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アナタに会って

漁っていたら書きかけの短編があったので生存報告を兼ねて投稿。

(加筆・修正の時終盤1000字くらい削ったかもしれないです)


放置し過ぎていろいろ忘れててヤバいですが、本編の方もちゃんと終わらせる気ではいますのでもうしばらくお待ちください。

お母さんが再婚する話は前から聞いていた。

ようやく本格的にそういう話に入り始めたみたいで私はその相手の家に連れていかれた。

私の義父さんになる人には私より少し年上の息子さんが居ると聞かされていた。

「その子には私も今日初めて会うんだけどね」

苦笑いしながらお母さんは言った。



中堅どころのデパートや駅に近いという便利そうな場所にその家は建っていた。

「いらっしゃい千冬」

お母さんがインターホンを押して少し待つと優しそうなおじさんが出て来た。

彼はお母さんに微笑みを向けた。

息子さんの年から考えると40は過ぎているのだろうけどそれよりも若く見える。

「こんにちは、勇さん」

お母さんも軽く頭を下げて彼と同じように微笑みを向けた。

それを見て私は小学生の頃の事を思い出した。

まだお父さんが家に居た頃の事を.......。

お母さんが勇さんに向けているソレはお父さんに向けられていたものと同じだった。


チクリ


「奏?」

肩にお母さんの手の重さを感じる。

なんだかぼうっとしてたみたいだ。

「ほら、勇さんに挨拶して」

その優しく諭すような声でなんだか小さい頃を思い出す。

そういえば最近こんな声聞いてなかったな。

「奏です。中2です」

出した声は少し堅かった。

「ふーん、優の1個下か」

優.......息子さんのことだろうか。

「部活は何かやってるの?」

「はい、剣道を」

「なかなか利発そうな娘さんじゃないですか」

楽しそうに微笑む勇さん。

「はい、自慢の娘です」

微笑み返したお母さんはイキイキとして見えた。



波長が合うって事かな。

イキイキしているお母さんを見ながらぼんやりと考える。


チクリチクリ

何か汚い物が私の中に貯まっていく......そんなビジョンが浮かんだ。


それから少し話して勇さんに家の中に通される。

「あれ、優君はどこに?」

お母さんが戸惑ったように部屋を見回す。

勇さんが困ったようにため息を吐く。

「家に居る時は部屋に閉じこもりきりで......よっぽど堪えたんでしょう」

天井を見上げながら勇さんは言った。彼の部屋は2階のようだ。

ふと、お母さんを見ると目を伏せていた。

「......ご挨拶しても? 」

「どうぞ」


二人の態度で大体の察しがついた。

勇さんとお母さんに付いて和室に入るとこじんまりとした仏壇が置かれていた。

お母さんより少しだけ若く見える女の人の写真が置れていた。

お母さんが仏壇の前に座って手を合わせ――――私を軽く睨んだ。

「ほら、早く」

あ、私も......って、当然ね。

小走りでお母さんの隣に行き見様見真似で挨拶を済ませた。



「......ったく、挨拶くらいしに来いよ」

頭をガシガシと掻きながら勇さんは言った。

用意された麦茶を口に含みながらその様子をぼんやりと眺める。

「いえ、気になさらないでください。そのうち顔を合わせる機会くらいあるでしょう?」

「それもそうですが.......」


彼はこの話をどう感じているんだろう?


