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カラス屋  作者: 白猫@
3/4

カラス屋少女と会う 一

 「ハァ…ハァ…ハァ……」

 昼の太陽が照りつける荒野の中、少女が白い長そでの服を羽織り、ただ一人なんの荷物も無しで歩いている。太陽に照らされ、フードの中から見せる白い顔には、玉のように大きな汗を大量に掻いており、手足はフラフラ、目も焦点が定まっておらず、今すぐにも倒れてしまいそうだった。

 (あー……、やっぱり維持でも荷物取り返しておけばよかったかな……?)

 彼女がこうなったのは三日前に山賊に襲われたからだ。しかも二人や三人ではなく、十人単位で来られたから性質が悪い。なんとか逃げ切り、荷物だけが取られただけでよかったものの、今では少し荒っぽい事をしてでも取り返せば……、とそんな後悔すらしている。

 (三日も歩けば着くって言われたし、どうせ町に着いたら適当に仕事して稼いだお金で、新しいバックとか食料とか買えばいいやって思ったのが間違いだったかな……)

 現に三日以上歩いているが、町はおろか人っ子一人いない。

 そしてそんなことを考えていたら、彼女の頭が急にグラッと傾き、そのまま荒野の硬い地面に倒れこんだ。体がピクリとも動かない。

 (あー……もうここで死ぬの……かな?)

 そんな彼女が最後に見た光景は、地平線の彼方から、なにかがこちらの方にに向かってくるものだった。



 「あー暑いー、くっそなんでこんなに暑いんだよ……」

 ブルルルルと辺りにけたたましいエンジン音を響かせ、ゴツゴツとした荒野の表面を走行している軍用車の助手席に項垂れているサクラがそう言う。

 本日どころか年中晴天な荒野に、カラスとサクラが入ったのは一日前。お巡りさんの前では決して言えない速度で現在走行しているため、天井のないオープンタイプのカラスの車には、そこそこ心地のよい風が入ってくるのだが、空から照らされる強烈な太陽光のため、最初は隣りで運転しているカラスに「人間の干からびた死骸は?」や「盗賊はいつでてくるんだ?」と不謹慎な話題を振っていた彼女だが、それは一日目の事、二日目の今日になるとバテテ、話す内容もっぱら暑い、飯、寝る関係の事しか話さなくなっている。

 「俺達なんかまだましな方だ。俺たちの来る三日前に出た奴なんか、徒歩だっていう話だからな」

 「本当かよ!そいつ絶対馬鹿だな。んでもって今頃山賊か何かに襲われて死んでるぜ」

 「確かにそうかもな」と言い彼は、近くに置いてある自分の水筒の口に口を付ける。氷属性の魔力が付与されているこの水筒は、魔力付与が解除されるまで、まるで解けたばかりの氷を飲んでいるかのように冷たい。さらにこの中に水を入れれば、どんなに熱い熱湯だろうが一瞬で脳に染み渡るくらい冷たくできる。こういった特定の地域でしか発揮されないが、案外儲かる商売は色々あり、他にもこの能力に特定の味をつけたり、幻影の魔法を利用し、飲んだ瞬間海にいるようなイメージをさせたりすることもできる。

 「ふぅ……」、水を飲みカラスが一息つく、冷たい水が一時の清涼感を体全体に巡せる。そしてそれと同時に体中から汗がにじみ出てくる。顔の汗を裾で拭うと横から手が出てきた。

 「よこせ……」

 出てきて手はサクラの手で、その顔は、まるで獲物を狙う獣のよう。しかしその体はぐったりとシートにもたれている。

 「今日の分はどうした?」

 「もう飲んじまったよ!悪いか!」

 ぐったりしていたと思ったら、今度は立ち上がり、カラスの水筒を奪おうと立ち上がった。暑いと人種関係なく怒りやすくなるんだと改めてカラスは思い、また一口口に含んだ。

 「クアー!!ムカツク!人が暑くて死にそうなのに、涼しい顔して冷たい物飲みやがってっ…てっうわっ!」

 カラスがなにかを見つけたのか急に曲がったため、サクラは遠心力で、車から到底お巡りさんには言えないスピードのまま振り落とされ、荒野に叩きつけられた。

 「イってーじゃねぇか!水くらい分けてくれたって……ん?」

 サクラが異変に気付いた。サクラを振り落とした張本人であるカラスは、車から降り、荒野に俯きで倒れている人間に必死に話しかけている。

 「おい!大丈夫か?おい!」

 体を揺さぶっても、話しかけても返事がない。首元に手を当てて脈を測る。

 「おいそんな奴ほっとこうぜ」

 サクラがカラスの隣りに立ち、そう言った。

 「そういう訳にはいかない。一応まだ生きてる」

 「ハァ……、勝手にしろ」

 そういうものの、サクラは車のトランクから毛布と水とタオルを取り出し、カラスに渡す。それを受け取るとカラスは一旦仰向けにし、倒れている人間が着ている長袖の白い服を脱がす。

