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夢/歴概念なし、ラングナハト6

二一:夢




 

 光に包まれたと思ったのは一瞬のこと。ヒロは一人暗闇の中を彷徨っていた。

 他の三人はどこへ?ティナは?リイスは?ジュナは?

 辺りを見回しても闇ばかり。しかし、光に包まれる前とは景色が違った。

 星明かりにぼんやり見えた山々や森は見当たらなかった。

「ここは?」


 わけもわからず、とりあえず一帯をぐるぐる歩き回った。

 だいたい数分経ったかと思われる頃、背後から声がした。

「ふむ。やはり予定通りだ。」

 聞き覚えのない声に、ヒロはびくっとなって後ろを振り返った。

 そこには人型の黒い影のようなものが立っている。黒い輪郭はあるけれど、輪郭しかない。

「おまえは今、私の『呪』を受け、気を失っているのだ。ここはおまえの夢の中。いや夢の世界。と言うべきなのだろうか。私は『呪』によってその世界におじゃまをしたと言うわけだ。」

 ヒロはその影に驚きながら尋ねた。

「するとお前があの妙な光る円を描いたのか?」

「そうだ。おまえはこれからもう一つ別の世界に行ってラクシュウェルのもの共の為に光の源を探しにいくのだ。」

「なぜ?おれが?」

「いや、もちろんそうする必要はない。全てはおまえが決めることだ。しかし…もう、そうせずにはいられないのではないか?」


 それは確かに図星だった。ヒロは別に人一倍親切と言うわけではないが、ラクシュウェルの人達のそれと重なるであろう心深くの不安…。彼はそれを知ってしまった。あの世界に光をもたらして、それを取り除くことが出来たなら…。

 また、由里子の言ったことも気にかかっていた。自分の身の回りに起きる一連の現象が、『羽』に関する世界達に拘ることだとしたら…。

 その現象の流れに抗うのは、その世界たちの運命を変えるかもしれないこと…。もちろんよい方向に変わるか、悪い方向に変わるか、今のヒロには知るよしもないが……悪い方向に変わる可能性が多分にあるならば、無理にその流れに抗わないほうが得策…ヒロはそんなことを考えていた。

「…まあ、そうだが。具体的になにをすれば良いんだ?」

「それは行けばわかること。おまえがこれからいく世界は、今迄いた世界…『ラングナハト』と呼ばれている世界の対の世界だ。『ヴァイスナハト』と呼ばれている。」

「対?」

「ああ、元来二つの世界は比較的似た世界だったのだが、とある理由で自然バランスが崩れてしまったのだ。片方は闇に閉ざされ、片方は闇が存在しなくなってしまった…。」

「ではそれが光の源…。」

 『羽』のことだろう。と、ヒロには察しがついていた。

「…それを回収して、ラングナハトに返せばいいのか?」

「いや、違う。それではラングナハトの闇が消滅してしまう。その光の源は元来いずれの世界にも存在しなかったはずの存在…。だから、それを手に入れたら処分してしまわなければならない。」

「処分?どうやって?」

「心配するな。それは私がどうにかする…。おまえはとりあえず、その光の源を手に入れればよいのだよ…。」

 この影の存在をヒロはどう思っただろうか。もちろん完全に信用しているわけではなかっただろうが、しかし、これに背いたところで彼に出来ることはなにもない。だから、とりあえずは影のいうことに従うことにした。

「もう、夢から旅立つ時が来たようだ…。」 語尾の方はよく聞こえず、意識は遠のいて…いやある意味では戻っていった。 



二二:歴概念なし、ラングナハト6




 荒涼とした大地に残されたティナとリイスは、すぐさま来た道を戻り、村へ向かった。

 『呪』を使えるリイスが残っていたのはある意味幸いであった。彼らの内一人でもいてくれなければ、獣に襲われた時、なす術がない上、村の方角がわからないからだ。

「…とりあえず、長老にこのことを話して、これからの事を考えましょう。」

 いなくなったのがヒロだけならば、必ずしも村でなにかをする必要は無いのかもしれないが、村の娘、ジュナも一緒にいなくなってしまった…。

 それにこれもまた光の源に関連することであるとなれば、一層放って置いてはいけない事態であった。




「……瞬間移動型の『呪印』…そのようなものを造れるものがこの世にいるというのか…。」

 ティナから話を聞いた長老は、まずそのことに驚いた。

「問題は、なぜそこに呪印があったのかということ。そして、我々はなぜそこにおびき寄せられたかということ…。」

「おびき寄せられた…?」

「左様。おそらく我々は何者か、かなり力のある『呪』の能力者によって、ここまでおびき寄せられたに相違ないだろう。

 あのヒロと言う少年が見たという赤光の夢、あるいは幻覚のようなもの…それは恐らくその『呪』を使うものが見せたものだ。」

「そのようなことが?」

「さあ…少なくともラクシュウェル家にはそのような『呪』を使える者はいないだろうが…なにしろ瞬間移動型呪印を造れる存在だ…ヒロはあの赤い光に心当たりがあったようだから、その記憶を掘り起こすなどして、現実や夢の中で再度見せたのかもしれん…。」

 ラクシュウェルの人々が普段から使っている『呪』の力…しかし、それを極めるとどれ程ことが出来るようになるかはいまだ彼らも知らぬままだった。

「…問題は、その使い手が我々の敵か味方かと、いうことだ。」

「光の源をもたらす存在だとすれば、我々にとってプラスではありますが…。」

「確かに。しかし、まだ相手の存在もわからないまま突如に我々をおびき寄せ、ヒロとジュナをどこかへやってしまった。それもまた光の源を得るために必要なのかも知れないが…。わからないのは、『何故』ということだ。仮に、その存在が我々に光をもたらすのだとして、何故見ず知らずの我々にそんなことをしてくれるのだろう。」

「確かに…その存在にも何か目的があるのかも…。」

「そう。それが怖いのだ。何しろ相手は恐らく強大。その目的が我々が望むものでないとしても、抗う術はないだろう。」

「…今私たちはなにをすべきなのでしょう。」

「わからぬ。しかし、ここに来てしまったことにも何か意味があるのだろう。…もちろんその意味が我々にプラスなのかマイナスなのかはわからないが…しかし、ヒロとジュナを放って置く訳にはいかないし少なくともその『意味』がわかるまでは、我々はここにとどまるべきなのであろう。」

 二人の中には二つの不安と一つの希望が入り乱れていた。…強大な存在に対する不安、そして、代々受け継ぐいまはまだ永遠の暗闇のなかに生きているがための不安、そして一方で、それを晴らす時が近いのかも知れないという希望。…でもその鍵となるのは自分たちと元は関係なかったヒロや謎の存在…。


 四つの『月』が相も変わらず夜闇に一端の明かりを落としていた。




 

続く

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