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序〜1956年1月、東京

この小説は短編ではなく一連のストーリーとして書いております。なかなかの長編になるかとおもいますが、どうぞよろしくお願いします。



 それははるか昔のこと。まだ幻想の生物が世に存在していたころのこと。

 1羽の不死鳥が大空を羽ばたいていた時、その一片の羽を大地に落としたと言う。

 放って置けばすぐに燃え尽きる筈のその羽だけれど、その時偶然近くにいた青年がその羽を拾ったと言う。

 なぜなら、その羽を持つものは、世界を造り替える力を持つと、言われているからである。



 高位であり、従順であったその青年は、すぐさまその羽を、その国の王へ届けた。



「王様、伝説の不死鳥の羽と思しきものを手に入れました。」

「なに?それはまことか、本物か?」

「おそらくは。赤々と燃えていることが何よりの証拠かと。しかし、このままではすぐに燃え尽きてなくなってしまいます。」


 王はすぐさまその国一高名な呪術士を呼び、羽の炎に呪をかけさせた。


 その羽が、炎が絶えることなく、永遠に在り続けるように。

 この世界に、『世界を造り替える力』が現れた瞬間だった。それは、この世界に於いて何にも代えがたい力の象徴となった。

 しかし、同時に、容易にその力を行使する者はなかった。なぜなら『世界を造り替える』というのは、新たな世界の誕生を意味する前に、今在る世界の崩壊を意味するからだ。


 しかし、その羽を所持することは、唯一無二の権威と権力を所持するに等しいこととなっていった。

 だから、各民族が、それを獲得する為の争いを始めるまで、そう長い時間は掛からなかった…。

そして、その争いが激化して、世界が崩壊寸前になるのにも、そう長い時間は掛からなかった。


 数十年後、気がつくと世界に残っていたのは、わずかな生き物だけだった。それらの総人口は、半世まえの千分の一にも満たなかった。

 誰からともなくこの戦争を止める動きが起こった。


 残った民族が比較的平和的だったことも幸いし、和解は成立し、羽は『世界の果て』に葬られることとなった。こうして、世界の崩壊は免れたというわけだ。


 こことは違う世界の、遠い遠い昔話であった。






一:東京。1956年一月


 その日、博史はまたも幻想的な夢を見た。やはり今回も、

「現実」とは違うような世界の荒涼とした大地に一片の光が見える。

 彼はその光ものの元へ向かおうとするが、一向に近付くことが出来ない。

 延々歩いた後、彼は疲れ果て、いつの間にか体が動かなくなってその場に倒れこもうとしたその時…


 彼の意識は

「現実」に引き戻された。



 そこは、いつもと何も変わらない早朝の四畳半の自分の部屋だった。彼はその身を起こし、高校へ行く為の身支度を行った後、朝食を取りに居間へ向かった。



 いつもと変わらない朝だったが、夕べ見た夢は不思議な程に彼の記憶に残っていた。

 その日はさっさと朝食を済ませると、少し早めに高校へ向かった。


 博史が教室に到着すると、まだ、人はまばらだったが、隣りの席の由里子はすでにそこで本を読んでいた。


 高二の一月のクラスともなると、クラスの大半はそこそこ話もするような顔見知りだが、彼は由里子とは話したことがなかった。

 由里子は、どちらかと言えば端正な顔立ちをしている美人だが、ごく一部の友達以外には無愛想で、博史に限らず多くのクラスメートは、まだ、まともに話したことがなかった。


 しかし、そんな由里子が、今日すこし様子が違っていた。

 博史が着席すると、由里子は妙に彼のことを気にしているようだった。やたらと彼の方を見てくるのだった。

 始めの内は、さしてきにもとめない博史だったが、午前中の授業の間もずっとそんな感じなので、段々彼もうっとおしくなってきた。


 昼休み、彼は思い切って、初めて自分からまともに由里子に話しかけてみた。


「あのさ」

「…何?」由里子はやはり何かを気にしてる様子だった。

「おれの顔に何かついてる?朝からずっとおれのこと見てるっていうか、気にしてただろ。」


 図星だったが、由里子は動揺することなく、淡々と博史の質問に応えた。「あなたから話しかけてくれて助かったわ。話さなきゃいけないことがあるの。…でもちょっと長くなるし、ここじゃ何だから、今日の放課後、私の家に来てくれないかしら?」

