第5話:マスターが冒険者登録って大丈夫でしょうか……不安しかありません……
前回はアレイアが《アケロン・ソルエグゼリオン》を放ったその瞬間、虹色の光に包まれて終わりましたね。果たしてその後、どんな展開が待っていたのか!?それとタイトル通りにアレイアさんはどうやら冒険者登録をするらしいですがやらかしたりしませんよね……
――決まった! 完璧に、かっこよく、魔法が決まった!
《アケロン・ソルエグゼリオン》は見事に炸裂し、キメラ・アーセナルは断末魔をあげる暇もなく、虹色の炎に包まれた。
燃える過程? そんなのは存在しない。一瞬で、形も影も消え去ったのだ。
――そういえばヴァシリウスの反応は…?
口を開けたまま固まっている。――うん、これは考えることをやめたね。
ああ、これはアニメだったら盛り上がる展開間違いな――
「マスターーーッ!」
リゼリアが走ってきた。やっぱりあの程度じゃリゼリアの敵じゃないよね。
「どうだった? 私、めちゃくちゃ華麗じゃなかった?」
が、返ってきたのは怒り混じりの声だった。
「そんなことより、周囲を見てください!」
え? 周囲? ……うん、灰色しかない。
あ、あと地平線。森だった場所が地平線になってる。
――うん、これは私の魔法で森が消滅したらしい。
「えっと、その……ちょっと派手にやっちゃったけど、でもキメラはいなくなったし、ヴァシリウスも――」
「あのですね……はしゃぎ過ぎです!」
リゼリアの目が、ほんのり殺気を帯びた。これは説教モード確定だ。
「北の森が、一晩で完全消滅しました!しかも、あの虹色の光で“犯人はここです”と王国中に教えてしまったようなものです!」
えっ……?
「今、ノイエ・ヴァレッタ王国は強い人材を集めています。
騎士団には新たに三名の実力者が加入したばかり。そのうち誰かが、必ずここに来ます!来たら私たちは北の森を消した大罪人として、そのまま捕縛されます!」
……え?ちょっと待って、それって――
全身を重厚な鎧で固めた騎士団が、半円を描くように私を包囲する。
「おとなしく投降しろ!」
両脇からガシッと腕を掴まれ、背後からは冷たい鎖が首に掛かる。
法廷の真ん中、被告席に座る私。前方には高い壇上と偉そうな判事。
「被告人アレイア、北の森消滅の罪により――有罪!」
カーン!というガベルの音が法廷の中で響く。
そして、牢屋にぶち込まれ――
……いやいやいや!そんな展開は嫌だ!
「ちょうどここにいる《ノクターン・ファクトリ》の人たちのノイエ・ヴァレッタ王国計画の証拠もありますし、計画でのキメラの実験でミスが起きて爆発したっていうことにできます!というわけで、今すぐ家に逃げましょう!」
リゼリア、ナイス!
パニックになると頭が動かないから助かる!
私は《ゼロ・ディフレクション》を展開した。
家までのゲートが開き、私たちはその中に走り込んだ。
虹色の余韻がまだ残る現場を背に即座にその場を離れた。
北の森が虹色の光に包まれ、そして光が消えた――その報告は、真夜中に王城を叩き起こした。
国王自らが事態を重く見て、即座に命令を下す。
「ガレス・ドランベルクを隊長とし、調査に向かえ」
……夜中に叩き起こされたのは慣れているが、さすがに内容が突飛すぎる。
たった一瞬で北の森が消えた? 馬鹿な。
だが命令は命令。編成を整え、すぐに現地へ向かった。
到着して――息を呑む。
――これは、信じざるを得ないな……
広大な森のはずが、見渡す限り灰色の荒野。焦げた匂いすらない。
部下たちに周囲の調査を指示する。
調査開始から数分も経たないうちに報告が入った。
「隊長、付近に倒れている者たちを発見しました!」
現場へ行くと大半はボロボロの状態で気絶していた。
そして、彼らは全員、同じ紋章を身に着けていた。
ただ一人だけ意識がある男がいて呆然と空を見つめながら、小さく何度もつぶやいていた。
「――私の傑作が……」
そのとき、別の部下が大量の紙を抱えて駆け寄ってきた。
「隊長、これを!」
受け取った計画書には、《ノクターン・ファクトリ》の名。
さらに――ノイエ・ヴァレッタ王国転覆の計画、そして“キメラ”の製造記録が、はっきりと記されていた。
キメラの製造中に事故がたまたま発生したか……そして、その結果があの虹色の爆発か……
ガレスは静かに決断した。
「――全員、王国転覆を企てた罪で拘束しろ」
私たちは彼らに鎖と縄を次々にかけ、彼らは捕縛されていく。
こうして彼らはすべて王国の牢へと送り返されたのだった。
*******
《ノクターン・ファクトリ》を潰してから数日が経った。
――さて、そろそろ例のレアアイテムを売るか。
あの倉庫で手に入れた宝の山――
このアイテムたちは、あの世界では滅多に出回らない貴重品だ。売ればガッポリ稼げる。
つまり、近日開催されるゲームのイベントで大量にガチャを回せるってわけだ!
