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第06話 再戦

お待たせしました、続きになります。今回で女性に名前が付きます。

しかし、なぜこうなったし。

 知らない天井。とは言わないまでも、あまり見知ってはいない天井。それが、吼太が目覚めた時に見た景色だった。

 

「ここは……? イツツ……!」

 

 身体を起こそうとして、突然襲った痛みに苦しむ吼太。

 

「ダメだよコータ。まだおきちゃ」

 

「全身の骨に皹が入って、一部は完全に折れたりしてたんだから」

 

 両脇で吼太の介抱をしていたのだろう、ありすとリームが吼太を優しく横たわらせる。

 

「まさか"魔法防御"すら理解もせずに戦っていたとは思いませんでしたよチャレンジャー」

 

 不意に聞こえたその声に、思わず身体が反応する吼太。だがやはり、苦しみの声が洩れるだけで、動くことは出来なかった。

 

 声を発した人――先程まで戦っていた女性は、無表情のまま変わらない視線を送り続けていた。

 

「お前……!」

 

「まってコータ!」

 

 せめて敵意の視線を以って女性を射抜こうとした吼太に、ありすが待ったをかける。まるで、そうすることは間違いであるように。

 

「コータ、この人悪い人じゃないよ。だって、死にそうになっていたコータを治してくれたのは、この人なんだもん……」

 

 

 

 

 

 吼太とリームが完全に敗北し、気絶したあと。

 

 気絶したことにより、解除された吼太とリームの合体。ありすはピクリとも動かぬ吼太達の傍で、茫然と立ち尽くしていた。

 

 初めて見た、正真正銘の"戦い"。ただの喧嘩とは訳が違う。圧倒的な力を振るい、周辺を蹂躙するもの。

 

 友は強いと思っていた。が、それでも自分の友は捩伏せられた。

 

「……どいてもらえないでしょうか」

 

 今だガンブレードを持ったままの女性が、ありすに言う。

 

 振り返ったありすの目には、恐怖と悲しみと、そして怒りと憎悪があった。

 

「…………心配せずとも、もうこちらに戦う意思はありません」

 

 ガンブレードをどこかに、ありすが認知しない方法で仕舞った女性は、両手を上げながら言う。

 

「……うそじゃないって、どうして言えるの?」

 

「そのまま彼等を放置してもよいのであれば、私は一切の手出しを致しませんが」

 

 次第に弱まっていく吼太の呼吸、時折苦しげに歪むリームの顔。結果的に弾道ミサイルの直撃を受けたようなものだ。五体満足でいれたこと自体が奇跡的な話であり、今すぐにでも治療が必要な状態だ。

 

「……失礼致します」

 

 ありすの抵抗の意思が無くなったのを確認した女性は、吼太とリームにその手を触れる。

 

「…………」

 

 うっすらと光を放ちはじめる女性の身体。その光が手を伝い、吼太とリームに流れていく。すると、少しずつだが吼太達の怪我が治りはじめていった。

 

「……とりあえずは、これで危険はないでしょう。後はそちらにお任せします。外までは送って差し上げますので」

 

「……なんで、助けるの?」

 

 ありすが、今だ晴れぬ猜疑心を、女性にぶつける。

 

「そうですね……敢えて言うならば、"死なれては目覚めが悪いから"でしょうか」

 

 

 

 

 

「ということがあったんだ」

 

「僕も最初聞いた時は信じられなかったんだけど、実際にまた治してもらったら信じざるを得なくてさ」

 

 話を一通り聞き、神妙な顔になる吼太。

 

「…………すいません、失礼します」

 

 突如として、女性が吼太の手に触れる。そして女性の身体から発生した光が吼太に吸い込まれるやいなや、吼太の身体の傷が癒えていく。

 

「すみません、定期的に回復を行う必要がありましたので。……これで完全回復のはずです」

 

 確かに軽くなった自身の身体を省みて、とりあえずはありすたちの言葉を信じることにしたらしい。視線から敵意が消える。

 