「長くって…。まだ昼休みだいぶあるだろ。いいからここで話せよ。」

「駄目。理由は言えないけどとにかく駄目。なによ、放課後用事でもあるの?」

「いや、別にないけれど…。」

 たいして親しくもない女にいきなり家に来いと言われて、 博史は当然変に思ったが、放課後は確かに暇だったので、とりあえずOKした。

 放課後、当然のことながら、帰りは博史と由里子の珍しい2ショットとなった、博史は変な噂でも立ちゃしないかと気にしながら学校を出た。隣りの由里子は特に気にかけない様子で、いつもどおりの無愛想だった。

 その道中、二人は話らしい話しもせず、学校から十分程の由里子の家にたどりついた。

 家、というか、そこは近くの神社だった。 博史は彼女の家が神社であることも初めて知った。


 正面から横の方に回ると、民家としての玄関があり、そこから二人は中に入り、博史は居間へ招かれた。


 その神社は、古いものの、なかなか立派なもので、それは居住部分も同じのようで、伝統的な大型の日本家屋という感じだった。

 彼を居間に招くと、由里子は室内の通路を通り本堂の方へ消えて行った。


 数分後、彼女は大層な箱のようなものを持って現れた。

博史がその箱を見ていると、由里子は自分から説明を始めた。

「この中に入っているのは、とても大事なもので、そう、ものでは在るけれど、一般的に言えば、神の一つとして扱われるに足るものなの。この神社はね、実はこの中にあるものを祠るために建てられたのよ。私の家系はこれを守り崇めるために代々生きて来たの。」

 いきなりの話に、博史はいまいち意味がのみこめなかった。

「え…と、それが大切なものだってことはわかったけど、何でそれをおれに見せるんだい?と、言うか、具体的に、中にはなにが入ってるの?」

 博史そう言うと、彼女はその箱についていた紐をほどき、箱を開けた。

「…開けて良いものなの?」

「…良い、ということはないけれど、この箱を取っても尚、幾重にも封印がなされてるし、こんな状況だから…」 もちろん何をさして

「こんな状況」と言っているのか彼にはまだわからなかった。

 その箱の中には更に小さめの箱があった。なるほど、かなり厳重に保管されているようだ。

由里子は何かをつぶやいてその箱も開けた。


 中には、何か厚手ガラスのランプのようなものがあった。火はついたままになっていて、赤々とした光を放っていた。そして、その光は…。


「夢で見た光と同じ感じだ…。」 その覚えのある、引きつけられるような輝きに、博史は思わず呟いた。


「そう、あなたはこれと同じ光を見る『夢』を見るのよね。でも、いつも辿りつけないから、これが何だか分からない…。」

 博史は目を円くして由里子を見た。


「おれ、その話したっけ?」

「いいえ、でも、わかるの…。あなたが見た『夢』に出る光も、確かにこれと同じものが発しているのよ。」

「これは…何なの?」「詳しいことは私も知らないわ、これが日本に持ち込まれたのは奈良時代…唐が持ち込んだらしいけど、生まれたのはもっと西の方だと伝えられているわ。私たちの間では『鳳凰の羽』と代々呼んでいるもので、この炎はついえる事がないと言われているわ。」