「というわけでリゼリア、一緒に売りに行こう!」
「――いつの間に盗んでいたのですか……」
「そんなことはどうでもいい!さっさと行くぞ!」
そう言って《ゼロ・ディフレクション》で人気のない場所へゲートをつなげた。
人気のない場所に着いたら、人通りの多い街道へ移動する。
毎回この移動が面倒だけど、仕方ない……。
鑑定所へ向かう途中、隣を歩くリゼリアが口を開いた。
「マスター、この世界では冒険者ギルドに登録していない者は、レアアイテムの鑑定や売買ができません。まずは登録を済ませる必要があります」
――なるほど、冒険者登録が必須ってわけか。
異世界系アニメでよく見る、受付で書類を書いたり、ステータスを測ったり、冒険者カードをもらったりするやつだ!
私のテンションは一気に上がった。
「アニメでよくある冒険者に……よし!今すぐ行こう!」
勢いよくギルドの方へ足を向けようとした瞬間、リゼリアが私の腕を掴んで止めた。
「お待ちください。そのまま行けば、ステータスを見られます。それはまずいでしょう」
……あっ……
「マスターと私の本来の能力が知られれば、神々にもばれる可能性があります。面倒事が増えるのは間違いないでしょう」
しまった……完全に忘れていた……
「ですから、まずは私たちの持っている偽装スキルで、ステータスを平均的に見せましょう」
そうなるよね……面倒だけど仕方ない。
私は偽装スキルを使ってステータスを人並みに平均化した。変える部分も多くて結構、面倒だった……。
「よし!これで大丈夫。行きましょう!」
「マスター……そっちは闘技場の方の道です。こっちですよ」
……ちょっと恥ずかしい……
冒険者ギルドに着いたが見た目からアニメで見た雰囲気を出していて気分が高まる。
大扉をくぐった瞬間、私の胸の奥が一気に沸き立った。
木造の梁、掲示板に貼られた依頼書、そしてカウンター奥の棚に並ぶ巻物や魔道具――
うわ、アニメで見た「これぞ冒険者ギルド」ってやつだ!しかも受付嬢さんの制服、なんかかわいいんですけど!?
私がきょろきょろと辺りを見回していると、隣のリゼリアがまっすぐ受付へ進み、落ち着いた声で言った。
「冒険者登録をお願いします」
受付嬢は微笑みながら、私たちに一枚の用紙を差し出してきた。
「こちらが冒険者登録申請書です。必要事項をご記入の上、ご提出ください」
――えっ、申請書を書くパターン!? アニメでも確かにあるにはあるが――あんまり見ないぞコレ。
そう思いながらも、渡された紙にさらさらと記入を始める。
……出生地?あー、あー……リゼリアが近くの町の名前を書いてたから、私もそういうことにしておこう。
書き終えて渡すと、受付嬢は再び微笑み、分厚い冊子を開いた。
「では、冒険者制度についてご説明いたしますね」
まずはランク制度の説明から始まった。
「冒険者には、実力と信頼度に応じて六段階のランクがあります。
一番下が灰ランク。新規登録者は必ずここから始まり、危険度の低い依頼しか受けられません」
まあ、これは定番って感じだな
「次が緑ランクで、小型魔物の討伐や短距離の護衛依頼が可能になります」
いかにも駆け出し冒険者だね~
「青ランクからは中級とされ、中型魔物や長距離護衛、希少素材の採取も依頼に含まれます」
駆け出し冒険者から普通の冒険者になって……
「赤ランクは上級冒険者で、高危険度の討伐依頼が主。王国からの指名依頼も入ってきます
さらにその上が黒ランク。ギルド内でも精鋭と呼ばれる者たちで、王国直轄の作戦にも参加します。」
ここらへんからは主人公枠だね。
そして最上位が金ランク。伝説級の冒険者で、国家級戦力として数えるほどしか存在しません」
出た、伝説枠!こういうの大好き!
ランク制度は完全にゲームとかアニメで見たことあるやつだ!
ページをめくり、受付嬢は次に禁止事項を読み上げる。
「依頼の放棄、内容の漏洩、ギルド間での無許可取引、無関係な市民や施設への被害、そして違法アイテムの売買は厳禁です。違反者には罰金や資格剥奪、場合によっては投獄が科されます」
ペナルティはいたって普通。でも……なぜだろうか……
投獄される予感がするんですけど……
「また、特定ランク以上の魔道具や希少素材は、王国管理物とされますので、必ずギルドを通して取引してください」
そう、これが今の私の目的だ。
危なかった、リゼリアが調べてなかったらこれは確実にアウトだった……
さらに言えば私が持ってるものは相当レアだから王国管理か……
王国管理は残念だな……
そうして説明と不明な点の質問が終わったからようやく冒険者登録に――
「では、次はギルドマスターとの面接になります」
――え、面接!? そんな設定、アニメじゃ聞いたことないんですけど!?