「まぁ、とりあえず礼は言っとく。ありがとな」

 

「いえ、私としてもチャレンジャーの方々が、このような場所で命を落とされるのは不本意でしたので」

 

 女性は淡々と言う。が、その内にある、不器用な優しさは、吼太たちにしっかりと伝わっていた。

 

「にしても、なんでこんなにバカみたいに強いのに、こんな変なとこにいんだ?」

 

「……私が誰か、知っていて来たのではないのですか?」

 

「「「いや、全く」」」

 

 口を揃えて言う吼太、ありす、リーム。その様子を見て、頭を抱えてしまう女性。

 

「くっ、まさか私としたことが、チャレンジャーと迷い子を間違えるとは……!」

 

 よほど悔しかったのか、床を叩きかねないほどの憤りを見せる女性。

 

「……仕方ない、全てお話致します」

 

 

 

 女性の正体は精霊――それも、魔法使いの間では比較的有名な精霊であった。過去には『不屈の勇気を与える鎧』、その美しさに目が眩んだ主からは『売春婦フォールン・ウーマン』、前主からは『統土』と呼ばれていたが、今は主不在のために名前は無いと言う。

 

 自身のことは広く知られているがために、その力を求めて彼女を手に入れようとやって来る者が後を絶たなかった。が、彼女を使いこなせる"主足りうる存在"は、現れなかった。

 

 やがて、自分が争いを生む存在であると理解した彼女は、魔法文化の無い、この凪波丘に姿を潜めた。だが、今でも彼女を見つけだし、我が物にせんと挑んでくる人は絶えていない。

 

「そんなことが……」

 

「寂しく、ないの?」

 

 ありすが、心配そうに聞く。だが、女性はほんのりと笑顔を浮かべ、心配は無用だという。

 

「私が稼動してからかれこれ数百億年になりますか。もはやそんな感情は消え失せてしまいましたので」

 

 だがむしろ、ありすの顔は深い悲しみに歪んでいった。

 

「悲しいよ。それって。すっごく、悲しい……」

 

「…………だな」

 

 今まで黙っていた吼太が、何かを思い立ったように立ち上がる。

 

「なら、オレたちが一緒にいるよ。オレたちは人間だから寿命は短いかもしれないけどさ、それでも、一緒にいることは出来る」

 

 吼太は屈託のない笑顔で、女性に言う。ありすとリームもまた同様だ。女性はただ、信じられない様子で吼太たちを見つめていた。

 

 精霊である彼女を、利用する価値がある存在としては見ずに、友として見ようとするその姿勢。ましてや吼太は、女性と戦い、敗れたのだ。そのことを引きずっているのが当たり前。そうしたくなくとも、どこかでそういった違和感が出るはずだが、しかし彼らにはそれがない。

 

「じゃあ手始めに……そうだ。ありす、リーム。……オレたちで、名前を決めてあげよう。だいたい、主がいなきゃ名前が無いなんておかしいしさ」

 

「あ、それいいかも! 名前が無いと呼びづらいもんね」

 

「さんせーい!」

 

 ニコニコと笑いながら、楽しげに話し合う三人。それを見た女性は――――

 

「…………ふふっ」

 

 笑った。

 

「笑ったな」

 

「笑ったね」

 

 笑顔で言う吼太とリーム。

 

「すみません、何故か顔が……」

 

「いいじゃねぇか。笑う門には福来たるってな。これから長い付き合いになるんだ。笑うことぐらい出来なきゃな」

 

「それに、笑顔のほうがステキですよ?」

 

「…………はい」

 

 女性はまだ笑みを浮かべていた。

 

「よし、じゃあ名前を考えよう!」

 

 

 

「それで、第一候補がこれなのですか?」

 

「おう!」

 

 吼太が紙に大きく書き、出した名前。それは――――

 

 ――――虎祭姉貴

 

「却下します」

 

「何!?」

 

「当たり前だと思うなぁ」

 

