28 番外編『ユキの波乱のバカンス』
本筋とは全然関係の無い番外編です。時系列も謎です。
「今年の夏は、のんびり海を満喫するぞ!」
ユキはそう意気込みながら、サナとともに海辺のリゾート地へやってきた。
森の奥の屋敷で暮らしている二人にとって、海はなかなか訪れる機会のない場所だ。
青い空、輝く太陽、どこまでも広がる白い砂浜。リゾートの雰囲気に、ユキはすっかり浮かれていた。
「やっぱり夏といえば海だよな〜! サナ、俺たち今日からバカンスだ!」
「うんうん。でもユキ、バカンスって長期休暇って意味だよ。私たち、一泊しかしないからね?」
「いいじゃん! 細かいことは気にしない、気にしない!」
「はぁ……まぁ、ユキが楽しければいいけど」
サナは呆れつつも、ユキのテンションにつられて微笑んだ。
「そういえば、ユキが海に来るのって初めてだっけ?」
「そうなんだよ! だから今日は遊び尽くすんだ!」
ユキは荷物を置くなり、浜辺へ走り出し、勢いよく海へ飛び込んだ。
「うおぉぉぉぉ! 海だー!」
ジャブン!
……しかし、ユキのバカンスは開始早々、波乱の幕開けを迎えた。
ユキが気持ちよく泳いでいると、突然、浜辺の人々の叫び声が聞こえた。
「サメだぁぁぁぁぁ‼︎」
「えっ、サメ⁉︎ どこどこ⁉︎」
ユキは周囲を見回し──次の瞬間、背後に巨大なヒレが迫っていることに気づいた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
ユキは全速力で岸へ向かって泳ぐ。しかし、サメの方が明らかに速い。
「ダメだ! 追いつかれる‼︎」
その時──
「ユキ、ワープ!」
シュンッ!
気づくと、ユキは安全な陸地にワープしていた。助かったことに安堵しつつも、うずくまって息を切らす。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」
「もう、いきなりサメに襲われるとか、どんだけ運が悪いのよ……」
サナが呆れ顔でため息をついた。
しかし、そんな騒ぎの中、地元の漁師たちがやってきた。
「おぉ、兄ちゃん無事だったのか! よかった!」
「あんな巨大なサメはここの海域じゃ見たことねぇやつだ!」
漁師たちはユキの安否を確認しつつ、そう話した。
「そうなんですか?」
「こりゃおかしいな……最近、沖の方で妙な遺跡が見つかったって話があるが……」
「え、遺跡?」
ユキは息を整えながら、漁師たちの話に耳を傾けた。
どうやら最近、この近海で謎の古代遺跡のようなものが発見されたらしい。
そして、その影響なのか、普段は見られないような生き物が海に現れ始めているというのだ。
「もしかして、サメもその遺跡と関係が?」
「かもしれねぇな……」
漁師たちは顔を見合わせた。
「ま、でもとりあえず一件落着! 俺はバカンスを楽しむぞ!」
ユキは何事もなかったかのように立ち上がり、砂浜へ戻るのだった。
サメ騒動が落ち着いた後、ユキとサナはバカンスを満喫し始めた。
まずは海の屋台で新鮮なシーフードを堪能!
「うわぁぁ! この焼き魚、脂が乗ってて最高!」
「こっちの海鮮パエリアも美味しいよ!」
浜辺の木陰で食事をしながら、海風に吹かれる二人。
実は二人が食べているのは、先ほどのサメである。
サメは全力で追っていた獲物が突然ワープで消えてしまい、勢い余って浜辺に打ち上げられたところを、地元の漁師たちにあっさり捕まり、美味しく調理されてしまったのだった。
二人はそんなこととは露知らず、のんびりとした時間が流れる。
「やっぱり海は最高だな……」
「うんうん、たまにはこういうのもいいね」
ユキは満足げに海を眺めながら、潮の香りを楽しんでいた。
──しかし、そんな穏やかな時間は、長くは続かなかった。
海辺がすっかり夕焼けに染まった頃。
「ねぇ、ユキ。ちょっと沖の方で、何か光ってるの見えない?」
「ん? どこ……って、うわっ、なんか光の柱みたいなのがある……!」
遠くの海面で、ぼんやりとした青白い光が揺らめいている。
すると突然──
ゴゴゴゴゴ……!
大きな振動と共に、海の底から巨大な何かが姿を現した。
「うわぁ! 遺跡が浮上した⁉︎」
どうやら、沈んでいた古代遺跡が何らかの影響で浮かび上がってきたらしい。
そして……
「待って、なんかいる!」
遺跡の入口から、異形の魔物たちが続々と出てきた。
ユキは目を丸くして驚く。
「えぇ⁉︎ なんでリゾート地でこんなに事件起こるの⁉︎」
「知らないよ! でも、とりあえず逃げとこう!」
浜辺の人々は大混乱で逃げ回り、完全にパニック状態だった。サナも、こっそり魔法で対処してくれればいいものの、薄情にも周りに合わせて逃げ出そうとしていた。
しかし、ユキはあることに気がついた。
「あの魔物、もしかして光に引き寄せられてる……?」
「そんな蛾みたいな……本当だ……」
確かに、魔物たちは海辺の灯りや屋台の明かりに向かって移動している。
「サナ、俺、ちょっと囮になる!」
「は⁉︎ 何言ってるの⁉︎」
「光を消したら、魔物も引き返すかもしれない!」
ユキは素早く屋台のかがり火を蹴り飛ばし、次々に光源を消していく。
すると──
「本当に戻っていく⁉︎」
魔物たちは、光がなくなったことで方向を見失い、そのまま沖の遺跡へ戻っていった。
「やった……⁉︎」
ユキはホッとし、最後の光源を消したが、その直後、向こうからサナの声が飛んできた。
「ユキ、後ろ!」
「へ?」
振り向くと……
巨大な魔物がすぐ後ろにいた。
「ギャァァァァァ!!」
その瞬間、サナの魔法が炸裂し、ユキをワープさせた。
翌日。
朝の海辺で潮風に吹かれながら、ユキは満足気に笑っていた。
「いや〜! 楽しかったな〜!」
「……ユキ、ほんとポジティブだよね。サメに襲われたり、謎の魔物に追いかけられたり、大変だったのに」
サナが思わずツッコミを入れる。
「まあ確かに色々あったけどさ! 美味しいご飯も食べられたし、海も綺麗だったし、最高のバカンスだったよ!」
サナは呆れつつも、どこか楽しそうに笑った。
こうして、ユキの波乱のバカンスは幕を閉じた。




