25 帰路
「二人とも、今日は俺の勝手な行動に巻き込んでしまって、本当に申し訳なかった!」
そう言って頭を下げるリヒトを見て、アランも頭を下げた。
「俺も! 申し訳ない。元はと言えば俺が黙って去ったのが原因だ」
「いえいえ! 俺は劇団のファンとして! お二人の再会に立ち会わせていただけて、とても嬉しい!」
複雑な心境のシドウとサナをよそに、ユキは二人の再会を純粋に喜んだ。
それを見たシドウは呆れながらも、
「……まぁ、私はお二人の関係については存じ上げませんが、無事に再会できて何よりです」と答えた。
アランは改めてリヒトに対して謝罪をした。
「ごめんリヒト。俺、お前にだけは迷惑かけたくなかったんだ。それなのに結局、何も言わず去ったことでお前を傷つけた。挙げ句の果てには衝動を抑えられずに暴走して……」
「謝るな。お前を強制的に呼び出したのは俺の方だ。俺がお前に会いたいって願望を押し通したせいで、ユキ君とシドウさんにも迷惑をかけたんだ。俺は周りに甘えてばかりだ」
ユキとシドウは心配そうに二人を見守る。一方サナは、ワープで飛んできたばかりだったので、その場のノリについていけていなかった。
「一番甘えていたのは俺だ! 人狼なのに、それを隠して演劇を楽しんで、お前も分かっていただろうに、黙っててくれて……俺はお前に甘えていたんだ」
アランは過去の自分の行動を身勝手だったと悔やんでいた。そんなアランの様子を見て、リヒトは意を決し、こう答えた。
「……確かにうちの劇団は劇団員を人間に限定していた。だが、今回のことがあって、俺、劇団に要望を申し入れたんだ! 人狼でも劇団にいて良いじゃないかって!」
リヒトの言葉に、アランは驚きを隠せなかった。ユキとシドウも、その様子を少し離れた場所から興味津々に眺めている。二人とも、「おぉ!」と声を漏らしながら、まるで野次馬のように楽しげに二人のやり取りを見守っていた。
「ウソだろ! お前……!」
アランは思わず目を見開き、リヒトに詰め寄った。
「団長は一瞬驚いていたけど、最終的には俺の提案に同意してくれたよ!」
「マジかよお前、凄いな!」
アランは感嘆の声を漏らし、信じられないような表情でリヒトを見つめた。
「いや、アラン。お前が実績を残していたからこその決断だろう。お前、本当はまだまだ演劇やりたいんだろ! 戻ってこい!」
リヒトの言葉がまっすぐにアランの心を突き刺す。その場にはしんとした緊張感が漂い、次のアランの反応を待つ空気が広がった。アランは震える声で答えた。
「……俺が戻っていいのか? 本当に? 俺は、自分が人狼だってことを隠してたし、万が一、今回みたいな事が起きたらまた暴走してしまうかもしれない……そんな俺が、また劇団に戻って……」
リヒトは真剣な眼差しでアランを見つめ、強くうなずいた。
「アラン、団員は誰もお前を責めてない。確かに今回のことは驚いたし、危険な場面もあったけど、お前が人狼であることは俺たちにとって大した問題じゃないんだ。大切なのはお前がどれだけ演劇に情熱を注いでいたか、そしてその情熱が他の劇団員や観客に伝わっていたってことなんだよ」
アランはリヒトの言葉に心打たれ、涙を浮かべた。
「俺、正直、自分が劇団に戻れるなんて思ってなかった。お前がそこまでしてくれたなんて、夢みたいだ。ありがとう、リヒト」
ユキもその場で感動し、尻尾を振りながら興奮を隠せない様子で口を挟んだ。
「よかったじゃないですか! アランさん、リヒトさん! また舞台で共演できるなんて、最高じゃないですか!」
シドウはそんな感動的な光景を見ながら、いつものように肩をすくめて笑った。
「まあ、私としてはこの状況が落ち着いたことに安堵しています。お二人が劇団で新たなスタートを切れるのは喜ばしいことですが、今度はもう少し慎重に行動してくださいね」
アランはユキとシドウにも深く頭を下げ、礼を述べた。
「本当にありがとう。俺が暴走しかけた時、あなた達がいてくれなかったらどうなっていたか……感謝してもしきれない」
サナは遠くからその様子を静かに見守り、穏やかな微笑みを浮かべた。
「ふふっ、ユキは、本当に成長したわね。色んな人と関わって、色んな経験をして。これからも色々なことが待っているだろうけど、彼ならきっと大丈夫だわ」
こうして、アランは劇団に戻る決意を固め、リヒトや劇団員の仲間達と共に、また新たな一歩を踏み出すことになった。
ダンジョンから出たときには、辺りはすっかり暗くなっていて、空には上弦の月が輝いていた。サナ、ユキ、シドウの三人は、一緒に街までの道を歩いていた。
「それにしても、色々ありましたが、サナさんが突然ダンジョンに現れたのが、私は一番衝撃的でしたよ」
シドウは苦笑しながら言った。
「そりゃね。ユキに何かあったら、飛んで行くよ私は。とは言っても、事前にマークしてない場所まで飛べるワープ魔法を習得したのはつい最近なんだけどね。この前、シドウさんがくれた魔道書の魔法を応用することで発見したの。シドウさん、ありがとう!」