「えっと、優さん。でしたっけ? 息子さんの名前」

「あ、ああ。 あいつがどうかした?」

気が付くとふと思いついた事を聞こうとしていた。

「優さんは今回のこれをどう感じているんですか?」

勇さんの顔が少し歪む。

「......口では反対してない」

「勇さん?」

「ただ、態度では......あまり」


私だけが捻くれてるようでもないみたいだった。


「奏ちゃん?」

「なんで笑ってるのよ?」

無意識に口の端を上げていた。

「もしかして奏ちゃんは俺とお母さんとの再婚を快く思ってなかったりする?」

勇さんが戸惑ったように聞いてくる。

「別に反対してる訳じゃないですよ。実際会ってみてもいい人そうですし」

チラッとお母さんを見る。

少し不機嫌そうだった。

「ただ上手く言えないんですけど......お母さんと貴方が楽しそうに話してるとなんだかモヤモヤするんです」

そう、本来笑っているお母さんの隣に居るべきなのは―――――。



「......もう乗り越えたはずなのに」

慌てて勇さんが持って来たティッシュを次々と湿らせていく。

お父さんはもういない。

だからお母さんが誰と付き合っても、その結果結婚してもなんら問題ない......ないのに。


まるで、またお父さんが死んじゃったみたいな気持ちに。


そっか。 私は――――


「奏ちゃん?」

気が付くと勇さんが私の顔を覗き込んでいた。

「辛い時は思いっきり泣くといいと思うよ」


何をわかったようなことを言っているのだろう。



階段を降りる足音がした。

「優? どうした?」

「水飲みに来たんだよ......こんちわ」

思わず顔を上げると......勇さんを若くしたような人が部屋の戸口に立っていた。

「......何を泣いてるんだ?」

「えっ!?」

呆けていると不機嫌そうに声をかけられる。

気が付くと温かい物が頬を伝い落ちていた。


「あー、やっぱいいや。父さんティッシュ取ってよ」

優さんは手を頭の後ろに組んで私と別のソファーに倒れ込んだ。

「あ、ああ」

勇さんが背を向けて部屋を出ていった。(枚数が少なかったのか、使いかけの物は空にしてしまった)

「ねぇ」

「.......はい」

背もたれに頭を乗せながら気怠そうに話しかけられる。

「君、名前は?」

「......――――――奏です」

本来の名字を名乗ったのはせめても虚勢。

もう少ししたら今の私は消えて、【伊島奏】として生まれ変わる。

それは何の力も持たない中学生の私には覆せない事。



せめてその時の来るまで悪あがきしたっていいでしょ? お父さん......。



「!? な、何!?」

頬への突然の刺激に思わず飛び退く。

「あ、ごめん」

「優......」

苦笑いしながら謝る優さんと呆れたような勇さん。

彼の手にはティッシュが握られていた。


どうやら彼は私の涙を拭こうとしていたよう......。


「うぅ......」

座りなおした私に再びくすぐったい感覚が襲う。

目を見つめて無言の抗議をする。

彼はそれを意に介せず黙々とティッシュで私の頬を拭い続ける。

いつまでやっている気だろう?

突然私から目を逸らして部屋を見渡すように素早く目を走らせた。


目に映る優さんの顔が大きく......えっ?

