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第03話 合体

大変、たいへ~ん長らくお待たせしました! 第3話です!

時間かかっただけあって、それなりに長いです。疲れました。次回はこんなに掛んないようにします。PCめんどい。

 こういう経験は前世も含めて初めてで、どんな反応をしていいかすごく困ってしまう。覚悟を決めるのにも一苦労だ。そりゃあ、下手すればその人の一生を左右するかもしれないことだ。緊張しないわけが無い。

 

「じゃあ……いくね……」

 

「…………ん……やっぱり、恥ずかしぃ…………」

 

「大丈夫、心配しないで。僕に身体を任せて……」

 

「…………うん。でも、その前に……」

 

 だけどその前に、それでもオレは言いたかったんだ。

 

 

 

「――契約とかいうのをすんのに、なんで服を脱いでんだ! 服を着ろぉぉぉぉぉ!!!」

 

「ほへ?」

 

 

 

 

 

 一週間ほど時間を遡る。

 

 あの、謎の遺跡から帰ってきて。とりあえずオレの家で保護することになった。最初は何か騒ぎになるかと心配になったが、そんなことはなかった。まぁ、家の母さんは面白いことウェルカムな人だしなぁ。しかもかかあ天下。文句が出ても笑顔で黙殺。

 

 その後はとりあえず警察と、記憶喪失の可能性を考えて病院に。しかし、案の定と言うべきか、何の手掛かりを得ることも出来なかった。病院も「異常無し」としか結果は出ず、彼女について分かったことは何も無し。強いて言うならば、彼女には致命的なまでに常識が欠けていたことぐらいか。信号無視くらいならかわいいものだが、魔法とかのトンデモワードを言うことがあったり、さらには一度ヤバそうなオッサンに着いていっていた時すらあった。流石にそん時はビビったよ。

 

 そんな彼女だったが、一週間も経てば多少は状況を理解したようだ。常識外れな行動は減ってきていた。そんな折だ、彼女が"秘密のお願い"をしてきたのは。

 

 そして話は冒頭へと戻る。

 

 

 

「ええ~? でも、初めては着衣より脱いでシた方がいいって言うし……」

 

「言わねぇよ! つーか誰だそんなこと言ったの」

 

「燈さんだよ?」

 

「母さんのバカぁぁぁぁぁ!!!」

 

 あのトラブル大好き人間め! なんてこと吹き込みやがる!

 

 

 

「――とにかく、服は着てくれ。万が一人に見られた時に大変だから」

 

「ん、りょーかい」

 

 と、まぁなんでこんな人気のない森の奥で、彼女が下着姿でオレに覆いかぶさるようなことになったかと言うと、だ。

 

 まず最初に、彼女の自己申告を信じるならば、彼女は人間ではないらしい。記憶の無い彼女が何故そんなことを理解しているのかと言うと、彼女曰く「なんとなくそんな感じ」らしい。電波にしか思えない。

 

 で、彼女が言うには、彼女は誰か人間と"契約"をしなければいけないとか。ただ、記憶を失った弊害なのか、彼女の話はイマイチ要領が掴めない。契約しなきゃいけない理由とかも自分でわかっていないみたいだし。

 

 しかし、記憶を失っているとはいえ、彼女と話していて得られる物も少なくはなかった。まず、魔法の呼ばれるものの存在。彼女がないことに非常に驚いていた辺り、彼女の知っている場所にはあった可能性が高い。ただの妄言とするのは簡単だが、出会った場所が場所だ。魔法がどんなものかまでは知らないが、転生者なんてものがあるこの世界、魔法だってあってもおかしくなんてない。

 

 次に、転生者と同じように、魔法という存在は一般的ではないということ。この9年間、魔法というワードやそれに関連したものは聞かなかった。ということは、魔法というのは少なくともこの世界では一般的ではないのだろう。尤も、他の世界なんてものがオレの前世の世界以外にあるかは知らないが、とにかくこの世界では一般的ではない、認知されていないということは確かだろう。

 

「とにかく、オレはお前と契約するとはまだ言ってない! 仮にするにしても、もう少しなにかあるだろ!」

 

「もう少しって言っても……あとはキスとか、〇〇〇〇みたいな粘膜接触ぐらいしかなかったはずだよ?」

 

 ――――っっっ!!? な、なぁっ!?

 

 思いがけない発言を聞き、思わず顔が熱くなる。何とか「そういう発言はダメだ」と伝えようとするが、うまく口が回らない。

 

「そ、そういうのは……は、恥ずかしいよ……。つーか、女の子がそういうの言うのは……バカ……」

 

 だいたい前世でも経験ないのに…………。

 

「……なんか、かわいい。女の子みたい」

 

「かわいい言うな! あとオレは男!」

 

 かわいいと言われて喜ぶ男はそういないだろう。一部例外は除くが、少なくともオレはその例外ではない。

 

「にしても君……顔立ちもなんとなく女の子っぽいし、本当に男の子なの? 実は女の子だったりしない?」

 

 服を着た彼女がこちらに来るなり言う。失敬な。確かに見た目は男女の差が少ない子供だし、ただ見ただけなら勘違いされるのも仕方ないとは思っていたが、仮にも一週間一緒に暮らした相手の性別を疑うなんて。

 

「正真正銘の男だよ。……先に聞いとくべきだったんだけど、契約ってどういう手順なんだ?」

 

