第6話:異世界アニメによくある展開来てくれぇッ!
前の投稿から色々とあり、すごく遅れました。それについて謝罪を――
アレイア「えっ……色々と言ってもこいつは漫画とかアニメをほとんどの時間見てさぼってたよう――」
はい!と言うわけで第6話の始まり始まりィ!
アレイア「こいつ、ごまかしたぞ……」
街の広場に私の声がこだまする。
その瞬間、通りを歩いていた人々の足が止まり、一斉にこちらを振り返った。
商人も、冒険者も、ただの買い物客までもが驚きの表情を浮かべている。
「……街中で大声をあげるのはおやめください、マスター。大迷惑です」
「いや、リゼリア!あれはおかしいでしょ!?今日の冒険者の依頼――薬草採取!あんなの、異世界アニメだったら絶対イベントが起こるやつだよ!?強い魔物が急に現れるとか、謎のキャラと遭遇するとか!」
私は地団駄を踏む勢いで抗議する。
だがリゼリアは、冷たい眼差しを向けて話す。
「マスター、そんなアニメみたいな展開が2度も起こるとでも?」
私は胸の前で拳を握りしめる。
「せっかく冒険者になったのに、ただの薬草取りだけで終わっちゃったじゃん!イベントゼロ!盛り上がりゼロ!つまらない!」
「薬草取りだけで終わってないじゃないですか。道中で魔物とか出ましたし」
「いや!ゴブリン、合計10匹程度でしょ!弱ければアニメでよく聞く”スタンピード”の予兆みたいな数じゃないじゃん!全員、私が殴っただけで宇宙の彼方まで消えて終わったじゃん!」
本当に何のイベントもない日常依頼じゃんか! 今、私の求めている展開では――ない!
「あのですね、マスター……前の《ノクターン・ファクトリ》の件があって1週間も経っていないんですよ。そんな頻繁にアニメのようなイベントが起きていたら、この世界はとっくに終焉してますよ」
げ、現実的だなぁ……!
せめて、アニメ展開くれよ!
と心の中で叫ぶ私だがこの日、私がどれだけ街や冒険者ギルドをうろついても――何もイベントは起こらず、ただ平凡に終わってしまった。
*******
冒険者活動を始めてから、今日で四日目。
そして……
マスターの機嫌は日に日に悪化している模様です。
理由はいたって簡単です。
「『異世界アニメイベント』とやらが、いっさい発生していないから」という理由です。
まるで、祭りのスーパーボールくじで大きいボールを引けず、お金がないので仕方なく諦めるしかない子供のような顔をしています……
この様にテンションが低くいマスターは見たことがなく、マスターを見ているとだんだん可哀そうに思ってきます……
そんな感じでスタートした本日の依頼は「近くの村までの護衛」。
馬車の狭い荷物置きに押し込まれながら、マスターは頬杖をつき、天を仰ぐ。
「今日もなさそうだなぁ……」
あぁ、完全に拗ねておられますね。
面倒事は御免ですが、このテンションの低下ぶりもなかなか慣れず、こちらの方が面倒に感じてきますね……
私としても、そろそろ何かしらイベントが起きてくれた方が助かります……
護衛の依頼を始めてから、まだ三十分。
私は馬車の荷台に押し込まれ、空を見上げながら気の抜けた声を漏らしていた。
「わー……きれいだなー」
……テンション低っ。
もはや自分で自分にツッコミを入れたいくらいだ。
私が思い描く異世界冒険じゃないのはなぜだ!おかしいな……
普通は1回、イベントが起きれば連鎖して起こるものではないのか!?
昔に私が色々な世界に行ってた時はめちゃめちゃイベントが起きていたぞ!
リゼリアの様子が気になって隣を見ると、収納魔法から本を取り出し、相変わらず淡々と読書中。
私も退屈になって来たし漫画本でも読むか……
「そろそろゲームの新イベント始まる頃かな……」
などと考えながら、家にある漫画本を取り出そうとしたが――。
――ドンッ!!