「だってカッコワルイし」

 

 

 

「決まりましたか?」

 

「うんにゃ、なかなかな」

 

「昔の名前をうまく使えないかなー、なんて思ってるんだけど……」

 

 紙にはいくつもの名前が書かれては×印で消されており、試行錯誤の後が見てとれる。

 

 と、そこでありすが、持っていた電子辞書で調べていた言葉から、一つの案を出した。

 

「……はい。それならば」

 

 そこから手を加え、決まった名前。

 

「フォルティトゥード。ラテン語で勇気を意味する"フォルティトゥドー"と、不屈を英語で書いた、"フォーティトゥード"を組み合わせて、フォルティトゥード。これで不屈の勇気だろ、ってことなんだが……どうかな?」

 

「フォルティトゥード……。ありがとうごさいます、小さき方々。有り難く頂戴致します」

 

「堅っ苦しいなぁ。ま、今更か。よろしくな、トゥード」

 

「トゥード……?」

 

 聞き慣れない言葉に、首を傾げる女性。

 

「フォルティトゥードだから、愛称はトゥードってことだよ」

 

「はぁ」

 

 納得したような、していないような。そんな微妙な顔をする女性――改め、トゥード。

 

「しかし、貴方は何か思惑あっての行動をしていたのではと疑っていましたが、杞憂のようですね」

 

「まぁ、コータって子供っぽいしね〜。僕が思うに、あんまり難しく考えてないんだと思うよ。……で、ずっと気になってたんだけど、入口にいた奴らっていったい誰だったの? まさかとは思うけど……」

 

「お察しの通り、私に敗れた方々です。邪魔でしたので、ほうり出させていただきました。ある程度の治療もしていたので、今頃は目も覚めて帰っていることでしょう。……どうしたのですか? 頭など抱えて」

 

 自分達の心配が全て無駄になったと知り、愕然とする吼太たち。だとすれば、今ここにこうしている理由は完全に無くなったと言える。

 

「……コータぁ、どうする〜? 帰っちゃう?」

 

 よほど脱力してしまったのか、リームがそんなことを言いはじめる。事実、吼太たちにはこれ以上この場所に留まる理由も無ければ、戦う理由も無い。

 

「明日も学校あるよ? 帰ろうよコータ」

 

 ありすも、明日からの日常を考えて、帰宅を提案する。

 

 が、そこで吼太がこんなことを言いはじめる。

 

「……でもそれじゃ、負けて逃げ帰ることになっちまうよな」

 

 嫌な予感しかしない。リームとありすが、同時に抱いた考えは、まさにこの後の展開を先読みしたものといえた。

 

「よし! リベンジだ!」

 

「リベンジ……ですか?」

 

 驚いたように言うトゥード。

 

「あぁ! 負けっぱなしは性に合わねぇ! だからもう一度だ! まさか、リベンジしちゃダメだなんて言わねぇよな?」

 

「……勿論ですよ、チャレンジャー。また返り討ちにして差し上げましょう」

 

 吼太が浮かべた笑みに対抗するように、微笑を浮かべるトゥード。ここに、リベンジマッチが成立した。

 

 

 

 作戦を立てるためにトゥードから一時的に離れる吼太たち。

 

「でも、どうするの? 漫画みたいに、未知の力でも覚醒させるの」

 

「都合よく覚醒すんならそりゃ結構な話だけどな」

 

 自分の特異性を多少は理解しているが、戦う力になると吼太は思っていない。そうなると、今あるものだけでなんとか勝つ方法を考えなければならない。

 

「でも、僕にしてもコータにしても、今すぐのレベルアップは、やっぱり難しいものがあるよね」

 

「……パワー、スピード、テクニック。そのどれもが劣っちまってる今、どれか一つだけでも上回れりゃあ、多少マシにはなるんだろうけど……」

 

 そんな都合よく進まないのが現実というものである。

 

「あーあ、それならいっそ、コータが出すどうぶつさんたちの力を、コータが使えたら楽なのに…………」

 

