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たつまろ伝記 DEATH4 死を呼ぶ四番になった男の物語  作者: 月神世一
もう一つの未来

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10/15

ep 1

第二章 もう一つの未来

第一話:兎の人形の見る夢

深い闇の中、途切れていた意識の糸が、不意に繋がった。

(…ここ…は…?)

ユイは混乱していた。最後に覚えているのは、祭壇の眩い光と、たつまろへの祈り。死んだはずではなかったのか?

(僕は…どうなったんだろう…?)

ぼんやりとした視界が、徐々に焦点を結んでいく。見慣れた、しかし懐かしい街並み。活気のある声、行き交う人々。それは紛れもなく、あの日、たつまろと出会う前の、あの街だった。

(まさか…僕は、過去に戻ってきた…?)

驚きと共に、ある違和感に気づく。身体が、自分の意志で動かせない。視線も固定されたままだ。まるで、固い殻に閉じ込められているような…。

(身体が…動かない…? まるで…人形…?)

自分の手足があるはずの場所には、柔らかな布の感触。視界の端に映るのは、縫い付けられたような丸いボタンの目。

(う、そ…僕は、人形になってるの…? た、つ、ま、ろ……)

声を出そうとしても、唇は動かない。ただ、心の奥で彼の名前を叫ぶことしかできなかった。絶望的な状況の中、ユイは、動かない人形の体で、ただ時の流れを感じるしかなかった。

どれほどの時が過ぎただろうか。道行く人々の足音、喧騒、夜の静寂。人形のユイは、街角の隅で、ただじっと存在していた。

(あれから、何日経ったんだろう…? 太陽が昇って、沈んで…時間の感覚も、だんだんわからなくなってきた…)

動けない体、伝えられない想い。孤独と無力感が、ユイの心を蝕んでいく。

(たつまろ…たつまろに会いたい…もう一度だけでいいから…)

切ない願いが、人形の心を満たしていた。

その時だった。聞き覚えのある、ぶっきらぼうだが力強い声が、すぐ近くで聞こえた。

「今日は、もう少し売る場所を人が多い所に移すか…。あっちの広場なら…」

(!! この声は…!)

ユイの心が激しく波打つ。視界の端に、見慣れた姿が映った。日に焼けた肌、少し伸びた黒髪、背には野菜の入った籠。五年前、いや、この時間軸ではこれから出会うはずの、少年時代のたつまろだった。

(たつまろ! たつまろだ!)

心の声が、人形の中でこだまする。

たつまろは、ふと足元に落ちているものに気づき、足を止めた。

「ん? なんだこりゃ。こんな所に、兎の人形が落ちてる。汚れてるけど、まだ綺麗だな…」

彼は、人形(ユイ)を拾い上げ、その汚れを軽く手で払った。

「ま、いいか。ユウへのお土産にちょうどいい。あいつ、こういうの好きだからな」

そう呟くと、たつまろは人形(ユイ)を籠の隅にそっとしまい、再び歩き出した。

(たつまろ! 僕だ! 僕だよ、ユイだ!)

ユイは必死に叫んだが、声は届かない。しかし、温かい籠の中、彼の背中の温もりを感じながら、ユイの心は歓喜に打ち震えていた。

(拾ってくれた…! たつまろが、僕を拾ってくれた…!)

再び彼に触れることができた奇跡に、人形の目は潤んでいるように見えた。

陽が傾き、たつまろの家に着く頃には、ユイの心は少し落ち着きを取り戻していた。懐かしい土間の匂い、質素だが温かみのある家。

「ユウ! 帰ったぞ!」

たつまろが声をかけると、奥から小さな足音が聞こえてきた。

「おかえり、にいちゃん!」

幼いユウが、兄に駆け寄る。

「ほら、ユウ。今日のお土産だ」

たつまろは籠から人形(ユイ)を取り出し、ユウに手渡した。

「わーい! かわいい兎さんのお人形だー!」

ユウは目を輝かせ、人形をぎゅっと抱きしめた。

「ありがとう、にいちゃん! 大切にするね!」

その純粋な笑顔に、ユイの心も温かくなる。

「今日の稼ぎも、まずまずだったな。これでまた、しばらくは心配ない」

たつまろは、満足そうに籠を下ろした。

(たつまろ…ユウ…)

ユイは、ユウの腕の中で、二人の姿を見つめていた。人形の姿のままだけれど、またこうして、大好きな兄弟のそばに戻ってくることができた。

(嬉しい…! また会えた…! この温かい場所に…!)

言葉は交わせなくても、自由に動けなくても、今はただ、この奇跡のような再会を、人形の心で噛み締めていた。これから何が起こるのか、自分はどうなるのか、不安は尽きない。それでも、今はただ、この小さな幸せが、ユイの心を明るく照らしていた。


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