鴨鍋の具
「あいつには絶対に近づくんじゃねぇぞ」
何度も錦に言われる。
なんだか。
どっかで聞いた様な。
台詞。
「側に行ったらダメだよ」
健ちゃんも。
「あれに寄りついてはならんぞ」
鴨ちゃんも。
ダメって。
言うの。
そこまで言われると。
かえって。
気になるのが。
猫情というもの。
今日もコッソリと。
彼の様子の。
観察を。
試みる。
彼とは。
平山五郎。
さすが剣客。
と、言うべきか。
結構。
距離をおいても。
すぐ気づかれる。
気づかれたらお終い。
と、決めて。
コソコソと。
ついて歩く。
ドキドキして。
ちょっと。
かなり。
楽しいかも!
ゴロは。
左目が見えない。
だから。
そっち側に。
隠れる様にしたら。
かえって。
すぐ見つかった。
右側だと。
案外。
鈍い。
どうやら。
相当な。
負けず嫌い?
弱点があると。
思われるのが。
大嫌いなんだろうなぁ……
ゴロは。
錦と同じくらい。
口が悪く。
柄が悪く。
大雑把。
でも。
鴨ちゃん相手だと。
とっても。
素直で誠実。
ホント。
錦とゴロ。
よく似てる。
そう思うと。
余計。
分からない。
何で。
近寄ったら。
ダメなんだろう?
どうしても。
我慢できなくて。
私は。
ゴロに。
近づいてみる。
斬られたり。
しない…… よね?
ドキドキ。
左からだと嫌われそう。
右からでもなんだかなぁ……
少し悩んで。
私は。
ゴロの。
正面に。
立ちはだかってみた。
「なっ!!」
驚愕する。
ゴロ。
私を。
見下ろしたまま。
固まったので。
ソロソロと。
距離を詰めてみる。
固まるゴロ。
足元に辿り着き。
座る私。
首を傾げて。
見上げると。
ゴロが動き出した。
「んなっ!? ね、ねね猫おおぉっ!! ばっ、寄るんじゃねええぇ!!」
叫ぶと同時に。
後ろに飛び退くゴロ。
見て分かるほどの震え。
全身に鳥肌。
みるみる充血する目。
とうとう。
くしゃみの連発。
………………。
なるほど。
近寄るなって。
こういう事……
「ちくしょう! 可愛いじゃねぇか!! 触りてぇ触ったら死ぬっ、だから俺の視界に入るんじゃねええぇ!!」
平山五郎。
猫好きなのに。
近寄れない。
触れない。
哀れなヤツ。
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