乙女ゴコロ
もうすぐ夜が明ける……
ヒドイ、ずっと待ってたのに帰って来なかった。
ヒドイ、ヒドイ。
どこへ行ったかは分かってる。
新八や左之のバカっ!!
が、一緒だったから。
私と言うものがありながら……
多分、きっと、し、島原なんてところにいぃ!!
ヒドイ、ヒドイ、ヒドイィ!
土方さんの浮気者ぉぉ!!
私は泣きながら、土方さんの部屋を飛び出した。
帰って来て焦れば良いのよ!
私が居ないって。
うわああぁん!?
土方さんのバカああぁ!!
私はとある部屋の前で立ち止まる。
大嫌いな。
近藤勇の部屋。
だって、土方さんが私より大事にしてるんだもん。
だから、大っ嫌い!!
八つ当たりには丁度良いか。
私はコッソリ近藤の部屋の中へ……
まだぐっすり寝てる。
土方さんてば、なんでこんな子供みたいなバカが大事なんだろう?
何か、余計に腹が立って来た。
………………。
「っ!! ぎぃやああぁあぁぁ!!」
近藤のヤツ、悲鳴も下品で耳障りだわっ
「あれ? 居ねぇ」
土方は、自分の部屋に居なかったセイを探していた。
居そうな場所を覗いてみたが、どこにも見当たらない。
「お、総司、セイを知らねぇか?」
たまたま通り掛かった沖田を呼び止める。
「セイ? 僕が知る訳無いじゃないですか、嫌われてるし」
「だよな……」
「しかし随分とゆっくりなご帰還ですね、昨夜は島原ですか?」
「う、ま、まあな」
「それでへそ曲げたんじゃないですか? セイの奴」
「まさか、分かる訳ねぇだろう」
「結構、鋭そうなんすよねぇ…… まあだとすると、誰かに八つ当たりしてそうですね?」
「八つ当たり?」
「そう」
「……」
「あっ!!」
何を思ったか、土方と沖田は顔を見合わせると。
ある部屋へ向かって駆け出した。
「トシぃぃ!! 総司も!! 何とかしてくれええぇ!?」
目当ての部屋の前で。
近藤が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、土方達に助けを求めた。
「うわ! 何ですか近藤さん、汚いですよっ」
「すげぇ顔……」
土方と沖田は、近藤の有様に思わず一歩引く。
近藤の顔には涙と鼻水の他に、凄まじい引っ掻き傷が。
「それ、セイですか?」
「そうなんだ、朝寝てたらいきなり……っ」
しゃくり上げて、声を詰まらせる近藤。
「いきなり引っ掻いて俺を追い出し、布団を占拠したんだ!」
「……」
予想通り過ぎて、思わずうんざりと溜め息をつく土方と沖田。
「ったく、しょうがねぇな」
ガシガシと頭を掻きながら、土方だけが近藤の部屋へ向かった。
足音だけで分かる。
土方さん。
障子が開く静かな音。
土方さんの匂い。
「おいセイ、こんなところに居たのかよ」
うぅ、許さないんだから!
「俺が帰らなかったから、怒ってるのか?」
し、島原なんかに行くからぁ……
「悪かったな」
あ、誤ったってぇ……
「心配したのか?」
そんな優しい声…… 反則。
「機嫌なおせよ、な?」
………………。
ひ、土方さああぁん!!
結局、抱きつく私。
優しい笑顔で、抱締めてくれる土方さん。
やっぱり、だあぁい好きぃ!!
「機嫌なおったみたいですよ、良かったですね近藤さん」
土方とセイの抱擁を少し離れたところから眺め、近藤を宥める沖田。
「なぜ……」
顔を拭いながら、ぼそりと近藤が呟く。
「なぜ、人間と猫の痴話喧嘩に俺が巻き込まれなきゃいかんのだ?」
「……さあ?」
セイに嫌われてると気づいていない近藤に、はっきり告げるのは憚られ。
溜め息をつくだけに止める沖田であった。
誠“セイ”生後約八ヶ月。
可愛らしい茶トラの猫。
土方歳三が大好きな乙女“メス”
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