 そう聞くと彼女は、何故か「えへへー」と笑顔を浮かべる。

 

 嫌な予感しかしない。

 

「実はよくわかってなかったりー! ……なんちゃって」

 

 嫌な予感がため息になってこぼれ落ちた。

 

 

 

 

 

 結局、契約とやらはたいした進展を見せずに終わり、家に帰ることになった。まぁ、あれ以上進めようもなかったし、仕方ない。

 

 家で飯を食べて、一息つく。そんな時、母さんが突然何か思い出したように立ち上がった。

 

「あああぁぁぁ!!!」

 

「ひっ!? 」

 

「ふぇっ!?」

 

 あまりの大声に、少女と二人して驚く。思わずどこぞの筆頭政務官みたいな声を出しちまったじゃねぇか。

 

「最近、ずっと何か忘れていたような気がしてたんだけど、ようやく思い出したわ!」

 

「な、なんだよ……?」

 

 オレが聞くと、母さんはテーブルを叩いて立ち上がる。

 

「名前よ名前! その娘の名前! なんで今まで気づかなかったのかしら!! 名前をつけてあげなくちゃ!」

 

「あ、あー……」

 

 言われて初めて気づいたかのように、少女が声を出す。

 

「なんでって……記憶喪失の人に勝手に名前つけるのもどうかと思うけど」

 

「この一週間、警察からは音沙汰無し。家で保護してるんだし、仮でもいいから名前をつけないと流石に困ってくるわよ、いい加減に」

 

「それは…………確かに」

 

 あまりに正論過ぎて何も言えない。というより、むしろ何故今まで不便に感じなかったんだろうか。彼女を見ながら記憶を反芻してみる。

 

「…………? どしたの? あ、はいお茶」

 

「ん、サンキュ」

 

 オレの視線を感じ、不思議そうに見つめてくる彼女。差し出されたお茶を受け取りつつ考えて、ようやく思い出す。

 

 あぁ、彼女、やけに気が利くんだ。だから名前を呼ぶ場面が中々来なかったんだった。

 

 とはいえ、それは運がよかったとしか言えないだろう。そして、これから先、それだけではどうしようもないこともあるはず。なら、名前は確実に必要だ。

 

「で、なんて名前にするんだ?」

 

「え? うーん……どうしよっかな……」

 

 とりあえず彼女に振ってみる。

 

「うーーーん………………思い付かないや」

 

「やっぱそうだよな」

 

 やっぱ、いきなりそんなこと言われても思いつかないよなぁ。当然と言えば当然だ。

 

「まぁ、焦って決めるもんじゃない。気に入ったのが見つかったら教えてくれ」

 

「んー……あ、そうだ!」

 

 突然声をあげて、こっちをにんまり笑いながら見つめてくる少女。嫌な予感再び。

 

「君が、僕の名前を決めてっ!」

 

 ほーら、予想通り。

 

「あら、じゃあいっそ嫁に貰っちゃったら?」

 

「話が飛躍し過ぎだから! とりあえず自重しろよ母さん! あとお前も、そんなに簡単に決めたりすんな!」

 

「えー? でも、君なら僕、いいかなーって思ったんだけど……」

 

 少し顔を赤らめながらそんなことを言う少女。女の子のそんな表情を見るの初めてだから、少しドキドキする。

 

「青春ね~……。私も昔は透さんと……キャー!」

 

 突然母さんが奇声をあげた。見た目はいいのに中身が残念だよなぁ、家の母さん。黙っていればクール系美女で通せそうなのに。

 

 いかん、思考が逸れた。ええっと確か、名前の話だよな。名前、名前――――

 

 ――って、そんな簡単に思いつくか! ペットの名前付けるのとは訳が違うんだぞ!?

 

 でもきっと、それじゃあこの場は収まらないだろう。だとしたら、今オレが取れる方法はこれしかない。

 

「……じゃあ、分かった。だけど、時間をくれ。いくらなんでも、いきなりじゃオレも思いつかないよ」

 

 つまりは、先延ばし。情けない限りだが、正直オレの思考能力じゃ、これが今出せる唯一の結論だったんだ。

 

「そっかー、そうだよね。うん、わかった」

 

 それでも少女は頷き、理解を示してくれた。

 

 

 

 

 

 そして次の日。学校の帰り道にある雑木林の近くを通りながら、オレは頭を悩ませていた。

 

「名前かぁ……どんなのがいいんだ? つーか、漢字がいいのか英語がいいのかとか、そういうの聞いとけばよかった……」

 

 結構重要なことを聞いていなかったよ。オレのバカ。

 

「コータぁ!」

 

 家のある方角の道から走って来る、件の少女。どうしたんだ? 迎えに来たのか?