戸惑う私に構わずどんどん顔は近づいてくる。

「あのさー」

「は、はいっ!?」

「静かにしてよね、せっかく二人が俺たちから意識を逸らしてるんだから」

あ、お母さんたちが見ていないかを確認していたのね......って。

「何を?」

彼を睨むも意に介した風もなく彼は私の耳に口を近づけた。

思わず叫びそうになったが手を口に押し当てられる。


「君は自分が悲劇のヒロインだとでも思ってるのかもしれないけどさ」

もがく私に構わず彼は淡々と言葉を投げかける。

「俺だって似たような物なんだぜ? 親同士の都合で振り回されて......さ」

「......っ!!」

思わず体が小さく跳ねる。

少しして優さんは口から手を離した。

また温かい物が私の頬を伝って落ちた。


その日、私は新しい家に共犯者の存在を見出した。




結局お母さんと勇さんは何事も無く再婚し、私は【伊島奏】になった。

少し中学校は遠くなったけれど近くにデパートがあるのはなかなか便利だと思う。

「ただいま帰りました」

外にはもう街灯が点いている時間だった。

「おかえり」

リビングから返事が返ってくる。

学生鞄を降ろしながらドアから中を見ると優さんが机に教科書やノートを置きっぱなしにして床に寝転んでいるのが見えた。

「いいんですか? 受験生なのにサボってて......」

マフラーを解きながら優さんに話しかける。

お母さんも勇さんも仕事に行っているから家には私たちしかいない、とても静かだ。

「休憩だよ、休憩」

欠伸を手で隠しながら起き上りテーブルの上から単語帳を取り、また寝転がる。

その様子を見て思わずため息が出る。

「どうした? 何か悩みでもあるのか?」


色々と言いたいことが喉元まで上がって来たけれどそれを咳払いでごまかす。

「だらしないと思わないのですか、優さん」

目を単語帳に向けながら無言で首を振る。

「勉強なんてどんな姿勢でやったって結果が良ければ同じだろ? それこそテレビ見ながらとか友達と駄弁りながらでも」

先生の前で言ったら小言を何個ももらえそうな言い草だ。

「だったらさぁ、体に負担のかからないこの姿勢の方が能率が上がると思わない?」

「思いません、それより邪魔なのでどいてください」

彼の体は丁度いい感じに台所へ向かう道を塞いでいた。

「嫌だね、あっちから回ればいいだろ?」

回り道をすればいけないこともないけどそれなりに若干リビングを通るより時間がかかる。

......つくづく人の神経を逆なでするドヤ顔ですね、優さん。

割といい人だと思った初対面のアナタはどこに行ったのですか。

「こっちから行った方が早いじゃないですか」

「俺は動きたくないんだけどなぁ」

クネクネしないで欲しい、アンタは駄々っ子か。

「そうだ、跨いでいけば?」


私は今学校帰ってきたところだ。つまり制服。女子の制服は大抵スカートだろう。ズボンが制服なんて聞いたことが無い、要するに私は―――――。


「ふざけているんですか? この恰好じゃ跨げる訳無いじゃないですか」

スカートを履いているという事がこんなにも恨めしいと思うのは初めてだった。跨いだ場合下手をすればこの憎たらしい義兄に下着を晒す羽目になる。


「ははっ、冗談だよ」

どこからどこまでが冗談なんだろうか?

優さんは床に手を突いて起き上り私に向き直る。

「ところでさ奏ちゃん」

さっきまでと似ても似つかない真剣な雰囲気を漂わせている。

「は、はい」

その雰囲気に思わず私は優さんの前にしゃがんだ。

「俺たちが家族になってどれくらい経った?」


「え」


予想外の質問だった。

「え、えと1か月くらいですかね?」

「ここでの暮らしには慣れた?」

重ねて質問される。何がしたいんだろう?

