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39 王族会議

 後日、レミファがリーリエを襲った事件を受けて、王家で緊急の家族会議が開かれた。王家には分家を含め多くの家族がいるが、今回の会議に参加しているのは国王、第一王子夫妻、第二王子夫妻、そして当事者であるレミファ、リーリエ、ソラシド、シドウの合計九人のみである。会議室には重い空気が漂っていた。


「すみません……すみません……うちのレミファが、リーリエ様にこんなことを……」


 第二王子妃はおどおどした様子で、隣にいた第一王子妃に謝罪をした。


「いや、それを私に言われましても……困ります」


 二人の妃が気まずい雰囲気を醸し出す中、第一王子とリーリエが会議室に入場し、会議は始まった。

 第一王子は遅刻してしまったことを謝罪した。


「すまない……魔法道具を探していたら遅れてしまった。リーリエには見つけるのを手伝ってもらっていたんだ」

「まったく、父様ったら……」


 第二王子が咳払いをして会議を進行し始めた。


「……えー、今回の議題はレミファの処遇と、結局、王位継承権を誰に与えるべきか? というものだ。兄上、追憶魔法で事実を確認していただきたい」


 第二王子の依頼を受け、第一王子が「了解」と言って頷くと、「追憶魔法」を展開した。魔法陣の上に事件当日にその場に居合わせた四人が手をかざすと、事件当日の映像が浮かび上がり、レミファがリーリエに襲いかかった事実がはっきりと確認された。映像が消えると、国王や第二王子夫妻が頭を抱え、場は一層の緊張に包まれた。


「リーリエ、今回の被害者として、レミファの処遇についてお前の意見を聞かせてくれ」


 国王に促され、リーリエは少しの間思案したのち、口を開いた。


「許しますわ。処罰に関しても、特に無くて結構です。レミファ兄様には、私に完全に許された上で、継承争いでも負けて悔しい思いをしていただきたいですもの」


 リーリエの強気な発言に一瞬場がざわついたが、国王があることに気づいてしまう。


「だがリーリエ、お前は事件当時の映像の中で、一度は継承権をレミファに譲っておったな。『こんな重圧をお望みなら、良いですよ、くれてやります、こんなもの』と発言しているが、どういうことじゃ?王位をこんなもの呼ばわりとは……」


「こんなもの……」

「そう言えばこんなものって言ってたな……」


 第一王子夫妻は頭を抱えた。その様子を見て一瞬、リーリエの顔が真っ青になったが、すぐに気を取り直し、落ち着いた声で言い直した。


「あのときは非常に混乱しておりましたので、あのようなことを口走ってしまいました。しかし今は、心を新たにしており、改めて立派な女王を目指そうと決意していますわ!」


 その発言に場の空気が多少和らぐ中、シドウも妹を庇うように前に出て軽く咳払いをした。


「王位を継ぐ重圧を背負わされた挙げ句、親族に襲いかかられるなど、誰でも一時的に思い詰めるでしょう。むしろ、この事があってなお責任を果たそうとしているリーリエに、私は深く敬意を感じています」


 シドウの冷静な発言に、場は一旦落ち着きを取り戻したが、国王はなおも思案顔で続けた。


「しかし、誰か王位継承を、意欲を持って果たそうという気概がある者はいないのか……」


 その瞬間、会議室の視線がソラシドに集まり、国王も興味深げに彼を見つめた。

 この状況に最も驚いているのはソラシド自身のようで、目を丸くしながら周囲を見回していた。


「確かに、ソラシド、お前は伝書鳩を通じて国民に貢献しておる。もしかすると、お前がこの中で一番国王に相応しいのかもしれない」


 国王の言葉に驚きを隠せないソラシドは、ヘラヘラと笑いながら口を開いた。


「え、マジで僕? だとしたら、すごい成り上がりじゃん! おもしろいね!」


 ソラシドの軽い言葉に場が微妙な空気になる中、レミファが不安げに手を挙げ、意を決したように国王に告発した。


「陛下……ソラシドは、こんなですよ……? それに、彼は継承順位が低かった故、まともに帝王学を学んでいません。そもそも、彼は純粋な善意で伝書鳩のネットワークを運営しているとも言い切れない。彼は、伝書鳩の内容を盗み見て、娯楽として利用しているんですよ」


「あっ、ちょっと兄上! 余計なこと言わないでくださいよ! というか『こんなですよ』とか、お前が言うな! って話!」


「……それはそうだが、お前があたかも“理想の王族”のように扱われるのは……少し違うだろう」


 その告発に、国王は厳しい目でソラシドを見つめ、場の空気が再び重く張り詰めた。ソラシドは苦笑いを浮かべたまま、ただ肩をすくめるしかなかった。

 その空気を受けて、シドウが場をなだめるように口を開いた。


「確かに彼は、少々悪趣味で軽率なところがある。しかし、謎の上級魔法使いの存在や、国境のダンジョンでの異変にいち早く気づけたのも、彼のこの“悪趣味”があったからこそです」


「悪趣味って、そんなに?」


 ソラシドは少し気を悪くしたように眉をひそめたが、シドウは続けた。


「彼の凄いところは、王族としての義務感からではなく、純粋な興味で国民に向き合っているという点です。国益という観点で見るなら、本人の性格や趣味に多少の問題があったとしても、大した問題ではないのでは?」


