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24 再会

 鏡がリヒトの叫びに応えるように、まばゆい光を放ち始めた。次の瞬間、鏡の表面が波打ち、そこにアランの姿が映し出される。しかし、映るアランの姿はかつての彼とはどこか違っていた。


「アラン?」


 リヒトは戸惑いながらも、嬉しそうにアランに近づこうとした。しかしその瞬間、ユキが声を張り上げた。


「ダメだ! リヒトさん、下がれ!」


 ユキの体も徐々に変わり始めていた。彼の黒髪が一層濃く輝き、意識がどこか遠くへ飛んでいくような感覚に襲われる。


「ユキ君、しっかりして!」


 シドウは急いで結界を張ろうとしたが、秘宝の強大な力に阻まれ、結界がすぐに破られてしまった。


「アランだよな?」


 リヒトはなおも鏡を凝視しながら問いかける。その声には微かな希望が残っていた。しかしユキが焦りをあらわにする。


「リヒトさん、今は危険なんだって! 離れて!」


 鏡の中のアランは明らかに異常な様子で、ゆっくりとリヒトに近づいてきた。その目は虚ろで、かつての優しい彼とはまるで別人だった。


「アラン、お前……」


 リヒトの声が震えた。シドウは冷静に状況を分析し、叫んだ。


「リヒトさん! あの鏡は会いたい人を呼び出す為に、月光由来の魔力……月光力を増幅させて使用している! そして、満月の夜のような、満ちた強い月光力は人狼を錯乱させてしまうんだ!」


 シドウの言葉を聞いたリヒトは、目の前のアランを見つめ、動揺を隠せなかった。


「そんな、せっかくここまで来て、どうして……」


 彼は一歩後ずさったが、アランは徐々に鏡の中から抜け出し、完全に暴走した人狼の姿へと変わりつつあった。


「リヒトさん、下がって!」


 ユキは錯乱しかけた自分を必死に抑えながら、暴走状態のアランに立ち向かおうとしていた。だが、自身も抑えきれない変化が進行しつつあり、危険な状態だった。


「ユキ君、無理するな! 君も危ない!」


 シドウは焦りながら、なんとかもう一度結界を張ろうと試みたが、秘宝の力によって月光が異常に強まり、彼の魔法は強制的に解除されてしまった。


「クソッ、この秘宝、月光力の制御を完全に狂わせてる……!」


 アランは錯乱した姿でリヒトに迫り、リヒトは動けずに立ちすくんでいた。かつての親友が、自分の前で全く別の姿になってしまったという現実に直面し、彼の心は葛藤と恐怖で揺れていた。


「アラン! 目を覚ませ! 俺は、お前に会いたかったんだ……!」


 リヒトの叫びに反応するように、アランは一瞬だけその動きを止めた。しかし、すぐにその目は再び狂気に満ち、リヒトへと手を伸ばした。


「やめろっ!」


 ユキは瞬時にその場に飛び込み、アランの攻撃を防ごうとした。しかし完全に錯乱してしまったアランの力は想像を超えるもので、異常な月光力に抵抗しつつアランを止めようとするユキは、徐々に押し負けていった。


「ユキ君!」


 シドウは結界を再び張ろうとするが、異常な月光力に阻まれ、失敗に終わる。


「くそっ、このままじゃ全員危ない……!」


 鏡を破壊するしかない。

 シドウは咄嗟に決断を下した。


「あの鏡を壊すしかない! リヒトさん、ユキ君! どうにか時間を稼いで!」


 シドウは秘宝の鏡に向かい、杖を振りかざした。彼は一か八かで鏡の核を破壊するため、全力の魔力を注ぎ込んだ。鏡はその魔力を受けて激しく振動を始め、まるで生きているかのように抵抗する。鏡の表面には無数のひびが走り、異常な光が爆発的に放たれた。


「あと少しだ……壊れろ!」


 シドウは杖をさらに強く握り締め、全力の魔力を注ぎ込む。激しい音とともに、ついに鏡が砕け散った。鏡の破片が光となり消えゆく中、異常な月光力もまた跡形もなく消え去っていく。


「……やった……!」


 ダンジョンの中は再び静寂に包まれた。ユキの体の変化も徐々に収まり、アランの姿も次第に元に戻り始めた。アランは倒れ込み、息を切らしていたが、リヒトの前でようやく正気に戻った。鏡が砕け散った後、ダンジョンに静寂が訪れる中、シドウは杖を握りしめ、額から滴る汗を拭った。久々に全力の基本攻撃魔法を使ったため、体が重く感じられる。