 

「伏せてぇっ!」

 

 突然の声。それを信じて身体を大きく落とす。

 

 その次の瞬間、オレの頭の上を炎の玉が通り過ぎていった。炎の玉はそのまま突き進むと、背後の木を粉々に砕いてしまう。もしアレがオレの頭に当たっていたらと思うとゾッとする。

 

 同時にオレは理解する。また、"非日常"がやってきたのだと。

 

 走り続けていた少女がこちらに近づくにつれて、少女がただ走っていたのではなく、誰かに追われているという事態に気づく。少女はオレの側までくると、くるりと反転して厳しい表情を浮かべる。

 

 少女を追っているのであろう存在に、目を向ける。そしてオレは、驚愕した。

 

「なっ……」

 

 それはどこからどう見ても、360度、森羅万象ことごとく、100パーセント、2丁目のトメコばあさんから6丁目のマナちゃんの誰に聞いたとしても間違いなく同じ答えが返ってくるであろうことが予想されるほど、間違いなく――

 

「ゴムボールだァー!!!」

 

 そう、ゴムボールだった。全長2mはあろうかという巨大なゴムで出来た感じのボール――

 

「違う! 人間だよ! 太ってるって言いたいんだろちくしょー!!!」

 

 いや、いくらなんでもそんなパンパンにはなんないだろ。テレビとかに出てくる肥満の人だって、最低限人間の形は保ってるぞ。

 

「クッソ、嘗めやがって……ッ!」

 

 ゴムボール人間……ゴム人でいいや。そいつは息を大きく吸いはじめる。

 

 直感的に悟る。間違いなく、マズイ!

 

「コール・アームズ! ドリル!」

 

 ユビキタスサークルから取り出したドリルを右手に装備し、全開で回転させる。ドリルの回転力を利用した、即席の防御だ。少女をオレの後ろに庇うのも忘れない。

 

 そして次の瞬間、凄まじい炎の奔流がオレ達を襲った。ドリルが熱された空気を掘り進み、直撃だけは避けていく。が、周りから迫りくる熱だけは防ぎようがない。

 

「ッ……ッア……くぅ……!」

 

 永遠のような、しかし刹那の時間が過ぎ、熱が過ぎ去る。

 

「――――うぅ……。コータ、大丈夫?」

 

「何とか、な……」

 

 何とか、とは答えたが、正直なところ中々厳しい。ドリルも表面が焼け焦げ、次防ぎきれるか怪しいところだ。

 

「ほう……耐えたのか」

 

 ゴム人がニヤニヤと意地悪く笑いながら言う。恐らく奴は理解したのだ。目の前にいる生意気なガキが、一般人ではないこと。しかし、自身より格下であることを。……悔しいことに、事実だ。

 

 この身体は紛れも無く小学生。それも特に鍛えたりしたわけでもない、ごくごく普通の小学生だ。普通の小学生であるならば、普通の大人と戦ったとしても、まず勝ち目はない。であるならば、不思議な力を持つ子供と大人にも同じことが言えるだろう。逆転のチャンスは、相手が油断している今しかない。

 

 オレの現状使える最高の武器であるドリル。長さは約1mほど。所謂スパイラルドリルであり、幅も1番広いとこで0.6mはあるだろうか。鈍く銀色に光る螺旋を描くその武器は、金属質な外見や大きさから想定される重さよりは軽い。が、仮にも今のオレは小学生。いくら見た目よりは軽いといっても、子供の腕力で振り回すのは限度がある。必然的に、扱い方は単純なものになってしまう。しかし、その威力だけは折り紙付きだ。

 

 チャンスは、一回だけ!

 

「う……おおォォォ!!!」

 

 ドリルを再び最高速で回転させながら突進する。オレ自身の走る速度はさほど速くはないが、ドリルの力ならば掠るだけでもかなりのダメージを与えられるはずだ。なら、この一発が決まればまだ勝ち目はあるはず!

 

「笑わせんな!」

 

 ゴム人が何かを口から噴き出す。だけど、もう遅い。一度回りだしたドリルが止まることは、よほどのことが無い限り起こり得ない。何かを出したのなら、その"何か"ごと貫けばいいのだから。

 

 だが、オレの突進は予想外の形で止まることになる。

 

 一瞬の浮遊感。つるっ、という効果音が似合いそうなほど間抜けに、自分は足を滑らせたんだ。そう理解した時には、オレの顔は地面に激突していた。右腕のドリルが回転を維持したまま地面に突っ込んだせいで右腕が地面に減り込み、動きが完全に封じられてしまう。

 

 ――いや、仮にドリルが無かったとしても、オレが動けないことに変わりはなかっただろう。周りにぶちまけられた白く濁った、異様に滑る粘液がオレの動きを阻害していたのだから。

 

「なんだこれ!? 汚っ!」

 

 何とか抜け出そうと身体をじたばたと暴れるが、粘液のせいで滑ってしまい、うまく動けない。それどころか、身体に粘液が絡まってしまう。もう全身が謎の白い液体に塗れてしまった。

 

「……何故だろ、そこはかとない犯罪臭が」

 

「このタイミングで何言ってんだお前!?」

 

「だ、だってコータがえっちぃ……ドエロいから! エロス100%濃縮還元してるから!」

 

「言い直した意味全く無いよな!? むしろ直球ド真ん中だよな!? つーかエロスの濃縮還元ってなんだよぉ!?」

 

「あぁん! なんだか想像を掻き立てられるゥ! こんな気持ち、初めてぇ!」

 

 少女がいやんいやんと身体をくねらせる。実に変態っぽい。出会った当初のミステリアスな貴女を返してください。無理? ですよね。じゃあせめてシリアスを返して欲しい。本当は真性の変態とかだったら泣くぞ。……まさかな。そんなわきゃあないない。うんうん、有り得ない有り得ない。

 

 しかし残念なことに、この予感は後々思わぬ形で大当りすることになる。が、それはまた別のお話。

 