「…神と同じと言われているくらいだから、ただ光るだけって訳じゃあないんだよな?」

「…えぇ、これが日本に伝来した当時の人々は、これになにか特別な力があると信じていたらしいわ。

でも、その詳細についても、現在には伝えられていないの。

これがここで祠られるようになった理由は他にあって、当時何らかの理由でこれを獲得する為に、豪族って言うの?当時の力をもった人達が大規模な戦を始めたんだって。

それはもう、当時の日本が崩壊の危機にさらされるほどのものだったらしいわ。

それが数年間続いた後、生き残った権力者たちはやっとその危険に気付き、この羽を封印して、和解をすることにしたの。

そしてそれを守る人々として選ばれたのが私の先祖ってわけ。

どういうわけか、このおぞましい一連事件はあまり歴史上表立って取り上げられることはないらしいわ。

少なくとも、『羽』のことは一切外では語られていないと思う。当時の人は『羽』のことは葬り去ろうとしていたようね。でも、祟りを恐れて、破壊することはできず、こうして神という名目で、社を建て、外部の目に触れないようにしたってわけ。その意味では、私たち家系は、この『羽』を隠すという使命を負っているとも言えるわね。」

「…なるほど、それで、おれの夢とその『羽』になんの関係があるんだ?」


 由里子はその先を話すことに少しためらいが在るようだった。

「あのね。今迄のことも充分急な話しだったと思うんだけれど、この後はもっと突飛もない話なのよ。だから、信じてもらえるかどうか…。」

「…まぁ、とりあえず話てみろよ。」

 言葉をまとめるように由里子は少し考えてから、再び語り始めた。

「…あのね、実はこの『羽』、一つしかないわけではないの…。いいえ、普段私たちが生きる世界には、一つしかないのだけれど、その、人々が普段見たり感じたり出来ない別のいくつかの世界に、これと同じ『羽』がそれぞれあるの。」「別の…世界?」

「そう、次元が違うとでも言えばいいのかしら。とにかく、普通の人は絶対触れられない、別の世界があるのよ。」

「普通の人?ってことはそれを見たり出来る人もいると言うことか。」

「ええ、少なくとも、代々私の家系はそれを見ることが出来た。『夢』みたいなものとして。夢見とかって言われたりもするのかしら。この家系が『羽』を守る役目をおわされたのは、その力があったからなんじゃないかしら。きっと当時の何人なんぴとかが、この『羽』がこの世にしかないものではないことを、気付いたり、在るいは中国の人々から聴いたりしてたのでしょうね。それでね、ここからが重要なんだけど、ここ二、三日の私の夢の『世界』の中にあなたがいたの。あなたはその『世界』で『羽』を追っていたわ。」

「ええと?どういうこと?」

「あなたは、知ってか知らずか、いつの間にかこことは違う別の世界に、一時的に行っていたと言う事よ。」

「つまり、おれが夢だと思っていたあれは、その、『世界』での出来事だっていうのか?おれにはそんな君みたいな力ないよ。」

「いいえ、私たちは夢として世界たちを見ることは出来ても、そこに行く事は出来ないわ。そんなことが出来るのは、私の知る限り、あなただけ。」

 博史はその話をにわかには信じがたかったが、一方で、ここ何度か見る夢が、『ただの夢』ではないという感じもしていた。記憶が断片的にもかかわらず、圧倒的な臨場感、現実感がその記憶にはあった。

「これはかなり異なことなの。人が別の世界に行けるようになるなんて…。」

「君の話が全て本当だとして、どうしておれはそんな能力を得たのだろう。」

「分からない。でも、決して偶然ではなく、それにはなにか重要な意味があるんだと思うわ。そしてあなたが経験した『現実』から察して、それは『羽』に関すること…。おそらく近い内、あなたは夢を通じて別の世界へ行く事になるでしょう。一夜の夢としてではなく、れっきとした『現実のその世界』で、生きる日々が訪れると思うわ。」

