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異世界探訪奇譚ー魔女の弟子編ー  作者: くもたろう
第1章:森の集落にて
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第4話:時間と空間

今までおれの話に対してすぐに反応してくれていたルーファスも、口を閉ざして黙りこくってしまった。

流石に中二病が過ぎたか、と恥ずかしい思いが胸に宿る。

少し論点を変えようと思い咳払いをひとつした時、それを遮るようにルーファスが口を開いた。

「少し、お主に問いたいことがある。まず、時間、とはなんぞ?」

「時間……とは?えーっと過去から未来に向けて止まることなく流れ続ける、概念でしょうか。いや、申し訳ありません。わたしは物理学や哲学の専門家ではないので、時間について感覚的に理解はしていますが、上手く説明は出来ません」

「ふむ、そうか。では、空間、とは?」

こんな話を本物の魔法使いと話す時が来ると知っていたら、もっと真面目に色々と勉強しておけばよかった、と思うが今はもう時すでに遅し。

自分の中の理解を言葉にするしかない。


「空間、とは……今現在わたしや貴方が存在してるこの世界そのもの、だと思います。人や物体が存在出来る場所と言いますか」

「では、お主は……この世界とは異なる時の流れと異なる人や物体が存在する場所からやって来た可能性がある、と言いたいのじゃな?」

「ええ、はい、そうです。やり方は皆目見当もつきませんが」

ここでルーファスは返答なく席を立った。

一瞬、呆れられてしまったのかと思ったが、湯を沸かすと席へ戻り手早く茶を淹れ直してくれた。

そして「――その方法はともかく、お主の考えは興味深い」と言い、皺を深め笑みを零していた。

どうやらおれの妄想は老魔法使いの心を掴んでくれたらしい。


「あの、一体、どの辺りが興味深いのでしょうか?時間や空間の概念や考え方に関してですか?」

「ふむ、それもあるが……まずはあの遺跡との関連性だのう」

「遺跡との関連性?それは、例えば?」

「わしは、あの遺跡の調査を長年しておるのだが、様々な石碑や石板の古代文字を訳すと。時間や空間を表すであろう文字や記号が多く記されておるのじゃ。現状この事実を知るのは、わしや王都におる極僅かな学者だけでな……。それをお主が、口にしたであろう?わしが先に時間や空間という単語を口にした訳ではない。これを全くの偶然と見ることは、わしには出来ぬ」

おれは思わず椅子から腰を浮かせてルーファスの話を聞いていた。

彼の話からすると、あの遺跡自体が異世界転移を為す装置とか魔力の源である可能性は否定できない。

何はともあれ、これでおれにはこの集落に留まる理由が出来てしまった。

本格的な浄化で気が狂って死んでしまう可能性はあるが、生き残った際は何がなんでもこの集落に残して欲しいと懇願するしかない。


「――では、ルーファスさん?わたしからも質問があります。全く別の世界に転移する魔法に関してですが、この世界の文明でその魔法の行使は可能ですか?」

これは空想の先の妄想話になってしまうだろうが、魔法使いとしての見地は聞いておくべきだと思った。

「ふうむ。それは、不可能、と即答出来るのう」

「不可能?具体的な理由はありますか?」

「まず、現代には、時間と空間に干渉出来うる魔法が無い。いや、お主が本当に別の世界からこの世界へと転移してきたのであれば、存在はしてるのかもしれん。しかし、扱える者は疎か、時間や空間に関連する魔法を研究してる者もおらぬであろう。わしの様に、太古の遺跡を研究してる者はおってもな……」

「と、言うことは事実上、わたしが元の世界へ戻るのも……」

「不可能、であろうな。魔法の才気に満ち溢れた若者が、明日から寝ずに百年研究したとしても、その手掛かりを掴めるかどうかも分からん。その様な魔法を本気で研究する者はおらぬし、例えば五十年後、百年後に誰かが時間魔法や空間魔法の開発に成功したとて、その時までお主が生きてる保証はない。もしくは、それほどの高度で恐らく膨大な魔力を消費する魔法を、お主のためだけに行使してくれる心優しき者など……まあ、これは言うべくもないであろうが」

おれは現実を突き付けられ、浮かしていた腰を椅子へと落とした。

理論も何も分かりはしないが、異世界転移に膨大な魔力が必要なのは、なんとなく理解できるし、その研究にも膨大な年月を要するのも理解は出来てしまう。


「要するに、わたしは、もう、この世界で、生きていくしか、ないと言うことですか?」

喉が締まり声が上手く出なかった。

絶望というよりか虚無感が胸に宿る。

「そう覚悟を決めた方が、わしは良いと思っておる」

「この世界のことを、何も知らないわたしみたいな者が、生きていけると思いますか?」

「覚悟を決めるのも、この未知の世界で生き抜くのも、お主自身じゃからのう」

この魔法使いの言葉はいちいち最もなことばかりで、意気消沈したおれの心を鋭く貫いてくれる。

「あの、ルーファスさん?このままだと、不安とストレスに押し潰されて頭がおかしくなってしまうので、少し前向きな話をしてもいいですか?」

「無論、構わんよ。好きに思う事を話すがよい」

「では……明日本格的な浄化を乗り越えて、集落長からこの集落での滞在を許された場合、わたしはこの集落でどの様に生活すればいいのでしょう?家とか食事とか仕事とか、そう言う話がしたいです」

前向きにとは言ったが、心が完全に後ろを向いているので、少し籠ったような声になってしまった。

恐らく表情も暗いことだろう。

そんなおれを相手に、ルーファスは特に表情を崩すことも無く、向き合ってくれていた。

この知らない世界で、おれは彼と出会えたことにもっと感謝しなければならないと、たった今漸く思い知るのだった。


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