急に馬車が大きく揺れた。
反射的に荷物にしがみついたけど、木箱の角で頭を打って悶絶。
「いったぁぁぁぁぁ……!!」
その間に御者のおじさんが慌てて声を上げる。
「しまった……また、はまってしまったか……!」
気になったけど、頭を抱えて転がっている私に代わってリゼリアがすっと尋ねる。
「今の揺れどうしましたか」
「地面が水浸しで車輪がハマったんだよ……」
言われて見てみると、確かにさっき通った道は水浸しで、
ぬかるみに車輪がズッポリはまっていた。
……ちょっと待て。
「リゼリア、昨日……雨降ってないよね?」
「昨日どころか一昨日も降ってません」
おかしいでしょ……
なんで快晴続きなのに、道だけこんな池状態になってんの!?
御者が焦ったように声を荒げる。
「奴らが来る前に抜け出したいんだ!手伝ってくれ!」
「えっ?奴らって誰のこ――」
私が聞き返そうとした瞬間。
「そこの人~! 困っていないかい~?」
間延びしたような、けれどやけに通る大声が辺りに響き渡った。
声がした方を見ると、スコップを担いだ一団が立っていた。
その姿を見た御者のおじさんは顔をしかめ、大きくため息をついてぽつりと呟く。
「遅かった……」
何でそんなに落ち込むんだろう。普通なら助けが来て喜ぶところじゃないのか――と疑問に思っていると、一人がにこやかに訊ねた。
「馬車がこのぬかるみにハマってしまったのかい?」
続けざまに周囲の者たちも声を合わせる。
「大変ですね〜。これはスコップがないと厳しいですよ〜」「ちょうど私たち、スコップ持ってますよ〜」
いかにも“スコップマウント”を取ってくる感じで迫ってくる。腹が立ついい方してくるな……
「大変そうなので、私たちが助けてあげましょう」
おぉ……ちょうどいいタイミング!
とその時の私は思ってました。
ところが次に出た言葉で、私はあることが確信に変わった。
「でも、ただで助けるつもりはないんですよ〜。かなり労力を使うので……銀貨五十枚分いただきますね〜」
あぁ、なるほど……そうか……てめぇらか……道路が水浸しの理由……
人為的にぬかるみを作っておいて、助ける代わりに金を取る――
自然と右手に力が入ったスコップ集団に近づ――く前にリゼリアが私の腕をきつく掴んで押さえつけた。
「離しなさい!私にはあのクソ共を殴り倒す義務がある!」
とジタバタする私に、リゼリアは冷静に言い放つ。
「早まらないでください、マスター。すぐに暴力行為で解決しようとしないでください」
イベントだと思ったのに、ただの詐欺……!
