのだな、と彼は感じていた。


その時だった。何か四角い箱のようなものがぷかりぷかりと漂いながら、海の向こうから近付いていた。やがて箱は波にのって、浜辺に打ち上げられた。

青年はその箱みつけると、拾って調べた。

表面には青年の知らない不思議な文字がかかれていて、箱自体も、何か旧時代的に感じられた。青年は霧機械時代を生きていないから、それは印象として感じたことに過ぎないのだけれど…。



箱の中にはもう一つの箱があった。それをも開けると、中には透明な入れ物に入った、なにか赤々と光る羽のような形の物体が入っていた。

青年は、それを見てすぐに思い当たり、今読んでいる書の前の方のページを開いた。


それは、

「太陽の鳥の羽」について書かれた章で、それが世界を創りかえる力を持つこと、そしてそれを手に入れることに成功した人は、世界で唯一無二の権力を手にいれられる…。ということ…。



ただの神話にすぎなかったし、青年はその話を始め信じはしなかった。しかし、一向に燃え尽きないその

「羽」が、何か不思議な力を持っているように、思えないこともなかった。

そして、もしこの羽に本当にそのような力があるならば、この終わりかけた世界をどうにかすることができるのではないかと考えていた。しかし、おいそれと実践するのは憚られた。

「羽」によって世界を創り替えるということが、青年の理解を超えていたからだ。世界を新しくつくろうとすることは、今ある世界を崩壊させることになるのか、そうでないにしても、新しい世界を創るという神のような行為を実行したら、なにかとてつもないことが起こるのではないか…。彼はぼんやりと、しかし強い危惧を抱いていた。

しかし、一方で、この世界はどうせ放っておいても間もなく終わるのだから、それならばいっそ…という気持ちもあった。

青年の心は揺れていた。彼が善人であったからこそ、揺れていた。結局彼は決断に踏み切ることができず、その赤々とした

「羽」は大切に保管されることとなった。


その後、青年はそれをいますぐ使うことはせず、世界が本当の本当に終わるときまでは、大切に保管しておくことに決め、やはり以前と変わらない生活を送った。

神話に書かれたとおり、

「羽」は透明な容器のなかで、尽きることなく燃え続けていた。




それから幾年がすぎただろう。当然ながら暦をもたない彼だったが、加齢による体の衰えから察して、十数年は経過したかに思えた頃、海の浸食ペースが急に早まったかに思えた。

広大な海から見れば米粒のような島だから、気候のちょっとした加減で、浸食は大きく早まる。

気がつくと島は、かつては島の最深部だった、木々の生い茂るあたりを残すのみとなった。


「ついにその時期がきたか…。」中年にさしかかった男は数十年ぶりに呟いた…。

その時だった。

「ちょ、ちょっと待った!」


男の背後から、その男とは別の声がした。一人しかいないハズの世界で、彼とは別の声が、した。


男は一瞬、なにが起こったかわからないようだったが、すこし間を置いて、恐る恐る後ろを振り返った。


みなれない白いローブのようなものを羽織った、長身の男が立っていた。


「『羽』を使うのは、僕の話を聞いてからにしてくれないかな?大丈夫。この島が完全に消えるまでには、まだ数日の猶予があるから。」

「誰だ?」男は不審な面持ちで聞いた。

「うーん、ここで僕が詳細な自己紹介をしたところで、別の世界で孤独に生きていた君が理解出来るかは微妙なんだけど…。」すこし考えて長身の男は続けた。「僕の名はヒルバリー。わからないと思うけど、白魔法を使うことができる魔族です。きみの名は?」

「…名はもうない。この通り名前を呼ぶモノはもうないからね、名など忘れてしまったよ。」

「そうか。まあ確かにこの世界で言葉を話す存在は君一人だものね。じゃあ、そうだな…ノアと呼んでいいかな?」

「のあ?」

「僕の世界の伝説の中に、君がこれからするようなことをする男がでてきてね、それが『ノア』って言うんだよ。ま、彼は家族がいたから君よりはましかな。」

「そうか、まあ好きに呼んでくれ…呼び名がないのは不便だからな。」

少なくとも話す存在に出会えたノアの気持ちはまんざらでもなかった。

「そうか、よかった。では本題だ。ノア、君は最近、その『羽』をつかって世界を創ろうとしていたよね。」

「ああ、どうせこの世界はもう終わるからね、どうせならここに残るわずかな生き物に生きる道を残したいじゃないか。」

「ここにいる生き物たちのため?ノア、君は霧族を再び繁栄させようとしているのではなかったのかい?」

ノアは少し考えて応えた。

「確かに初めてこれを手にした頃はそれも選択肢の一つではあったが…霧族はもう一人しかいないから、また増やすことは出来ない。たとえいまから新しい世界を創ってそこに新しい霧族を創り出したとしても、それは僕の中では本当の意味での子孫とは思えない。自然な形で僕やそれとどこかでつながっている霧族によって産まれたものではないからね。そして、この世界をこういう事態に追込んだのは、どうも僕の祖先らしい。それならば、別に何のつながりもない霧族を創り出すことに、僕にとってメリットはない。だから、せめて罪無き他の生物に存続の道を残してやりたいんだ。まぁ、できれば僕も、最後の霧族として真っ当に人生を終えたいとは思うが…。この海に飲まれること無く、ね。」