 一通り話し終えると、由里子は再びランプを箱にしまい、また何かをつぶやいた後、本堂の方へしまいにいった。


 由里子が戻ってくるのは待って、博史はおいとますることにした。


「あなたは、恐らく『羽』を探す羽目になるのだと思う。この世界の『羽』のように、人が持っているとは限らないから…。」

 そういって由里子は彼を送りだした。


 多くを博史に教えた、由里子だが、そのことは彼女すら知る運命になかった。



 『今夜』だと言うことを……。



 その夜、いつもどおり博史は風呂を済ませた後に、床についた。

 由里子の話が気になってはいたが、元々寝付きがいいこともあり、やがて夢の世界へと運ばれて行った…。



 また同じ風景…。『違う』世界の荒涼とした大地…。

 はるか遠くに見える赤々とした光…由里子の家で見たのと同じ……。


 おれはその光の方へ歩いて行った。たどり着けないことは半ばわかっていた。でもその光に引き寄せられて、歩いていった。


 届かない、届かない…。

 やがておれの足は鉛のように重くなって行った…。


 もう…動かない…

やがて、おれはその場に倒れこんだ……。


遠のく意識の中で誰かの声を聞いた……。


「ねぇ、誰かいるよ…」

「…大変、『しゅ』に当てられたのね…」


 その後も何か話していたようだったが、彼の意識は遠くへ運ばれた。



 彼が、異世界へ渡ったのを、由里子はその夢で見ていた。そして、この世界と、異世界をつなぐ結界が閉じられていくのを…。「ついに、逝ってしまったわね…。」

夢か

 『現実』かの狭間で、由里子はそっと呟いた。




 由里子は、少なくともしばらくの間は、博史はこの世界からは消えてしまったと思っていた。それが現実にどういう影響をきたすのかは彼女もしらなかったが、とにかく、彼は今『ここ』にはいない、と思っていた。


 だからその翌朝学校へ行った時、博史が既に彼の席に座っているのを見て、さすがに由里子も驚いたようだった。

「よっ。」

 目をまんまるにしている由里子に、博史は簡単にあいさつした。

「ど、どうして?あなたは確かに…。」

「ちょっと待て、教室でその話はまずい。変におもわれるだろう。放課後にな。」

 由里子は再びその日一日中彼のことが気になってしょうがなかった。



 放課後、二人以外誰もいなくなった教室で、博史は話始める。

「端的に言うと、だ。向こうとこちらでは時間の流れが全くちがうんだ。まあ、世界が違うんだからな。だから、向こうでいくら長い時間を過ごそうと、こっちで同じだけの時間が経つとは限らないと言うことだ。おれがこの世界のこの時間に戻って来られたのは、向こうの世界に『そういう力』を持つ人がいたからだ。本当なら、おれは戻って来られなかったかもしれないし、戻って来られるとしても、この世界のいつに戻ってくるかは誰もわからないところだったんだが…。『力』をもつあの人に逢えたのも、また、運命ということなのだろうか…。」


「あっちでは、何があったの?『羽』は、世界はどうなったの?」


「そう、それだ問題は。きみは当然そのことを知りたがるだろうと思っていたのだけど、だけど、おれがそのことについて詳細を語ることは出来ないんだ。」


「どうして?」


「そのことをきみに話す事によって、この先の運命っていうのかな、この先『あらゆる世界』で起こるだろう出来事が変わってしまうかもしれないからだ。だから他人には、殊にきみには絶対に、あの世界の出来事を深く語るべきではない。ただ言えるいくつかのことは、確かにこの一連の出来事には『羽』が関連していること。そして、まだ事態は『解決』していないこと。そして…

きみもこの事には深く関わることになるだろう。ということだ。」


「私が?」

「そう、きみはただの傍観者には終わらない。この先大きな出来事が、きみにも起こるだろう。それについては、おれも深く知る事は出来なかった。出来てもどうせきみには話せないのだろうが…。」とりあえずは、普段どおりの生活を送ればいい。その時が来るまでは、これといってやるべきこともないからな。」

「…わかったわ。」

 博史がどこか変わったように、頼もしくなったように見受けられることから、由里子はあの世界で彼にとって重大な、大変なことがあったのだろうことを察した。



続く

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