「くぉらテメェら! 俺様を無視するな!」

 

 苛立った様子のゴム人が声を荒げて存在を主張する。……ゴメン、目の前で起こったことのインパクトが大きくて忘れてたよ。

 

「チッ、ならこれが何か、たっぷり味あわせてやるよぉ!」

 

 そう言いながらゴム人は懐からステッキを取り出し、何かを空に描くように複雑に動かし始める。

 

「猛り集え、彼の者を焼き尽くせ。顕れよ炎熱!」

 

 ゴム人がそう言った瞬間、ゴム人の振るったステッキの描いた軌道が光の筋となり、何かの文様を浮かび上がらせる。その文様は一際輝くと、その中央から炎の弾丸らしきものが現れてオレを襲う。

 

 その、次の瞬間。一瞬の間に、オレの体は炎に包まれてしまっていた。

 

「ガァァァァァァ!!?」

 

 痛い、熱い、寒い、苦しい、あらゆる苦痛をないまぜにしたような感覚がオレを襲う。今にも意識が何処かに吹っ飛びそうになるのを、気合だけでつなぎ止めようとする。が、このままではどちらにしろ数秒と持たずに死んでしまうだろう。

 

「――――コール……クリー…チャー……―――……アーム…ド……――」

 

 音にすらなっていない声を出し、ユビキタスサークルから今必要なものを呼び出す。動いてくれるかは賭けに近かったが、うまくいったらしく、腰に巻かれたユビキタスサークルが起動し、空中から大量の水が降り注いだ。それにより、オレの身体を包んでいた炎が消え去る。

 

 ユビキタスサークルが呼び出せるのは道具か、召喚獣のみだ。故に、ただの水は呼び出せない。そこでオレは、水そのものを呼び出すのではなく、水の入った道具を呼び出すことで消火を試みたのだ。みずがめ座のモチーフになった『決して水が尽きない水瓶』を、同じく呼び出した伝説の生物である、鷲の翼と上半身、ライオンの下半身を持つグリフォンに持たせ、オレに水をかけさせる。試みは上手くいったらしく、全身を貫く痛みは変わらないものの、熱さだけはとりあえず無い。呼吸器官も何とか無事だったらしく、全身火だるまになったにしては被害が少ない。結果からすれば、かなり運がよかったようだ。

 

「コータ! コータぁ!」

 

 いつの間にか駆け寄って来ていたらしい少女が、涙を零しながらオレの名前を呼ぶ。どうやらいつの間にか倒れていたみたいだ。

 

 と、不意にオレ達を覆う大きな影。グリフォンは役目を果たした時点で送還されている。そうなると、該当するのはただ一人しかいない。

 

 その人物――ゴム人が駆け寄ってきていた少女を摘み上げる。身長差のせいで地面から完全に離れてしまう少女。

 

「いや! 離して!」

 

 ジタバタと暴れる少女だったが、流石に力の差があるらしく、ゴム人はびくともしない。

 

「ようやく…………ようやく、俺様も精霊使いに……!」

 

「いやぁぁぁぁ!!!」

 

 めちゃくちゃに暴れて何とか逃げ出そうとする少女。だがそれでも、ゴム人から逃れることが出来ない。

 

「さぁ……契約だ!」

 

「やだ! やだよ! いや! 助けて……助けてぇぇぇ!」

 

 

 

「――――あん?」

 

 気づいた時には、手を伸ばしていた。

 

 その手を伸ばしたとして何が出来るのか。何も出来ないだろう。

 

 そんなことはわかっている。でも、例えオレに何の力が無いのだとしても、何かを変えることが出来ないのだとしても、手を伸ばすことは出来る。

 

 だから――

 

「その手を……離せ……」

 

 オレは、手を伸ばすんだ。出来ることをしないで、一生後悔するのは、いやだから。

 

 彼女が嫌がっていた。理由なんか、それだけで十分だ。むしろ、おつりがくるくらいだ。

 

 オレの手はゴム人の足を掴んでいた。その行為自体は恐らく、奴にとっては何の障害にもなりはしないだろう。

 

 しかし奴は、それをよほど煩わしく感じたようだ。

 

「チッ、離せよ!」

 

 空いている足で、オレの頭を踏み付けてくるゴム人。巨大な見た目通りと言うべきか、やはり重い。でもオレは、手を離しはしなかった。

 

「離せ! 離せ離せ離せ離せ離せ離せ!!」

 

 だんだんとゴム人が不機嫌になっていっているのが声からわかる。よほどオレのことが目障りらしい。奴はこちらを向き、より強く踏み付け始める。

 

 ……いいぜ、離すさ。ただし――

 

「……離すのは、そっちだ!」

 

 オレの言葉の真意が理解できず、困惑するゴム人。そう、今この瞬間は、奴は少女から完全に注意をそらしていた。

 

 だからこそ奴は気づかなかった。その少女の肩には、先程まではいなかった存在がいることに。

 

 ――一迅の風が、吹いた。

 

「――あ? あ゛ぁぁぁ!!? 痛ッ、痛い!」

 

 ゴム人が、先程まで少女を掴んでいた手を抑えて、のたうちまわる。そこから垂れているのは、血。

 

「ふぇ……?」

 

 ゴム人から解放され、不思議そうな表情をする少女の肩には、小さなイタチが乗っていた。

 