怒りで右手を振り上げかけたところをリゼリアに止められ、結局その隙に御者のおじさんが取引を進めていたらしい。値切り交渉の末、三割引きの銀貨三十五枚で落ち着いたようで、今はスコップを振るって車輪を掘り出している。
私はそこら辺の大きな石に座り込む。不機嫌さが顔に出ていたのか、リゼリアが緑茶を差し出してきた。
「マスター、どうぞ」
「ありがと」
一口飲んでみると緑茶のさわやかな風味が全体にしみわたり、私の全然イベントが全然起きないせいでたまったストレスと4日間の冒険者の仕事の疲れを癒してくれる……
……うまい。ほっとする。そう思いながらもう一口飲んで――
「ヴッ!?……ゲホッ!ゲホッ!ゲホォッ!!」
緑茶が変なところに入って盛大にむせた。むしろストレス増えただけだろ、これ。
「……何をしているんですか、マスター」
冷ややかな視線が突き刺さる。
そんなやり取りを一蹴するように、リゼリアは急に別の世界の言語で話しかけてきた。
「手を上げたくなる気持ちは分かりますが……彼らも生きるためにやっているのですよ」
「生きるため、ね。つまり……貧困?」
「その通りです。この世界でも、低賃金の仕事しか得られず、ぎりぎりで暮らす者が多い。その結果――こうした詐欺に手を出す人間もいるのです」
私はため息をつき、作業中の彼らを見る。服は一見普通だが、あちこち継ぎはぎだらけでところどころ擦り切れている。
彼らが着ている服は拾ったのか、盗んだのか……いや、どちらにせよ楽な暮らしではないのだろう。
そう思ったところで、どうやら作業が終わったらしい。
作業が終わり、ようやく走り出した馬車。
御者のおじさんは「最近、ああいう連中が問題になってましてね……」などと、さっきの詐欺の話を延々としていた。
私は「へぇ、そうなんだぁ」と相槌を打ちつつ、実際は漫画本に夢中。
正直、耳にはほとんど入ってなかった。
それから十分ほどで目的の村に到着。
御者のおじさんが荷物を運んでいる間、私たちは「ここの村で観光でもして来なさい。午後三時に待ち合わせで出発しましょう」と御者のおじさんに言われたけど……正直、特にやることもなく村をふらついていた。
刺激的なイベント、来ないかな~。
そう思いながら歩いていたら、いつの間にか村の畑地帯に足を運んでいたらしい。
のどかな風景。広がる畑に、青々とした作物。いかにも「村」って感じの景色だ。
異世界アニメのスローライフ系なら、こういうのもアリなのかもしれない。
でも今の私が欲しいのは、戦闘系の刺激的なイベントなんだけどなぁ。
そんなことを考えていたら、リゼリアが農作業をしているおじいさんに声をかけた。
「いい野菜ですね」
「はは、ここらの土壌は良くてね。いい野菜が育つんじゃ」
普通に会話してるな……
おじいさんはふとこちらを見て言った。
「おや、嬢ちゃんたちは冒険者かね? そうならちょうどいい。依頼を頼みたいんじゃが……」
話を聞けば――最近は歳のせいで、広い畑の作業がきつくなってきたらしい。
「できれば、手伝ってほしいんじゃ。正式な依頼として」
見れば確かに、このおじいさんの体は年季を感じる。
よく今までやってきたな、って思うくらい。
――やることもなかったし、まぁ依頼として受けてみるか。
依頼を受けてから40分。私は次の畑を耕していた。
鍬を持って20分も経たないうちに、もう体が重い。
晴れて天気がいいのはありがたいけど、直射日光でジリジリと肌が焼ける。暑い……暑すぎる……。
水分補給に、《マテリアル・コンポゼー》で水を作ってゴクリと飲む。
この技術は魔法の基礎中の基礎とはいえ、こういうときに使えると本当に便利。基礎だからこそ侮れない。
……って、頭の中で視聴者に語りかけてるみたいな自分が悲しくなってきた。誰も見てないぞ、アレイア。
休憩を終え、畑をすべて耕し終わった私はおじいさんに報告。すると次の作業を告げられた。
「今度はあっちで農作物の収穫をしてもらいたくてね」
腰を伸ばして軽くストレッチ。さっきまでは「戦闘系イベントこい!」とか思っていたけれど、こういうスローライフ的作業も悪くないな。
そう思いながらジャガイモを収穫しようとした瞬間――気づいた。
ジャガイモに”め”があった。
そう、”め”が。
どっちの”め”かって? もちろん――こっちの”目”。
――”目”?
「……目!? このジャガイモ、目がついてる!?」
思考が追いつく前に、ジャガイモが弾丸のように襲いかかってきた。
「アダダダダダダダッ!? な、なんじゃこりゃぁ!? 弾丸みたいに襲ってくるんですけど!? いてぇぇ!」
右に避け、左に避け、まるでアニメの逃走劇みたいに逃げ回る私。
それを冷ややかな目で見てくるリゼリア。
――いや、助けてくれよ!