しかし、逃げるわけにもいかず、ギルドマスターの部屋へ。
ギルドマスターの部屋の扉を開けると木製の大きな机と壁にかけられた様々な冒険者の証書や武具が目に入った。
「ではお座りください」
穏やかで落ち着いた声。前に目に切られた傷がある男がいる。
まあ、この強そうな人がここのギルドマスターだね。
「まず私から自己紹介をしますね。私はガルド・ブラスターン。このギルドをまとめる者です。よろしくお願いします。まず、お名前からいいでしょうか?」
「私はアレイアです」
「私はリゼリアと言います」
「ありがとうございます。名前も分かったので早速面接を始めようと思います」
始まるのか……
どんな質問が来るのやら……
「最初の質問です。なぜあなたたちは冒険者になろうと思いましたか?左の方からお願いします」
――えっ、いきなり核心を突かれた!?
正直に話せば――
「レアなアイテムを持っているので鑑定して売るために登録が必要なので登録しに来ました!」
「分かった。君、不合格で」
ってさすがになると思うから正直に目的を話さず、ここは普通に私が冒険者になったらやりたいことを言おうか……
「……えっと、私は、たくさんの人や世界を知りたいからです!まだ解明されていないことが世界にはまだあるのでそれを調べてみたいです!それと冒険の経験を積むことも楽しみたいと思いまして!」
ガルド・ブラスターンは真剣な目で私を見つめ、少し微笑んだ。
「なるほど……好奇心と向上心ですね。では次のリゼリアさんはなぜ冒険者に?」
リゼリアの回答はとても気になるな……
なんて返すだろうか?
「魔法の研究です。私は今、まだ誰も出来ていない魔法の無効化魔法、伝説級魔法の発見や生活魔法の進展を目指しています。そのためにいろいろな世界を回って調べたいから冒険者になろうと思いました」
魔法の無効化魔法は使えるじゃない……しかも伝説級を軽々と超える魔法も使えるじゃん……リゼリアさん……
ガルド・ブラスターンは軽くうなずき、再び微笑んだ。
「魔法の研究ですね。では次は……」
と質問を計6個された。面接の結果は――
「大丈夫だね。君たちは合格だ!」
と言うことで、なんとか無難に答えて合格。
「合格おめでとうございます!次はステータス測定をするのでこちらの鉱物に手をかざしてください」
ここの測定のためにリゼリアと偽装スキルで平均的なステータスにしたがおかしなところがないか少し不安になった。
しかし、心配することもなく測定し終わった。
「これが冒険者カードになります。再発行は一応できますが大変な時間がかかるので無くさないようにしてくださいね」
――よっしゃァァァァァッ!
数々の異世界アニメを見てきた私にとって、冒険者登録はまさに憧れ……
あぁ……このカードを手にする瞬間、どれだけ夢見てきたか……
「……マスター」
しかもこれでレアアイテムを売りに行ける。とはいえ、今すぐレアアイテムの鑑定を頼むと怪しまれるから、4日ほど日を置くことにしよう……
「ふんっ!」
いてっ!
「急に何をするんだ!主人である私を殴るとは何様のつもりだ!」
「さっき、一回声をかけたのに返事をしないからですよ」
「もう一回声をかければよかったじゃないか!」
「夢中になっているのが分かりましたので、こういう時は次も返事しないでしょうから」
なんてメイドだ!
「マスター、それよりもそろそろ次の行動に移りませんかね。冒険者カードを眺めてからすでに一時間半。ギルドの片隅でずっと立ち尽くすのは怪しい人です」
楽しいことを考えると時間が早く過ぎていくな~
でもそろそろあれをやろう!
私は掲示板を見上げる。何があるのかというと……依頼ですよ~
そう……冒険者登録して最初にすることって言ったら依頼でしょう!これぞ、異世界アニメの王道だよね!
「よーし、最初の依頼はこれに決めた!」
私は依頼の紙を剥がして受付へ持っていく。
*******
今、私たちは森へ向かって平原を歩いている。
私が最初の冒険者として選んだ仕事……それは……「薬草採取」というものだ!
異世界アニメでは、こういう“ほのぼの依頼”が必ずイベントが起きる。
普通に採取しているとこんな場所にいるはずのない強い魔物が出現って展開が来るんだよ!
あぁ……この展開を想像しただけで胸が高鳴る……!
*******
「依頼品もちゃんと揃っていましたし――依頼達成です!こちらが報酬の銅貨十枚です」
と渡された銅貨10枚。そのままギルドを後にする私たち。
「憧れの冒険者生活、最初の依頼達成おめでとうございます。自然を満喫できた良い依頼でしたね、マスター」
としゃべりだすリゼリア。
うん……これは何か思うことがあるね……
「いや!おかしいだろうがァァァァァァァァァァァッ!」
私は人目を気にせずに思いっきり叫んだのである。
今回はアレイアとリゼリアが無事に冒険者登録を終え、依頼を受けるがなんか普通に冒険者ギルドにいて最後に叫んでいましたが何があったのでしょうか?
次回、第6話「異世界アニメによくある展開来てくれぇッ!」
お楽しみに!