 ありすが不意に呟いた一言。それを聞いた吼太は――

 

「それだぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

「準備は出来ましたか?」

 

「練習は出来なかったけどな。ちょいとした手品を見せてやるよ ユニオンアップ!」

 

 リームと合体し、再びトゥードと対峙する吼太。その顔にはどこか自信のようなものが浮かんでいる。

 

「では、始めましょうか」

 

 そう言うなり、ガンブレードを構えて突進するトゥード。それは無計画な突進に見えるが、素早さと力強さが両立している上に、確実に吼太の虚を突く一撃だった。

 

 だが吼太とて、攻撃の来る場所が分かれば、対処は出来る。トゥードが踏み込みかけていた吼太の死角には、既にエクスドリルが凄まじい回転をしながら待ち構えていた。

 

 トゥードがガンブレードでエクスドリルを弾き飛ばす。腕が上がり、無防備になった吼太の鳩尾に、トゥードの鋭い蹴りが打ち込まれた。あまりの威力に、数mほど後退してしまう吼太。

 

「どうしたのですか? まさかあれが考え抜いた末に導き出した戦法だとでも?」

 

「んなわけねぇだろ! 見てろよ!」

 

 ぶつかり合う二人、ガンブレードとエクスドリルが火花を散らしながら、眼前の相手を打ち砕かんと、鎬を削る。

 

「うおりゃあぁぁ!」

 

 高速回転したドリルが、ガンブレードの軌道を逸らしつつ、トゥードに迫る。が、トゥードは冷静にもう一振りのガンブレードで、ドリルを弾き飛ばす。

 

「ハァッ!」

 

「らあッ!」

 

 トゥードの鋭い蹴りが炸裂したかと思えば、同時に突き出した吼太の脚がトゥードの軸足を狙う。トゥードは素早く体勢を入れ替え、空中に足をつけて回し蹴りに移行する。

 

 しかしその、岩をも砕きかねない蹴りは、エクスドリルを盾にした吼太を弾き飛ばすに留まる。

 

「ぐっ……まだまだ!」

 

 エクスドリルを近くの地面に突き立て、高速回転させる。たちまちドリルの力に引きずられるように、吼太の姿は見えなくなる。

 

 聞こえる僅かな切削音。しかしそれは、凄まじいスピードで動いており、吼太の現在位置を把握する要素としては、決定力に欠けていた。

 

 そこでトゥードがとった行動。それは"待ち"だった。

 

 人間には呼吸が必要だ。そして、地中では呼吸することが出来ない。ならば、潜行時間もそれほど長くないはず。

 

 加えて、トゥードの回りは開けており、考え無しに飛び出ては狙い撃ちにされることは吼太とて理解している、そう考えたトゥード。そこから導き出される、攻撃ポイントはただ一点のみ。

 

「――――私の直下!」

 

 トゥードが迎撃体勢を取った瞬間、地中から飛び出してきた吼太のドリルがトゥードの頬を、ほんの僅かにだが切り裂く。分かっていても反応が間に合わなかったのだ。

 

「……ですが、反撃を喰らっているようではまだまだですね」

 

 トゥードが言った瞬間、吼太に大量の弾丸が突き刺さる。――そうではない。"既に撃ち込まれていた大量の弾丸に、吼太がようやく反応した"のだ。

 

「ぐあっ……」

 

 ボロボロになりながら、身体で着地する吼太。擦り傷に切り傷、火傷に打撲。一つ一つは大したことのない怪我だが、それらは確かに吼太の受けたダメージを、未熟さを示していた。

 

「さて、そろそろ戦闘の継続が困難になるころかと思いますが、いかが致しますか?」

 

「言っただろ、オレは物分かりが悪いってな! 目ん玉見開いてとくと見やがれ、オレの新技!」

 

 吼太が腰に付けたユビキタスサークルに、光が宿る。

 