「はい......まぁ」

「だよねぇ」

私の答えは彼の予想と同じだったようで満足気に頷いていた。


「ずっと気になってたんだけど、なんで俺たちとは他人ですみたいな態度をしてるの?」


優さんは笑いながら言った。目は笑っていなかったけど。

「え、そういう風に見えてますか?」

あくまで無意識でやっていたかのように繕う。

「そもそも家族に敬語なんか使うか?」

普通は使いませんね。

「一応さ、義理とはいえ家族なんだよ、俺たちは」

眉根を寄せながら語りかけられる。

「色々親父には言いたいことはあるけど、それでも喜んでるんだぜ? 妹ができて」

「......妹の真似事をしろと?」

少し棘のある口調で返した。

「いや、実際義理だとなんだろうと妹だし。なんていうか敬語だと拒絶されてるみたいで嫌なんだよね」

優さんは再び表情を引き締めてそう言った。

「......私は正直言ってアナタを兄として認めたくないのです」


それはお父さんに対する裏切りのように感じられるから。


「ちょっと、なんでそこで泣くのさ.......」

まただ。

なぜかこの人の前だと自分が弱くなったかのような感覚に襲われる。

手の甲で目を擦る。

「手で擦ると視力が落ちるんだってさ」

優さんがティッシュの箱に手を伸ばしながら言った。

差し出されたティッシュを頭を下げながら受け取る。


「割り切れないんです」

私はおもむろに口を開いた。

「え?」

「お父さんはもう死んじゃってて、お母さんはそういう事で自由なのは分かってるんです」

優さんが怪訝そうな顔をしているのを無視して私は続ける。

「でも、私のお父さんは死んじゃったお父さん一人で......勇さんは」

声が詰まる。

「......自分でも上手く言えないんです。頭の中がグチャグチャで」

俯いた頭が重くなる。

視線を上げると優さんの腕が見えた。

「何が言いたいのかピンとは来ないけど」

置かれた手が私の頭から離れ―――

「痛っ!?」

―――――私の額を弾いた。

「い、痛い......」

思わず額を押さえる。

「なるようにしかならないんだよ、人生はきっとそういう物なんだ」


「......」

涙の滲んだ目で睨む。

「まぁ、とりあえず? なるようになった結果同じ屋根の下で暮らすことになったんだ。お互いそういうギスギスしたのは抜きで行こうぜ」

そのドヤ顔がたまらなく腹だだしい。

「それで、デコピンする必要あったんですか?」

「そりゃ、あるだろ」



「......え、ちょっとかなd...痛てぇっ!」

あまりにもあっけらかんと言われたので優さんの頬に手を伸ばしてそのまま摘んで引っ張った。

彼は私の手を払ってそのまま頬に手を当てて少し私から距離を取った。

「......デコピンの仕返しかい?」

普段より低い声で聞かれた。

私はその問いに頷いて肯定の意を示した。


......それを見た優さんの目が怪しく煌めいたのはきっと幻覚では無いと思う。


「......スキンシップだよ、スキンシップ」

くしゃくしゃになった髪の毛を手くしで整えている私を横目に優さんは言い訳がましく言った。

その頬は若干赤くなっている。

「限度って物があると思います......」

あぁ、手がヒリヒリする。


「それにしても意外だな」

ひっかき傷のできた頬を擦りつつ優さんは口を開いた。

「何がです?」

「いや、思ったよりも......その、アグレッシブな感じだったからさ」

もしかしなくともさっきのこの人の言うところの『スキンシップ』のことだろう。

「なんですか? 黙って抓られてりゃいいのにとでも言いたいんですか?」

「そうじゃないけど......上手く言えないからいいや」

そのまま話を始める前のようにゴロリと横になった。

「......」

「どうした? これなら跨ぐ必要もないだろ?」

無言で見つめていると怪訝そうな声色で話しかけて来た。

「一ついいですか?」

彼は顔を私に向けただけだった......少しは誠意を見せてほしい。

「どうして私を気にかけてくれるんですか?」

思えば最初からかもしれなかった。

彼はとことなく私を気にかけているような節があった。

自意識過剰と言う物かもしれないけれども掴み合いをする前の話の流れからしてこの予感は当たっている気がする――――まあ、外れていたら正直恥ずかしいじゃすまないけれども。


「......君に似てる子が知り合いに居たんだ」

彼は再び床の上で体を傾けて私から顔を背けた。

「性格も外見も似ていない......けど」

言葉を切って私に視線を向けた。

「最初に会った時の君の表情が.......ね」


――――アイツを思い出させたんだ。


「その時は今よりももっとガキでさ、俺にはアイツの為に何もできなかったんだ」

背中を向けているせいで表情をうかがう事はできない。

「......正直こんなことしててもアイツがどうこうなる訳じゃないって事は分かってる。 ただの自己満足だ」

「......」

何が起きたのか、そしてどうなったのか......そういう肝心な所が見えてこない。

でも、彼が『アイツ』と呼んでいる子を大切に思い案じていた事が伝わって来た。

「正直自分でもおせっかいだと思うし、迷惑だと思うかもだけど」

彼は言葉を切り、体を起こして私の方を向いた。

「俺は義理とはいえ妹にアイツと同じ(表情)をさせたくないんだ」





月日の流れは早く、冬が過ぎ春が来る。

外の景色、兄の着る制服。 色々な物が変わっていく――――変化の季節。


そう、時が流れるにつれて物事は少しずつ変化してゆく。

変わらない物は――――きっとないのだろう。


例えば私の家族のように。


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