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序章-Part.Final_繋いだ手、並び起つ想い

フードというベールを取り払ったローの顔は、機騎はたきが想像していたよりも、ずっと幼く見えた。


「...?」


ローが首をかしげている。


「(こんな顔してたのか...いやいや、それより今何て言った?世界を変える?)」


機騎は考えていた。この少女、ローが何を言っているのか。正確には、言っている事の意味を。

ローがたった今言ったことを信じるとするならば、理由は何であれ世界は滅びる...ということらしい。

逆に、ローが言ったことを信じないならば、なぜこのような事を俺に言ってくるのか、その必要性を。


「って、我ながらこんなに落ち着いていられることに今驚いてるわけだが」


「どうしたの、機騎?」


「いや...何だかよく分からないけどとりあえず世界が滅びる云々は置いといて」


「いや、置いとかれちゃ困るんだけど...」


はぁ、とため息を吐くロー。

機騎は落ち着きてきたので、よっ、と立ち上がった。


「さっきローさんは俺の事を守りに来たって言ってたよね?っていうことは、考えるまでもないけど俺って今狙われてるってことだよね?」


機騎は今さらな質問を投げかける。というか、機騎自身にとっては今一番大事な問題でもあるが。


「うん、殺し屋に追われてるって言ったほうがいいわ」


それにサラリと、ナチュラルに『殺し屋』なんてワードを使って答えるロー。少し機騎の顔が強張る。


「そうか。じゃあ、なんで俺は今追われている?残念なことに俺を追って殺したところで何にも手に入らないぞ、その殺し屋とかは」


「うーん、まぁ妥当な考えだと、一番とろそうだから狙われたんじゃない?」


先程立ち上がった機騎だったが、その場にゆっくりとしゃがみ込んでしまった。

何やら思う所があったらしい。


「俺ってそんな風に思われてたの?ちょっと心外だな...って、『一番とろそう』って、何と比較されたんだ、俺は」


「それは...決まってるじゃん、貴方の家族だよ」


「なっ...!?」


ばっと立ち上がる機騎。

先程の機騎の強張っていた顔が、怯えたものになる。


「な、なんで俺の家族が狙われる!?目的は『俺自身』じゃなかったのか?」


「それはあくまで初めに殺す相手がだれかって話。もしも貴方達一家と戦うことになってしまっても敵は少ない方がいい、だから、弱い奴は先に倒しておこうって考えでしょうね」


「要は俺が椅酉家最初の犠牲者になれってことか」


つまり、これは椅酉家全員を狙った殺しと言うことになる。

もしここで機騎が逃げれば、残った家族は皆殺しになるだろう。逃げなければ、まず最初に殺されるのは機騎自身、そのあとに家族ということになる。


「なんだなんだ、ますます訳が分からない。なんで俺たち一家が狙われてるんだ?なんか秘宝でも持ってるのか?俺も知らないような、とんでもないモノがあるとでも?」


機騎がそう言うと、ローの表情が少し曇る。

それに機騎も気が付いたのか、何も言わずにローの顔を見る。...見るというよりは凝視に近い。


「機騎、本当に貴方は知らないのね?貴方達が住む、あの椅酉宅が建っているあの『場所』が、どれだけ特別なモノなのか」


「もったいぶらずに教えてくれ。俺の家がある所がどう特別だっていうのか」


それを聞いたローは少し戸惑ったように見えた。


「...........簡潔に言うと、あの場所から『崩壊』が始まる。『この世界を滅ぼす崩壊の夜』が」


機騎の顔が、いったい何を言っているんだ?という表情になる。

それは無理もないことだろう。いきなり自宅が崩壊の始まりの地などと言われているのだから。


「...残念、その手のジョークには引っ掛からないよ。と、言いたいところだけど」


機騎はついさっき起きたことを思い出す。

目の前で人が死んだ。それにすら何か怖ろしいモノを感じるが、その死に方があまりにも非現実的だった。

切断でもなく圧殺でもなく、いきなり人の身体が爆散したのだ。しかも、この路地に連れてこられる前にチラッと見たのだが、あれだけの爆発が起こったのに、アスファルトでできた道路は砕けてすら、ヒビ一本すら走っていなかった。

あんなのは人間のやる殺し方じゃない。方法も異常だが、それ以上にあの男の言葉が耳に反響する。『関係ないのだから』、と。まるで人を殺すことに躊躇いを感じさせないセリフだ。