ヒルバリーはこれ幸いという面持ちで応じた。

「そうか。それなら話は簡単かもしれないな。実は僕はその『羽』をもらいにきたんだよ。使われていない状態でね。まあ、細かい話は今は置いといて、もし、僕が何らかの方法で君とここの生き物たちを助けたならば、君はその『羽』を譲ってくれるよね。」

「ああ。僕も世界を創り替えるなんて大それたことはしたくないから、もしできるなら、これは喜んで渡すが、でもどうやって?」

「実はね、この島でずっと生きて来た君は知るはずも無いんだけど、この海の遥か果てに、異世界への入口が出来ているんだ。僕はそこからこの世界に来てあとはボートに魔法をかけて、この島にたどりついたんだよ。」

「異世界?」

「うん。この世界に次元の概念があるかどうかはわからないんだけど。僕の世界で言うところの5次元空間につながっているんだよ。『この世』にはたくさんの世界が存在していてね。新しく生まれたり、消えたりもしているんだけど、それら世界達全体が、その5次元空間の中に存在しているんだ。そして何らかの形で世界とその5次元空間をつなぐ通路が出来た時、別の世界へ渡れる可能性があるってわけ。まぁそれにも特別な力が必要なんだけど。

それでね、いまから僕らで舟を作って、それに僕が魔法をかけるから、それに乗って異世界に逃げようという訳なんだよ。とりあえず、僕のいる世界が君達を一時的に受け入れる手筈になっているからさ。」

「なるほど、よくわからない所はあるが、世界に僕しかいないはずなのに、ヒルバリーがいる時点で、異世界へ渡る方法があると言うのは、少なくとも信じられそうだ。どうせこの『羽』をつかうのも、少し怖くて気が乗らなかったところだったし、一つ、君の案に乗ろうじゃないか。」


「ノアが理解力のある人でよかった。それじゃ早速舟を創ろうか。魔法で舟自体つくることもできないことはないんだけど、実際の舟に魔法をかけた方が、負担もかからないし、強い魔法をかけられるからね。」

それから数日かけて、二人は木々などをつかって舟を作っていった。ノアは舟の作り方を知らなかったが、ヒルバリーが指導したし、最終的に魔法をかけるのだから、さほど完璧な作りである必要はなかったので、概ね難なくそれは完成した。


次の数日。彼らは島のなるだけの生物をその舟に入れた。これは意外と大変な作業で、各種を少なくとも一つがい以上、逃がすこと無く舟にいれなければならない。全種を集めきることは難しかったけど、最後の日がくるまでに、彼らは出来るだけの生き物を積んだ。



そして、ヒルバリーが来てから十日がたった頃だろうか。島にとどめをさす洪水が襲った。


「ノア、もう時間ない!その木で最後にしよう!」

「ああ、わかった。これを舟の中に運ぶから、手伝ってくれ!」

彼は自分の半分くらいの丈の若木と共に舟に乗り、舟の扉をしめた。

ヒルバリーはすぐさま舟の前方の机のようのものがある所にいき、動力魔法を唱え、舟は出航した。窓からは島が見る見るうちに波にさらわれていく光景が見えた。やがて島が何とかみえる程の距離まで離れた頃、島は波をかぶったまま、二度と顔を出さなくなった。


一つ、世界が消えた。


「不思議なものだな。世界が終わったにも拘らず、この世界の生き物はいまだ生きているというのは。」

「そうだね、でも、本当の意味での終わりでは無いよ。こうしてこの世界の生き物がまだこんなにいるんだから。彼らがやがて別の世界で繁栄することで、この世界は存続するとも言えるんじゃないかな。そうだ、約束どおり、これはもらっていいかな?」

ヒルバリーはすぐ横の『羽』をさして訊いた。

「ああ、約束だし、僕にもうそれは必要ない。だが、気になることがある。君はそれを得てどうするつもりなんだ?やっぱり世界を創るつもりなのか?」

その質問に、ヒルバリーは少し考えて、切り出した。「そうだな、それについては、少し長くなるけど、僕の世界に着くのにはまだしばらくかかるから、その間の退屈しのぎには丁度いいかもしれない。それに、どっち道ノアはそのことを知る日が来るだろうからね。」


舟は海しかない失われた世界の上を、すべるように進んでいった…。


続く

ありがとうございました。話はまだまだ序章です、この先もひきつづきお読みいただければ幸いです。

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