第4話 純一とEMI ~ 新たなる出会い
数ヶ月後、純一は亡き婚約者恵美のアンドロイド『EMI』の引き渡し通知が政府からあった。純一は、恵美とデートした公園を待ち合わせに指定した。引き渡しは、EMIとのデートの約束という形で実現された。
待ち合わせは、以前に恵美と一緒に来た事がある公園の時計台前に午前11時に指定した。拓也は公園に15分前に到着し、早すぎたかなと思いながら約束の時計台の方へ胸を弾ませながら歩いて行った。
(あれ、恵美がいる。というか、EMIだったな……。もう、来てくれたんだ……)
EMIの待っている姿を見て、純一の心は高鳴り以前のデートを想い出して時めいた。
「純一さん……。私、嬉しくて早めに来ちゃった。純一さんも、早かったのね?」
「僕もドキドキして早く来ちゃった。お腹空いたね。いつもの公園西側のキッチンに行って、お昼はイタリアンとかどうかな?」
「純一さん、あのお店のカルボナーラが好きだったもんね。お腹空いたわ。行きましょう」
EMIは、純一の手を握った。彼女の手は柔らかくとても温かい。純一は、懐かしく思いながら公園の小道をゆっくりと歩いていた。純一は、その店に着くとEMIを中に導いた。
「いつもの窓際の席に座ろうか」
席に着くとウェイターが注文に来た。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか? 今日のサービスランチは、マカロニグラタンとグリーンサラダです。お飲み物は、コーヒーと紅茶から選んでください」
「私は、サービスランチにするわ。グラタン食べたいから。純一さんは?」
「僕は、カルボナーラが良いな。それとアイスコーヒーで。EMIは飲み物どうする?」
「私は、温かい紅茶にします」
ウェイターが2人の注文を確認して戻って行った。それから、15分程でウェイターが食事を運んでくる音がする。
「お待たせしました。カルボナーラとグラタンのセットです。グラタンは熱いのでご注意ください。こちらは、カルボナーラですね。ごゆっくりどうぞ」
EMIが、グラタンを口に運んだ。
「熱い。唇が火傷しそう……」
「慌てて食べるからだよ。水でも飲んだ方が良いんじゃない。本当に火傷しちゃうよ」
「だって、お腹空いてたんだもん。純一さんも、本当にカルボナーラが好きね。この店では、いつも他のメニュー注文したのを見たこと無いもの……」
純一が、食事の途中でフォークとスプーンを置くと、EMIに真剣に話し掛けた。
「EMI、僕と結婚して欲しい。急で済まないけど、今日から僕と一緒に暮らそう」
「嬉しい。ありがとう。私も純一さんと、いつか一緒に暮らせたらと思っていました……」
こうして純一はEMIと結婚し、拓也もSAYURIとほぼ同じ時期に結婚していた。EMIには、2人の出会いからの全てが記憶されていた。その後、純一と拓也は待ち合わせて結婚後初めての近況を報告し合った。
「やあ、元気か? 拓也が、この店からSAYURIさんを引っこ抜いたから、もうこの店には彼女は居ないんだね。寂しいな……楽しくやってるの?」
「変なこと言うなよ。あの時は、俺も必死だったんだよ。でもさ、今はとても幸せだよ。SAYURIが、何でも分ってくれるし優しいからね。結婚してから、純一は昔の恵美さんを想い出したりしないか?」
「そんなこと無いよ。前の恵美と何も変わらない……。一緒にいるみたいに感じる。いや、今のEMIは、それ以上かもしれない」
「良かったね。……俺、子供も考えてるんだ。名前も考えないとね」
「申請してから受精後、10ヶ月は掛かるからね。顔を見てから、名前を決めても良いんじゃない?」
こうして、2人の若者の結婚生活は順調にスタートした。