シドウはサナの言葉に驚愕した。
「えぇ……あの魔道書のどこを応用したらそんなことが……⁉ 私にも出来るかは別として、理論を教えて下さい!」
「もちろん! シドウさんならきっと出来るはず!」
一方で、ユキはそのやり取りを楽しそうに聞いていた。サナとシドウの会話は彼にとって分からない部分もあったが、サナがシドウから学んだことをしっかりと自分の力に変えていることが、彼にとって何よりも誇らしかった。
「……それにしても、二人はどういう経緯であのダンジョンに?」
サナはずっと気になっていた、この状況の経緯を尋ねた。
「実は、伝書鳩を運営している王族から、リヒトさんがダンジョンに入ろうとしているという報告が入ってきまして。それで、食堂で偶然出会ったユキ君と成り行きで、入っちゃったんですよね」
「成り行きが全然分からないんですけど⁉」
「サナ、伝書鳩を警戒してたの、正解だったよ!」
ユキはサナの予想が的中していたことを褒めた。
「まぁでも、アランさんを見逃していたことを考えると、想定よりも監視は厳しくないのかも。その王族の鳩使い」
「まぁ、ソラ君は伝書鳩の内容を娯楽として楽しんでいるだけだと思いますよ」
シドウは自分がソラシド経由でサナの情報を入手したことを棚に上げつつ、苦笑しながら答えた。
「ソラ君? シドウさんも王族の血を引いているとはいえ、大分親しげですね」
「まぁ、幼いときから一緒に過ごした、いとこなので……」
シドウは自分の身分については深く語らず、あっさりと説明した。そして再度、今日の出来事を詳細に話し始めた。
「それで、私が街の別荘で研究をしていたら、ソラ君から伝書鳩が届いて……」
「ちょっと待って! 研究するときは私の屋敷でって話に……」
「いやいや! サナさんの件とは関係ない別の、趣味でやってる研究ですよ!」
それを聞いたサナとユキは、この人、本当に魔法研究中毒者なんだな……と感じた。
「……やっとのことで秘宝を見つけたと思ったら、ユキ君の様子が変で、アランさんも暴走して、一時はどうなることかと思いましたよ」
「そうなんだよ! 俺、ちゃんと満月の日を確認していたはずなのに、すごく焦ったよ。でも、万が一の時のために暴走を抑える修行してたのが役に立ったよ!」
「それはよかった……! ユキ、偉い!」
サナはそう言ってユキに拍手を送り、ユキは少し照れくさそうに頭をかきながら笑い返した。ふと、サナは鏡について疑問が湧き、シドウに尋ねた。
「アランさんが暴走した原因の鏡って、どういう魔法道具だったんですか?」
「あれは月光力を増幅させることによって力を引き出している。その副作用で満月の夜と同じ……いや、それ以上の反応を人狼に起こさせてしまう、人狼には有害な道具だった」
サナはその説明にうなずきながら、さらに言葉を重ねた。
「月光力って、まだ魔力の原理がよく分かっていないんでしたっけ? 人狼には悪影響ってことくらいしか」
「そうなんですよ! これは貴重な資料だ! と思い、一応破片を拾っておいたのですが、自分で壊してしまったのでね……研究は困難になりそうです」
それを聞いたユキは、「そんな貴重な資料を壊してまで! 俺たちを助けてくれて本当にありがとうございました!」と、シドウに感謝した。
三人が街に着いた頃には、喋りながらゆっくり歩いて帰っていたため、夜も更け街の人通りもまばらになっていた。
「ユキ君、サナさん、あの建物が私の家なので、これにて失礼します」
そう言ってシドウは、街の立派な建物へと帰っていった。その様子を見たユキは、
「え! あの館ってシドウさんが住んでたんだ!」
と驚いた。そこは、以前ユキが劇団の交流会チケットを手に入れるために、日雇いの引っ越しアルバイトをした場所だったからだ。
「立派な建物ね。流石貴族なだけあるわ」とサナも感心した。
ユキは、ふと疑問に思い、こう話した。
「そう言えばさ、うちの屋敷もあんな山奥の、森の奥にあるとはいえ、二人で住むにはかなり立派じゃない? 元々はおばあちゃん家族が住んでたんでしょ? サナの家族って不思議が多いよね!」
サナはその言葉に一瞬考え込むような表情を浮かべたが、困り笑いを浮かべながら答えた。
「まぁ、私が後から魔法で改築した部分もあるけどね。うーん……家族のことは、全然調べていないし、本当に私もよく知らなくて。最近分かったお母さんのことが未だに衝撃的過ぎて、ちょっとまだ消化出来ていないところもあるし」
ユキはその言葉に自分が軽い調子で聞いたのが悪かったかな、と内心焦りつつ、慎重に返事をする。
「そっか~まぁ家族のことについては、俺からも何とも言えないしね」
ユキは少し気まずそうに言葉を返した。サナも苦笑しながらユキに顔を向ける。
「……じゃ、よく分からない森の奥の屋敷に帰ろっか!」




