表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界探訪奇譚ー魔女の弟子編ー  作者: くもたろう
第1章:森の集落にて
5/40

第3話:空想と現実

足の治癒は完治ではなく、応急処置と言うべきなのかもしれない。

傷跡はまだあり、深い裂傷の箇所は激しく動くと裂けて血が流れ出てしまうだろう。

しかし今のところ痛みはなく血は滲んですらなかった。

ファンタジー世界を舞台とした漫画やゲームの回復魔法だと、一気に回復して傷跡も綺麗に無くなってしまうようなイメージがあったが……。

この中途半端さ加減はある意味リアルなファンタジー体験と言ったところだろうか。


ルーファスは古めかしいテーブルの上に、煮えたぎる湯で満たされた鍋を置いていた。

そのまま椅子に腰かけ木の器に湯を注いでいる。

おれは床に手を着き、足を庇いながら立ち上がってルーファスの対面の椅子に腰かけた。

外は肌寒かったが、湯を沸かしたせいか家の中は暖かい。

ロウソクやランプの柔らかな灯りが、そう感じさせるのか。

椅子に腰かけ一息つくとルーファスは、すぐに木の器を手元に差し出してくれた。

薄茶色の液体がなみなみと注がれてある。

足の治療をした後に毒を盛ることなど無いとは思うが、得体のしれないものを口にするのは勇気がいる。


器に手をのばしたものの、少し躊躇いを見せてしまった。

「なに、心配は無用だ。お主を殺すのであれば毒など使わなくとも、やり様は幾らでもあるからの」

そう言われ、森の遺跡での爆発を思い出した。

「確かに、それもそうですね。では――」

改めて器を手に取り、ひと口啜ってみる。

口当たりは悪くない……しかし、味気は無い。

白湯に少し薬草か木の実などの風味がふわりと香る程度の味わいだった。

飲めなくは無いので、有り難く頂戴することにした。

その様子をルーファスは興味深そうに見ている。

とんがり帽子を取った彼は、白髪で毛量は豊かだ。

癖の強そうな髪質で、綺麗に整髪してる様子は無い。

長い髭も白く、見るからに魔法使い然としている。

年の頃は(魔法使いなので見た目よりもずっと高齢かもしれないが)六十代後半から七十代の中頃くらいに見えた。


茶を半分程度飲んだところで、ルーファスは話しかけてきた。

「――少しは落ち着いたかのう?」

彼は白い髭を手で握り締め撫でている。

「ええ、はい、ありがとうございます。見ず知らずの……その得体の知れぬわたしを、助けていただき」

「ほっほっほっ、助けるかどうかはまだ分からぬぞ?明日の本格的な浄化を処置した結果、気が狂って死んでしまうかもしれぬからのう」

笑いながら冗談めいて言ってはいるが、その目は全く笑って無かった。

「取り合えず、調査目的で保護したという事でしょうか?」

「うむ、その認識は間違っておらん」

「調査の結果、わたしが貴方や集落に住む人々にとって害を為すものだった場合、即処刑もありえますか?」

「どれほどの害悪かに寄るが、この集落の民に害をもたらす存在であれば、滅する。迷いなく、な」

ルーファスの言葉は重みがあり、耳の中で殷々と響く。

おれは早くも喉の渇きを覚え、茶を口にした。

会社の上司や得意先の人と会話してる様な感覚があり、自然と背筋が伸び丁寧な言葉を選んでしまう。


「要するに、まだわたしが悪魔憑きの可能性があるという事ですか?明日の本格的な浄化を乗り越えれば、信頼を得られるのでしょうか?」

「明日の浄化を乗り越えたならば、今後この集落に滞在出来るかどうかの判定を、集落長に仰ぐ資格が得られるという事じゃ。浄化を乗り越えたとしても、集落長がお主を認めなければ、その日の内に集落から追い出されるであろう」

気が重くなる話だった。

上手く事が運ぶ気が、全くしない。

「右も左も分からないわたしが、集落から追い出されて、無事に生きてゆける世界なのでしょうか?」

「無事に生きてはゆけぬであろうな。夜集落から出されたら、恐らく次の朝日を見ることは無いであろう」

「で、あれば、いっそ一思いに殺して欲しい……と、私は訴えると思います」

「お主がそれを望むのであれば、その役はわしが買ってやってもよい。しかし、まあそれほど悲観することもない。集落長はわしよりも若いが、慈悲深き人物ゆえ、お主が害悪で無ければ、それなりの措置をとるであろう」

ここまでの会話でなんとなく察したのは……今現在、おれの人間性をルーファスが査定してるのだろう、ということ。

この老魔法使いであれば、恐らく集落長に進言する権限くらいは有しているはず。

確信は無いが彼にはそう思わせる威厳があったし、こちらがそう察するように話してくれている様に思えた。


「――では少し、可能性の話をしてもいいですか?」

「ほう、可能性とな?それは一体どういう?」

おれが語り掛けると、ルーファスはすぐに受け応えてくれる。

特に熟孝する様子はなく、おれの反応だけを見てるような話し方だった。

「わたしが、訳も分からず、あの森の遺跡にいた原因の可能性です……思い当たること、というか」

「ふむ、思うまま申してみよ」

「わたしは、もしかしたら、この世界とは別の……異世界から転移してきた可能性があります。もしくは、わたしがいた時代とは全く違う時代への転移か。要するに、何らかの力が働いて、時間と空間を超えて、あの場所に転移させられた、己の意志ではなく、他者の意思か、或いは偶発的に」

おれは真顔で中二病極まり無い話をした。

過去に異世界転移モノの小説を書く時に考えた設定を思い出しつつ。

魔法や悪魔憑きが実在する世界であれば、全く受け入れられない話ではないだろうと、思ったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