「お前に全額賭けるぜ! コール・クリーチャー! アルゲンタビス!」

 

 召喚をするつもりなのだろうか、ユビキタスサークルを起動させる吼太。だが、何故か今回は、召喚獣が現れる門となる銀河状のゲートが、吼太の背中に存在していた。このままでは出てくるであろう召喚獣は、吼太の背中に激突するか、見当違いな方向に向かって現れることになる。

 

 だがしかし、吼太が狙っていたのは、全く違ったことであった。

 

 ――オレは本来一つに出来ないものを一つにした。まだ完全に決まったわけじゃないけど、もしかしたらオレには、そういった力があるのかもしれない。なら、"オレ本人と召喚獣の一体化"だって出来るはずだ

 

 リームに対し、戦いの前に吼太が言っていたことだ。しかし、これには一体化した際に戻れなくなってしまう危険性が存在している。

 

 リームの役目は、吼太をその危険から守ること。今だ未知の魔法の力で、吼太と召喚獣が混ざりきらないように制動をかけること。

 

『無理言うよねコータも……。だからこそ、らしいんだけどさ!』

 

 淡い光が吼太を隅々まで覆い尽くした瞬間、吼太の背中に、翼長8mはあろうかという巨大な翼が現れた。アルゲンタビスと呼ばれる、遥か昔に存在していたコンドルの翼だ。

 

「天使にでもなったつもりですか? しかし、いかに巨大な翼があろうと、貴方の身体ではバランスが取れませんよ」

 

「そいつはどうかな!」

 

 吼太はその巨大な翼をはためかせる。本来、体重が重いがために自力で飛び上がることが出来ない鳥であったアルゲンタビスだが、しかし吼太はその翼を以って空中に飛び出すように舞い上がった。

 

 よく見れば、吼太の背後に、微かに鳥の姿があった。そして、これが意味することを、トゥードは瞬時に理解していた。

 

「成る程……存在を完全に同化させないことで、本来の持ち主が持つバランスはそのままに、一部の力をチャレンジャーが使う形にして制御しているのですか」

 

「名付けて武装召喚リアライズだ! んで、お次はコイツだ! コール・クリーチャー! ティラノサウルス・レックス!!」

 

 トゥードの直上まで来た吼太が続いてその肉体に装備したのは、暴君とも呼ばれる恐竜、ティラノサウルスだ。ティラノサウルスが持つ重量と筋力が加わり、吼太に凄まじい脚力による蹴りを実現させる。

 

「喰らえ! レックスキィィィーーーック!!!」

 

「それが甘いと言うのです!」

 

 トゥードがガンブレードを一閃させ、ティラノサウルスの脚部を斬り裂こうとする。だが、彼女は現状に対して僅かながらに同様していたのだろう。あることを失念していた。

 

 "自身が攻撃をするとき、攻撃に使う部位以外には図らずとも隙が生まれてしまう"ことを。

 

『そこッ!』

 

「ッ!?」

 

 ティラノサウルスの脚が送還されたことで消え、ガンブレードは空を切る。振り切ってしまったために、銃撃も間に合わない。加えて、僅かな隙を突いた、先程から補助に回らずに紡いできた、リームによる氷の呪縛がトゥードの脚と剣を封じ、その動きを止めてしまう。

 

『コータ、今だよ!』

 

「応ッ!」

 

 吼太は空中での勢いを殺さないよう、大きく回り込みながら、遠心力を利用してさらなる力をつけていく。円を描き、渦を創り、螺旋を刻んでいく。そしてその螺旋の頂点、その先にある天井に足を付け、思い切り蹴った。

 

 凄まじい勢いで進み出す吼太。先程までのスピードに加え、重力の作用、蹴り出された勢い、飛行能力による力、そしてドリルが掘り進む威力が一つになる。

 

「これでぇ、終わりだぁぁぁぁぁ!!!」

 

「短期決戦を望もうとするのが貴方の悪い癖です!」

 