 ――否。もしただのイタチだったのであれば、その腕に、血塗られた刃が生えている無かっただろう。

 

 それは鎌鼬。つむじ風を纏い、目にも留まらぬ速さで人を斬り裂く、妖怪。そして同時に、オレの仲間であり、召喚獣でもある。

 

 オレが行動や言葉でゴム人の気を引き、その隙に鎌鼬に攻撃させて少女を解放する。奴がオレに反応するかどうか、一か八かの賭けだったが、思った以上に上手くいった。

 

 鎌鼬の傷は最初分からない。しかし、時間が経つと猛烈なまでの激痛に苛まれる。中々時間がかかったが、その間踏まれつづけただけあって、奴は今ものたうちまわっている。

 

「コータ! 大丈夫!?」

 

 慌てた様子でオレの元に駆け寄ってくる少女。肩にいた鎌鼬は既に送還されているため、今はいない。

 

「……まぁ、ギリギリ……。それより……早く逃げろ…………。アイツ……すぐにこっちに戻ってくる……。…………お前が逃げられるだけの時間なら……何とか……稼ぐから……」

 

 そう言って、少女に笑いかける。オレは、上手く笑えているだろうか。心配をかけていないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 この男の子は、卑怯だ。

 

 かわいい顔をしているだけなら、まだ罪悪感を押し殺すことが出来たのに。

 

 何か見返りを期待した行動をしているだけなら、偽善者と罵れたのに。

 

 何もしないだけなら、僕も諦められたのに。

 

 それなのに、彼は僕をただ助けようとした。そのかわいい顔をボロボロにし、見返りなどを求めるそぶりもなく、ただ手を伸ばした。ただ笑った。まるで、とりとめのない夢のように、まっさらな気持ち。全身の傷を、痛みを、苦しみを我慢し、彼は僕を気遣う。

 

 そんな純粋な人間、夢物語でもいるわけない。でも、彼は確かにいる。あまりに純粋な、毒にも似た純粋な気持ち。

 

 僕の心に小さな、だけど確かな火が灯る。それは少しずつ大きくなっていき、やがて僕の胸を焦がし始める。

 

「あれ……?」

 

 溢れる涙が止まらない。多分これは、初めての感覚。彼に会ってから、いろいろな初めてを手に入れた。だけど今回のは、何かが違う。

 

 欲しい。堪らなく彼が欲しい。全てを投げうってでも、彼のことが欲しい。

 

 欲望にまみれた僕はきっと、世界で1番醜い存在なのだろう。でも、構わない。僕は、この欲望を否定しない。

 

 こんな夢みたいな気持ちが、今現実に起こっているのなら、僕は、醜くたってて構わない。この夢みたいな気持ちは、夢じゃないのだから。

 

 

 

 僕は今、この瞬間から……彼を――

 

 

 

 ――好きに、なってしまったのだから。

 

 僕は決意する。彼を、救いたい。

 

 だから、僕は。

 

 

 

 

 

「契約、しよう? コータ。僕、分かったんだ。契約の仕方」

 

 そう言った少女の顔に迷いは無い。きっと本当に、理解しているのだろう。

 

 でも、なんで契約を……?

 

「――――――――」

 

 あれ? なんだか……静かになってきた。目の前も暗くなってきたし……。

 

 なんだ……? かんがえがまとまらない……。

 

 

 

 …………ずいぶんむかしのこうけい。ちいさかったときのこうけい。おおきなおおきなてにつつまれて、ぼくはパパにゆめをかたった。

 

 おおきくなったら、こまっているひとみんなをたすけられる、そんなヒーローになりたい、って。

 

 

 

「……契約、しよう。僕の全てをコータにあげる。だから、コータの全てを僕にちょうだい。命尽き、死が僕たちを分かつまで、僕はコータの傍にいるから」

 

 唇に感じる柔らかい感触。暖かい。柔らかい。気持ちいい。

 

 身体の感覚が徐々に戻ってくる。それに従い、頭もはっきりしてくる。

 

 ……もしかしてさっきのって、走馬灯って奴だったのかな。やべ、間一髪戻ってきたのかと思ったんだけど、死んでたりしないよな?

 

「…………大丈夫? コータ」

 

「ん……」

 

 今まで口づけをし続けていたらしい少女が心配そうに聞いてくる。頷くことで返事を返す。

 

 ――――What!?

 

「はひゃあっ!?」

 

「ふぇっ!? な、何々!?」

 

 思わず奇声をあげてしまった。あまりに奇妙な声だったからか、少女も同じく驚いてしまう。

 

「オ、オ、オレ……今、キス……」

 

「おやおや~? 普段はあんなに大人ぶってるコータくんにしては初な反応だねぇ~。もしかして、ハジメテ?」

 

「………………」

 

 口に出すのは恥ずかしいので、頷いて答える。

 

「ふふっ、か~わいいっ」

 

「か、かわいいとか言うな! それより、これは一体……?」

 

 改めて周りを見て気づいたんだけど、いつの間にやら周りが、昇り行く光の奔流によって包まれていた。外から見たら、光の柱の中にいる感じなのかな。

 

「正式な形で契約を開始したからだよ。契約を行っている最中にどちらかが死なないように、周りからの干渉を遮断するの。怪我だって危ない場合だったらある程度は治しちゃう」

 

