第1話:世の中様はちやほやされたい!
はじめまして。
この物語は「世の中そのもの」が、ぐうたら美少女になってしまった異世界ファンタジーです。
神々も知らない存在・アレイアと、毒舌メイド・リゼリアのやりとりをお楽しみください!
神は、この世で「一番偉い存在」とされている。
奇跡を軽々と超える確率で、最初に生まれた“意思”を持ち、“知能”を持ち、“感情”を持った――概念。
その最初の存在は、まだ姿を持たなかった。
名前はカオス。
世界に秩序を与え、空間を築き、生物を設計し、火・水・風・土などの属性を定義した神。
それこそが、創世の神だった。
神々が知っている範囲では――まず、世界がある。
その外には宇宙が広がり、さらにその外には「神滅流」という、神の力の流れが存在する。
神滅流は、神の力が凝縮され、溢れ出すようにして流れる“概念の川”である。
そこには神化魔獣という異常存在が無数に漂っていて、それをも超えて無限に近い数の宇宙が浮かんでいる。
その中に“異世界”と呼ばれる数えきれない世界、
そして神々が住まう楽園――エデンがある。
しかし。
いくら“数えきれない”と言っても、その世界たちには“端”がある。
そしてその端の外には、ただ“暗くて永遠に続く”だけの空間がある。
いわゆる、「無」だ。
神々は今もその端を押し広げ、世界を作り続けている。
その、さらに先だ。
みんなは考えたことはないだろうか。
奇跡を軽々と超える確率で、神という最初の意思
が生まれたのなら――
最初から存在していた“暗く永遠に続く無”である**「世の中」**に、
同じように意思が宿ることもあるのではないか……と。
そこに、とある空間が存在する。
楽園エデンから見て、天地の上……いや、正確にはそこからちょいと右に進んで、さらに半径の7分の3ほど前へ出たところから上昇し、世界の端を突き抜けて無へと入り、数えきれないほどの世界で一番速い存在ですら無量大数年をかける距離を超えた先に――
貴族の豪邸ほどの空間がぽっかりと存在する。
そこに私はいる。
この世の中そのものである私が!
なのに!
なぜ!
私は!
存在を!
「知られていないんだあああああああッ!!?」
耳を破壊しそうなほどの大声で叫びながら、私は異世界転生アニメの第1話を観ていた。
ちょうど主人公が“神様”からとんでもないスキルをもらってるシーンだ。
「……は? なんで“神様”だけ優遇されてんのよ。あいつら、私の格下なんだけど??」
ドン、と叫んだ声の反響が宇宙の外側にまで届き、神域が一つ震える。
その瞬間――空間が揺らぎ、毒舌メイドが出現した。
「マスター。
どうせまたアニメを見て憤っていたんでしょうけど、爆音で神域を一つ壊すのはただの迷惑です。」
「い、今のはちょっと大きく叫んだだけで――」
「“ちょっと”で宇宙構造が歪むあなたの声量が異常なのです。
その無駄にうるさい感情エネルギー、働く方に使ってください」
……これが私のメイド、リゼリア。
あまりにも毒が強くて時々心がえぐられる。
「だってぇ……神はどこの世界でも存在を知られてるし、“一番上”って当然みたいな顔してるし!
神なんて、この世の中の一部でしかないのに……!!」
「マスターこそ“この世の中そのもの”であり、“上位存在”です。
ですが、存在がバレた瞬間、世界そのものが狂い始める。
……ですので、“世の中様”であるあなたが、誰にも知られずにいるのは、世界にとっての唯一の保護処置です」
「それは……まぁ……そうなんだけどさ……っ」
私は“この世の中”自身なのに。
この世を構成し、動かし、全てを包み込む存在なのに。
誰からもちやほやされない……なんて、納得できるわけがない!
「そもそも私が、この世の中自身なのに!? この世の中自身ですがァッ!?
ああ……アニメのヒロインたちはどうしてこう、ちやほやされて、甘やかされて、最強で、無敵で――」
「……マスター。またお働きになられてはいかがですか?
“過去のように”、世界の問題を解決する形で」
「リゼリア、それを言うのは反則だってば~!」
私はかつて、“たくさんの世界の問題を解決していた”。
あの頃の私は、確かに“世の中様”として、誰よりも誇り高く、そして真面目に働いていた。
天国地獄崩壊事件では、次元の綻びを修復し、崩壊の危機を未然に防いだこともある。
そのときの私は――本当に立派だった。
「……でもさ、アニメとか漫画とか、ああいうのに出会ってから、つい夢中になっちゃって。
それ以来、ほとんど使ってないんだよね~、この“無限の力”ってやつ」
「そのおかげで幾つかの世界では時間が停止したり、現実の法則がねじれたりと、大迷惑です。
でも……正体がバレなかったのは不幸中の幸いです」
「だーかーらー、絶対に! 私の正体は誰にもバレちゃダメなのよ!
私の存在がバレたら、世界の理そのものが……歪むのよ……っ!」
「ではマスター、“ちやほやされたい”のでしたら――」
「えっ……いや、だけど……うぅ……」
「また、いろいろな世界の問題を解決して、信仰でも集めてみますか?」
「……え、でも、やっぱめんどい……」
今日も“世の中”は、この豪邸でぐーたらに過ごしている。
彼女の名は――アレイア。
この世の中そのものにして、全ての理を包み、無限の力を秘めた、
誰も知らない“最強”の存在。
……そして、誰よりもめんどくさがりで、超ぐうたらな、美少女ニートだった。
お読みいただきありがとうございました!
アレイアはまだまだ動きませんが、次回から少しずつ世界が動き出します。
次回、第2話「世の中様、再始動!現地調査だけども…」
お楽しみに!