前川邸
その日。
土方さんは。
何かピリピリ。
甘えると。
撫でてくれるけど。
どこか上の空。
夜。
土方さんは。
出掛けてしまった。
近藤とかと。
……また、島原とか。
うーっ、嫌ああぁ!!
気がつくと夜中。
なぜかぞわぞわする。
ドキドキ、ドキドキ……
落ち着かなくて。
鼻をすんすん。
なんか。
普段と違う。
匂い……
ドキドキ、ドキドキ……
胸が。
ざわざわ、ざわざわ……
嫌な感じで。
怖いよ……
密かな足音。
静かに障子が開く。
思わず。
震える私。
「セイ…… 起きてたのか?」
掠れた。
土方さんの声。
何か様子が違って。
飛び付けなくて。
私は黙って。
土方さんを見上げる。
ゆっくり。
土方さんの手が近づく。
逆光で。
見えないけど。
なぜか。
泣いてる気がした。
ゆっくり。
抱上げられる私。
ゆっくり。
抱締める土方さん。
さっきから。
漂う匂いが分かった。
土方さんから。
僅かに。
血の臭い……
翌朝。
珍しく健ちゃんが。
新八達と一緒に居た。
この時間はいつも。
向こうに居るのに。
珍しい。
不思議に思いながらも。
私は。
向こうの家に向かう。
土方さんに。
見つからないよう。
コッソリと。
何か、静か。
何か、変な感じ。
いつものところに。
錦が居ない。
いつもの部屋に。
鴨ちゃんが居ない。
出掛けてるのかな?
ドキドキ、ドキドキ……
何か。
ざわざわする。
落ち着かない。
胸を抱えて。
私は。
鴨ちゃんの部屋の真ん中で。
ころりと丸くなった。
早く。
帰って来ないかなぁ……
ふと目が覚めると。
外は。
橙色。
もうすぐ。
夜なのに。
誰も。
帰って来ない……
私はまた。
きゅうっと丸まった。
静かな足音。
私が顔を上げると。
障子が。
静かに開く。
「やっぱり、ここに居たのか……」
来たのは。
錦でも。
鴨ちゃんでも無くて。
泣きそうに。
優しく微笑む。
土方さん……
「……帰るぞ」
手を伸ばす。
土方さん。
でも、私は動けず。
ただ。
土方さんを見上げた。
「セイ…… もうここには誰も居ない」
どうして?
「おいで、皆心配してるぞ」
どうして……
帰って来ないの?
何となく。
分かってはいる。
ただ。
認めたく無くて。
会いたくて。
でも。
きっと。
もう。
居ないんだ……
「おいで」
もう一度。
はっきりと。
土方さんが私を呼ぶ。
跳ね起きて。
走って。
おもいっきり。
土方さんの胸に飛び込んだ。
「帰るぞ……」
土方さんは。
私を優しく抱締めて。
ゆっくり、ゆっくり。
いつもの場所へ向かって。
歩き出した……
その日はずっと。
土方さんは。
私を優しく。
撫でてくれた。
ずっと、ずっと。
私が眠るまで……
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