 言われてオレ自身の身体を見てみると、確かに前より遥かに楽になっていた。でもこれ、裏を返せばよっぽど危なかったってことなのかな。でも治すんなら完全に治してくれてもいいような気もするけど、そこまで甘くないってことらしい。

 

「契約……お前が前に言っていたやつか?」

 

「うん」

 

 少女は頷く。だがすぐに心配そうになり、顔を俯かせながら、少女は悲しげな表情を見せ、こちらを伺う。

 

「ダメ、かな……?」

 

「……いいや。いいよ」

 

 今のオレに、契約を拒む意思は無かった。彼女はいわば、命の恩人だ。それに、彼女の人柄はそれなりに見てきた。悪いことをする人だとは思えない。

 

 だけど1番の理由は……なんとなく。彼女が気に入ったから、なんとなくでも大丈夫って、そう思えた。

 

「……ありがとう。本当に、ありがとう……」

 

 たちまち溢れ出してきた涙を拭いながら、少女が笑顔を浮かべる。少し落ち着いたところで、少女は再びオレにお願いしてくる。

 

「でね、コータにお願いがあるの」

 

 少女は静かに微笑みながら、オレに言う。

 

「……僕に、名前をください」

 

 名前…………。

 

 きっと、契約に必要なんだろう。だからこそ、今この場でお願いしてきた。

 

 少女を見つめる。青い髪、蒼い瞳、綺麗な色だ。この光の空間にいるからか、更に綺麗に見える。あまりに綺麗過ぎて、ただ『青』だとかで形容するのが失礼に感じてしまうくらいに。

 

 言うなればそれは、『夢の色』。いつも周りに満ち溢れているような、でも全く気づくことが出来ない素晴らしいもの。時と共に色褪せていく、そう認識しながらも、その実、決して色褪せないもの。あの走馬灯の時、全てに宿っていた、暖かい色。

 

 オレを死から救ってくれた少女。まるで夢のような、そんな出来事を起こしてくれた少女。

 

 そんな、少女の名前

 

「……リーム」

 

 不意に、オレの口から言葉がこぼれ落ちた。

 

「夢……ドリームから、アルファベットの4番目……デスのDを取り除いて、リーム。暗い運命を取り除き、夢を与える者」

 

 いい名前かどうかは分からない。でも、頭にふっと浮かんだ名前が、これだった。

 

「…………うん。ありがとう。僕は、リーム。夢を与える者、リーム。ありがとう、コータ」

 

 少女は目から光の粒を零し、そう言った。

 

 少女が――いや、リームが、オレに顔を向ける。どちらからともなく、重なる唇。

 

 オレの全てがリームに伝わる。リームの全てがオレに伝わる。

 

『我、汝に全てを奉げん……!』

 

 そしてオレたちは、一つになった。

 

 

 

 

 

「くそっ、してやられた! まさか精霊のほうから契約をしにいくなんて! この近くにいる"もう一人の精霊"は強すぎて手に入れようがねぇし…………―――ぐわッ!?」

 

 風……というより、衝撃波に煽られたゴム人が吹き飛ばされる。

 

 どうやら元の場所に戻ったみたいだ。眼下に広がる街の景色が、オレを正気に戻す。

 

 ――眼下?

 

「って、えぇぇぇぇ!? そ、空、空飛んでる!? オレ!? どうなってんだ!?」

 

『ちょっと落ち着いてコータ!』

 

 頭の中にリームの声が響く。

 

『落ち着いて聞いてコータ。まず僕は契約したことで力が解放されて……んと…………何が起きたんだろ……まぁとにかく、飛べるようになったんだよ。あと身体が一つになった』

 

「分かってないな!? この状況を引き起こしたくせに、自分のしたことを全く理解してないな!?」

 

『……そんなことないデス』

 

「嘘つけ! 明らかにそれ分かってない人の反応だろ!」

 

『そんなことより、今どうなっているかちゃんと確かめようよ!』

 

「む……」

 

 それはそれで正論な気がするので、自分の身体を確認する。

 

 とりあえず、やっぱり空を飛んでいる。見た目は自分のこと故に分かりづらいが、顔の前に見慣れない青い髪が一房垂れているのはわかる。特に1番の変化は、背中にマントらしきものが現れたことだろうか。さらに、両腕にも何やらリング状の装飾が着いている。

 

「なんだか、ヒーローみたいだな!」

 

『そう?』

 

「そうだろ」

 

 悪いようにはなっていないみたいだな。

 

「ちっ、これじゃああの精霊を使ってもう一体の精霊を捕まえるってオレの計画が……」

 

 もう一体の精霊……? いったい何の話だ……?