 シドウの言葉に、会議室の雰囲気が少し柔らかくなり、国王も静かに頷いた。



 その後、以前ソラシドが労働局に告発したことで、ある職場の劣悪な労働環境が明るみに出た件についても評価され、彼は伝書鳩で得た情報を適切に管理していると認められた。また、伝書鳩の情報を監視していることを国民が知らないという点に関しても、かえって国民のありのままの状況を把握できて良いのではないかということで、評価されることとなった。


 その後、国王はソラシドに期待する気持ちを込めて一言付け加えた。


「王位継承という面で目立たぬ存在であったお前が、今までこうして国民に貢献してきたことは大いに評価すべきじゃ。これを機に、さらに責任を果たしてもらうことができれば、王位継承の有力候補として期待せずにはいられないな」


 まさかの展開にソラシドはにやけが止められないといった様子だった。


「いやぁ、そんなに褒められると照れるなぁ!」



 一同がソラシドを評価する予想外の展開に、リーリエは動揺のあまり、涙目になりながら口を開いた。


「ちょっと待ってよ! やっと本当に、心から女王を目指そうと決意した直後に、いきなりソラ君に王位を奪われるなんて……そんなの、あんまりじゃなくて?」


 リーリエの切実な言葉に、場は再び重い空気に包まれた。静まり返る会議室の中で、第一王子が意を決したように口を開いた。


「うーん……いっそのこと、ジャンケンで決めちゃいます?」


 あまりに突拍子もない提案に、場にいた全員が思わず頭を抱えた。


「次期国王がこれだからなぁ……!」


 第二王子が呆れたように、ため息混じりにそうつぶやいた。




 第一王子の提案により場に微妙な空気が漂う中、第一王子妃が意を決したように手を挙げた。


「そもそも、王位継承順位が早々に確定していたことが今回の事件の発端かと。いっそのこと、王位を継承するその時が来るまで、誰が王位を継ぐのかを秘密にしておくというのはどうでしょう? そうすれば少なくとも、今回のような下剋上的な事件は起きにくくなりますし、自身の地位が確定していないことで、互いに王族として高め合うモチベーションにも繋がるのではないかと考えます」


 リーリエはその提案に驚愕し、呆然とした顔で母親を見た。

 国王はしばし思案顔を浮かべたのち、ゆっくりと頷いた。


「……継承者を秘密にしておくというのも一つの手ではある。しかしその場合、誰が王位の重責を担うか分からぬままに王族としての道を歩むことになる。それは大きな精神的負担を伴うことじゃ。また、継承順位を早期に確定させることは、それぞれが役割を理解するための一助ともなる。一概に悪いとは言い難い」


 国王の慎重な言葉に、他の者たちも真剣な面持ちで考え始める。

 第一王子は、妃の提案に賛同するかのように深く頷いた。


「妃の言う通り、地位が定まっていないことで生じる緊張感を保つことが、逆に争いを防ぐのかもしれません。誰が王位を継ぐか分からないままで成長すれば、全員が責任感と能力を養い、いざという時に備えられるかと」


 リーリエもその意見に納得したように頷いたが、その意見は自分の地位を揺るがすものであったため、不安げに呟いた。


「確かに、お母様やお父様の言う通りかも知れませんわ……」


 そこでシドウが彼女に優しく応じた。


「たとえ誰が王位を継ぐことになろうと、王族として自分を磨き続けることには変わりないよ。秘密にしておけば全員が自然と成長し、いかなる結果になっても皆が納得できる、そういう未来を創り出せるかもしれない」


 シドウの意見は楽観的だったが、今回の話し合いにおいて、これ以上に良い案は出なかった。結局、第一王子妃の提案が最善と判断されたのである。


 最後に、国王が深く息をつき、重々しい口調で話を締めくくった。


「よかろう。皆の意見を基に、王位継承の順番を確定せぬまま、今後の教育と試練を重ねていく。王家としての自覚を胸に刻み、互いに支え合い、この国を統治すると肝に銘じよ」


 こうして、王家の王位争いは新たな方針へと転換され、結局はさらなる波紋を呼ぶことになった。王族たちはそれぞれの道を模索しつつ、互いを高め合う決意を新たにしたのだった。




 家族会議が終わり、重苦しかった空気が徐々に和らいできた頃、シドウは父である第一皇太子のもとへと歩み寄った。会議中に目の当たりにした「追憶魔法」の精妙さが忘れられず、どうしても詳しく知りたかったのだ。


「父上、先ほどの『追憶魔法』本当に凄いですね! 初めて見ました。私にもやり方を教えてください!」


 シドウは興奮した面持ちで尋ねた。


 父は少し驚いたようにシドウを見てから、優しく微笑んだ。


「そうか、あれはシドウもまだ知らなかったんだね。『追憶魔法』は『素性を分析する魔法』の応用だよ。対象の肉体情報をさらに深く分析することで、個人の“記憶”まで見通せるようにしたんだ」


「えー! そんなことが可能だったんですか! けど、そこまで細かい分析は難易度がかなり高そうですね」


 父は穏やかな表情のまま、頷きながら続けた。


「僕もこの魔法を発見してから、実際に習得するまでに随分と時間がかかったよ。シドウの言うとおり、細かい分析には細かい魔力操作が必要になるからね。でも大丈夫。僕にできてシドウにできないことなんてないだろうからね」


 シドウは父の言葉に目を輝かせた。


「本当ですか? 絶対に習得してみせます!」


 シドウの力強い返事に、父は満足げに頷いた。


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