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異世界探訪奇譚ー魔女の弟子編ー  作者: くもたろう
第1章:森の集落にて
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第2話:足の傷

「――して、お主、名はなんという?」と、ルーファスは唐突に問い掛けてきた。

「えーっと、おれは、遼輔と言います。宮田、遼輔。あ、リョウスケ・ミヤタって言った方がいいのかな?姓がミヤタで名前がリョウスケなのですが……」

「リョウスケ、ミヤタとな?ほほう、家名持ちか?ササラの王侯貴族か聖職者の血筋なのかのう?」

「あ、いや、全然そう言う感じでは無くて、普通の、一般庶民……ですけど」

「ふむ、庶民が家名を持つ国の出とな?これは益々得体が知れぬのう。まあ、良い、取り合えず着いてまいれ、リョウスケよ」

ルーファスは態度を軟化して語り掛けてくれていた。

おれを集落の中へと招き入れてくれた後は、ゆっくりとした歩調で歩いてゆく。

集落の中は、篝火(かがりび)が点在してるが人の姿は見えなかった。

時間は分からないが深夜なのは間違いないだろうから、ひと気が無いのは当然と言えば当然か。

集落にある家々は木造ばかりで、大きさは様々だが平屋しか無い様に見えた。

ルーファスの家は恐らく集落の端の方にある、と思う。

丸太の柵の近くで、周りの家よりも大きく敷地内では植物を多く育てていた。

いかにも魔法使いの家……と言う感じでは無くて、簡素だけど洒落てるなと見て感じた。


ルーファスは扉の前に立つと、杖でノブを軽く叩いた。

刹那、眩い光が溢れる。

それが解錠の魔法だったみたいで、それ以外に鍵を使うことなく扉を開けていた。

おれはその様子を彼の庭から見ていて、ルーファスは家に入る前にこちらを見て手招きをしてくれた。

浄化の魔法の前後で随分と態度が変わったなと思いつつ、おれは魔法使いの家へと足を踏み入れる。

扉から一歩足を踏み入れ、玄関で立っているとルーファスは室内を歩き大きな水瓶から木桶に水を酌み入れていた。

部屋に点在しているロウソクやランプは、おれの目には自動的に点火した様に見えた。

室内には薬草や香草らしき植物類の匂いが漂っている。

臭くは無いが、あまり嗅いだことの無い独特な匂いだった。

暫く玄関で佇んでいると、ルーファスは水を張った木桶と小さな椅子を用意しておれの足元へと置いてくれた。


「取り合えず、これで足を洗うが良い。靴を履いておらなんだから、そう言う国の者なのかと思うておったが、その傷具合から見ると、そうでは無い様じゃのう」

そう言われて、おれは漸く己の足を直視した。酷い有様だった。

尖った石や木の枝や棘などを踏んで出来た裂傷や擦り傷で血塗れになっている。

「うわあ、こんなに酷いとは……水で洗ったら滲みそうだな」

おれは用意された小さな椅子に腰かけ、ぼろぼろの足を水で洗ってみた。思わず呻き声が漏れ出る痛み。

魔法でちゃちゃっと治してくれないのか?と、期待の籠ったの眼差しをルーファスへと向けたが、彼は湯を沸かしていてこちらに興味を向けてくれなかった。


諦めて傷口の泥土を洗い落とし、いつの間にか用意されてあった手拭で滲み出る血を拭う。絶望的な痛さで目に涙が浮かぶ。

これがもしテレビのドッキリか何かだったら、おれは番組関係者を問答無用で一人ずつぶん殴っていただろう。

足を粗方洗い終えるとルーファスが近づいて来た。

「――どれ、傷を見せてみい?」

彼はおれの傍で床に座り込み、足を手に取り真剣な眼差しで見詰めていた。

「ちょ、あの……魔法で治せないなら、塗り薬とか消毒薬とかあれば……」

何をされるか分からないのでドキドキとしてしまう。

立場的に信用するしかないのは理解してるが、とは言え恐怖感は簡単に払拭は出来ない。

「いや、治癒の魔法はある。今から施術してやるゆえ、じっとしておれ……」

そう言うとルーファスは、懐から真っ白な石を取り出した。

ピンポン玉くらいの大きさで丸みを帯びているが、その白さ以外は河原でも拾えそうな石ころだった。

しかし、その白い石ころがルーファスの手の平の上でゆらゆらと青白い陽炎に包まれる。

その陽炎に触れた傷口は徐々に痛みが和らぎ、血も滲まなくなっていった。

見る見る間に完治してしまう魔法では無くて、症状を良化させる魔法と言ったところか。

右足が終わると、引き続き左足を施術してくれた。

時間にすると十分も掛からなかったと思う。


「――どうじゃ、リョウスケよ?痛みは引いたであろう?」

ルーファスはこちらの様子を伺いつつ、左足を床へと下ろしてくれた。

「ええ、はい、随分と良くなりました。痛みが引いて、少し傷が閉じた……様ですけど」

「ほほう、察しが良いな。今のは、お主の自己治癒力を少しだけ促進させただけじゃ」

「ああ、なるほど。じゃあ足を綺麗にしてから施術したのは、傷が閉じる時に汚れを取り込まない様にってことです?」

特に勘繰りを入れるわけでもなく、思ったことをそのまま口に出していただけだが、これがルーファスには好印象だったみたいで。

彼はいかにも上機嫌な声で「ほう、お主、魔法学か神聖学を学んだことがあるのか?」と尋ねて来た。

「ああ、いや魔法学も神聖学とやらも学んだ事はありません。趣味で小説を書いてて、物語の性質上、魔法とか歴史とか神学とかの知識は結構詰め込んだので、それで何となく……」

「ふむ、お主は物書きをしておるのか。それでは少しわしと語ってみようぞ。お主が何処から来て何者なのかも、それで少しは解明できるやもしれんしのう。どれ、茶を淹れてやるゆえ、こっちへ来い――」

ルーファスはそう言うと、かちゃかちゃと音を立て茶器の用意を始めた。

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