おじいさんが駆け寄りながら、まるで日常の一幕みたいに言った。
「あぁ、またジャガイモが生命を宿したか……」
……はぁ? 生命を宿すジャガイモって何それ!?
おじいさんはどこかへ走り去り、しばらく逃げ回っていると片手に容器を持って戻ってきた。
中の液体を私とジャガイモにばしゃっと振りまく。
するとジャガイモたちはピタリと動きを止め、ぼてぼてと地面に落ちていく。
――助かったのはいいけど、私は全身びしょ濡れ。
……いや、なんで私だけこんな目に!?
びしょ濡れになった私は、タオルでざっと拭いたあと、濡れた服のまま風魔法で一気に乾かした。
「おぉ……魔法というのは実に便利じゃのう」
おじいさんが感嘆の声を上げる。
しかし、私はさっきの液体が気になって仕方がない。
「気になったので聞きますが、さっきの液体は何ですか?」
「あぁ、あれか……普通に井戸の水じゃが」
「ただの水……にしては効きすぎじゃない? すみません、井戸まで案内していただけますか?」
案内されて井戸を覗き込むと、澄みきった水が湧き上がっていた。
……この世界にしてはきれいすぎない?
そこで私は鑑定スキルを起動。
【聖水】
あぁ、なるほどね。聖水だから……ん?聖水!?こんな田舎の井戸から!?
慌てて鑑定の詳細を開く。
【説明:水の上位妖精が、かつてこの村の人々に助けられた恩を返すため、水質を聖水に変えた】
……なるほど、それなら納得。
でもさ、ジャガイモが勝手に生命を宿す件についてはまったく納得できないんだけど。
いや、あの空気的に村の常識っぽかったし、今さら聞けないんだよな……。
そんなこんなで時間は過ぎ、畑仕事の報酬を受け取り、私たちは再び馬車に乗り込んだ。ノイエ・ヴァレッタ王国へ帰る時間だ。
馬車の中。
調べるのが面倒で放置していた私は、やっぱり気になってリゼリアに尋ねた。
「ねぇ、ジャガイモが生命を宿すってどういうことなの?」
「あぁ、それについてですか。マスターも鑑定されたと思いますが、あそこの水は妖精によって聖水になっています。その効果をご覧になっていないと思うので説明しますが【効果:浄化、生命活性化】です」
「生命活性化?」
「はい。その効果が原因ですね。村の人々は、あの聖水を普段の水やりに使っているのです。ですから、農作物が少しずつ生命を得て進化してしまったのでしょう」
「なんじゃそらぁ!?」
思わず叫んだ。聖水って、本来は清めたり守ったりする“いい効果”のはずなのに、まさかジャガイモに魂を吹き込むなんて……
ばかばかしいな……体だけでなく、心も疲れてしまったな……
ノイエ・ヴァレッタ王国までもう少しだけど、少し寝るか……
……その時だった。
近くに”おかしな気配”が走る。まるで空間そのものがきしみ、ひび割れを起こそうとしているような……
「マスター……」
遅れてリゼリアも気づく。馬たちは敏感に危機を察知し、馬車を急停車させた。
「なんだ!?」
御者のおじさんが大声を上げたその瞬間――。
目の前の空間に、鋭い亀裂が走る。
バキッ、バキキキッ――音を立てて割れる空間から、まずは一つ、龍の頭が突き出した。
二つ、三つ……五つ、六つ、七つ……
まだ出てくるんだけど!?
八つ、九つ――。
多い!
空間の裂け目から、数え切れぬほどの龍の頭が這い出そうとしていた。
イベントがなかなか起きなかったアレイアですが最後に何かイベントが起きましたね……次回はどうなるでしょうか?
次回、第7話「マスターの実力を低く見ていました……『名誉のない二つ名(あだ名)つけられた……』」
お楽しみに!




