カラス屋少女と会う 二
書き途中です
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サクラがカラスの説教から逃れられたのは、それから数十分後の事で、その間にカラスはサクラの普段の態度から私生活の事、さらにはサクラ自身には全く関係のないことまで言われ注意され、一方サクラは十分くらい抵抗したり、逆切れなどをしていたが、最終的にはグリグリの痛みに涙を流しながらカラスの説教を聞くだけで、その間スノウは何が面白いのか腹を抱えて笑い転げているだけだった。
そしてサクラはカラスの説教が終わると、カラスの頭を一発引っ叩いて車の助手席に戻り、毛布にくるまり、大きな寝息を立て始めた。
「すまなかった」
「いや大丈夫ですよ面白かったですし。でもご飯が無くなっちゃいましたけど?」
食べ終えたシチューの代わりに渡されたインスタントコーヒーを意味もなくかき混ぜながら、スノウがそういうとカラスは「心配ない」と言い、車の方へゆっくりと向って言った。
車の方に無事サクラにバレずたどりつけたカラスはそっとトランクを開ける。その中から、新聞紙に包まれた長方形の物体と、酒瓶を取り出すとさっさと釜戸の方に戻り、新しい薪をくべ始めた。
「それは何ですか?」
「これか?これは甘蛇の燻製と、フルーツリーフのエキスを集め発酵させた酒だ」
新聞紙を開けると、そこに串に巻かれ、燻製にされた甘蛇の姿があった。
「……それ食べれるんですか?」
スノウがあまりのグロテスクな外見をしている甘蛇の燻製を、にやけ面で見ているカラスに少し引き気味にそう言った。
「最初はだれだってそういうんだよな。確かに見た目はグロテスクだが、味は流石『甘』蛇。ジャングルの奥地で甘いフルーツを食べているから独特の甘さがあって、本来は刺身にして生で食うのが美味いが、だがそれだと色んな菌を含んでいて腹を壊すからこうやって燻製にしたり、焼いてして食べるのが一般的だな。まあそれでもあえて生にこだわる奴もいて……」
「はあ……」
「そしてこれに合うのがこのフルーツリーフ酒。甘蛇が生息しているジャングルでしか育たない希少な葉っぱ『フルーツリーフ』を、特殊な製法で発酵させた酒だ」
ポンッと酒瓶に付いているコルクを歯で噛み、顎の力だけで引き抜くとそのままグラスに注がず、勢いよくラッパ飲みした。
「くはぁ!」
おやじ臭い息を吐き、カラスは甘蛇の燻製を釜戸の火の近くに刺した。
「ふぅ……、さてと、自己紹介がまだだったな。俺の名前はカラス。依頼屋の所長を務めている。今回ここに来たのは、この先の町のラムの町周辺で巨大なバグが多数発見され、それの駆除の依頼をあの馬鹿がとってきたからだ」
「依頼屋さんでしたか……、全然そうは見えませんね。荷物も武器も軽いですし、ぼくと同じ旅人かと思いましたよ」
「まあ実際そう見えるのもしかたないな。でも案外しっかり持ってるもんだ」
そろそろかとぽつりと言いカラスは甘蛇の燻製を取る。ちょうど良く火に炙られた燻製はとてもいい匂いを振りまき、カラスの何も入っていない胃袋を刺激する。しかしカラスはそれをすぐに口に運ぼうとはせず、串の部分をクルクル回し、なにか考え事をしているようだ。
「なあ……」
「なんでしょうか?」
「スノウとか言ったな。あんた金は持っているか?」
「鞄にいれていましたから、盗賊達に持ってかれてしまいました。もちろん通帳も印鑑も。まっ、どのみち次の町に付いたら適当に働く予定でしたから」
「へぇ、そうなのか。ちなみに基本的には何をして稼いでいるんだ?」
「だいたい依頼屋のまねごとですね。こう見えて結構荒事とか慣れていますから」
「そうか……」
そこまで言うとカラスは甘蛇にかぶりつき、酒をラッパ飲みした
「それだったら、俺たちと一緒に依頼をやってみないか?」
「え?」
スノウが目を丸くする。
「いや、いやっだたら別にかまわない。だけど俺たちが次に行く町は、基本的に平和そのものだし、今回の依頼だって町長直々の依頼だからな」
「えっ?それって……」
「そっ、依頼書を受け持つ事務所どころか、依頼屋すらない正真正銘の平和な町なんだ」
「嘘」
依頼屋がいない町。様々なバクの事件があり、数々の賞金首がいるこの世界では大変珍しい町だ。
「でも依頼屋って普通はそういうの嫌いなんじゃないんですか?その……、自分の仲間たち以外と仕事をするっていうのは」
依頼屋というのは自分の仲間以外との仕事を嫌う。理由は取り分が無くなるし、基本的に人をあまり信じない輩が多いからだ。