40 幼少期ユキのゆる番外編
ある冬の夜。雪がちらちらと舞う中、屋敷の中はぽかぽかのお風呂タイム。
ユキは湯船の中でほわぁ~っと気持ちよさそうに目を閉じていた。
「はぁ~……しあわせ……」
お風呂上がりには、サナお手製のココアと、ふかふかのバスタオルが待っている。これが至福。
その日、サナはふと思いつきで新しい魔法入りのヘアトリートメントを試作していた。
「ユキ~、このトリートメント、使ってみて! “しっとりふわさら魔法”入り! つやっつやになるよ~!」
「ほんと!? じゃあちょっとだけ使ってみるね!」
軽い気持ちで毛先に塗ったユキ。……が、これは、ただの“人間用”だった。
ユキの髪は、いや、人狼としての毛は、ふつうの魔法じゃ済まないほどのポテンシャルを秘めていたのだ。
お風呂から上がったユキ、バスタオルをぐるぐる巻きにして、サナの元へやって来る。
「サナ~、お風呂あがったよー」
「おかえり! じゃあ、髪乾かそっか。はい、風魔法!」
ふわぁ、と優しい風が吹いて、ユキの濡れた髪が揺れる。と同時に。
ぶわぁあああああああああ!!
「……え?」
目の前に現れたのは、綿あめ状態の巨大ふわもこユキだった。
「ユ、ユキ……⁉ ど、どこまでが髪⁉ ていうか毛⁉ ていうか顔どこ⁉」
「うぅぅ……髪、ふくらんじゃったぁ……!」
なんと、サナの魔法トリートメントとユキの人狼毛が合わさったことで、“ふわふわ属性が100倍ブースト”されてしまったのだ!
その結果、髪は膨らみ、耳も膨らみ、しっぽなんてもう綿毛の塊レベルに。
「ちょっと! そのまま座らないで! クッションに見えて間違えて座るから!」
「こんな姿じゃ外に出られないよぉ〜!」
「いや、森の動物ならむしろ集まってくるかもしれないけど……! いや違う、そうじゃない!」
慌てて魔法で毛を戻そうとするサナだったが、もふもふしすぎた毛は、なんと魔力を跳ね返してきた! まさかの魔法無効化。
最終手段──地道にブラッシング作戦へ移行。
1時間後。
「……はぁ、やっと戻った……」
「毛が……毛が普通のサイズになった……」
二人ともぐったり。
サナはくったりしたユキを見て、そっとココアを手渡す。
「ごめんね……今度は“人狼は効果過剰注意⚠️”ってちゃんと書いておくね……」
「うん……でも、ふわさらではあったよ。すごく」
「ほんと? ……じゃあ、ちょっとだけ成功かな?」
ふたりは顔を見合わせて、ふふっと笑った。
その後、サナの研究により、「もふ度を調整できる魔法入りブラシ」が開発された。
名付けて《もふりコントローラー》
ユキはこっそり、ふさふさしっぽ全開モードを「落ち込んだ時のおまもり」として愛用している。
ある冬の朝。
屋敷に静かに雪が降る中、ユキが目を覚ますと、サナの部屋からなんだか聞き慣れない“ぐったりした声”が聞こえてきた。
「……うぅーん、さむいぃ……」
そっと部屋を覗くと、サナは布団にくるまりながら、顔が真っ赤。
「サナ!?」
「……ユキ? なんかね……頭ぽわぽわする……」
触れてみると、びっくりするほど熱い。
どうやらサナは、風邪をひいたようだった。
「ちょ、ちょっと待ってて! おかゆとか! 冷たいタオルとか! えっとえっと……!」
ユキは大慌てで家の中をバタバタ走り回り、焦って水をこぼしたりした。おかゆはなぜか米のかたまりになり、タオルは結局、自分のマフラーだった。
(でも、全力で頑張った……!)
ベッド脇で、ユキは必死に看病を続けた。
おでこにマフラーを巻きながら(?)冷やし、なんとか完成させたドロドロのおかゆを差し出す。
「……ちょっと不思議な味だけど、体に良いと思うんだ……」
「……ユキ、ありがとう……でもこれ、おかゆっていうより……スライム……」
「えぇぇぇっ⁉︎」
しかし、しばらくすると、サナがむにゃむにゃ喋り始めた。
「ねぇ……ユキ、今日は魔法の本読んで……新しいやつ……んむ……」
「だめ! 寝てて!」
「……おっきい氷の竜のやつ読みたい……」
「寝ててってばぁ!」
サナは完全にぐだぐだ甘えモードだった。
いつもの自信家でキリッとした姿はどこへやら、だるだるのダメなサナがそこにいた。
ユキは頬を赤くしながらも、「……仕方ないなぁ……」と、横で本を読んで聞かせることにした。
夕方。
熱が少し下がったサナは、布団の中からぽつりと呟いた。
「ユキ……今日はいっぱい助けてくれて、ありがとね……。すごく嬉しかった」
「ううん、僕……サナの役に立ちたかったから」
その言葉に、サナが微笑む。
「……風邪も悪くないね」
「だめです」
「うん、ごめん」
その日、ユキは初めて「サナに甘えられる自分」に少し誇らしさを感じた。
(これからも、サナを守れるくらい、もっとしっかりしなきゃ)
心の中で、そっと誓ったのでした。