 リヒトとユキが無事であることに安堵する一方で、彼の胸には不安と後悔が渦巻いていた。先ほどまでの戦闘を振り返り、あることに気づいてしまったのだ。


「……僕が基本攻撃魔法の稽古を怠っていなければ、もっと早く終わらせられたかもしれない」


 ユキはアランの攻撃を何とか受け止めようとしたが、その結果、彼自身も軽い傷を負っていた。シドウは彼の様子を見て、拳を握り締めた。


「基本攻撃魔法なんて地味だ、つまらないって馬鹿にしてたけど……リーリエの言う通りだったな」


 シドウは密かに基本的な魔法の実践の重要性を実感して反省したのだった。


「アラン!」


 リヒトは震える声で彼の名前を呼び、そっと近づいた。アランは目を開け、かつての穏やかな表情を浮かべていた。


「リヒト、俺、ごめん……でも、会えてよかった」


 涙をこらえながら、リヒトはアランの手をしっかりと握りしめた。


「俺も、会いたかったよ、アラン……」





 その時、サナは遠く離れた屋敷で、ユキの興奮状態を魔法で察知した。


「ウソでしょ、ユキ」


 サナは動揺した。ユキから隷属紋を取り除いて以降、満月の夜の錯乱状態を抑える特訓と、その日は抑制薬をちゃんと飲み、外出を控えることを徹底してきた。それでも、ユキに明らかな異変が生じた場合、魔法でそれを察知出来るようにしていた。


「今日は満月の日では無いはずなのに……!」


 サナは、「ユキが大事を引き起こしていませんように」と切実に祈りながら、魔方陣を展開し、魔法でダンジョンまでワープした。するとそこには、


「うぉおおお‼ 感動の再会だぁ!」


 推している舞台の役者同士の再会に感動し、涙を流しながら興奮しているユキがいた。サナは最悪の事態を想定していたが、目の前の光景に呆然とした。


「えっ、な、なにこれ?」


 サナは困惑しながら周囲を見渡すと、涙を流しながら興奮しているユキ、放心状態で立ち尽くしているシドウ、そして、リヒトとアランが抱き合っていた。


「ユキ? これは一体……?」


 サナは緊張が一気に緩み、呆然としながら尋ねた。ユキはサナに気づき、尻尾を振りながら、興奮を隠せない様子でにこっと笑いながら叫んだ。


「サナ! 見てよ! リヒトさんとアランさんが再会したんだ! 感動だよ!」


 サナは肩の力を抜き、額に手を当てて深いため息をついた。


「私は、何かとんでもないことが起きてると思って急いで来たのに、まさか感動の再会とは……でもユキ、何があったの? 」


 サナは不安を拭いきれず、ユキの顔をじっと見つめた。ユキは少し戸惑いながらも説明を始めた。


「それがさ、変な鏡のせいで大変だったんだ。秘宝の鏡が月の光を増幅させて、俺もアランさんも一時的に狂いかけたんだ。でも、シドウさんが鏡を壊してくれたから、もう大丈夫!」


 ユキの話を聞き、サナは再びため息をつき、シドウに視線を向けた。


「またあなたが何かやらかしたのね、シドウ」


 シドウは気まずそうに笑いながら答えた。

「いやいや、今回はちゃんと解決しましたよ! 少し驚かせちゃったかもしれませんが、無事です!」


 その言葉を聞いたサナはようやくホッとした様子でため息をつく。


「まあ、無事ならいいけど……ユキ、国境のダンジョンに入るなんて、ちゃんと報告してくれると助かるわ。私はいつもあなたを心配しているんだから」


 ユキは照れくさそうに頭をかきながら答えた。

「ごめん、サナ。これから気をつけるよ」


 サナは微笑み返しながら言った。

「じゃあ、もうみんな帰ろう。私はもう、こういう心臓に悪い展開は遠慮したいからね」


 彼女の言葉に、一行は頷き合い、ダンジョンを後にした。サナは歩きながら、ユキが無事であることに心の底から安堵していた。

魔力(MP)切れのない上級魔法使いでも、普段から使い慣れない魔法を使うと、疲れます。

イメージとしては、魔法を使うとき、MPもHPも消費している感じです。

普段から魔法を使う鍛錬を重ねていると、魔力効率が良くなり、HPの消費は少なくなります。

MPが有限の、中級、初級魔法使いは、「代償」(寿命、記憶、身体の一部など)を捧げることで、実力以上の魔法が使えます。

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