知恵くらべ
それは。
静かに揺れている。
誘う様に。
挑発する様に。
私は。
低く構え。
力を溜める。
前足で。
方向を定め。
腰から。
後ろ足に向かう。
程良い緊張。
尾を振り。
切っ掛けを計る。
相手はじれ。
私の前を。
掠め始める。
まだ。
まだ。
もう少し。
相手の動きは早い。
瞬発力もある。
確り。
その瞬間を。
見極めなければ。
負けは。
許されない。
確実に。
捕えなければ。
私は静かに。
力を溜める。
それは。
とうとう。
私の身体に触れ始めた。
ぴくり。
と、緊張が走る。
焦ってはダメ。
釣られてはダメ。
私は。
全神経を研ぎ澄まし。
その瞬間を待つ。
遂に。
それは止まる。
一歩の距離。
今っ!
私は。
全ての力を。
後ろ足に乗せ。
一瞬で飛び出す。
触れる。
手応え。
しかしそれは。
真上に逃げようと。
もがく。
逃がさない。
私は。
爪を出し。
牙をむいた。
だが。
後方へ飛ぶそれ。
追う私。
それは。
急角度で。
真上に飛び上がる。
くっ!
目の前には壁。
私は。
前足で勢いを殺し。
身体を丸めて急停止。
そのまま。
力を後ろ足に流し。
壁を蹴って。
角度を変え。
また。
それに躍りかかる。
ゆらゆらと。
舞う様に。
逃げるそれ。
おのれぇ……
逃がさんっ!
「うーん、見事な踊りっぷり」
「すげぇぜ!」
感心する。
平助と左之。
「俺にやらせりゃあ、ざっとこんなもんよ!」
むあぁーっ
得意気な台詞。
その紐よこせー!
新八いいぃっ!!
それから。
暫くして。
不意に。
紐が落ちて来た。
転がり。
絡まる私。
「セイは元気良すぎっ」
疲れた新八が。
降参した。
でも。
笑い続ける。
三馬鹿。
………………。
なんか。
むかつくっ!
それから。
少し散歩して。
土方さんの部屋に。
帰ろうとしたら。
何やら。
話し声。
廊下の。
角を覗くと。
土方さんと新八が。
何やら。
立ち話。
ふふふ……
ここで。
会ったが百年目。
新八。
覚悟おぉ!!
私は。
再び低く構え。
力を溜める。
そして……
「っ!!!! ぐおっ!?」
ズゴンッ!!
「んなっ!?」
廊下に響く。
鈍い音。
絶句する。
土方さん。
後頭部を強打して。
大の字に伸びる。
新八。
うくく……
新八の。
膝裏に。
激しい頭突きを。
おみまいした私。
強烈な膝かっくん。
参ったかあぁ!!
ご機嫌で。
土方さんに。
すり寄ると。
呆れた様に。
私を見下ろし。
一言。
「お前、すげぇな……」
土方さんに。
褒められて。
幸せえぇん!
褒められたんだよ。
きっと。
ね?
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