 トゥードは渾身の力でガンブレードを氷の呪縛から強引に抜き出し、そのまま二振りの剣で吼太を斬り裂こうとする。

 

 だが、やはり。トゥードには知らないことがあった。――いや、この世界で知っている人間は、ありすか吼太の親ぐらいだろう。吉谷吼太という人間は、あたかもドリルのように、目の前の障害を貫き、自らの道を突き進んでしまうことに。

 

 確かに、トゥードの一撃はエクスドリルを完全に粉砕せしめた。だが同時に、エクスドリルはトゥードのガンブレードを掘り抜いたのだ。

 

 二つの強大なる一撃のエネルギーは、吼太が持っていたエネルギーを消し去り、一瞬の浮遊状態にする。間もなく、吼太は地面に落下した。

 

「きゃうっ!」

 

「あ、大丈夫ですか――あっ」

 

 今の一撃で戦意を僅かな時間ながら喪失していたのか、吼太に駆け寄ろうとするトゥード。その足には、今だ氷の呪縛がかかっていることも忘れて。

 

 持ち上がらない足を持ち上げようとして、氷を破壊したまではよかったが、代わりにバランスを崩してしまう。トゥードはそのままゆっくりと吼太に向かって倒れ込み――――

 

 

 

 

「ゆるしてくださいありす様 リーム様」

 

「もう! コータなんて知らない知らない知らない!」

 

「僕らのどっちかならともかく、また別の女の子とキスするなんて!」

 

「私は気にしていませんが……」

 

「「こっちが気にしてるの!」」

 

 そう、あの後吼太の唇にトゥードの唇が重なりあった状態――つまりはキスの体勢になってしまっていたのだ。さらに言えば、契約が完了した証である光の柱すら出てしまっていた。

 

 ただただ二人の女の子に平謝りする吼太を眺めながら、トゥードは思う。

 

 これが作戦だというならば相当の策士。偶然だというなら相当の運の持ち主。或いはただの女誑しか、それとも"私も巻き込まれてしまう程に巨大な運命の渦の中心にいる"のか。いずれにせよ、現状で自分の力を存分に扱えるのには違いないだろう、と。

 

「これからよろしくお願いしますね、マスター。仮、ではありますが」

 

 それでも、あの事故でマスターが決まってしまったことに、納得はしていないトゥードであった。

トゥード は ドジっ娘 の称号を 手に入れた !←


何故こうなったし。


そんなわけでトゥード参戦。前作を知っていて、トゥードが弱いと感じた方。間違ってませんが、そもそもトゥードは戦闘用じゃなかったですからね? 戦闘に関してはまだまだトゥードも成長の余地があります。いずれパワーアップします。


ちなみにトゥードの過去の名前についてですが……


・不屈の勇気を与える鎧 →中世時代的な主。先陣切って戦った偉い人。最期は撤退戦で捨て石となって戦い、一人で千人を倒す活躍をするも、そこで死亡。


・売春婦 →トゥードを手に入れた主が、美しいトゥードにハマるあまり財産の全てをなげうってしまい、その主の妻に言われた名前。主は借金のためにうんたらかんたら。裏社会をいろいろ覗いた。


・統土 →過去に凪波丘を治めていた武将が、全国統一を果たさんとするためにトゥードを手に入れたまでは良かったが、その間に凪波丘を征服されてしまい、責任を感じて自決。戦わずして主を失う。


という感じです。2番目ひでぇ。ちなみに、ガンブレードは各主の時代の時に使っていた武器(剣、ライフル、刀)を自分で打ち直したものです。なので、刀身が実は相当長かったり。それを軽々振り回すトゥード何者? あ、チートか。←




あと精霊の契約について、頭のいい方は大まかな予想がついているかと思いますが、多分その通りです。詳しくは次回冒頭にやると思います。



次回はシリアスになるか、ギャグになるか。どちらにしても、懐かしいキャラが出ます。希望をだしたら受け入れられるかも?


ではではこの辺で! 次回もお楽しみに!

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