 

『コータ、来るよ!』

 

「んなこと言っても、どうすりゃいいんだよ!?」

 

『こう、ジャンプする感覚で上昇できるから! 早く!』

 

 リームの指示に従い、なんとか高度を上げる。するとオレがさっきまでいた空間を、炎が通り抜けて行った。

 

「おおぅ、ギリギリ……」

 

「避けやがったか……」

 

 ゴム人がこっちを悔しそうに見上げながら言う。

 

 改めて考えてみると、空をふわふわ浮いているのはなかなかに神経を使うが、現在の状況は決して悪いものじゃない。まず、相手の上を取っているというのはそれだけでアドバンテージになり得る。こっちに対抗して飛んでこないとこを見ると、どうやら奴は飛行手段を持たないらしい。加えて、奴の攻撃は射程が長そうには見えない火炎放射らしき攻撃と、謎の液体攻撃、小さな炎の弾丸を生み出す攻撃しかないように感じる。飛行に慣れていないこちらにとっては、たやすく避けられそうな攻撃ばかりなのはありがたい。

 

「よっし、もう遠慮も何も無しだ。今度はこっちから……」

 

『こっちから!』

 

「こっちから…………」

 

『………………?』

 

 …………そういや、よくよく考えてみれば攻撃手段がない。

 

 まず、精神的な年齢はともかく、オレの肉体年齢は9歳。素手での戦いでは勝ち目はない。となると武器を使った戦いがメインになるんだが、遠距離に攻撃できる武器ではオレが反動に耐えられないし、かといって近接攻撃用の武器では、ドリルも含めて、機敏に動けなきゃ使っても避けられてしまう。空中での動き方に慣れていない今、素早い空中機動をするのは無理な相談だ。勿論、地上に降りれば武器は使えるようになるだろうが、得られたアドバンテージをわざわざ手放しては本末転倒だ。

 

「何をのんびり構えているんだ? そんなに狙い撃ってほしいなら、やってやるよ!!」

 

 こちらが仕掛けないことを隙と思ったのか、ゴム人が次の行動に移る。

 

 どこからか松明らしきものを取り出したゴム人は、その松明をぶんぶんと振り回す。――いや、その動きにはどこか規則性があるように見える。

 

 そしてゴム人がまるで目の前の空間を断ち切るように、松明を一際力強く振る。その瞬間、松明の先から激しく火が溢れ出し、辺りに光と熱をまき散らし始めた。さらにゴム人は煌々と燃える松明を口元に近づける。

 

 何をするのか、と考えるより前に、ゴム人は行動に移っていた。息を大きく噴き出したような音がしたと思ったや否や、松明から、先ほどとは比べ物にならないほど巨大な炎が、辺りを焼き尽くさんとばかりに蹂躙し始めたのだ。

 

 その勢いはあまりに凄まじく、本来は火が付きにくいはずの生木がたちどころに炭化していく。後で焼畑農業でもする気なのかもしれない

 

「……って、呑気に考えてる場合じゃねぇ! やっば!?」

 

 熱さの影響を受けなさそうな高度まで上がるには、明らかに時間が足りない。それだけの勢いなのだから、横に逃げても意味はないだろう。

 

 …………あれ? 詰んだ?

 

『大丈夫、僕が何とかする方法を教えるから! 僕と心を一つにして!』

 

「いきなり言われても出来るか!」

 

『じゃあとりあえずカレーのことでも考えて! 思考の統一を利用して、精神感応ラインを繋ぐから!』

 

「何言ってるかイマイチわかんないけど、カレーはわかった!」

 

 カレー、かれー、カリー……。

 

 カレーライス……臭う…………腐ってる………………死!?

 

「うあああああ!!! 止めろ! オレを、オレをそんな理由で殺すなあああ!!!」

 

『いったい何を想像したらそうなるの!?』

 

 仕方ないだろ! カレーって聞くと、反射的に前世の死を思い出しちまうんだから!

 

 とはいえ、カレーはしっかり思い浮かべた。これで大丈夫なはずだ。

 

『なんか気になるけど……』

 

 そう言いつつも、リームが何かをしたらしく、オレの腕が何かの記号を描くように動き出す。オレの意思に関係なく自分の腕が動くというのは、なかなかに気味が悪い。

 

『僕の言葉を繰り返して! “顕れよ氷柱! 眼前に聳え立ち、我に仇なす者を連なり阻め”!!』

 

「えーっと、“顕れよ氷柱! 眼前に聳え立ち、我に仇なす者を連なり阻め”!!」

 

 なにやら魔法みたいな言葉を喋らされる。勢いに流されるままに言ってしまったが、ぶっちゃけちょっと恥ずかしい。

 

 しかし、そんな感想はあっという間に消え去ることになる。

 

 オレの口から流れだした言葉が、辺りを漂い始める。そんな感想を抱いた時には、すでに異変が発生していた。

 

 オレの目の前に光で描かれた、ゴム人とは違う形の魔法陣のようなものが現れるや否や、上空にも同じ形状をした巨大な光の模様が現れ、一際強く輝いたかと思えば、模様の中から何本もの氷柱が現れ、オレの前に突き刺さったのだ。

 

「何!?」

 

 うねるようにこちらに迫ってきていた炎は、行く先を氷柱に阻まれ、まるで怒り狂った猛獣のように激しく氷柱にその身をたたきつける。しかし、見上げるほどに巨大な氷柱は、その炎の進撃をものともしない。

 

「すっげぇ……」

 

『えっへん! あんなぬるい炎じゃあ僕の氷は融けないよ!』

 

 きっと見えないとこで胸を張っているんだろう。リームが自慢げに言う。

 

 となれば、後は奴を倒す手段なんだが……。

 

 と、そこでオレは気づく。リームと一緒になった後で付いた、両腕の腕輪。どこかで見覚えがある。確か――――

 

「……そうだ」

 

 間違いない。なら、確実に……!