 「女か?」

 女の一人旅は珍しいため驚いたが、それも一瞬。すぐさま下の長袖のボタンも外し、ズボンのベルトも緩める。そして全身に水で濡らしたタオルを当て、毛布をくるくると簡単に丸め、それを頭に敷き、体を横にして寝かせる。

 「あとは日陰でもあればいいんだが……」

 「おい、勝手にテント改造させてもらったぞ」

 カラスがサクラの方に振り向くと、テントの布を引きちぎって、骨を刺しただけの簡単な日よけを手に持っていた。

 「(形はあまり良くないが、人一人十分に入れるだけの大きさはあるな……)よし、それをここに設置してくれ」



 「ん…あれ……ここは?」

 目を開けるといつの間にか夜になっており、頭には毛布が、体にはタオルが置かれており、そして服ははだけていた。

 「なんで?」

 「やっと起きたか」

 少女が起き上がると、そこには釜戸で料理をしているカラスがいた。恐らくシチューだろう。鼻をすんすん鳴らした少女がそう思ったと同時に、彼女の腹の虫がなった。

 「あなたは誰?」

 「それよりもまず飯だ。どうせ今言ったて頭に入んないだろ?おいサクラ!飯だ!」

 カラスがそういうと少し離れた車の方から、人影がむくりと起き上がるのが見えた。垂れた耳にしなびた尻尾。東洋で作られたとされる特殊な桜色の防具着物を身に纏い、目をこすりながら、その人影はこちらにやってきた。

「やーと飯ができたか……」

 「ほら寝ようとしない。しっかり座って食え」

 そう言うとカラスは、釜戸の前で寝ようとするサクラを座らせ、彼女に他の皿よりも大きな皿に盛られたシチューを渡した。

 「ん?んん?んぅうおおおおおおおお!」

 サクラは皿を渡された瞬間大声を上げた。そしてシチューをスプーンを使わずに一気に飲み干した。

 「……」

 少女はその姿に言葉がでないくらい驚いた。カラスはそんなことは気にしてないのか、サクラの分のシチューを入れた皿よりも、少し小さな皿にまたシチューを入れた。

 「ほら」

 「あっ、ありがとうございます……」

 差し出されたシチューを少女は一礼して受け取る。そこにはちゃんとスプーンが付いていた。

 「こいつの事は別に気にしなくてもいい。いつもの事だからな。それえよりも……」

 「おかわり!」

 「はいはい……」

 今度は、サクラから差し出された皿にシチューを入れながら、カラスが喋り出す。

 「名前は?」

 「スノウです。今回は食料が尽きて倒れていたところを助けていただいてありがとうございます」

 「こんなところで食料が尽きるなんてな……、盗賊にでも襲われたのか?」

 「情けないですね。あのとき無理やりにでも奪い返しておけばよかったです」

 「まあ命あっての物種だ。下手に取り返そうとすれば、殺されていたか、そうでなくても……」

 「おかわり!」

 「……自分でよそれ」

 カラスは、自分が持っているお玉をサクラに渡した。サクラはお玉の主導権がこちらに渡った瞬間、大喜びし、それですくっては飲み、すくっては飲みとスプーン要らずの食事を再開した。

 「どうしてこんな所に?ここは女が一人で旅するところじゃないだろ?」

 「特に理由はありません。あてもないその日暮らしの旅人ですから、偶然ここを通っただけです。それと……」

 「それと?」

 次の瞬間カラスの目の前に白い巨人の腕が突き出されていた。いや、正確には、それはスノウが自らの魔力を使い出したものであり、腕の動きはもちろん指の細かな動きもスノウの腕や手とリンクしていた。

 「ぼくはただの女の子ではありませんよ。その気になれば盗賊を簡単に追っ払うこともできましたし」

 「へぇ……、これは驚いたね。これに似た魔法は結構見てきたけど、その中でもこれは中々……」

 「まだまだこんなものじゃありませんけどね。これがぼくの魔法スノウハンドです」

 「おいカラス。シチューがもうないぞ」

 「……」

 「いった!痛い痛い!何すんだこの馬鹿!」

 カラスは立ち上がり、グーの形にした拳をこめかみに当てると、思い切りグリグリと通称グリグリを始めた。

 サクラはカラスによるグリグリ攻撃から逃れようと身をねじったり、こめかみに当てられている手を外そうとするが、ものすごい力で抑えられており、中々外れない。

 「お前はなんでいつもそうなんだ?依頼は勝手に受けてくるし、食ったものは片づけない、掃除洗濯はすべて俺任せ、挙句の果てに飯を全部食う!」

 「うわー、カラスが怒ったー!」

 「ふっふふ、あはっ、あはははは!」


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