「どうやらその話は本当みたいだ、ね。今後信じるかどうかは置いといて、今は信じるしかなさそうかな」


「理解が早いね...じゃあ、ここから少し移動しよう。ここは細い路地だし、敵に見つかると厄介だ...し....」


最後まで言い終わらないうちに、ローがバタリと倒れる。

その倒れてきた身体を、しゃがんでいた機騎は慌てて受け止める。


「ローさん、ローさん!?いきなり、なにが...」


「ふ、ふふふ、どうやらツメが甘かったようね...まさか『私たち』が負けるなんて」


「何を言って...」


『機騎、その人から離れて』


暗い路地の奥、暗くてよく見えない闇から声が聞こえてくる。

しかし、その声に機騎は聞き覚えがあった。なぜなら、『つい今まで聞いていた声』だからだ。

その声の主は、ゆっくりと僅かな光が照らす所へと出てきた。


「ローさんが、『もう一人』...!?」


暗闇から出てきたそれは、ローだった。

機騎が今支えているのも、ローだった。


「...まったく、敵の輩も随分と手の込んだ仕掛けトラップをしかけてくるじゃない」


暗闇から現れたほうのローは、そのまま歩調を崩さず機騎の前まで歩いてくる。

そして機騎が支えているローの身体に触れる。

それは、まさしく刹那の出来事だった。

機騎が支えていたローの姿が、一瞬ぐにゃりとゆがんだと思うと、瞬きする間もなく『別人』になってしまっていた。


「...っ、うわ!!」


それに気が付いた機騎は、その別人から一歩身を引く。

支えるものがなくなった別人はそのまま地面へとふわりと倒れる。


「...まったく、敵の事まで面倒見なければならないなんて。この時間だと、楽しいことも多そうだけど面倒も多そうね」


よく見ると残ったローが手をかざしている。どうやら別人になったローがゆっくり地面に倒れたのは彼女がそうしたためらしい。


「何が、起こった...?」


「こんばんは、機騎。朝ぶりね」


ペコリと、残ったローがお辞儀をする。


「俺にとってはつい今の今まで隣に居たんだけどな」


「まぁ、そういわれれば、そうかもだけど」


そして、ふと機騎は目線を落とす。地面に倒れているのは、今までローだった別人だ。


「...この地面に倒れているのは誰なんだ?」


機騎が質問する。


「さっきの黒い男の仲間よ。私も朝から貴方の事を追おうとしてたんだけど、どうも『ばす』というものは速くて追いつけないわ。それで、見失ってしまって、仕方がないから夕方まであなたの家の近くを周回してたの。そしたら、さっきの例の爆発。慌ててこっちに来てみたら機騎が『私自身』と会話してるってわけ」


「つまりあんたが本物のローさん、ってわけ?」


「そうよ、言わなくても解るでしょ?私が、朝に貴方と逢った本物のロー」


そう言って自分の胸をぐっと親指で指す。まるで自分の存在を誇示するように。


「って、結局本物が来ても俺が殺し屋に追われているっていう事実は消えてないよね?」


「あぁ、さっきの黒い男?大丈夫よ、もう抑えてきたから。今はこの倒れてるのと同じように気絶してるわ」


そう言ってローは地面の別人を指さす。


「倒したと?」


「そうよ」


はぁ、と機騎がため息を漏らす。

機騎は座っていた状態から立ち上がり、そこで自分がバックを肩に掛けていないことに気づく。


「これ?」


機騎が辺りをきょろきょろ見回していると、草まみれのバックをローが取り出す。


「あ、いつの間に回収してたんだ」


「さっき貴方が吹き飛ばされてぶつかった柵の辺りに」


ローからバックを受け取った機騎は、衣服に付いた土埃をパンパンと叩き落とす。


「それからね、機騎」


そうしているときに、ローが話しかけてくる。


「俺何かまだ落としてた?」


「ううん、そうじゃなくて。さっきの男と、その仲間とかについてだけど」


ローはそこで一呼吸置く。


「彼らは、殺し屋なんかじゃない」


ローは視線をずらさずに凛と機騎をている。


「殺し屋じゃなかったら、いったい―――」


機騎が言葉をこぼし、


「―――彼らは、遡航者アクター。いずれ滅びる世界、魔英の夜が支配する未来から来ている。人間を滅ぼさんとする存在。そして―――」


ローが言葉を続け、


「そしてまた、私も遡航者アクター。遠い未来、僅かに残った科学の力で、過去に来た者。魔英の夜に抗い、世界崩壊を止めようと願う人類の代表―――」


「ローさん、いったい何を言って...」


「だから、どうか協力してほしい。貴方に、あの場所に。これから訪れる脅威に抗い続けるために」


機騎はもうただ黙っていた。


「―――私の、命と誇りを賭けて」


そういうとローは、視線を下に落とす。

そして、ゆっくりと右手を機騎に向かって差し出す。

機騎には解った。この右手を執るということが、もしかしたら、自分の今後を大きく左右するであるかもしれないという事に。

差し出されたローの手は、微かに震えていた。先程は落としていたのは視線だけだったが、ローの顔もいつも間にかうつむいていた。


「......残念ながら」


「っ...!!」


「―――残念ながら、俺にはそんな途方もない話を信じれるような要領は無いし、臨機応変に動く行動力も無い。ただ俺が、俺の家族が住んでいる場所が特殊だったからと言ってそう易々と世界救世の掛け声に応じるのも、すごく迷う」


「・・・・・・」


「―――だけど」


「...?」


ローは俯いていた顔をあげる。そこにあるのは、妙に嬉しそうな、わくわくした表情の機騎の顔があって、少し照れくさそうにしている。


「だけど、それは極々一般的な人だったら考えるだろうな、っていう俺の意見だ、推論だ。俺がどうしたいこうしたいと考えた答えじゃない。......もうここまで言えば、いい?」


「...っ!!」


「そういうことで、ローさんの言う世界救世っていうのに共闘させてもらうかな」


「...ありがとう、ありがとうありがとう...!!」


しっかりと手を取り合ったローと機騎は、更に深く手を握り合った。

ローはというと、空いた方の手でぽろぽろとこぼれる涙を拭いている。


「それじゃあ、なんかさっそくで悪いけどローさん、俺は何をしたらいいか教えて」


「......ぅちを」


「え?」


「...今日のお家を、探さないと...」


「いきなりハードル高くないですかっ!?」


「だって今日の朝来たばっかりなんだから...」


「えぇぇー...もう真っ暗だし探すのはほぼ無理じゃん...」









こうして、未来と地球ホシを賭けた物語は、廻り始めた。

小さくきしむ、歯車のような音を立てて。












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神格少女のセレイド/ファクト

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http://7956.mitemin.net/i68070/













特に無し。誤字脱字がある場合は早めに対応します。

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