 

『ちょっと何してるのコータ!?』

 

 リームがオレの不可解なのであろう行動に驚き、慌てふためく。それも分からなくはない。明らかに外れない様子の腕輪を、無理やり外そうとしているのだから。

 

 だが、オレは直感していた。これが、“初めて戦ったあの時”のドリルについていた装備であることを。ドリルの、オレの力を更に引き出してくれることを。

 

 しかし、腕輪はガチャガチャと音を立てるばかりで外れる様子はない。力を込めようと、回そうとしても、びくとも動かない。それでもオレは、諦めない。諦めたくない。

 

「外れろ、外れろ、外れろ!」

 

『無理だよコータ! それは、エクスリングは外れないから! それより、なんとか攻撃する手段を――』

 

「無理だなんて誰が決めた! オレが無理じゃないって信じる限り、無理は無理じゃねぇんだ! 不可能なんざァ……オレが変えてやらぁ!!!」

 

 そうだ! どんな不可能だって変えてやる! このまま訳の分からないまま死んでたまるかってんだ! あのドリルも、未来も、全部掴み取ってやる!!!

 

『もぅ! 勝手にしろバカコータぁ!!!』

 

 オレの語気から説得が無意味だと悟ったらしいリームが、抵抗をやめる。

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 心の奥からとめどなく湧き出してくる気合を、全部込める。この力を、信じて。

 

 そして、奇跡は起こった。

 

「な、なんだあれは!?」

 

『嘘!? まさか本当に!?』

 

 ユビキタスサークルから引きずり出されるように出てきたドリル。オレの腕に装備されたその根元に、あの腕輪が、エクスリングが融合する。

 

「あの時のドリル……やっぱり、これだったんだな」

 

 腕のドリルから、無限大のエネルギーを感じる。これなら、きっと!

 

「行くぜ! ゴム毬野郎!!!」

 

 ドリル――いや、もうただのドリルとは呼ぶのはふさわしくない。エクスリングと融合したドリル――エクスドリルに気合を込め、全開で回す。あまりの力に空気が軋み、空間は千切れとび、雲は恐れおののいて逃げ出す。万物を流転させんばかりの圧倒的な迫力が、ドリルから辺りに伝播していく。

 

「『おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!』」

 

 オレの、リームの、二人の叫びがきっかけとなり、オレは弾かれるように飛び出した。

 

「う……く、くるな! こっちに来るな……あああーーーッ!!!」

 

 気が狂ったように炎を生み出してこちらを攻撃してくるゴム人。だがしかし、オレを止めるには至らない。慌てている心事が攻撃にも影響しているのかもしれない。だがなにより、回りだしたドリルは、覚悟と気合を持った男はどんな手段をもってしても止められるものではない。

 

「『いっけえええぇぇぇぇぇぇ!!!』」

 

「こんなはずじゃ……あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 オレとの融合を解除したリームが、一息つく。その足元には縄でぐるぐる巻きにされたゴム人。あの時と同じように、死んではいない。どうもエクスドリルは直接の打撃だけでなく、エネルギーを纏っている上、空間すら掘っている(リームが魔法に近い現象だと言っていた)らしく、今回はゴム人を物理的に貫く前にオレの体はゴム人の向こう側まで移動しており、ゴム人はエネルギー――さしずめ、魔力とでもいうべきか――をまともに受けて気絶してしまった。殺してしまわなかったのは幸いだ。

 

「やったね! コータ! って、コータ! コータ!?」

 

 しかし、なんだか今日はあの日より凄いことを連発してた気がする。魔法だったり、融合したり、エクスドリルだったり。ああ、死にかけたりもしたっけなぁ。

 

「コータ! ちょっとしっかりして! コータ! 死んじゃダメだよコータ!」

 

 ああ、そういえばファーストキスも奪われたんだっけなぁ。

 

 何処までも広がる青空を見上げながら、アドレナリンが切れてピクリともしない身体がこれでもかと教える痛みを、オレは生きている実感とともに感じ続けた。

はい、こんな感じで。長くかかってるんで、文章間でのテンションに差があるかもしれませんが、そこはまあご愛嬌ということで一つ。


さて、今回の敵なんですが、説明する場所がまるでないまま終了してしまった(だって相手がわざわざ自分のことを喋るわけないし、吼太は突破口探す以外は相手をを探ったりする性格じゃないし)のでいろいろ謎があるかと思いますので、軽く説明していきます。


まず、コイツは生粋の魔導師です。この作品における魔導師がどういうものか、というのはのちの本編で説明しますが、まぁ皆さんが想像する一般的な魔導師像と大差はないかと思います。


コイツは人里から離れて暮らしてたんですが、ある日突然可燃性の白い粘液を吹きだせるようになりました。なぜだと思います?


夜、デブ魔導師が大口を開けて寝ている時間。一匹のG(黒光りする奴)が這い回っていました。Gはデブの体を這い回り始めたんですが、不幸なことに、口の中に入った瞬間に噛み潰されてしまいました。


実はこのGが転生者なんです。まぁ、前世はにんげんじゃないんですが。ちなみに能力は「可燃性物質の生成」です。


で、めでたくデブはGの力を受け継ぎ、パワーアップしたわけです。最悪ですね←


次回はのんびりした話になるはず。見方によっては今回以上の騒ぎになりますが。


あ、あと次回から三人称とかも使います。吼太の一人称じゃ状況説明が難しくて。


ではではこの辺で! 次回もお楽しみに!

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