名前
とくん、とくん……
暖かい懐で。
秘かな。
刻み煙草の匂いと。
規則正しい音。
ゆらり、ゆらり……
緩く。
伝わる振動が。
私を優しく。
揺らす。
じゃり、じゃり……
砂利を踏む。
二つの足音。
温もりと。
揺らめきと。
規則正しい音。
私は抗えず。
ウトウトと。
眠りに落ちる。
お母さんと。
居た時と。
同じ。
堪らない。
安心感。
あったかぁい……
「うわっ! ちっせぇ!!」
突然の。
大声に驚いて。
顔を。
上げた私。
「煩ぇぞ、起きたじゃねぇか」
「可愛いぃー」
「どうします?」
「まだ小さいですね」
周りには。
人がいっぱい。
口々に。
何か言いながら。
私を。
見下ろしている。
何か。
怖くなって。
キョロキョロすると。
私は。
誰かの。
膝の上に居ると。
気づいた。
膝の主を見上げると。
さっき助けてくれた。
綺麗な人。
「このくらいだと、自力で餌を取るのは無理じゃないですかね?」
優しげな人が。
私を。
撫でながら言う。
すると。
膝の主が。
口を開けた。
「飼い主探しでもするか……」
「えっ!?」
「仕方ねぇから見廻りの時にでも……」
「ここで飼わないの?」
「馬鹿、飼える訳ねぇだろうがっ」
膝の主の叫びに。
思わず。
私は。
しがみつく。
離れるの嫌ああぁっ!?
「いてててっ、爪えぇっ!?」
「どうやら、土方さんと離れたく無いらしいですよ?」
「さすが色男、もてるねぇ」
「……てめえ、新八っ」
膝の主……
土方さんの怒りと。
小さな笑いが。
部屋の中に。
広がる。
「よし! 名前はセイにしよう」
ずっと黙っていた。
厳つい人の。
いきなりな台詞。
みんな。
意味が分からず。
暫し沈黙してから。
「えっ? 何が?」
声を揃えて。
聞き返す。
「何って、その子猫の名前」
「ちょ! 名前を付けてどうするっ」
「良いじゃないか、ここで飼えば」
「局長の許しが出たなら、決まりですね」
みんなが。
うんうんと。
頷く。
私が。
土方さんを。
見上げると。
ぱちっと。
目が合った。
「……仕方ねぇな」
もしかして。
居て良いの……
かな……?
「セイ、ちょっと来い」
土方さんが。
私を呼ぶ。
助けられた日から。
数日。
なんだか。
むさ苦しいここにも。
慣れて来た。
大好きな。
土方さんに呼ばれて。
私は。
駆け寄る。
ひょい。
と、抱上げられて。
幸せえぇん!!
「見な、これがお前の名だ」
見せられたそれは。
真新しい。
浅葱色の旗。
真ん中に。
白いのたくり。
複雑なそれは。
誠『まこと』
と、読むらしい。
でも。
セイとも。
読めるそれは。
幸せな。
私の名前……
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