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36 ステラ

 サナが黒魔術の店の店主と初めて出会ったのは、彼女が十二歳の頃だった。まだユキと出会う前で、祖母と二人で暮らしていた頃のことだ。



 あの頃の私は、なんだかもやもやしていた。おばあちゃんは私のことをどう思ってるんだろう? って。私のことを面倒だと思ってるんじゃないか、とか、私なんかいなくてもいいんじゃないか、とか。でも、それを直接聞く勇気なんてなかったし、口に出せば嫌われるんじゃないかと思って怖かった。


 そんな私が、ある日街をふらふら歩いていると、「占い」という看板が目に入った。薄暗い黒魔術の店。あの頃も私は「占い」なんて信じてなかったし、怪しいと思いながらも、どうしても気になって中を覗いてしまった。


 薄暗い店内に足を踏み入れると、乾燥した植物や古びた水晶玉が並んでいて、なんともいえない不気味な雰囲気が漂っていた。そしてそこにいたのは、黒いローブを纏った、私より少し年上のお姉さんだった。


 彼女は私に気づくと、声を低くしてこう言った。


「いらっしゃい……私はステラ。あなたは何か、悩みを抱えているようですね?」


 その一言に、私は衝撃を受けた。


 こ、こいつ……天才か?


「なんでそんなこと分かるの!?」と心の中で叫びながら、私は彼女のことを信じ込んでしまったのだ。今思えばあれは、ただ誰にでも当てはまるようなことをそれっぽく言っただけだったんだけど、当時の私はそんなこと知らなかった。


 かつての私があっさりとステラの手口に引っかかってしまったのは、単純にバカだったのもあるけど、自分が特別な存在なのではないかという自惚れがあったからだと思う。幼い頃の私は、自分の無尽蔵の魔力や周囲と違う環境のせいで、「自分の悩みなんて、普通の人には理解できないはずだ」とどこかで思い込んでいた。だから、自分の抱えている問題が実は大半の人に当てはまるような、ごく普通の悩みだという発想に至らなかったのだ。


 そして気づけば、私はおばあちゃんのこと、自分のこと、心の中のモヤモヤを全て彼女に話していた。ステラは、それに対して特別な占いの技術で答えるわけでもなく、ただ私の話を聞いて、相槌を打ちながら「君のおばあちゃんはきっと君を大事に思ってるさ」とか、ヘラヘラ笑いながら励ましてくれた。


 ステラの態度は軽薄だったけど、なぜだかその日は気持ちがスッと軽くなって、帰り道で何度も「ステラってすごい占い師だな」って思った。けれど、それも長くは続かなかった。


 数ヶ月後、私は街の図書館で借りた本を読んでいた。そしてそこにはこう書かれていた。

「誰にでも当てはまる曖昧な表現や言葉でも、まるで自分のことを言い当てられているように感じてしまう心理現象がある」

 この記述を見つけた時の衝撃は忘れられない。それはまさに、ステラの占いそのものだったから。


 怒りに任せて、私は彼女の店に乗り込んだ。


「おい、ステラ! 騙したな!」


 ステラは私の剣幕に驚きながらも、笑いながらこう言った。


「いやいや、別に騙すつもりなんてなかったって。ただ、君が少しでも楽になれればいいな〜って思っただけだよ。効果があったなら、それでいいじゃん!」


 ……その言葉に、私は何も言い返せなかった。確かに、彼女の言葉に救われたのは事実だったから。


 後に分かったことだが、ステラはただの黒魔術店の店員ではなかった。彼女は、悩みを抱える子どもや若者たちを近隣の怪しげな店に斡旋するような仕事もしていたらしい。彼女の店がある一帯には、薬物を扱う店や賭場など、アングラな雰囲気の場所が多い。彼女の「占い」も、表向きは優しげだが、裏では子どもたちをその世界に引き込む手口の一環だったのだ。


 幸い、私は自らの魔法のおかげで生活には困っていなかったためか、ステラに勧誘されることはなかった。だが、もし自分がただの悩める普通の子どもだったら、まんまと彼女の手口に引っかかり、危険な世界へ足を踏み入れてしまっていたかもしれない……。そう考えると、ユキにステラを紹介する気にはなれなかった。


 それでも、私たちはなんとなく細々とした交流を続けていた。ステラは相変わらず胡散臭いことばかりやっていて、完全に信用していたわけじゃないけれど、私には彼女くらいしか腹を割って話せる人がいなかったのだ。彼女と話すと心が軽くなることが多かった。おばあちゃんには言えないようなことも、ステラには軽口みたいな形で吐き出せたんだ。


 ユキが家に来てから、私の生活はすっかり変わった。それまで一人で気ままに過ごしていた日々が、彼と一緒に暮らすことで、誰かのために何かをしたいと思う日々に変わった。


 ユキが少し成長し、一人で街へ遊びに行けるようになった頃、私は彼に遊びに必要なお小遣いを渡そうと考えた。でも、それを今まで通りおばあちゃんからもらうお小遣い頼りにするのは申し訳ないと思った。その時私はもう十七歳だったし、そろそろ自分で稼いでみてもいい頃だ。そう思い立ち、悩んだ末に、黒魔術の店を営むステラに相談しに行くことにした。


「ステラ、私が作った魔法道具の部品、買い取ってくれない?」

「えっ、本当に? それってめちゃくちゃ助かるじゃん!」


 ステラはすぐに乗り気になり、私の作った魔法道具の部品を買い取ってくれるようになった。私の作る部品は高品質で、街でも需要があったらしい。それを知った私は、しばらくするとステラを仲介せず、直接街へ出向いて自分で魔法道具や雑貨を売るようにもなった。その収入の一部をユキにお小遣いとして渡し、街での生活を少しでも楽しんでもらえるようにしたのだ。


 ユキが自分でアルバイトをして稼げるようになってからも、ステラとの取引は続いている。彼女とのやり取りは、私にとって効率的な収入源のひとつであり、互いに利益のある関係を保っている。


 今思えば、ステラとの出会いは私の人生の中で不思議な縁だった。彼女はいつも軽率で適当で、正直呆れることも多いけれど、彼女の明るさや適当さに救われた部分もある。おばあちゃんとの距離感に悩んでいたあの頃、誰かに話を聞いてもらえることがどれだけ大事だったかを、ステラを通して学んだんだと思う。


 ステラはいつも胡散臭い笑みを浮かべながら「また何かあったら、占ってやるよー」なんて軽口を叩くけれど、それがなんだか妙に安心できる。おそらくこれからも、彼女とはこんな風にゆるく繋がっていくんだろうな、なんて思う。

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